164インターバル






















三澤、六条、緒方先生の、逆さづり照る照る坊主のおかげで本当に次の試合は雨天順延になった。

と、揺れる大きな胸。


緒方先生「今日は朝から夜まで雨ね、というか台風が来てるんだけど」

三澤「ほらほら雨になった〜〜!」

相川「…いや、天気予報の通りだっただけだと思う」

西条「つか、超不気味やなぁこれ」


部室の窓際にぶら下げられた逆さづりの照る照る坊主は軽く100を超える。


野多摩「なんだか江戸時代の処刑場みたいだね〜」

西条「その発想が天然って言われんねんで…」

吉田「まぁ、とにかくこれで俺達は回復する時間ができたんだ、だよな相川?」

相川「まさに恵みの雨だな。皆疲弊しきった体をこの一週間で癒すように」

全員『はーい』

真田「…」


日曜日の昼間、とりあえず延期になった試合の変わりに部員は部室に集まっていた。

とりあえず、何もしないのも何だから、とミーティングを行う為に相川は、吉田が事あるごとに叩くのでベコベコになったホワイトボードを出してきた。


六条「…なんだか、降矢さん変ですよね」

冬馬「え?!そ、そうかな!?」

六条「そうですよぉ、この一週間ずっとなんだか…ぼーっとしてるっていうか、前みたいな荒々しさが無いというか…そんな優しい降矢さんも素敵…」

冬馬「あ、あはは…」


確かに、降矢の様子がおかしいのは冬馬もわかっていた。

だけどその理由はわからない、まさか冬馬のことで悩んでるなんて…という考えが浮かんでは消える。

あの月曜日から変なのだから、原因は冬馬にあるのだろうけど、そう決め付けるのはなんだか自分ばかり勘違いしてるみたいで怖かった。


冬馬(…降矢)

降矢「…」


金髪はただ腕を組んで相川先輩の話を黙って聞いていた。








翌週は天気も晴天、名実ともに晴れて第三試合が行われることになった。

これが準々決勝となるので、すでに将星は地区内でベスト8に入っていることになる。

そして、この日の相手は河原橋高校、試合は西条-冬馬の完封リレーとようやく出た大場の一発で3-0と完勝、将星は準決勝にコマを進めることになった。

さらに準決勝、将星は古豪山川商業にあたるが延長の末、御神楽のサヨナラタイムリーで4-3と勝利し、ついに決勝を迎える。

相手はもちろん―――。







バシィィッ!!

『ストライッ!バッターアウトッ!!』


相川「これで、五者連続三振か」

真田「四回までで出したランナーが一人…やはりこの地区では敵無しか。…森田充」


バシィィッ!!

『ストライックツー!!』


森田「…しゃーっ!!」


気合の入った咆哮がグラウンドに響き渡る!

以前森田は四球を挟むノーヒットで試合は進んでいく。


相川「それにしても…成川は見ない間に偉く個性的なチームになったな」

三澤「そうだよね…前は森田君ぐらいしか注目する人がいなかったけど…」

真田「成川の一年にいいのがいるとは聞いていたけどな…今までの成川のスコアはどうだ?」

三澤「あ、待って待って」


今日も試合後、試合を見に来た相川、今日の付き添いは三澤と真田である。

メンバーは相川のその日の気分によって決まるらしい、どういうことだろうか。

とにかく、内野席に腰掛けた相川はせわしなくメモをとっていた。

その内に三澤も成川のスコアを自らのメモ帳から見つける。


三澤「んー…うわ!すごいよ、一回戦は森田君が出てないから5-2って失点を許してるけど。後の二回戦、準々決勝は両方とも完封してる…」

相川「しかも、全部の試合で成川は4点以上をたたき出してる。攻撃力も夏と比べて段違いだ。…しかもこのデータは試合になって始めてわかったんだがな…」

真田「…チビのキャッチャー、シャープのバッティングの一番、忍者みたいに足が速いショート、黒人のサードに、守備のそつの無い外野陣…」

三澤「黒人?!」

相川「ブラジルの日系だ、珍しい」


カリカリとペンを進める相川。


相川「陸王の時や、山川の時は要注意の何人かをマークできるだけマシだったが…この成川は…マークすべき人物が多すぎる。全体的にバランスもいいしな…誰だ、森田のワンマンチームなんて言ってたのは」





赤城「ヘックショイッ!!」




後ろで盛大なクシャミが怒った。


赤城「やーやー相川君。どーも、今回の成川はなかなか手強そうやな」

相川「お前のせいで俺のデータが少し遅れをとったんだ、どーしてくれるんだ」

赤城「まぁまぁ、しゃーないって。それだけ成川といえば森田の印象が強かったんやから」

三澤「…」

赤城「そんな警戒しなはんなや柚子はん、もうなんもせーへんって」

三澤「名前で呼ばないで下さい」

赤城「おっとと、名前で呼んでいいのは吉田君だけでしたな、こりゃ失礼」

三澤「もうっ!」


赤面してぽかぽかと赤城を叩く三澤、全然痛くなさそうだ。

むしろ可愛い。


真田「それより、また成川に点が入ったぞ」


『ワアアアーーッ!!!』

グラウンドでサードランナーとセカンドランナーが続けてホームインしているシーンがちょうど目に入ってきた。

ファーストベース上で、髪を後ろで結んだ選手がガッツポーズをあげていた。

これで四点目、すでに成川高校の応援席はお祭り騒ぎである。


赤城「…三番レフト竜神、去年の成川のクリーンナップが抜けてからメキメキと頭角を現してきた選手や」

相川「…ちっ、次の試合はリードが大変そうだ」

赤城「ワイならヒットも打たせんけどな」


相川と赤城の目線で火花が散った。


相川「言うじゃないか」

赤城「ふふふ…ほな県予選で待っとるで相川君」


赤城はへへへ、と笑いながらその場を後にした。


真田「一体なにをしに来たんだアイツは」


カキィィンッ!!


三澤「あ!」

真田「む」


甲高い金属音とともに、ボールはライトスタンドで大きく跳ねる。

ツーランホームランだ、マウンド上の投手ががっくりと膝を落とした。


相川「…これを抑えられるってか、赤城」

三澤「…大丈夫?」

相川「それを抑えるのが、俺の仕事だろう」

真田「…」






試合はその後も一方的な展開で進み、六回7-0で成川がコールド、決勝にコマを進めた、圧倒的な強さである。

最後のマウンドを三振で抑えた森田はベンチに帰ってくる途中で足を止めた。


森田「…将星よ!決勝で決着をつけよう!」


こちらの姿に気がついたのか、森田は相川達に向けて大きく拳を突き出した。


相川「どいつもこいつも、自信家なことで。謙遜っていうのは無いのかね」

真田「…相川君。何故俺をここに連れてきた」

相川「ん?」

真田「別に俺がいてもいなくても、変わらないだろう」

相川「そんなことはないさ、普段からあの馬鹿ども相手にしていると真田みたいなまともな人間が素晴らしく思えて、ふ、ふふふふふ…」

真田「…相当精神的に参ってるようだな」

相川「…それに、もうお前も将星になじんできただろう。来てから四試合だ」

真田「さあな」

相川「なじんでもらわなきゃ困る。うちは別に突出した何かが…無いわけじゃないが、夏も基本はチームワークの良さと気持ちで戦ってきた」

真田「…」

相川「まだお前は一人将星の中で浮いているんだ、そろそろ俺達に心を開いてもいいんじゃないか?」

真田「まだわからないか」

相川「…?」

真田「俺は別にお前らと野球をしたいわけじゃない、桐生院に勝つ為に力を貸しているだけだ」


真田は足早に球場を後にした。

その言葉だけが、妙に耳に残った。


相川「…難儀な奴だ」

三澤「相川君…」

相川「試合も終わった、帰ろう三澤」

三澤「あ、ちょっと待ってよ〜!」







そして、成川ベンチ。

???「…嬉しそうじゃの、森田」

森田「これでようやく将星か…夏の借りを返せるというものだ」

???「…そんなに将星に入れ込んでいるのか、森田」

甲賀「当然でござろう、森田殿は夏将星に打たれて負けているんだから」

???「だが今年は違いマスヨ」

???「たりめーっしょ、先輩には悪いけどね、夏とは強さ段違いっしょ」

???「俺も森田先輩と思いは同じだ…兄貴が果たせなかった打倒将星…俺達が果たす!」






そして地区予選決勝当日。

成川高校-将星高校。

午前二時、プレイボール予定…!








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