148陸王学園戦8対決!降矢対無限軌道!























三回表、将星バッテリーは一死から一番笑静にバントヒット、吉本のヒットのピンチで無限軌道、九流々と対決することに。

すでにインプットされたFのはずだったが…何故か変化量が通常より増していて、九流々の無限軌道を上まり、見事にセンターフライに打ち取ってピンチを脱する。

しかし、相変わらず一点ビハインドは変わらず、しかも将星はまだ一人のランナーも出していない。

マウンドの九流々が立ちふさがる。

だが…この三回裏、あの男…九番、降矢に回る。



三回裏、陸1-0将。



『七番、セカンド原田君』


相川「とにかく好球必打しかない。下手に手を出すとインプットされる」

真田「スイングは一回のみと考えた方がいい」

原田「う、ウス!」


御神楽は腕を組んだ。


御神楽(とは言っても…流石に原田じゃぁ厳しいかもしれないな)

緒方先生「ねぇ御神楽君」

御神楽「なんですか先生」

緒方先生「なんで、皆ちっとも打てないのかしら」


アゴに指をつけてハテナマークを浮かべる緒方先生に、思わず右肩が下がった。


六条「あ…じ、実は私もよくわからなくて…」

御神楽「今まで試合を見ていなかったのか!」

吉田「あ、俺も」

御神楽「黙れ馬鹿!」

相川「…吉田はともかく、実際に試合してない人にはわからないかもしれないな」

三澤「でも、なんとなくわかるよ私」

吉田「何!」

三澤「う、うん。よーするに、一端動きを見せちゃうと、クセを盗まれちゃうってことだよね」

相川「ご名答だ三澤。ようするにそういうことだ」

緒方先生「す、すごい投手なのね…皆大丈夫?」

六条「で、でもでも!…夏は東創家に敗れてますよね…?」




降矢「ポイントはそこだろうな」




ベンチの端、先ほど「冬馬きゅんファンクラブ」からぶん投げられた応援旗の威力がよほど高かったのか降矢は額をさすりながら口を開いた。

ちなみにネットを乗り越えようとして三澤と六条に止められた時に、またもや投器物の乱打を喰らっている、54hitCOMBOである。


六条「…痛そうですね」

降矢「テメーが止めなきゃ、こんな目にはあってないんだがな」

相川「まぁまぁ、それよりどういうことだ降矢」

降矢「相川先輩のデータによると、三年がいた頃の夏の東創家は桐生院にこそ劣るが、中々の強さだったんだろ?」

相川「ああ」

三澤「でも、九流々選手は二年ながら先発で出場してますね」


いつものように三澤メモを見ながら人差し指を立てる。


降矢「だから、そういうことなんじゃねーのか?」

真田「…力の差、ということか?」

降矢「流石桐生院だな」

真田「俺はもう桐生院じゃない」


バチリっと、火花が散った。


六条「はぅ、はぅ…」


おろおろ〜。


御神楽「真田、力の差とはどういうことだ」

真田「…絶対的な確信がある訳じゃないがな。おそらく…絶対的な力の差があるならば、無限軌道も効果を発揮しないってことじゃないだろうか」

相川「絶対的な力の差…?」



『アウトーッ!!』



降矢たちが話し合っている間にも、原田がライトフライに打ち取られる。

もちろん、インプットされて。


真田「夏の、陸王-東創家戦のスコアは確か4-2。そして東創家の点数のうち、3点が初回の先制点だ」

降矢「つまり…インプットされる前に打ってるってことか」

真田「…おっと、喋りすぎたみたいだな」


身を翻して、反対側のベンチに腰を沈めた。


降矢「ちっ、いけすかねぇ野郎だ」

緒方先生「えっと…つまりどういう事なのかしら?」

降矢「まず最初のチャンスはインプットされる前に打てってことだ」



『ツーアウッ!!』



八番冬馬もインプットされ、ショートゴロに仕留められた。

これでインプットされたのは計八人。


九流々「次で最後ナリ」

降矢「ほざけ」



『九番、ライト、降矢君』


『ブゥウウウウウウウウーーーーーーー!!』


六条「はわ…すごいブーイングです…」


そして飛んでくるメガホンの嵐。


智香「帰れ凶暴男〜!」

美香「金髪鬼畜馬鹿〜!」

梨香「人でなし〜!!」

降矢「…ギロリ」

三人「う…」

冬馬「あ、あんまり彼を刺激しちゃ駄目ですよ〜」

西条「ってかひるむくらいなら最初から言わんかったらええやん…」



ザシュリ、と地を踏みしめて白線で囲まれた四角い場所に立つ。

ここが俺の戦場だ。

ルールは簡単、打てば勝ちだ。


降矢「まぁ…どうせインプットされるんなら、狙うは一発しかないってことだ」

九流々「流石のワガハイもそれくらいわかるナリよ」

降矢「ま、単純だからな」

九流々「ただ、降矢君は最後の一人そう簡単に勝負する気はないナリ」

降矢「…なんだと」

九流々「さっきの相川君にはインプットさせてもらう為にわざと甘いボールを投げたナリが…降矢君は、インプットの最後の一人。君をインプットしてしまえば、勝利に等しいナリ」

降矢「ほう」

九流々「言い換えれば、いつでも料理できるってことナリよ」





キャッチャーが立ち上がった。






真田「な…!!」

西条「なんやと!」


相川はすぐに陸王側ベンチを見た。

白髪の老人の表情は全く変わらない、だがここにきてのこの的確な指示は彼のもの以外の何者でもないはずだ。


相川(長嶺監督め…!)

六条「…ず、ずるいですよ〜」

真田「確かに卑怯だが…素晴らしい一手だこれは」

御神楽「一番危険性のある降矢との勝負を避けてくるとは…」




九流々「悪いナリね、降矢君」

降矢「いいや、全然悪くないぜ。…何故ならそうすることも、一応予測してたからな」

九流々「…!?」



降矢はフッと笑うと…。











『ザワッ…!』

緒方先生「…え!!」




冬馬「ひ…左打席!?」




今まで立っていたボックスの反対側…本来左バッターが立つべき場所に足を歩めた。

そして、動きを止める。


降矢「これでも勝負を避けるか、コロ助」

九流々(こ、こいつ…!)

笹部「落ち着け九流々」

九流々「…」

降矢(さぁ、どうする?)



この男、こういう勝負の場面に大してはとことん強い。

あえて全くデータの無い左打席に立ったことは、動物に餌の罠をしかけるようなものだ。

つまり、簡単にアウトがとれる場面を用意したということ。


長嶺監督(ふむ……)


だが、しかし簡単に引き下がる降矢じゃないだろう。

だからこそこの奇策が不気味に見える。

インプットしても左だから無駄なのか、意味があるのか。

わずか一つのアクションで降矢は陸王に様々な難題をぶつけたことになる!



西条「せやけど…あいつ左で打てるのかいな」

野多摩「降矢さんなら何があってもおかしくはないけど…」

真田「いや、絶対に打てるはずだ。そうじゃなければこのブラフは成り立たん。打てなければただアウトになるだけのことだ」

相川「…とりあえず様子見か」



マウンドの九流々は落ち着かなさそうにちらちらとベンチを見ていた。


九流々(監督…どうするナリ?)

長嶺監督(ふむ…どうせハッタリじゃろう。打てなければなんの意味も無いと読ませる、その裏をかいてるとワシは思う)

九流々(では…?)

長嶺監督(目的は「ここで一発でも同点、ならば自分の前に何とかしてランナーが出るまでインプットされない方法を選ぶ、かつそれが気づかれにくい方法で」という感じじゃないだろうか)

九流々(勝負ナリね?)

長嶺監督(うむ)



降矢「さぁて、どう出るコロ助よぉ、俺を挑発した罪は重いぜ」

九流々「…」

降矢「借りは十倍にして返さなくちゃな」


九流々はまだ躊躇していた。

何故なら、降矢の左打法のフォームがあまりにも綺麗だからだ。

まるでずっとそれでやっていたように。


九流々(本当に打てないナリかコイツは…)

笑静(迷うんじゃねぇよ九流々、勝負でいける)

笹部(うむ)



ゆっくりと左足をあげる。

そのまま、第一球を投げる!!




















降矢「どうして、お前が去年東創家に負けたか」

九流々「…!」

降矢「いくら無限軌道が強かろうと、一度インプットしなければその効果を発揮することはできない」






捻りきった腰が、爆発するように開放される!








ビヒュンッ!!!!



冬馬「ひ…左の!」

吉田「サイクロン!!」







降矢「確かにその無限軌道ってのは恐ろしいな、だが基本能力で見りゃ…」























九流々のスラーブを…真芯で、捉える!!

球がひしゃげる瞬間がいやにゆっくりと見えた。
















降矢「お前はたいしたことない投手だ」




















キィィィィ―――――――――ンッ!!!!!





長嶺監督も。

笹部も。

笑静も、九流々も、吉本も。

そして将星の皆も、ブーイングを送っていた生徒達も…真田も。

その金属音で黙らせる。






降矢「俺が左で打てるくらいにな」




ボールはフェンスの遙か上を越えていた。






三回裏、陸1-1将、二死。











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