123青竜高校戦3カットフォーク




















一回表、将0-0青、無死、一・二塁。



『三番、サード、吉田君』

『吉田君頑張って〜〜〜!!!』


吉田「言われなくても…やってやる!」


応援に背中を向けたまま左手を上げて答える吉田。

一塁には御神楽、二塁には県がそれぞれ死球で塁に出ている。

まずは先制のチャンスだが…。


吉田(それよりも…死球を当ててあの態度、許せん)


マウンド上の和哉は相変わらず気だるそうに地面の土を蹴っていた。

反省の心など微塵もなさそうなこの男に、吉田にふつふつと心の底から怒りが燃えてくる。


「プレイ!!」


審判の声と共に、吉田はバットを構えた。


吉田「許さないぜ…赤竹!」

和哉「ふん、二回ぐらい当てただけで大げさな奴らだねぇ」

吉田「…んだとぉ」

和哉「それより、俺は死球だけじゃないって所をみせてやろうか」


和哉は言い終わると振りかぶった。

お世辞にも綺麗とはいえない、砲丸投げのようにボールを前に押し出すフォーム。

そこから投げ出されるボールは…ストレート。


バシィッ!!


外角低めギリギリのコースに決まって判定は勿論ストライク。

吉田は歯軋りして和哉を睨みつける。


吉田(こんなコントロールがあるなら…なおさら最初から当たる訳ないだろうがっ)


続いての二球目も外角低めギリギリに決まり、吉田はあっというまに2ストライクと追い込まれてしまう。









相川「成る程、内角でそらしておいて外角で勝負するタイプか…ま、セオリーだが…」

真田「奴の場合はいきなり当てる所が、違う点というか…普通は無いな」

西条「普通は打者には当てないように投げるもんです。アイツ普通じゃないですよ」

真田「そうだ、普通じゃない。が、有効な投球術には間違いないな。見ろ、吉田の足を」

相川「…!」

西条「あっ」


吉田の足は真ん中よりも少し外側の場所にあった。


真田「そうだ、やはりどこかであの死球が頭をよぎっているのだろう。内角の球が怖いんだ」

西条「そんな、キャプテン…!!」








マウンド上の和哉も同じ考えであった。


和哉(ふん、アレだけ偉そうな事を言っている割に、結局は死球が怖いんだろうが。…そうそう、臆病者はびびって…)


第三球、和哉が出したコースはまたも外角低め!


和哉「そうやって逃げてりゃいーんだよ!!」

ボールは中々のスピードで外角のミットへと向かっていく!!

和哉「そこからじゃ、バットはボールに届かねーよ!馬鹿!!」












相川「いや、吉田はそんな奴じゃない」











ガッ!!

吉田はボールにあわせて、後ろに引いていた足を思い切り前に出していく!


和哉「何ぃ…?」

吉田「行くぜノーコン君!!!」


吉田ご自慢の木のバットがボールを捉える、真芯だ!!

――――カキィインッ!!!!!




大場「う、打ったとですーっ!!」

六条「ピッチャーの横…二遊間…」


ボールはショートのグラブをかすって抜ける!!


三澤「抜けたよーっ!!!!」

西条「おっしゃーーーっ!!」

『ワアアアアアーーーッ!!』


御神楽は三塁を回って…ホームベースを踏む!

将星高校、一回に早くも一点先制だ!!




真田「踏み込んで…いった、だと?」

相川「馬鹿なりに考えたんだろう。自分がホームベースより離れて立っていれば、おそらく赤竹は外角にストレートを投げてくる、と」

真田「…そうは言うが…考えるのは簡単だが、体をその通りに動かすのは簡単じゃない。人間の本能でどうしてもよけてしまうぞ」

相川「本能か…いや」


相川は自分の頭を人差し指で二回叩いた。


相川「アイツは馬鹿、だからな」






足を痛めている県は二塁でストップしてしまったが、見事に吉田はセンター前タイムリーを放った!!

吉田「っしゃーーー!!」


右腕を大きく天にかざしてガッツポーズ、大声が真田の耳にも入ってきた。



真田(…将星、か。ただの弱小校だと思っていたが…)

バンッ!!

和哉「なにやってんだクソショート!!」

「なんだと…?」


真田の思考は和哉の声で遮られた。

地面に思い切り帽子を叩きつけて、ショートを睨む和哉。


和哉「あんなヘボ打球も捕れねーのか!?」

「ヘボ打球…?」

滝本「止めろお前ら!仲違いしてる場合じゃないだろ!」


急いでファーストの滝本が止めに入る。


和哉「ちっ、守備に足を引っ張られてちゃ、せっかくの俺の投球も無駄になっちまうぜ」

「ぐ…」

滝本(抑えろ島田!ここで問題を起こしたら終わりだぞ!)

島田(しかし、これ以上奴を許していいのか?!)

滝本(それは…)

島田(…流石にもう限界だぞ、考えた方がいい)


滝本はそれ以上何もいえなかった。

そのまま、黙って一塁に戻る。


和哉「ちっ、全く…これ以上足引っ張んなって、しっかり守ってくれよ」

「…」


誰も和哉の呼びかけに答えるものはいなかった。

和哉は舌打ちすると、再びホームベースのほうに向き直った。


『四番、ファースト、大場君』


野多摩「大場先輩〜ファイト〜」

西条「このまま一気に打ち崩したれ!!」



ぬっと、巨体がバッターボックスに入る。

相変わらず大場の図体だけは常人を凌駕していた。



和哉(体だけがでかい野郎に、俺が打てるかっ!!)



和哉、第一球を振りかぶって…投げる!!コースはまた外角低め!

ストレートが真っ直ぐピンポイントの場所に向けて向かっていく。













カキィィィンッ!!!



『ワアアアーーーッ!!』


一気に声援が大きくなる!


相川「!!」

真田「お」

西条「あ…当たったでー!!」

和哉「なんだとっ!?」


大場が打った当たりは一直線にライトスタンドへ!

だが、打球はそのまま切れていきポールの右をかすめていった。


『ファールボール!!』


大場「切れたとですか…」

野多摩「惜しいーーっ!!」

御神楽「うむ!打てる!打てるぞっ!」

和哉(な、なんだこいつら…)


試合前のミーティングでは、たいしたこと無かったと聞いた。

部を創設してまだ一年、ベスト8だが、一番ザコいブロックを勝ち抜いてきたと聞いた。

桐生院にコールド負け、運だけで勝ち上がってきたチームと聞いた。


和哉(…弱くは、無いぞ)


一回戦は楽勝って皆言ってたじゃねーか。

和哉はロージンバッグをおもいきり投げ捨て、滝本を睨んだ。

だが、滝本はバッターを見つめていた。


和哉(けっ、皆で俺を見世物にしよーってか)


チームメイトに理不尽な怒りを覚えながら、和哉はロージンを投げ捨てる。


和哉(…ならよぉ、こいつでどうだ!!)


セットポジションから、左足を大きく前に踏み出す。

そしてそのまま肩が外れるかと思うくらい思い切り右手を前に突き出す!

やはりコースは外角ストレート!!



真田(馬鹿の一つ覚えに外角か、それほどたいした投手でもないな)

相川(打て、大場)


打席の大場も思い切り踏み込んでいく!

手が長い分、ベースより遠くたっていても外角の球には手が届く!!

バットは…ボールを捉えるっ!


大場「おおおおおおっ!!」














カキィンッ!!




打った!!打球はピッチャー手前…。






和哉「馬鹿が…」

大場「!!」



なんと、和哉が投球と同時にダッシュ!!

大場が打った打球を地面につく前に、ノーバウンドで、捕る!!



バシィッ!!


県「っ!」

吉田「なんだとっ!」

真田「戻れ!!ピッチャーノーバウンドで捕ってるぞ!!」



和哉は振りむきざまにセカンドに送球!

捕ったセカンドもファーストへ送球!!

バシィッ!!


見事にファーストミットに収まった。




『ス、スリーアウト、チェンジ!!』


相川「なっ!!」

吉田「なんだと!!」



あっという間の三重殺だった、県も吉田も塁に戻りきれなかった。


相川「いや、何故赤竹はダッシュしたんだ!?」

御神楽「まるでそこにボールが来るのがわかっていたみたいだぞ…?」

真田「…落ちたな」

二人「えっ!?」



大場(ぼ、ボールがバットに当たる直前、落ちたとです!!)


真田の言葉どおり、和哉が投げた球は大場の直前で少し沈んでいたのだ。

それをわかっていた和哉は打球が下に落ちると見て、ダッシュしたというわけだ。

それも死球を当ててもものともしない和哉の根性のおかげなのだが。



和哉(一回から”カットフォーク”を使うとはな…こんなクソチームに)

島田「ちっ…ナイスピッチング」

和哉「ああ?下手くそショートに言われたくないね。…そう思ってんなら、早く点を取り返すんだな」

島田「ぐ…野郎」




無死、一塁二塁のチャンスを一瞬で潰された将星。

赤竹和哉の”カットフォーク”がいきなり立ちふさがった。


一回裏、将1-0青。









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