122青竜高校戦2プレイヤーキラー赤竹























御神楽「ぐ、あ…」


赤竹が投じたボールは、御神楽のみぞおちに深く入っていた。

体がよろめくが何とかして言葉を口から出した。


御神楽「き、貴様…」

和哉「あ、悪い悪い、手が滑っちゃった〜、みたいな?」

『デ、デッドボール』

御神楽「ぐ、お…のれ…」


スタンドの将星女子応援団も心配そうに御神楽を見つめる中、御神楽は少しづつ力なく膝を折っていく。

当然だ、みぞおちにものすごい速さで石ころがぶち当たる衝撃だ、当然立ってなどいられるはずがない。

御神楽は完全に膝を地面につけてしまった。


和哉「お前―――、この前、偵察に来てた奴だろ」

御神楽「…?」


普通は帽子を取って謝るものだ、だが和哉は膝をつく御神楽を見たまま微動だにしない。

いや上から見下ろす態度だけは変わらない。


和哉「くっく…あれだけ威張ってたくせにこのザマかよ、情けねぇな」

御神楽「……ぐぅ…おのれ…!」




ぎり、と西条の歯が音を立てた。

西条「あ、あの野郎わざとやりやがったな!!」

御神楽「…待て」


思わずベンチを飛び出そうとした西条を、バッターボックスに入ったまま御神楽が手で制した。


御神楽「安い挑発にのるな…」


御神楽は何とか立ち上がり、下腹部をを抑えたままよろよろと一塁ベースへ歩いていく。


和哉「はん、ちんたらちんたら歩きやがって、陽が暮れちまうぜ」

御神楽「…」


一塁ベースまで到達し、右手に持っていたヘルメットをかぶると大きく息をついた。

まだ一回だというのに、何としてもここで力尽きる事はできない。

将星は今、九人ギリギリしかいないのだから…。


滝本(まさか…な)


御神楽の側に立つ、青竜のファースト滝本は試合前の和哉の言葉を思い出していた。












試合前、青竜高校ベンチ奥ミーティングルーム。

すでに先発メンバーの紹介も終わり、選手はバラバラに散っていった。

当然青竜高校も選手内での確執は起きていた、もちろん赤竹兄、和哉のせいである。

捕手も赤竹兄の球を捕るのを嫌がり、双子の弟守が嫌々受けているぐらいだ。

自分勝手な振る舞いで練習に出ない、マナーは悪い、平気でチームメイトに迷惑をかける。

それでも肘を故障しているエースの大谷以外で試合で使える力を持っている投手が和哉しかいないから、使わざるを得ない。

それを皆がわかっているため、誰も文句は言わないが、目が不服だと訴えていた。



和哉「時に…滝本よぉ」

滝本「…なんだ?」


最後までベンチに座っていた、和哉が出て行こうとした滝本に声をかけた。


滝本「時に、もう守とのサイン確認はすんだのか」

和哉「ふざけんな、何で俺が人に指図されなきゃいけねーんだ…」

滝本「…?」


滝本は少し不審に思った。

何故なら、和哉の様子がおかしかったからだ。

当然高圧的な態度やなめきった態度は変わらないが、『目が据わって』いる。


和哉「敵は九人ギリギリだそうじゃねーか」

滝本「ああ、確か向こうの都合により一名が追加されて、二人が今行方不明らしい。何ともおかしな話だが…」

和哉「じゃ、一人でもプレーできなきゃ、そこで試合は終わるな」

滝本「和哉、お前何考えてるんだ」

和哉「すげー、こりゃいいぜ。めんどくせー試合が一瞬で終わる」


和哉はそういい残すと、部屋を出て行った。

残された滝本はただ立っているしかなかった。











滝本(まさか…あいつ試合続行不可能にする気か?)


まさか、そんな事が許されるはずが無い。

もしそうだとするなら滝本はこの場で和哉を殴りに行く気だった。

ただ、和哉のプレースタイルはもともと、荒れ球で相手を怖気づかせて勝負するタイプだ、それが作戦かもしれないなら、味方を疑うべきではない。







『二番、センター、県君』


県「はいっ!」

真田「…アナウンスに返事するなよ」

相川「内角の球に気をつけろ、県」

吉田「ああ、危ないと思ったらすぐによけるんだぞ」


二人のアドバイスに、県は一つ頷くとバッターボックスに歩いていった。


相川「真田、どう思う」

真田「わざと、だろうな。当てた後の表情が普通過ぎる」

吉田「わざと…?うちはこれ以上選手が減るともう試合ができないんだぜ…わかってんのか!」

真田「前やった時もそんな感じだったぜ、あの赤竹って投手はな」

相川「前…?そうか、夏で桐生院は青竜とやってるんだったな」


そう、夏の大会で青竜高校を下したのは桐生院である。


真田「ああ、予選はウォーミングアップみたいなもんだから望月が先発に出たし、俺もちょこっと出てたんだがな」

吉田「じゃあ何か弱点とか知ってるんじゃないのか?」

真田「…さぁな」


真田は目を閉じて口を閉ざした。


真田「成り行きで来たが、そこまでする義務は俺には無い。自分で見つけるんだな」

吉田「き、厳しいな〜」

相川「ま、降矢に言わせても同じ所だろう」

真田(ほぉ…)


真田は少し意外だな、と思った。

桐生院では自分が見つけた発見は人に教えないことが黙認となっていた。

理由として、何かは自分で見つけないと、そいつの力にならないからだ、というものがある。

だから普通は桐生院の選手は人には頼らない…が一年となると話は別だ。

思わず先輩に助言を求めてしまう新入部員もいる。

そんな時先輩は冷たく突き放す、それがその選手の力になると桐生院ではそう教えられているからだ。

だが…今の相川と吉田ほどあっさりとその突き放しを受け止めた奴もいなかった、ほとんどが少し気まずそうな顔や傷ついた顔をしたものだ。


真田(こんな弱小高校だというのに…意外といい根性してるんだな)


少し、感心してしまった。







ボゴオッ!!


そんな事を思っていると、真田の鼓膜にまたもや鈍い低音が聞こえてきた。

慌てて状況を確認すると、打者の県の様子がおかしい。


真田「!」

相川「な!」

吉田「ま、またかっ!!」


赤竹が投じたボールはまたもや打者に突き刺さっていた。

当たった箇所は…県の足!


県「うわあああっ!!!」


痛みのあまり悲鳴を上げて倒れる県。

土煙がグラウンドに舞い上がった。


西条「県ぁっ!!」

六条「県君っ!」

三澤「大丈夫!?」


急いで将星選手陣が県に近寄る。

ボールはちょうど県の足首に命中していた。

ボールが勢いよく跳ね返ればダメージは少ないのだが、今は県に当たったボールはほぼ真下に落ちていた。

つまり…全てのエネルギーが県の足を破壊するように回ってしまったということ。


県「うう…」

緒方先生「柚子ちゃん、冷却スプレーを!」

三澤「は、はいっ!」

西条「この…野郎!!」


ガシィッ!!

西条は思わずマウンド上の赤竹につかみかかった。


和哉「…ん、誰かと思えばいつかの馬鹿じゃないか」

西条「ざけんな!わざとやりやがったなテメェ!!」

和哉「おいおい、わざとだなんて失敬だな。まだ初回だから緊張してるんだ…よぉっ!!」


ユニフォームを掴んでいた西条の手を勢いよく振り払った。


和哉「その汚ねー手で俺に触んじゃねー、病気になっちまうよぉ」

西条「ふ、ふざけんな!!」

審判「何をやってるんだ君達!!」


流石に審判が止めに来た、西条は大人しく手を下げるが和哉は止まらない。


和哉「コイツがわざとだなんて言いがかりつけてくるんですよー」

西条「なんやと!?」

審判「やめんか!!これ以上やるようなら、両者試合停止とするぞ!!」

西条「ぐ…」

和哉「…ふん、バーカ」

審判「ただし、君もだ赤竹君。これ以上そんな言動があるなら退場とするぞ」

和哉「なんだと、このクソ…」

守「兄さん!やめてくださいっ!」

滝本「和哉、止めろ」


味方チームの静止に、流石の和哉も両手を上げて降参した。


和哉「…はいはい、わかりましたよぉ。止めればいいんでしょ!やめればよぉ!!」

守「…スイマセン、兄が迷惑かけて」

西条「ぐ…良く言っとけよ兄貴に」


西条はすぐさま傷ついた県のほうに走っていった。


滝本「スマンな守、和哉の球は誰も捕りたくないそうだ。わざわざ、もともとキャッチャーじゃないお前にやらせてしまって…」

守「あはは…兄の球を受けたくないのはわかりますよ。それに僕が受けないと試合ができませんもんね」

滝本「…俺はなんとしても桐生院に勝ちたい。…それまでは負けるわけにはいかないんだ」








バッターボックス横では倒れた県を将星ナインが囲む。


県「う…」

六条「大丈夫?県君!」


ようやくしゃべれるようになった県だったが、以前ナインの不安な表情は変わらない。


相川「この痛がりよう…もしかすると肉離れを起こしているかもしれないな」

大場「に、肉離れ!?」

吉田「そ、そんな!」

県「だ、大丈夫です!!降矢さんが来るまで僕はやります!!こんな所で…」


県は怖いくらいに汗をかいていたが、何とか立ち上がった。

みんな心配そうに県を見ていたが、無理するな、とは誰も言えなかった。

ここで一人抜ければ試合が終わってしまう。


審判「大丈夫かね」

県「い、いけます!!」

吉田「県…」

県「キャプテン…打ってくださいよ…」


県は足を引きずりながら一塁へ歩いていく。

吉田は心を打たれた。





吉田「…へっ…熱い。熱いねぇ!みんな最高だ!」


愛用の木のバットを右手に持って、打席に立つ。

チームメイトを傷つける奴は許せない、だが吉田は野球選手だ。

ならば、野球選手として勝つ!!



吉田「俺は打つ!絶対に打ってみせるぞ!見てろ県!!」




『三番、サード、吉田君』



吉田「将星魂を見せてやるぜ!」




一回表、将0-0青、無死、一、二塁。







back top next


inserted by FC2 system