181成川高校戦17morrow
五回裏、成4-1将、無死、ランナー、一塁二塁。
『九番、ライト、降矢君』
シーン。
六条「はぅぅっ!皆さん応援してくださいよ〜」
『なんで冬馬きゅんをいじめる奴を応援しなくちゃなんないのよ』
『そーよそーよ!』
六条「はぅぅ…」
冬馬「う、うーん…複雑」
三澤「ま、まぁ、私達だけでも応援しよ?」
いつものように歓声は起こらない。
急に静まり返る球場内、金髪はまるでもったいぶるように歩く。
二打席目。
『…来たぜ、金髪だ』
『なんだこの雰囲気はよ…さっきから』
先ほどと少し違うのは、場内にざわめき。
荒幡に投げたあの姿がまだ皆の脳裏に焼きついている。
トルネード…いやいやサイクロン野郎。
降矢「さぁて…」
ヒューイ、と高い音を立てて、口笛を鳴らす。
ヘルメットの下からのぞく目が不気味に光る。
森田「相変わらずお前は嫌われてるな、金髪」
降矢「嫌われ者なんでね」
皮肉にも動じず、目線も合わせず吐き捨てるように言う。
森田は少し動じた。
まだ、シュートは降矢に全く打たれていない、少なくとも一打席目は完全にあのシュートで抑えたはずだ。
森田(なのに、この余裕は何だ)
森田の頬を汗がつたったのは、暑さのせいだけじゃない。
まだまだスタミナは残っている…がどうもこの男を前にすると腹が重たくなる。
これが威圧感という奴か、もしくはトラウマなのか。
森田(…いや)
かぶりを振って、汗をはらった。
ぱたぱた、と地面に落ちてしみを作る。
降矢「おい、どうした、勝負しねーのか?…あのシュートで」
森田「…何だと?」
足場を固めた降矢は構えるなりそう言った。
…シュートで勝負?
伊勢原(ど、どういうつもりだ金髪…あのシュートの正体がわかったんだべか?)
森田(…金髪め)
いつものように何を考えているかわからないような表情と、なめきった目、自信満々なオーラ。
何か握っているのか、掴んだのか、それともハッタリか。
真田(コイツは…)
ベンチの真田は一人目を見張った。
コイツは…勝負のなんたるかを、心得ている。
ブラフやハッタリ、嘘やフェイントを入れるあれだ、口数こそ少ないが…いや口数が少ないはずなのに、確実に相手に動揺を与えている。
真田(降矢…いったいどういう男だ)
ただのいきがっているガキだと思っていたが…。
そこら辺のいきがっているような奴とは目の色が違う。
真田「アレは…修羅場を潜り抜けてきた目だ」
森田、第一球。
森田「ふん!打てるのものなら打ってみろ!!」
渾身の力を込めて右腕を振り下ろ―――ッキィィィンッ!!!!
真田「!!」
瞬間的に聞こえてきた金属音。
森田「なっ!」
荒幡劉「なんだとっ!?」
打球は高速で右中間を突き破るっ!!
『ぬ…抜けたーーー!?』
森田「しょ、初球打ちだと!?」
甲賀(…森田のシュートを狙っているような振りをして、あえてストレート…スカイ狙いできたで候。まさかアレだけシュートを狙っているような口調だったから、誰も初球打ちだとは思わなかったでござるな)
西条「おっしゃあ!!!」
ダンッ!!!
深く抜けた当たりだっただけに、一塁ランナーの西条もホームイン!!
先にホームインしていた原田とハイタッチを交わす。
―――1点差!
原田「ナイスランッス!」
西条「へへっ!任せとけや、ベンチにおった分体力とやる気はありあまっとる!」
『ワアアアアア!!!』
『よっ!!!4対3!!一点差よ!!!』
『きゃーーー!!…ってはっ!だ、駄目よ金髪なんだからぁっ!』
『そうそう、喜んじゃ駄目ーー!!』
喜びの歓声を押し殺すという珍しいような風景に、ざわざわと微妙な声が広がる。
舞台役者は二塁ベース上で、浮かない顔で首をならしていた。
不本意だ。
降矢(結局シュート打ちから逃げちまったかね)
問題は森田があのシュートを予想以上に投げなかった事だ。
後半に取っておいているのか、あんまり見れなかった分、弱点も見つけれなかった。
たまたま初球打ちが当たっただけじゃ、まだ完璧に潰したとはいえねー。
降矢「…」
…そういえば、こうして背後から森田を見るのは珍しい。
そして見ると本当に大きいのがわかる、もうなんか馴れてしまっていたが…。
伊勢原(に、二点タイムリー…やはりここまで来た将星、ただの奴らじゃないべ)
森田(金髪め…あの頃よりもミート力もスイングスピードも上がってやがる…成長したのは俺達だけじゃないと言う事か…)
さっきの原田にせよ、そして冬馬にせよ。
森田(…あの時の将星とは違う、か)
がっと、土を蹴り上げる。
なめていたのは将星だけでない、森田もまたあの頃の将星とだぶったまま戦っていたのだ。
マウンド上に成川ナインの「一部」が集まる。
伊勢原「森田、気落ちするなべ」
森田「…俺の失態だ」
ラーレス「森田」
甲賀「色即是空…」
森田「もう、もったいつける必要は無い…『シューティア』を使いまくる!!」
伊勢原「…そうだべな、まだ一点リードで後四回」
森田「シューティアで抑えきる!!!」
『ワァァーーーッ!!』
『帝王様ぁ〜〜〜!!!』
『ここで逆転ですせんぱーーーい!』
御神楽「原田、良くやったな」
原田「は、はいッス!!」
御神楽「…それがどうやら奴に火をつけたみたいだがな…」
原田と御神楽は森田を見やる。
マウンド上で静かに燃える男がそこにいた。
『一番、ショート御神楽君』
森田「…三順目か、ちょうどいい」
御神楽「何がちょうどいいんだ?」
森田「シューティアの威力、見せてやるよ」
セットポジション。
喋り終わると、森田は左足を勢い良く前に出した。
森田「これが…高速オリジナルシュート…『シューティア』だ!!!」
降矢「…!!」
御神楽「!!」
―――シュンッ。
『バシィィィッ!!!』
『ストライクワンッ!!!』
…き、消えた。
今まで出し惜しみのシュート…ここに来て!!
御神楽(変化量こそ少ないが…キレは、冬馬のファントム並だっ!!)
降矢「シューティア…ね」
『ワアアアアアアアアアアア!!!!』
三者連続三球三振。
ここから、将星対森田の本当の対決が始まる。
六回表、成4-3将。