168成川高校戦4brock bastard
















一回表、将0-3成、一死。


『五番、キャッチャー、伊勢原君」



降矢「ちっ…何やってやがんだ」


青い帽子の下の金髪をくりくりといじる。

降矢は苛立っていた。


降矢「一度倒した相手じゃねぇか…何やってんだちんちくりんが」


ここは外野なので、冬馬がどんな球を打たれたか、相手の打者がどれだけ強いかはさっぱりわからない。

だからといって、打たれた投手をいたわるほどの優しさは降矢には全く無かった。

確かにDに巻き込んだ分の借り…冬馬の夢を果たすまでは、打ってやるとは言ったが、冬馬自身が打たれてたのでは、どうしようもない。

今降矢が考えているのは、自分のことだった。

暇さえあれば、それを考えている。


降矢(Dの後、あの赤い髪の女は一向に現れないし、何も解決に向かっちゃいねー)


降矢にとってこのままぐだぐだしたまま終わるのは一番嫌がるところである、白黒つけなければ気がすまない。

それもイライラの増加の原因につながっていた。


降矢「なんでこんな所でいつまでも立ったままじゃねーといけねーんだ…」


背中から知らず知らずのうちに怒りオーラが出ている。

それを見たセンターの県は血の気が引いた。


キィインッ!!


と、内野の方で打撃音。

見ると、打球はセンター前に転がっている。

県はいつものように俊足を飛ばしてボールを捕球するが、当然一塁に間に合うはずもなく。


『ワァァァーーーッ!!』


またもや成川のランナーが一塁に、降矢のイライラメーターはまた上がった。

地面を芝がえぐれるほどに強く蹴り上げた。


相川(まずいな…Fを完璧に打たれたのがそんなにショックだったのか冬馬)


今五番伊勢原に打たれた球はFスライダー…だが、威力は普通のスライダーよりも低いくらいだった。

一塁ベース上、両手を膝につきベースからリードをとる、身長が低く田舎臭い男は笑みを浮かべた。


伊勢原(予想通り精神的には弱い投手だべな、先制パンチで一気にカタをつけるべ!)


『六番、サード、蒲生・ラーレス君』


ズゥゥゥンッ、とそんな音がしそうなほど迫力がある。

黒い肌の男の顔は、相川の遙か頭上にあった。


御神楽(でかいな…大場…森田並のでかさだ)

大場(これはまたパワーが高そうな奴がでてきたとです!)


内野陣は知らず知らずのうちに後退していた、それはそうだ、めくりあげられたユニフォームの下の丸太のように太い腕を見せられればそうなるのも仕方ない。



赤城「成川のクリーンナップは四人や」


馴れ馴れしく陸王軍団の中に一人腰を下ろした赤城が口を開いた。


九流々「クリーンナップってなんナリ?」

笑静「お前よく野球やってたな今まで」

九流々「ド忘れナリよっ!」

吉本「…」

笹部「普通はクリーンナップと呼ばれるのは三人…打線の中核を担う、三番、四番、五番のことだ」

九流々「そ、そうそう、それナリ」

さも知ってたといわんばかりに胸を張る、思わず吉本と笑静は眉をひそめた。

赤城「自分らは元々のクリーンナップの定義を知ってるか?」

笑静「クリーンナップの定義?」

九流々「英語だと「clean up」…わ、わからんナリ!」

吉本「…」

笹部「もともとは浄化、とか掃除とか言う意味のはずだが、赤城君」

赤城「その通りや、頭ええな笹部君。つまり『塁に出たランナーを掃除する』…つまりホームへ返す役割を担うのがクリーンナップ」

笑静「それが四人と言う事は」

赤城「普通六番言うたら、打撃は三、四、五に劣る。…やが、この蒲生ラーレス言う成川の六番は実力だけやったら、四番を任せれてもおかしくない実力、ほれ」


赤城は自分のリュックからイミダスほどもある厚いアルバムを取り出した。

それの256ページを開くと、そのぺージにはびっしりと文字が書き込んであった、視線を上にずらすと成川とでかでかと書かれていた。


笹部「これは…データ帳か?」

笑静(こんなに大量に調べてる…こいつは実はスゴイんじゃないのか?)


ちなみにデータ調べは赤城の趣味である。


吉本「…ここ」

九流々「六番、蒲生ラーレス。打率.361、本3、打点9」

笑静「四試合で打点9!?」

赤城「その通り、成川はクリーンナップだけで実に20を超える打点をあげとる。このラーレスは本塁打こそ四番の荒幡に劣るが、打点はそれを超える。いわば『二回目の四番』」

笹部「二回目の四番…!」

赤城「つまり、竜神と荒幡、伊勢原とラーレスという三番四番が二回繰り返すことになる!これが『クリーンナップが四人』いうことや!」

九流々「な、何試合もコールドで勝ち抜くはずナリ…」


九流々の額に、汗が浮き出た。

笑静「ってことは、下位打線でも気をぬけねぇってことか…あのチビ君は大丈夫なのか?」




マウンドの冬馬は歯を食いしばっていた、と同時に恐れを抱いてた。


冬馬(あんな太いの…はじめてみたよ。あんなのにやられたら…あっというまに向こうまでイっちゃうよ…!)


…誤解が無いように断っておくが、太いのは腕、向こうに行くのは打球の話である。

もちろんラーレスのデータは相川も頭に叩き込んでいる。


相川(ただ…二回目の四番といっても、このラーレスが荒幡と全く同じであるということはない)


本当に四番の実力があるなら四番に置くはずである、それが六番ということは『荒幡よりも劣る何か』があるということ!


相川(荒幡のフルスイングのパワーと同じガタイの良さ。しかし…ミート力はやはり荒幡に劣る!)


あのフルスイングでファントムにミートさせる能力があるから荒幡が四番なのだ、逆に言えばそれに並ぶ打撃の力が無いからこのラーレスは六番。


ラーレス「…こんな小さい奴を打ちこむのは少し罪悪感がアルガ…森田と荒幡の敵将星は完璧にぶちのめすヨ」

冬馬「う…」

吉田「びびるな冬馬!!こんな図体のでかい奴にお前のFを当てられる器用さがあるとは思えないぞ!」

大場「…」

御神楽「どんなパワーでも、当てられなければそれまでよ」

ラーレス「フフフ…」

相川(迷うな冬馬、ファントムしかない。ここをしのぐ!)

冬馬(…はい!)


ラーレスに対し、冬馬第一球!!

ボールはど真ん中から内角へ食い込んでくるFスライダー!!


ヒュ…ザンッ!


ボールは音をあげて空気をきりさき、ラーレスの内角へ食い込む!







相川「!!」

笑静「なっ!」

御神楽「あれはっ!!」


ラーレスは、食い込んでくるFに対し腰を早めに回転、軽くミートをあわせるように体の前方でボールを捉える!


御神楽「以前『赤城が冬馬のFを打った時と同じフォーム』!!!」

ラーレス「前情報でFが球質の軽い球だというのは耳に入ってるネ!俺のパワーがあれば、ミートをあわせるだけでも…」

相川(…ぐっ!しまった、パワーがあるということは…『ミートを開いても十分一発を狙えるということ』!!)



ラーレス「スタンドへ運べるネッ!!!」




グアッキィィィンッ!!!!!!!!!


打球はピンポン球のようにライトへ飛んでいく!

『キャアアーーーーッ!!!』

将星スタンドから悲鳴が飛ぶ。


森田「でかいぞっ!!」

伊勢原「これはいったべ!」

竜神「ツーランだ!!」



ボールは高く高く舞い上がって、県と降矢の間へ落ちていく。

降矢「…ちっ!県飛べ!!」

県「だ、駄目です…ジャンプしても届きませんっ!」


滞空時間が長い分、打球には追いついたがボールの位置が高く、ちょうど二人の上を通過する形で打球はスタンドへと落ちていく。


ラーレス「ホーーッ!!いったネ!2ランね!」

馬鹿みたいに大きくバットを投げ捨て、裏帰った声で両手の人差し指で天をさした。

自分自身も天を向く、そのパフォーマンスに敵味方がいっせに視線を奪われた。


冬馬「…っ」

相川「…!」


相川は腕を組み、冬馬は振り返らずに膝をつく、二人とも…打たれたのがわかったから。

…やっぱり、強い。

























『アウトーーーッ!!!』


ラーレス「!?」

森田「なっ…」

竜神「なんじゃとっ!!」

甲賀「…伊勢原!戻られたし!ライトがボールを掴んでいる!」


甲賀は手を胸の前で真一文字に切り『戻れ』のジェスチャーを示す!

すでに伊勢原は二塁と三塁の間まで走っていた。


吉田「ライト…?」

御神楽「ライトといえば…」

冬馬「降矢!?」


振り返った冬馬の目に入ってきたのは、潰れたように地面に倒れてる県と膝を曲げてまるで着地したような降矢。


冬馬「…えぇ!?」


何が起こったの!?と思う前にすでに降矢は返球体制に入った。


森田「大丈夫だ!距離がある、間に合うぞ伊勢原!」

降矢「サ―――――」























降矢「イクロン」


―――ギャァンッ!!


たっぷりと時間をためて、降矢が投げたボールはレーザービームというよりも、レーザービームらしい。

ほぼ地面に平行にボールは飛んでいく!


伊勢原「げ!!?」

甲賀「!?」

竜神「なんつー肩じゃ!」


ファースト直前で失速して地面にワンバウンドするも、伊勢原が一塁へ帰る前に余裕で大場のミットにボールが入った。

あまりの光景に、皆が一瞬動きを止めた。


『ア、アウトーッ!チェンジッ!!』

『ワァアアアアーーーーッ!!!』


笑静「ば、馬鹿な…2ランホームランが一瞬にしてダブルプレー!?」

九流々「確かにあの打球は、スタンドへと入る軌道だったナリ!」

笹部「…お前たち、ボールがスタンドに入る瞬間を見たか」

笑静「い、いや、あのラーレスとやらのパフォーマンスに気を取られて…」

笹部「俺もだ…いったい外野で何があったんだ!?」




外野、地面に潰れた県は小さく呻いた。

そのみぞおちを降矢が蹴飛ばす、鬼だ。


県「ぐえ!」

降矢「何寝てんだ、終わったぞ。変えるぞ。起きろ」

県「ふ、降矢さぁん…あ、合図くらいしてくださいよぉ」

降矢「めんどい」

県は泣いた。





――実はあの一瞬…。


降矢「パシリ!!首を下げて手を膝につけ!」

県「へ、は、はい!?何するんですか!?」

降矢「前、コロ助がやってた奴だ」

県「…って、サイズが逆―――」


県が全て言い終わる前に、降矢は県の背中にスパイクをぶっさしていた。


県「いっぎゃーー!」

降矢「男は我慢」


そして、およそ2M30cmの地点に到達した降矢はゆうゆうとボールをキャッチし地面に着地、と同時に降矢の重さに耐え切れず県は地面にキス。

『アウトーーッ!』


という訳である。

県は背中をさすりながら降矢の後をよたよたとついていった。


降矢「血が出なくて良かったな」

県「はぁい…」

『ふーん、やるじゃないあの金髪』

『でも私アイツ嫌いなのよねー』

『ていうか…怖いです』

『なんやかんや』


降矢「…」

県「穏便に!穏便にお願いします!」

冬馬「あ、ありがと降矢…」


めきょ。

思い切り股間を蹴り上げた。


冬馬「―――ひぃあああああああ!」


ガクガクっと揺れると、冬馬はよだれをたらしながら倒れた。


『いっやああああああああああああああああ!!!』

『と、冬馬きゅんになんてことををををを!』


県「あわわわ…」

降矢「もとはといえばテメーが三点もとられるから悪いんだボケ!死ね!カス!」

西条「鬼や…」

緒方先生「鬼ね…」

六条「はぅぅ…」

冬馬(あ、あ、あ…お、お嫁にいけなくなっひゃったよぉ…ナギちゃぁん…助けてぇ…)




対照的に成川側は騒然としていた。

『お、おい今までホームランをアウトにして相手いたか?!』

『い、いや…』

『なんか…三点リードしてるって感じじゃねぇなぁ』

『決勝まで楽勝だと思ってたが…これは結構な相手が現れたな』


ラーレス「ふざけた奴らネ…あんなの始めてみたヨ」

綾村「流石お姉ちゃんの居るチーム…でも、障害があるほど…燃える」

竜神「荒幡と成川が打倒する気持ちが今始めてわかった、あ奴らはただもんじゃないの」

甲賀「しかし、リードは三点」

森田「三点あれば…十分だ」


長い一回表が終わった。




吉田「よっしゃあ!!とにもかくにもまだ三点差だ。まずは一点づつ返していこうぜ!」

緒方先生「そうよ!まだ負けたわけじゃないわ、皆頑張って!」

冬馬「…せ、先生っ!そこは…」

緒方先生「あ、あらごめんなさい、氷の位置が違ったかしら」

降矢「けっ、大げさな奴だ」


大場「…」

野多摩「…」

県「…」

被害にあったことのある三人は思わず股間を抑えた。

ちなみに、降矢の蹴りの威力は尋常じゃない。

もしかしあら三人とも、片方が潰れているかもしれない。


相川「御神楽、まずはランナーに出ることだ、頼むぞ」

御神楽「ふん、この僕を誰だと思っているんだ」

三澤「頑張って御神楽君」

御神楽「はいっ!」



『一回裏、将星高校の攻撃は、ショート御神楽君』



御神楽「ふっ」

『きゃああーーーっ!御神楽様ぁあっ!』


髪をかきあげる動作につられて観客の一部が熱狂的な応援をする。

どうもあのナルシーっぷりがツボらしい。


御神楽(ふん…スカイタワーの弱点はアッパースイングだということは前の試合で攻略済みだ)

相川「スカイタワーが打たれることは森田もわかっているはずだ、その上で何を投げてくるか…」



マウンド上、高く高く、太陽すらも防ぎそうなほど高くそびえ立つ森田。

大きく振りかぶって、真上から投げ下ろすかのような、完全なオーバースロー!



御神楽「スカイタワー…だと!?」

森田「ラッシャァァアアッ!!!」


ビヒュオン!!

豪腕、空気を切る!

まるで天井からボールがボールが来る様な錯覚に襲われるが…!


御神楽「馬鹿め!それはすでに降矢に打たれている!同じ手は通じぬ!進歩の無い…愚民が!」


御神楽は、かつて降矢がスカイタワー攻略に用いたアッパースイングで、スカイタワーに対し、真正面から球を当てに行く!







ドバァンッ!!!



しかし、御神楽のバットが球に当たることはなかった!

呆然としながらも振り返れば、ミットにボールが収まっている。


御神楽(…な、なんだと!?)


相川「…森田め…下手な小細工でなくスカイタワーと自分の実力そのものをあげてきたか!」


そう、前のスカイタワーとは…速さが、球威…根本的に違う!

森田はゆっくりと右手の人差し指で御神楽を指した。




森田「お前にも言っておいてやろう。…三点『も』あれば十分だ」










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