125青竜高校戦7青い竜の力






















ベンチ裏の奥、二つ目のドアを開けると緒方先生と御神楽が腰を下ろしていた。

県がベッドに腰をかけ、緒方先生は足元で手を動かしていた。


相川「御神楽、大丈夫か!」


相川は部屋に入るなり叫んだ、御神楽は声の方を振り向いた。


御神楽「相川、どうした」

相川「いや、次はお前の打順だから…!」

御神楽「随分早いな…守備の方が早く回ってくると思ったが」

相川「いいから行け、審判を待たせてる」

御神楽「ああ」


御神楽は心配そうに一瞥すると、ドアを後にした。

そして、残された県と緒方先生。

相川が見下ろした先の県の足首には、痛々しいほどのテーピングが巻かれていた。


相川「これは…!」

緒方先生「ちょっと…ひどいわね」


先ほど和哉にやられた足首だ。


緒方先生「腫れがひどかったから、コールドスプレーしてテーピングしておいたけど…」

相川「県」


顔色を覗き込むと、決して悪くは無かったが、異常なほど汗をかいていた。

相川は眉を寄せる。


県「大丈夫です…」

相川「強がるな」

県「うっ!」


テーピングの部分を軽くこづいただけで、県は悲鳴に近い呻きを上げた。

どうやら相当痛そうだ。


相川「打撲だけですか?」


緒方先生は首を振る。


緒方先生「もしかしたら、骨にひびが…」

県「大丈夫です!」


そんな言葉を振り切って腰を上げる県。

すぐに表情に痛みが出るが、笑ってごまかしてみせる。

普通なら交代だが、相川は「無理だ」の三文字を思わず飲み込んだ。

何故なら、当然将星の今のメンバーは九人、ちょうど。


相川「…」


そして背後から歓声が上がった、どうも将星の女子応援団とは声のトーンが違う。

という事は将星の攻撃が終わったということだ。


県「…こんな所で弱音吐いてられません」

緒方先生「県君…」

県「今こそ降矢さんに男らしさを教えてもらった恩義を返すときです」


入部当時あれだけおどおどしていた県だったが…。


相川「よし、行くぞ!」

県「はい!」

緒方先生「…頑張って!」


グラウンドへと続くドアを開けると、晩夏の太陽が差し込んできた。





二回裏、将3-0青。







相川(負傷した県がセンター。夏の大会までならうちはノーマークかつ、桐生院を除くあまり打撃の強いチームとはあたってはこなかった)


だから、相川は相手に気づかれないうちに打撃方向を決めて打たせるという芸当をやってのけることができた。

だが、今回は違う。

前回ベスト8に入ったことでの相手の油断の減少、そして何よりも青竜はうちがはじめて当たる打撃力先行のチーム。


相川(さっきの一回を見る限り…センターを狙わせない、というのは難しそうだ)


気づいているか…気づかれたら最後、センターを狙い撃ちされて終わりだ。

さらにマウンドには決してコントロールがいいとは言えない西条。

不利な条件は重なる、やはり打ち勝つしかない!


相川(俺にできることはやはり被害を最小限に食い止めること)


それにはまず目の前の強大な壁をどう破るか、だ。




『四番、ファースト、滝本君』




『滝本ーー!!』

『よっしゃーーー!滝本!打ったれーー!』

『そろそろ青竜の実力を見せてやれっ!』


一年ながらも四番を任される実力、出てきただけでこの歓声、やはり風格が違う。

夏で桐生院に破れて以来、更にその打撃力に磨きをかけたらしい。

考えたくは無かったが、どうしても相川の脳裏に浮かんだのは、本塁打のみ。

しかも完膚なきまでに打たれている。


滝本「…」


足を開き、構える。

おそろしく隙の無い構えだ。


相川(とりあえず、直球は危険だ)


まずは出したサイン、外角低め、ボールに外れるスライダー。

頷く西条、振りかぶる。


西条「行くでっ!滝本とやらっ!」

滝本「いい気合だ…だが、打たせてもらう!!」



第一球を。


ズザァッ!!




投げる!

西条「ふんならぁっ!!!!」






十分にスピードと気合の乗ったスライダーが外角にスルリと外れてミットにおさまった!

バシィッ!!


「ボール!」


初球はボール、賢明な判断だ。


赤城「やが…これが西条にとって吉と出るか、凶と出るか」

森田「あの西条という投手、一回から見るに明らかに冬馬とはタイプが異なるな」

甲賀「どちらかというと、ストレートで押すタイプでござろう」

赤城「相川はどう考えとるかな」

森田「どう、とは?」

赤城「いきなり打たれるのを恐れて、一球目ボールを出したのはまぁいいとして…それがあえて次の球の配球を迷わせる。特に、西条ほどコントロールのよくない投手なら、ボールが先行すれば四球は免れない」





西条、二球目!!

ボールは、滝本の膝元スクリュー!


バシィッ!!


「ボールツー!」



森田「俺なら四球でも滝本と勝負したくはないがな」

赤城「ただここで滝本と逃げたら今の将星のムードは落ちるやろ、良くも悪くも将星はそういう「行け行け」のチームやからな」




相川(…狙い球はやはりストレートか、ここは…)

西条(…こくり)



西条が頷いて滝本に対し、第三球を投げる!





赤城「!!」

森田「す、スローボール!!」


人を食ったようなスローボールが内角低めに向かっていく。



赤城「上手い!これなら当たり具合によっては打ち取れるでっ!」

森田「滝本をバランスを崩している!見ろ!フォームがガタガタだ!」


滝本の上半身がぐらりと大きく傾く。


西条(よっしゃ、いける…!)



そう思ったとき、滝本の下半身がビタリと動きを止めた。

ぐらついていた腕もぴしりと固定されて。


赤城「!!」

森田「!」

相川「しまっ―――」

滝本「ふんっ!!」



振りぬく!!!





カキィーーーーーーーンッ!!!





西条(やばい!!)


当たり的には行ったか―――!!




西条はゆっくりと振り向いたその先に、スタンドに突き刺さるボールが見えた。

審判はそれを確認すると、手を大きく回した。




「ホーーーームラン!!!!!!!!!!」








『ワァアーーーーーッ!!』

『流石滝本!やってくれるぜーーー!!』




ベースをゆっくりと回る滝本はファーストベース上で一度止まった。

そして人差し指をライトの真田に向ける。



滝本「俺の獲物も桐生院だ、悪いが引くわけにはいかん」

真田「…ふん、青竜如きが良く吠える」

滝本「青い竜の力をなめれば、のまれるぞ」

真田「…」



西条(ぐっ…あの体制から一度体制を固定しなおして打ち直すとは…)

相川(予想以上の”下半身”の強さだ…やはりこの試合は打ち合いになる!)






















当初の予想通り、やはり試合展開は打撃戦へともつれこむ。


青竜がこの二回裏、あっという間に三点を返して同点に追いつくと。

次の三回、四回で将星は吉田、真田の連続ヒットで一点を勝ち越す。

しかし和哉は崩れることなく、その後の打者をカットフォークで抑えていく。

その後西条も何とか持ち直し、なんとか青竜高校をゼロに抑えていくが、五回、再び打線はこの男に回ってきた。



『四番、ファースト、滝本君』



投手が一人しかいない将星では西条は変わることはできない、つまり後が無い。

だからこそ打撃戦で体力が減ってきた西条の、本当の試練がここから始まる。






五回裏、将4-3青、一死、走者一塁。




















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