185成川高校戦21don't give up























『六番、キャッチャー相川君』


相川(二点差、か)



四角いバッターボックスに立って、そこから森田を見上げる。

ここまでの森田の球数はすでに100球を越えている、その上さっきの回からは高速シュート『シューティア』の連投だ。

そろそろ疲れてきても、おかしくはない。

と、森田が帽子を脱いで汗をぬぐう、すでに首もとのアンダーシャツの色は変わってきていた。


相川「お疲れだな森田、そろそろ下がったらどうだ?」

森田「ふん、宿敵の将星に対してそんなことができると思うか、相川?」


一言呟いて、森田のシューティアが相川の懐近くにつきささる。

ドシィッ!!

『ストライク、ワンッ!!』


直前で、鋭く右打者の体に切れ込んでくる、体は反射的に避けてしまう。

スピードがあるから尚更だ。


相川(これを打てってか、おい)


相川は毒づいた。


森田「最後まで、この俺とシューティアが相手をしよう」










そして、スタンド側。

陸王の選手たちも、攻勢をしっかりと見ていた。


九流々「に、二点差ナリ…。成川もしぶといナリなー」

笹部「先ほどまでの追い上げムードを一気に断ち切った、な。誰もが得点の可能性を秘めている…流石成川。地方大会とは言え、決勝に来るだけのことはある」

笑静「将星も、ここで終わりかなん?っと」

吉本「……」

赤城「こんな所で終わる将星や無いと思うけどな」


冷静に分析する笹部と笑静を尻目に赤城はぼそり、と呟いた。


九流々「そーそー!流石サギ師ナリ!」

赤城「…と、いうよりこんな所で負けてもらったら困るんや。何も将星に悔しい思いをさせられたのは、森田だけやない」


赤城はガタリ、と音を立てて席を立ち上がった。


赤城「まだ将星にもチャンスはある。あのシュート…思いのほかに手にダメージを与えるはずや。あんだけ連投してる上に、球数も多くなってきてる。バテるのは時間の問題や。…チャンスがあるとしたら、八回九回。つまり、この七回にどれだけ投げさせるか、や。それは相川君もわかっとるはず」

九流々「ど、どこ行くナリか?」

赤城「わいはわいのやるべきことをやるだけや。『勝機が無い』訳やないからな」


赤城は意味深を残して、球場を後にした。


九流々「勝機…?」

笹部「…なるほどな。この時間帯…もうすぐ桐生院戦が始まるんだ」

笑静「霧島-桐生院戦。南地区予選決勝、か。…それにしても、勝機が無い訳じゃない、だと…?霧島ごときが、桐生院に、勝とうってか」

吉本「…勝機、勝機、ってなんだ?」

九流々「バカなりねー吉本、勝機ってのは勝つ可能性、ってことナリ」

吉本「それは…知ってる……そうじゃなくて……桐生院の負ける可能性…?」

笑静「さぁな、真田が抜けてもまだ甲子園に出た望月とか南雲とか妻夫木とかいんだろ。残りもすげー奴満載だ、霧島工業が勝てる相手じゃないと思うけどな」

笹部「だが、あの赤城がはったりでそんなことを…」


誰もが黙った。

―――奴ははったりでそんなことを、言う奴だ。

なんてたって、サギ師だもの。

と、話は試合に戻る。



キィンッ!!

『ファールボール!!』


森田「ふふ、バッティングがあまり良くはない割には粘るな、相川」

これでカウントは2-1、打ったファールは三個目だ。


相川(大口叩いてるが森田…俺が粘れるのはお前の球威が落ちてきてるからだぜ)


相川も、赤城と同じように気づき始めていた。

いくらスカイだのシューティアだのがあろう森田であったとしても、ロボットではない。

シューティアは、確実に森田のスタミナと指先の感覚を奪っていっているはずだ。

しかもあのスピード…肘にも負担はかかってくる、それだけ体に負担をかける球を連投すればおのずと球の威力は…。


相川(落ちてくるっ)


キィィンッ!!

『ファール!』

『お、おいおい、またあのシューティアをカットしやがったぜ』


相川(さらに、シューティアは速いから三振してしまうが、決して変化量が多いわけじゃない。バットを短く持って当てることだけに専念すれば当てれない訳じゃない)


二点差、二点差だが、森田に今までのような絶対的な力が残っているわけじゃない。

初回に感じたあの絶望的なまでの圧倒感も少なくなってきている。


伊勢原(も、森田の球威が落ちてきてるべ…くそ、やはりシューティア連投はマズイかっぺか)


大きく息を吐く森田。


森田(どうする伊勢原)

伊勢原(グライダー…粘る相川を、つきはなすべっ!後三回…がんばれ森田!)


森田はゆっくりと頷いた。

そして、振りかぶって、投げるっ!

球種は…!!!


相川「…グライダーっ!!」


バシィィィイッ!!!

相川のバットは空を切る、同時にミットから景気の良い音が上がった。


『ストライクバッターアウトォッ!!!』

『ああ〜〜〜』

スタンドからため息がもれる。

だが相川自身の顔に、諦めたような表情は全く無かった。



森田「ふん、粘りやがって…」

相川「…いや、森田。まだ、俺達のもチャンスは、あるぜ」

森田「何ぃ…?」





『六番、セカンド、原田君』


原田「…」

相川「原田、粘れ。それだけだ。森田は確実に疲れてきてる」


すれ違い様の相川のその言葉に原田は真剣な表情で頷いた。

そして、打席に入ってバットを構える


森田(…さっきグライダーを打った奴か…)

原田「…」


森田、振りかぶって第一球!!


森田「もう、お前らに勝ちはねんだよぉっ!!」

原田(…シューティ…うわあっ!!)


バシィィンッ!!

『ボールッ!!』


森田「ちっ…ちょっと外れたか…」

原田(あ、あんなキレ…す、すげぇッス…)


ストレートかと思いきや、いきなり消えるように内角に食い込んで当たるところまで曲がる。

いくら変化量が少ないとは言え、寸前であれだけ鋭く曲がれば恐怖を覚えないわけが無い。


原田(し、しかし、これを粘らなければ…ッス!」



しかし。

バシィッ!!!

『ストライクバッターアウトォッ』



降矢「三振…」

原田「すまないッス、降矢さぁ〜〜んっ」

降矢「元からお前には期待してねーよ」

原田「ぐっさぁっ!!」


その後、八番の西条も内野ゴロに倒れ、結局一点も返せず、七回は終わる。

だが。

反撃の糸口がつかめなかったわけじゃない、西条も相川と同じく粘り、森田に十球を投じさせた。


西条「降矢、俺でもあのシュート粘れた。確実にスタミナきれてきてるで森田。…まったく勝ち目が無い訳じゃなさそうや」






八回表、成5-3将。









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