128青竜高校戦8気合とか根性とかetc
五回裏、将4-3青、一死、走者一塁。
『四番、ファースト、滝本君』
投手が一人しかいない将星では西条は変わることはできない。
西条の本当の試練はここから始まる。
西条「はぁっ、はぁっ…」
相川(全球数、89球か…五回にしては明らかに多い、前半粘られたのが効いてきてる)
マウンド上、太陽を背中に背負った西条。
晩夏とは言え、まだ残暑が十分に残る空。
青竜打線と対峙して来た重圧感がスタミナの減少に拍車をかける。
ただ、一つ救いはある。
相川(ここまでに投げたストリームはまだ10球を超えていない事だ)
スタミナの切れた後半戦に青竜が勝負をかけてくると見た相川はあえてストリームを温存させて戦わせていた。
そして、この打線二順目、先ほどホームランの四番滝本を再び迎える。
予定より少し早いが、半分は切った、ここから勝負をかける。
相川(…)
西条がゆっくりと頷く。
ランナーを一塁に背負う。
セットポジションから右足を上げ、そのまま左腕を全力で振り下ろす!!
西条「おらぁっ!!」
唸りを上げて、ボールはミットに向かう!!
バシィッ!!
「ストライクワンッ!!」
滝本(ほぉ…いいストレートだ、あれだけうちの打線が粘っていってるにもかかわらず、まだ直球は衰えていない、か)
滝本は冷静な視点で西条のストレートを見ていた。
ランナー一塁で、四番。
最低で長打で同点だ、それができねば四番では無い。
一年ながらも、レギュラーを任された滝本。
裏返せば、それだけの仕事をできる実力は兼ね備えている!
滝本(さぁ、来い!)
グリップを力強く握った滝本に、西条、第二球を投げる!
球速は先ほどと同じ、コースは外角低め!!
滝本(一発狙い警戒の外角低めか…だが、それしきの球、打ち返せない俺じゃない!!)
風を切り裂いて、滝本のバットがボールに襲い掛かる。
スイングは、青い竜のそれ―――!
グンッ!!
滝本「!!」
西条「そう簡単に打たれないのが俺や!!」
ボールはバットに当たる直前で鋭くスクリュー変化!
そう、高速スクリュー…ストリームだ!
ブンッ!
寸前で青い竜をすり抜ける、流球。
風の流れのようにかわすと、相川のミットに音をたてる。
バシィッ!
『ストライクツー!!』
審判の手が高々と上がった。
滝本(ちっ、スクリューか、忘れてたぜ、そんなのもあったな)
西条(そう簡単に竜には喰われないで)
”竜”か”流”か!
西条は追い込んだ後、一つ内角にボールを挟み、その後にスライダーで勝負するが、これも見送られ、カウントは2-2。
両者一向に引かない対決は五球目まで引き伸ばされた。
西条(さぁ、相川さん)
相川(…)
当然、追い込んでボールを続けた後は決め球で仕留めに行くのがセオリー。
ストリームはまだ相手に数回しか見せていないので有利なのは絶対的だ。
…が、それでも相川の頭には不安が過ぎる、それは滝本が青竜の四番であると言うことだ。
相川「…」
思わず、目の前の男を見上げる。
一年生ながらにして四番に座ってるということは相当な実力者、そしてそれは夏の大会でも立証されている。
絶対的有理な”ストリーム”でさえも、弾き返されるおそれがある、ということだ。
だが、西条は全開GOサインで相川を見てくる、あれはストリームを投げさせろ、という投手のプライドだ。
確かに、ストリーム以外では西条の球はまだ発展途上、スライダーも覚えたばかりで威力は少ない。
ここはやはり、ストリームで勝負すべきか。
相川は一度地面を見て、サインを出した。
西条(え…!)
滝本「―――!」
滝本は気づいた、一瞬西条の顔に驚きが走ったことを。
それから逆に発想する、もちろん西条はストリームで勝負する気だったから、それが裏切られたという事は、別の球種。
ストリームは、無い。
だが他の球種を投げるとして、滝本は二回に完全に裏をかいたスローボールをスタンドに叩き込んでいる。
滝本(おそらく、ストレートで勝負してくるだろう)
先ほど気づいたのだが。
このマウンド上の西条と言う男、一球ごとに球威が増してきている気がしてならないのだ。
特にストレート、疲労しているはずなのに球速はともかくキレは増していく。
磨けば光る刃のように。
西条「おらぁっ!!」
考えた逡巡、すでに西条は五球目をはなっていた。
球種は…ストレート!間違いない。
読みは当たりだ、滝本はスタンドに運ぼうと軽く手首に力をこめた。
だが。
ガキィンッ!!
ボールは予想に反して真後ろに飛んだ。
ガシャアッと言う音を立てて、金網にボールがめりこむ。
滝本の頬に一筋の汗が流れた。
滝本(読みが当たって、ボールを後ろに飛ばされた…)
真後ろに飛ぶ、ということはタイミングはぴったりだ。
前に飛ばないのは、ボールの下を叩いているから。
…そう、西条のストレートが滝本のバットの上に当たったのだ。
滝本(ボールの手前で伸びたか)
完全に読みが当たって仕留め切れなかった投手は、望月に次いで二人目だった。
だが、面白い。
打者の血が、鼓動を増加、アドレナリン分泌。
いい投手にめぐり合うと、わくわくするのは本当だ。
滝本「良い…良いボールだぜ西条君」
西条「そりゃ御丁寧にどーも」
滝本「だが、俺も青竜の四番」
バットを西条にむける。
滝本「桐生院に勝つまですごすごと引き下がる訳にはいかん!」
西条「いいね、熱い、熱いで自分、そういう奴は大好きや!」
いい終わると同時に、再びストレートを投げ込む。
滝本「光栄だ、ぜっ!」
ガキンッ!!!
今度はしっかりと捉えられる!
だが、ボールは思い切り引っ張って一塁線を切れていった。
西条「遅くてアクビっちゅー奴か?」
滝本「次は、スタンドに叩き込む」
熱い、実に熱いこの二人。
目線の先で火花が散る、散る、そして笑う。
第七球!!
ボールは…高速!!ストリームだ!!
滝本(来た!…が、これが狙いだ!!)
あえて、滝本はストリームを狙っていた。
ボール一つ分変化先に照準を合わせたスイング!!
相川(真芯かっ!)
西条「気合がこもってるから、大丈夫や!!」
滝本「根性論が通用するのは昔の話だ!!」
カキィィィィンッ!!!
けたたましい金属音をあげ、ボールを弾き返す!!
ボールは右中間に大きく大きく上がった、特大のフライ!!
あたりは大きいが上に飛びすぎている、これならアウトだ!!
相川(しめたっ!センターは俊足県、あの当たりなら捕れる―――)
そこまで考えて、相川は気づいた。
県?県は足を負傷して…。
「「「きゃあーーっ!!」」」
「「センターの県君が!!!?」」
応援団から悲鳴が響く。
センターの県は二歩目で足を抑えて倒れこんでいた。
県「…く、動きません、動きませんよぉ…降矢さん!」
白球が目の端に見える。
落ちる、同点。
県は目をつぶった。
『ワァァァァァ―――ッ!!』
聞こえてきたのは歓声。
やっぱりヒットになったんだ、そう県は思った。
吉田「ばっかやろーーっ!まだ落ちてねぇっ!!」
県「!?」
倒れこんだ頭の上を高速でキャプテンが通過していった。
県「キャプテン!?」
吉田「いつかの借りを返すぜ県ぁっ!」
追いかけるライト真田!
真田「馬鹿なっ!」
滝本「サードから走ってきて右中間の当たりを捕れる訳が…」
和哉「ないっ!!」
吉田「…決め付けたら、そこで終わりだぜ。降矢はいつも決め付けない」
県「!!」
吉田「アイツは霧島戦の時言った『俺が捕れると言ったら、捕れる』ってな!本当その通りだと思うぜ!」
三澤「傑ちゃん!!」
『吉田君!走れーーーっ!!』
吉田「ふんがああーーっ!!!」
ダイブ。
真田「まさか…っ」
ドッシャアアアッ!!
吉田「だから言ったろう、捕れないって決め付けたら捕れないってよ!」
『ア、アウトーーッ!!』
『ワアアアーーーーッ!!!』
県「キャ、キャプテン…」
真田は急いで飛び込んだ姿勢のままの吉田に駆け寄る。
真田「貸せ吉田とやら!一塁ランナーが飛び出している!」
吉田「おぅよっ!!」
そのまま手首だけで真田にトス。
受け取った真田がファーストへ弾丸送球!!
ドバシィッ!!
『ア、アウトッ!!スリーアウトッ!!チェンジ!!』
大場「し、しびれるとです…」
『ワ、ワアアアアーーーッ!!』
『吉田君すごーーい!!』
『キャーーーッ吉田君ーーっ!』
六条「吉田先輩、すごい人気ですね」
三澤「むむ…」
真田は吉田の帽子を拾い上げた。
真田「根性とか、気合とか…」
吉田「うん?」
真田「そういうのはあまり好きじゃない」
吉田「…」
真田「だが、さっきのお前は見ていて少し気持ちが良かった。なるほど、あの投手といいお前といいこの将星はそういうチームか?」
吉田「おおよっ!気合だけは誰にも負けねぇ!」
真田「…悪くない」
ピンっと、指で帽子を飛ばして真田はベンチへ帰っていった。
吉田「県、大丈夫か?」
県「はい、何とか…急にダッシュしたから痛みが」
吉田「無理すんな、いざって時はさっきみたいに俺が捕ってやっからよ!」
県「は、はい!」
肩を組んで、県と共にベンチに帰ってくる吉田。
それを和哉はいらつきの表情で見ていた。
和哉「気合とか根性とか…そういうの虫唾が走る」
滝本「和哉?」
和哉「…根性じゃねぇよ、お前の打球が上がりすぎた、それだけだ」
滝本「…それが根性って奴じゃないのか」
和哉「気に入らない、気に入らないね。」
滝本「そんな奴らにお前は4点取られた」
ふと目つきが激しくなった後。
和哉は地面を思い切り足でえぐった。
和哉「今までは、遊びだしな」
六回表、将4-3青。