126青竜高校戦6西条の意思























和哉「お前はもう二度と野球ができなくなるだろ―――」

和哉が投げた投球は真田の首に向かう…が!


和哉「なっ!?」

そこにあるはずの首はなかった。

そして変わりに、赤い残像が一瞬見えた。

赤い、残像?



尾崎「―――!!」

赤城「そう、真田のスイングスピードは全国でもトップクラスや。自慢の赤いバットの色が残像として残るくらいにな」


吉田「それで…」

三澤「赤い風!」

相川「そうだ、打たれた投手にもスイングの風圧が来るくらいに真田のスイングスピードは…」



和哉「速い!!」



ガキィンッ!!



ボールは、高く舞い上がった。



和哉「馬鹿な!!この俺がコントロールミスするはずが…」

真田「ふん、怒りで集中力散漫か」

和哉「…!!」


真田の立ち位置は遙かにホームプレートより離れていた。

そう、あえて首筋危険球が来る、と真田は読んでいたのだ、それを狙い済ましたかのようなクソボール球をフルスイング!!

…しかし、和哉は振り返った打球を見て不敵に笑う。


和哉「…くく、当てたぐらいで大層な口だな、見ろ!ライトフライじゃないか!」




県「…あっ!み、見てください!」

西条「普通のライトフライやないか」

相川「そう、確かに真田は非力だ」




赤城「そう、確かに真田は非力や」

尾崎「じゃ、駄目駄目じゃないですか!なんでホームラン予告なんて」

赤城「それがもう一つの赤い風と呼ばれる理由や」

尾崎「!?」




ライトは打球の落下地点に予測して素早く走りこむ。

そのまま手を上げて、キャッチしようとするが…ボールが落ちてきそうな気配は微塵も無い。

そのまま前を向いたまま慌ててバックしだす!



和哉「な、何やってんだヘボライトが!小学生かテメェは!」

真田「小学生はお前だ、まだ気づかないのか」

和哉「何ぃ!?」



ライトはバック走じゃ間に合わないと、ついに普通に走りバックし始めた。

走る、走る、しかしこれ以上は前に進めない。

目の前にはフェンス、そしてボールはその上を越えていった。





尾崎「な、な!?」

赤城「どや、まるで風にのったみたいやったやろ?」

尾崎「か、風?」


尾崎は目を細めてスコアボード上のセンターフラッグを見たが、旗は下に落ちたまま、なびくなどとんでもない。

つまり、無風。


尾崎「か、風なんて吹いてないじゃないですか」










甲賀「ボールの回転…でござろう」






赤城「当たりや甲賀君」

赤城は目を細めて笑った。


赤城「そう、真田のスイングは基本に忠実な上から下へのスイング。だが、赤い風を起こすためにアイツはボールの下をこするように打っている」

尾崎「…!回転…バックスピンね!」

赤城「そうや、あのバットの残像がくっきり見えるくらいのスイングスピードならボールに加えられる回転数もまたとんでもないはずや」

森田「それで一端は打ちあがったように見えて中々落ちてこない、と言う訳だ。俺も思ったさ、風なんてないのに、とな」

赤城「それで、見えない赤い風、真田や」






マウンド上、和哉はグローブをマウンドに叩きつけた。

それを侮蔑の視線で見下した後、真田はゆっくりと歩き始めた。


真田「雑魚は下がってろ」

和哉「…!」

真田「俺の獲物は桐生院だけだ」



『ワアアアーーーッ!!』


多少遅れて歓声が起こった。

将星応援側は速くも二点先制で勝ちムードである。

そして結果を呆然と見つめる他校の野球部たち。


原田「流石赤い風、ッスね…」


将星ベンチも真田の勇姿を呆然と眺めていた。

が、お祭り隊長の吉田は早速ホームインする真田を迎えようと、ベンチを飛び出してハイタッチをしようとしたが…。

スルッ。


吉田「んあ?」


真田はさほど興奮した様子も無く、落ち着いてベンチに帰ってきた。

吉田のハイタッチもスルーして。



真田「あの程度の投手ならすぐ落ちる。この試合五回コールドでけりをつけるぞ」


そのまま腰を下ろすと将星ナインを見回してにらみつけた、表情は厳しいままだ。

暗黙のうちに、桐生院を倒すつもりならな、と言っているようだった。


六条「ちょ、ちょっと怖いですね…」

三澤「でも味方だから頼りには、なると思うんだけど…あはは」

吉田「…よし!真田の言うとおり一気に蹴りをつけるぞ!」







その後無死のまま、本塁打で動揺した和哉を狙い撃ち、六番相川、七番野多摩、八番原田と連続で塁に出る。


二回表、将2-0青、無死満塁。



滝本「…」


先ほどマウンドに一度集まった青竜ナインだったが、全員が口を堅く閉ざし時間稼ぎをしただけとなった。

和哉はずっと仲間を睨みつけていた、言いようの無い怒りをぶつける矛先を探して。

そして滝本は一塁から和哉を見つめていた。

決して好ましい奴じゃない、が大谷という青竜のエースがいない今は和哉に頼るしか勝ち抜いていく方法が無いのだ。


滝本(しかし、これ以上和哉に投げさせても打たれるだけか…)


変えるしかない。

滝本はタイムをかけて、監督にサインを送っ…。


和哉「何してんだこのクソ野郎」


気づけば目の前に和哉が、いた。


滝本「限界だ和哉、変われ」

和哉「寝ぼけてんのか」

滝本「これ以上お前が投げても打たれるだけだ!」

和哉「そんな事はねぇ、次は抑える」

滝本「…無理だ、あの真田に打たれてからお前はボロボロじゃないか」

和哉「知らねぇよ!周りの守備が下手くそだから俺もやる気なくすんだよ!」

滝本「ふざけるな」

和哉「ふざけてんのはどっちだ」


目線が交差した。


滝本「…お前一人でやってるんじゃない、お前のせいで負けたら皆もそこまでだ」

和哉「だから?」

滝本「…そこまでムチャクチャな奴だったとは思わなかった」


滝本はファーストミットを和哉の目の前に突き出した。


和哉「何のつもりだ」

滝本「まだ二点、うちの打撃力なら取り戻せる。だがこれ以上は…」

和哉「はぁ?」

滝本「次、失点すればお前は野球部を辞めろ」

和哉「…何ぃ?お前らのチームにクソなピッチャーしかいねぇからこの俺が投げてやってんだろうが」

滝本「あぁ、だから今までは我慢してきた。だがもう無理だ、お前以外で投手を探す」

和哉「俺より良い投手なんているわけないだろ」

滝本「それでも、お前よりマシだ」

和哉「なんだとこの…!!」


ガシィッ。


殴りかかろうとした和哉をキャッチャーの守が後ろから羽交い絞めにする。


守「兄さん!試合に集中してください!滝本さんも、今は試合中ですよ!」

和哉「離せ守、コイツの目を覚ましてやる!」

滝本「覚ますのはお前だろうが!!」

和哉「何ぃ?」

滝本「これ以上やるなら、お前に野球をする資格は無い!」

和哉「決め付けてんじゃ…」




西条「おい、そのクソ野郎」



いつのまにか打席に入っていた九番の西条がファーストでもめている和哉達に声をかけた。

表情は微妙に苛立っている。



西条「早くしろや」

和哉「すぐ殺してやるよ!」

滝本「和哉、マウンドに戻れ」

和哉「はぁ?!」

滝本「これがラストチャンスだ」

和哉「…」


ビチャリ、と滝本のスパイクにつばを吐きかけた、滝本はぴくり、と反応したがスパイクを拭かずにそのままファーストへ帰っていった。。

和哉もマウンドに戻る。


和哉(ラストチャンス?ふざけるなよ、俺はまだ本気を出しちゃいないぜ)

西条「…」

和哉(どいつもこいつも自分勝手な奴ばかりだ、ちっともわかっちゃいない)


セットポジションから第一球を投じる!


和哉「クソどもばかりだ!!」

西条「くああっ!」


キィィンッ!!


打球は激しくファースト方向にはねていく!

『ファールボール!!』


和哉「ふん、振り遅れてるじゃねぇか」

西条「わざと、だよ」

和哉「何ぃ…?」


和哉の額にまた血管が浮かび上がる。


和哉「ザけた事、ぬかしてんじゃぁ…ねぇよっ!!」


第二球!!


ガキィンッ!!

『ファールボール!!』


今度は見てはっきりとわかるくらいにボールをカットした西条。

打とうと思えば、いつでも打てる。


和哉「こ、のぉぉぉぉ!!!」


ガキィンッ!!

ギィンッ!!

ガッ!

キィンッ!!


『ファールボール!!』


和哉「ふ、ふざけやがって…はぁ、はぁ…」







真田「どういうつもりだ…」


ベンチの中の真田が呟いた。

そして次は声にしてはっきりと出した。


真田「さっさと打って決着をつけるんだ!」

西条「嫌です!」

真田「…?」


しかし西条からかえってきたのは否定の言葉。


西条「俺は全力の相手じゃないと勝負したない!」

和哉「…なにぃ?」

西条「さっきのカットフォークとやらを見せてみろや!」

滝本(…ほぉ)

和哉「…死ねやボケが!!」


右腕が投じたのは…カットフォーク!!

大場に見せたSFFよりも速く、直前で少し落ちる球。

ガキィンッ!!

西条はそれをまたカットしてみせる。

和哉「ぐぅっ…!」







真田「どういうつもりだ!さっきまではストレート一辺倒だったのに、これで打ちにくくなるぞ」

吉田「真田」


真田の肩を軽く叩いた。


吉田「うちの部はそういう奴らの集まりなんだ」

真田「…?」


真田の見たほうには、西条に声援を送っているナインたち。


三澤「西条君!ファイトー!!」

大場「カットフォークに気をつけるとですよー!!」

六条「が、頑張ってください〜…」



真田「…桐生院なら誰も助け合わない、それじゃ自分に勝てないからだ」

相川「将星はまだまだ未熟な奴らでたくさんだ、だからお互いを助け合う」




ガキィンッ!!

『ファールボール!!』



西条「っしゃあ!!調子でてきたやないけ!次は打つで!」

和哉「ぬかすなクソ野郎が!!」



吉田「おっしゃあ!!いけいけ!!」

真田「…弱者の傷のなめあいじゃないか!」

吉田「それでいいんだ」

真田「何?」

吉田「野球は一人でやるもんじゃない!」




カキィンッ!!


西条のバットがついに芯でとらえる!!


和哉「ぐっ!」

西条「おっしゃ!三遊間抜けたで!!」


打球はショートの横!!




島田「抜かせん!!」




バシィッ!!

しかし!抜けるのを、ショート島田のグラブが塞ぐ。

和哉「!」

西条「!!」

島田「セカンド!」


ボールは6-4-3!ゲッツーになる!!

『アウトーッ!』

しかしその間に三塁ランナーの相川はホームに戻り、将星三点目!

『ワアアアーーーッ!!』

しかし、抜けていれば…。




和哉「…」

西条「守備に助けられたな」

和哉「俺は誰にも助けられない」



和哉の顔から。

怒りの表情が消えていた。

そして滝本に、言う。


和哉「望みどおり、俺は消える。後は好き勝手にやってくれ」

滝本「待て和哉」

和哉「…」

滝本「そのまま投げろ」

和哉「何ぃ?」

滝本「今のお前なら、いけるはずだ」

和哉「…けっ、さっきと言ってることが違うじゃねえか。自分勝手な野郎め」

滝本(…あの西条とか言う向こうの投手には感謝しなければならないな。…球を多く投げた事によって、和哉からいい感じで力みが抜けた)

和哉「ショート」

島田「…あん?」

和哉「礼は言わない、お前が勝手にやったことだ」

島田「…ふん、いいよ別に。俺が負けたくないからやったことだ」


島田はそう言って滝本にウィンクした。

滝本も、少し笑って見せた。





アウトになり、ベンチに帰ってきた西条の襟を真田がねじり上げる。


三澤「わあっ!?」

吉田「お、おい!」

真田「初球から勝負していたら、四点目が入っていたはずだ」

西条「やけど、なんか正々堂々勝負した方がおもろいやん」

真田「…は?」

西条「うちは桐生院やない、将星や。野球を楽しんでる将星野球部や」

吉田「西条…」

真田「…好きにしろ、後で後悔してもしらんぞ」


真田は西条を離し、静かに座った。


相川「いい事言うじゃないか西条、その通りだ」

西条「でしょ?」

相川「だが俺は真田の言う事の方が正しいと思う」

西条「あら」

吉田「はっはっは!いいじゃないか!真っ向から勝負して勝つ!」

六条「降矢さんもきっとそう言うと思います」

西条「そうそう、『全力の相手を全力で叩きのめす』…いけすかん奴やけど、アイツの事思い出してもうたわ」




『一番、ショート、御神楽君』



吉田「…そう言えば、御神楽の奴をさっきから見てないな」

六条「御神楽先輩なら緒方先生と県君と救護室に…」










相川「…まだ帰ってきていないのか!?」














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