124青竜高校戦4前評判での打撃力























森田「おい、赤城」

赤城「んあ?」


森田はベンチ前の柵に両手を交差させていた。

目線はグラウンドから外さずに、疑問の声を投げかけた。


森田「何故、今大場の打球は落ちたんだ。あいつの馬鹿力なら間違いなくスタンド行きコースだ」

赤城「なんでわいに聞くねんな」


赤城はベンチに座ったまま、知った事ではないという風に答える。


甲賀「赤城殿の情報収集力の高さを知らないとでも思っているんですか」

森田「そういうこった」

赤城「他のチームに教える義理は無いけど…まぁええわ、教えたる」

尾崎「いーんですか?」

赤城「ま、この試合の結果は見えとるからな」

森田「…」


赤城は自分のバッグから大きなファイルブックを取り出した。

開くと無数の文字で埋め尽くされている。


赤城「カットボール、って知っとるか森田」

森田「馬鹿にするな、俺は投手だぞ」

赤城「なら、話は早い。奴が投げとるのはカットボールや」

森田「…は?」

甲賀「待ってください。カットボールは早い段階ですべるスライダー…俗に言う真っスラというものと聞きましたゆえ」


赤城は甲賀の言葉を遮って、チョキの形をした手を前に突き出した。


赤城「奴のカットボールは下に落ちる…つまりフォークや」

森田「…読めてきたぞ、SFFの強化版か」

赤城「まぁ、当たっとるな」

尾崎「SFF?」

赤城「なんやそのハテナマークは、お前まさかSFF知らんのかいな」

尾崎「はぁ、これっぽっちも」


バシィンッ!!


突然懐から出したハリセンで尾崎の頭を叩いた。

無論全力だ、そしてハリセンには何故か吉○興業の文字が不気味に印刷されていた。


赤城「あほかっ!」

甲賀「…どこからハリセンを…まさか忍びの者かっ!」

森田「んな訳ないだろ。あれは関西人だからだ」


物理法則を無視したハリセンを森田はいとも簡単に解決した。


赤城「ええか、SFFっていうのはフォークの握りを浅くしたものや」

尾崎「ふむふむ」

赤城「つまり、握りが浅い分、フォークよりは速いし、落差は少なくなる。いわば高速フォークみたいなもんや」

森田「そして、赤竹兄が投げたボールはそれの更に速くしたバージョンだな」

赤城「多分そうやな。おそらくほぼストレートと同じ握りで、投げる瞬間に指先を使ってボールにバックスピンをかけてないんちゃうやろか」

尾崎「あのー」

赤城「なんや」

尾崎「途中から、さっぱりわかりません」


バシィーンッ。










真田「おそらく、SFFよりさらに速いボールということだろう」


真田も赤城と同じ読みだった。

こちらはデータというわけではないが、今まで桐生院として全国に遠征を行ってきたその中で同じようなボールを投げてきた選手もいたような記憶はある。

SFFよりも速いフォーク。


相川「成る程な、ただの不良でもないって訳か」

六条「大丈夫なんでしょうか…」

相川「六条、三澤に伝言頼む」

六条「は、はい!」

相川「相手投手のランク、一つ上げてくれ」








一回裏、将1-0青。


さて、迎える将星の守備。

マウンド上には先発として元西のエース、左の西条が立っていた。


相川「サインは覚えているか」


一応確認の為にマウンドに上がる相川。

真剣な顔で二三度やり取りを交わす。


相川「大丈夫なようだな」

西条「一点、スか」


振り返った得点ボードにはすでに一が刻まれている。

先ほどの吉田のタイムリーだ。


西条「一点あれば、十分ですわ」

相川「油断するなよ、相手は打撃力のチームだぞ」

西条「それでもあのクソ野郎に負けるわけにはいかないス」


青竜ベンチ側を見る。

和哉が、興味無いと言う風に頭をたれている。


西条「あの野郎…味方の攻撃にも興味ないやと…どこまで自分勝手な」

相川「西条落ち着け、熱くなれば負けだ」

西条「ぐ…」

相川「今はアイツよりも目の前のミットのことを考えろ」


ぐい、と自分のミットを目の前に突きつけた。

わかったッス、と二回言った後、目つきが投手のそれになった。

いい目だ、相川は頷くと自分の場所に帰った。




『一番、センター、畑山君』



相川(さぁ、ここからが本番だ)


相手は打撃のチーム、「打撃だけ」なら桐生院の次ぐと言われているくらいだ。

西条には悪いが一点で抑えられるとは思ってはいない…それでも被害を最小限に食い止めるのが俺の仕事だ。



相川も吉田と同じ考えだった。

降矢と冬馬はこのチームに大きな希望を残した、だから次に頑張るのは俺達の番だ、特に降矢には霧島戦での大きな借りがある。

形には出さないが、相川も二人が帰ってくるまでは死んでも負けたくないと思っていた。

二三度、バッターが素振りをすると打席に入る。


相川(さぁ、まずは様子見だ)


サインはアウトローストレート。

一点を取られた青竜打線のはやる気持ちを逆手に利用する。

西条はゆっくりと頷いて、モーションに入り、投げる!!


ストレートがぴったり、アウトローに決ま…。












ガキィンンッ!!!



西条「な、なんやと!!」


ボールは一瞬西条の視界に移ったが、次の瞬間はすでにセカンド原田の右を素早く通り過ぎていた。

思い切り地面に反動した後、センターの県がひょこひょこと足をひきずりながらボールをとる。


「当たりが良すぎたか…」


確かに、そう言った。

西条の耳にはそう聞こえた。


相川(やはり打撃力は高いぞ、青竜は)


相川が指示したのはアウトローの”ボール”。

だが西条が投げたストレートはわずかばかりストライクゾーンに入ってきたのだ。

流石に冬馬と違ってコントロールがあまりよくないし、左に転向してまだ一ヶ月もたっていないというのはある、あるが。

それでも良いコースには入った西条渾身のストレートをいとも簡単に弾き飛ばしたのは、やはり青竜前評判どおりの打撃力だ。


相川(一番でこれ、か)


早くも無死一塁、そして、打席に入った二番打者。

セオリーなら一点ビハインドの青竜はバントに徹するはずだが…。


『二番、ライト、岸本君』


二番の岸本は堂々とヒッティングの構えを見せていた。

打つほうに、より自信があるということだ。


相川(さぁて、どうするかな)


相川は思案した後、出したサインは内角高目。

ボールは…ストリームだ。

サインが出た瞬間、西条はニヤリと笑って見せた、そしてセットポジションから投げる!!


ビシュッ!!


風切り音が聞こえてくる、ストレートよりも少し遅い速度で飛んでくるボールに、バッターは初球からいきなりバットをあわせてくるが…!




グ、クンッ!!




ボールはシュート方向に沈む。

そう変化の軌道はスクリュー、だが通常の速度よりも遙かに速い。


岸本「な、なんだこりゃ!!」


ガキィンッ!!


思い切り芯を外した音が聞こえた、地面にボールはバウンドする。

打球は速いもののショート御神楽の真正面だ、素早く回り込み捕球。

右足でブレーキをかけ、振り返れば二塁に原田がいる。


御神楽「いくぞっ!」


大きな声と共に、次の瞬間ボールは原田のボールに収まっていた。

そして無事ボールを受け取った原田もすぐに体を反転する。


原田「ファーストッス!!」

御神楽「!!!しまった!原田、飛べ!!」

原田「え!?」


見ると下にはスパイクが見えた。

それが足と共に原田のバランスを奪う。

スライディングでのゲッツー崩しだ!


ガツンッ!!

鈍い音共に、原田がバランスを崩して地面に倒れこむ、もちろん一塁への送球などできるはずもない。

…ドサッ。


「ア、アウトー!」


御神楽「原田!」

原田「だ、大丈夫ッス」

相川(流石に…ただではゲッツーも捕らしてくれないな)


この展開は初めてだった、流石に原田にゲッツー崩しの際の送球法は教えていない。


相川「怪我は無いか」

原田「うす!余裕ッス!」


ぴょん、と元気良く立ち上がる原田に一同が肩を下ろした。

これ以上怪我人が増えると、試合どころではない。

向かいの青竜高校側ではとりあえずゲッツーを免れた事で、走者の畑山に賛辞を送っていた。


滝本「よし!ナイス畑山!」

畑山「あ、どもッス」


二塁ベース上、ランナーの畑山が滝本の声援に一礼した瞬間。

ドガンッ!!


その雰囲気は一蹴された。

音の先には蹴飛ばされたヘルメットと、和哉。


和哉「ナイス…?ふざけんなよ、コラァッ!」

滝本「和哉!」

和哉「アウトになった時点でクズはクズだろうがよ、ボケが」


ツバを吐き捨てた。


和哉「…俺が」


そして原田を指差す。


和哉「俺がスライディングしてたなら、もうアイツの足、二度と動かせなくなってるぜ」

滝本「…」

「…」


青竜高校内が静まり返った。




相川(さて、ゲッツーには失敗したものの、ストリームが効かない相手ではなさそうだ)


流石に高速スクリューなんて耳にしたことはあまりない。

ただ、乱発は危険だ、見破られたら青竜のバットの餌食になる。


『三番、サード宗田君』


相川(だが、滝本には回したくない)


噂でも実力でもかなりの打撃力を持つと専らの滝本だ。

初見として絶対に滝本には回したくない、ならば、ここで一気に抑える。

相川は危険を承知で再びストリームのサインを出した。

だが西条は相川に反対することなく頷く、信頼できるキャッチャーを疑った瞬間そこで試合のムードは一変する。

昔、何度も味わった思い出だ。

右足を上げ、左腕を全力で相川のミット目掛け投げる。

二度目のストリーム!!


バシィッ!


相川(む)

「ストライク、ワン!!」

バッターが見送ったこと、相川は眉をしかめた。


宗田(岸本がやられたのと同じ球か)


ストリームのことである、おそらく始めて対戦する球種であろう。


宗田「速いスクリュー」


答えは的を得ていた。

だが相川は表情を変えない。


宗田「ただ、問題は打てるかどうかだ。マジックと違ってネタバレしても、新球種は打てないときは打てない」

相川「…」


ストリームを誘っている、そういう挑発として見れた。


西条(どう出ます、相川先輩)

相川(…)


股間の前で素早く手を動かす、サインは。


西条(…え)


西条は思わず目が点になった、が、相川のことだ、絶対に何かある。

それに冷静に考えると悪いサインじゃない、気がする。

気持ちを決めると、振りかぶって投げる。


宗田「!」



ボールは…スローボール、しかもど真ん中。


宗田(な、な、な!)


体はもう動いていた、甘い球は見逃すことができないのが青竜だ。

わかっていても、体が反応してしまった。

コキンッ!!


体制を崩しながらもバットには当てるが、ボテボテのゴロ。

素早く吉田がダッシュして拾い上げ、そのまま二塁へ送球!


岸本「うおおおっ!」


またもや青竜はゲッツー崩しを狙って強烈なスライディングを狙ってくる。

しかし…今受け取ったのは御神楽だ。


バシィイッ!!

御神楽「原田、見ておけっ!」


グラブにボールが入ったと同時に、地を蹴って宙に浮く。

迫り来るスライディングをジャンプで避けながら、サイドスローでファーストへ送球!!


バシィッ!!


「スリーアウト!チェンジッ!!」


吉田「よっしゃーー!ゲッツー完成だぜ!」


御神楽は軽くほこりを払って立ち上がった。


御神楽「原田、スライディングは今のようにかわせ」

原田「う、ういッス!」


バシコンッ!!


御神楽の方を後ろから思い切り叩く吉田。


御神楽「何をする!!」

吉田「いやーいい先輩じゃないか、はっはっは!」

御神楽「う、うるさいっ!」


照れたのか、そっぽを向く御神楽。

やはり、このチームはいい方向に向いている。

だからこそ、帰って来い降矢、冬馬、相川は目を細めた。



相川「吉田」

吉田「ん?」

相川「…やはり一点じゃ厳しいだろう」

吉田「マジ?」

相川「ああ、最低でも…三点、そうしないと西条一人では持たない」


二人でグラウンドを見た先には、四番の滝本がいた。


相川「…頼むぞ」

吉田「ま、真田がなんとかしてくれるって!」



『二回表、将星高校の攻撃は五番、ライト真田君』


二回表、将1-0青。






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