125青竜高校戦5赤い風、真田!





















二回表、将1-0青。


―――最低でも…三点、そうしないと西条一人では持たない―――

相川はそう言った。


『二回表、将星高校の攻撃は五番、ライト真田君』


真田(…打撃中心のチームと対戦した。あの西条とか言う先発の実力なら打ち合いに持ち込むのが妥当だ)


打席に入った真田は赤いバットを右手で持つ。


真田(ただ、まだ将星…がどれだけの攻撃力を持っているのかは俺は良く知らない。ならば走者を出して大量得点を狙うよりも)


そのままゆっくりあげていく。





真田(一発を狙う)





吉田「…!」

相川「よ…」

和哉「予告ホームラン…だと!?」




『ワアアアアアアアアーーーーー!!』


場内が一気に盛り上がった。

これだけのパフォーマンスをやってのける男が、降矢以外にいたのか。


「お、おい!あれやっぱ桐生院の真田じゃねーのか?」

「マジかよ!?で、でもあの赤いバットは…」


森田「やはり間違いない、ホームラン予告なんてやる野郎は俺の知ってる限り、あの金髪と赤い風以外に知らない」

甲賀「金髪とは…」

赤城「降矢や。変わりに真田……いい人選のセンスやな、やけど理由がわからん」


選手達が偵察に来たスタンドの方もにわかに騒がしくなってくる、赤い風が吹き抜けた。

森田と甲賀も目を開いて真田を凝視していた。

桐生院、そのブランドはこの県の高校生にとってあまりにも心に強烈な印象を残している。



尾崎「ってか、さっきから言ってる赤い風ってなんなんスか本当ー。そろそろ教えてくださいよー」

赤城「見てればわかるって言うてるやろ」


相変わらず赤城もそれの一点張りだ。

だが、目線の先には真田、捉えて放さない。





相川「赤い風、か」

吉田「何だそりゃ?」

相川「桐生院は俺は調べてなかった…が、聞いたことはある。桐生院の二年に桁外れた実力を持つバッターがいるってな」

吉田「柚子ー」

三澤「あ、うん、待ってて」


三澤はスカートのポケットから、特別データ帳を取り出した。

物覚えが悪い吉田はたまに…いや頻繁にこうして三澤のデータ帳に頼る。


三澤「うん、今年の甲子園にも二年生ながらベンチ入りしてる…。でも、赤い風ってのは書いてない」

相川「まぁ、この県だけのニックネームかもしれんが、畏怖と敬意を込めてみんな呼んでる。朝赤城に会ったときもそう言ってたしな」

吉田「じゃあ、どうして赤い風なんだ?」

三澤「由来ってこと?」

吉田「そうそう」


相川も、相変わらず本塁打予告の姿勢を崩さない真田を見つめたまま視線が外れない。


相川「由来、か」


ニヤリと笑った相川、開いた口からはやはり同じ言葉。


相川「見てりゃわかるさ」

吉田「…?」

三澤「…?」


吉田も三澤も顔を見合わせた。










ようやくバットをゆっくりと下ろした真田。

見据えた先の和哉は、すでにブチキれていた。


和哉「お、おもしれぇ?コ、ココココケにしやがって…殺す、殺す」


怒りが激しすぎて、すでにろれつが怪しくなっている。

目は血走り、口はおかしな具合に歪んでいる。


和哉「殺す、殺す、当てる」

守(に、兄さん、落ち着いて!)


すかさず危ないと思った守がジェスチャーでなだめる。

が、和哉は歪んだ笑みを浮かべた。


和哉「俺に、指図すんじゃねぇぇよぉぉぉぉ!!!」



一瞬のクイックモーションで。

和哉は球を放った。

ボールは。








吉田「!!」

三澤「ああっ!」

緒方先生「危ない!」

相川「避けろ、真田ぁーーっ!!」


真田の顔面へ高速で向かう。

当たれば、ただではすまない!!






真田「わざと打者に球を当てるのは」














だが、真田は将星ナインの悲痛な叫びに耳を傾けず。

微動だにしない、不動。














真田「打者と勝負する勇気が無い臆病者のすることだ」


和哉「―――!」












ズバーンッ!!

三澤「っ!」

六条「…!」


マネージャー二人は目をそむけた。

しかし、音は?

人間に当たったなら、ズバーン、などと言う小気味よいミット音は聞こえないはずだ。


原田「っ!」

大場「ああ…」

相川「…さ、真田」



ボールは、真田の顔のすぐ横。

煙を上げて、ミットにおさまっていた。


三澤「はぁ〜〜…」

六条「ふぇ…」


ぺたん、と二人は腰をついた、どうやら腰がぬけたようだ。

相川と吉田も汗をぬぐった。


吉田「お、驚かせやがって…」

相川「当たらない、と読んだか」

吉田「な、なんて度胸だ…」





マウンド上の和哉も、動けなかった。








真田「どうした、殺すんじゃなかったのか?」

和哉「ぐ、ああああ!守!速く、速くボールを返せ!!」

「ま、待ちたまえ!」


火花光る二人の間に審判が割って入る。


「君!顔面ギリギリの投球は危険球…」


が、それを真田が手で制した。


「な?」

真田「大丈夫です、絶対に当たらないですから」

和哉「な、なんだと…!?」

真田「臆病者のブラッシングボールは、当たらない」

和哉「…ぐ、ぐぐ」

真田「弱虫なガンマンが、敵を撃てないように」

和哉「守!貸せぇ!!」


ついに和哉はキャッチャーの守のところまで走り、そのままひったくるようにボールを持ってマウンドに帰った。


和哉(ここまでなめきった野郎は初めてだ…もう顔面を狙って驚かすくらいじゃ俺がおさまらない)


そして、背面を向けたまま、止まる。


和哉(二度と野球のできない体にしてやる)


目だけを、肉食獣のように傾ける。

その先には赤い風。

そのまま体もホームプレートへ向け、ゆっくりと振りかぶる。


和哉「140kmの石ころを!!」


足を、上げる。


和哉「首に受ければ!」

滝本「!や、やめろ和哉!」


そして、右腕を―――。


和哉「お前はもう二度と野球ができなくなるだろ―――」























赤い風が、吹いた。












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