115インプットするコロ助(前編)






















西条達が青竜高校と出会った同時刻、将星高校に二つの影が忍び寄っていた。

広いグラウンド、金網の向こうから覗く二人の学生。


???「…ここが、将星高校ナリ?」

???「…」

???「でも、練習してないナリね」

???「…」


全く口を開かない大柄な男がグラウンドの遙か向こうを指差した。

そう、将星高校が練習しているのはサブグラウンドである。






???「ん?・・・あ、やってるナリ。ってあんな小さいところで!?」

???「…」

???「確かにそうナリ、でも一応夏の大会ベスト8校だから、偵察して来いっていうキャプテンからのお達しナリ」

???「…」

???「ここからじゃ遠くて見えないから近づくナリ?!…一理あるナリが、そんな簡単に入れるナリか?」

???「…」


再び大柄な男が金網の一角を指差した。

それにしてもこの男大きい、縦も横もサイズは大場なみにある。


???「おおっ!あんな所に穴ナリ!」


そしてもう一人、長い髪を頭でくくり、まるでちょんまげのようにしている中肉中背の男、どうも先ほどから言動が怪しい。


???「…」

???「あそこから入るナリ?…ワガハイはともかく、お主は入るナリ?」

???「…」

???「無理矢理やって入る穴ナリかなぁ…」


案の定、金網の下の方にあった小さな穴では大柄な男は入らなかったみたいだ。

しかし後ろからちょんまげが思い切り押すとそのまま勢い良く、穴を通った。


???「…」

???「痛いナリ?ワガハイもナリ!」

???「…」

???「帰るときはどうする?…それはワガハイも考えてなかったナリ。…正々堂々正面から出るナリ」

???「…」

???「まぁ、とりあえず練習を見に行こうって?わかったナリ。ワガハイ達が見たところで正確なデータが得られるとは思わないナリが…」

???「…」


二人は談笑しつつ、サブグラウンド前に近づいた。

グラウンドは女子ソフトや陸上などが練習していたものの、何故かつっこまれず無事に野球部のすぐそこまでこれた。

今はどうやら、バッティング練習らしいが…。



???「トスバッティングをしてるナリね…」

???「…」

???「え?今打ってる奴はセンスがいい?…言われてみればそうナリね」


なんとも間延びした掛け声にあわせて、ボールがトスされる。

それをプライドの高そうな男が次々と捕らえていく、中々のミート力だ。


???「向こうでは、ピッチング練習をやってるナリよ」

???「…」

???「…?本当だ、あれは女の子ナリね…ソフトと混じってるナリ」

???「…」

???「え?噂?どんな噂ナリ?」

???「…」

???「将星の女みたいな投手があの成川をキリキリマイ?…本当みたいな嘘みたいな話ナリね」


しかし、その噂どおり、的に向かってピッチング練習をしている選手はどうみても女の子だった。


冬馬「…しっ」


振りかぶって、プレートの端いっぱいを使って的に左から投げ込んでいく。

しかし、どう見ても左に外れすぎだ。


???「ひどいコントロールナリ………?!」


…ヒュザアッ!


???「ナリ!!」

???「…」


投げ込まれたボールは的の直前で直角に近いほどの落差で曲がる。

そのまま、暴投かと思われたボールは的の真ん中に綺麗に当たった。


???「す、すげぇナリ…!」

???「…」

???「え?何、あれが、F(ファントム)スライダー?」

???「…」

???「そーか、それはワガハイも聞いたことがあるナリ。そーかあれが、ファントムか………確かに『インプット』したナリよ」

???「…」

???「大体ではあるナリけどね」

???「え、違うナリ?何がナリィィィィッ!?」



後ろを振り返ると、鬼がいた。



降矢「テメーら、何もんだコラ」

???「ひ、ひぃぃっ」


何だコイツは、この学校に雇われたボディガードか!?

あまりにも座った目つきに、ちょんまげは完全にビビっていた。


???「…」

降矢「はぁ、何て?聞こえないんだよ、はっきり言え」

???「…」

???「と、とりあえずワガハイ達は怪しいものじゃないナリ」

降矢「どう見ても奇天烈な奴らだろうが、このコロ助が」

???(…)

???(どうするって!?…ま、待つナリ!今必死に考えてるナリよ!)




六条「あー、降矢さんですぅ〜!」

原田「あ、本当ッス。遅いッスよ降矢さ〜ん」

降矢「俺は宿題と時間に追われてるんだよ」

冬馬「そんなこと言って、寝坊したんじゃないの?」

降矢「殺すぞ。…それにしても、キャプテンの姿が見えないんだが」

冬馬「キャプテンは今日は抽選会でいないって昨日………言ってないね」

六条「見事に言い忘れました、えへへ」

降矢「んな事はどーでもいい。とりあえず、コイツらをどうするかだ」


???「あ、あははナリ」

???「…」


県「…?そのバッグ…」


県が指したバッグにはベースボールと英字で書かれていた。

そして、その下に筆記体でRIKUOUの文字。


御神楽「陸王…陸王学園か」

降矢(陸王?…陸王っていや、夏の準決で浅田とやってた所…)

原田「な、夏ベスト4ッスよ!」

冬馬「そ、そんな所がどうしてここに…」

降矢「まぁ、理由なんかあってもただじゃ帰さねーけどな」

大場「ただ?」

降矢「腕の一本や二本は覚悟してもらおうか」


???「ひぃぃーーっ」

???「…!」


冬馬「降矢、あんまりおどしちゃ駄目だよ」

六条「えーと、でもあんまり練習とか見られたくないので帰ってください」

御神楽「こんな時に相川がおらんとは…」

野多摩「相川先輩なら名案を思いつくのにねー」


???(ど、どうするナリ?)

???(…)

???(そうナリね、ただじゃ帰れないナリ)


ババッ!!


降矢「む」

県「うわ、すごいっ!」


ちょんまげはいきなりジャニーズばりのバク転でその場から一歩引いた。

大柄な男も軽い身のこなしで、ちょんまげの横に着く。


???「ワガハイは陸王学園の一年、九流々健二(くるるけんじ)!此度は将星高校の打者と対戦する為に果し合いをしにきたナリ!」

???「…(こくこく)」


降矢「果し合い、だ?」

九流々「そうナリ、将星高校で一番強い打者はいずこか!」


皆が降矢を指差す。


降矢「…あのな、パスだパス。俺はそんなめんどくせーことする気はねー」

御神楽「ふむ…じゃあ僕が打とう」

大場「そうとです、今のメンバーでは御神楽どんが二番目とです」

六条「御神楽先輩!頑張ってください〜!!」

御神楽「だ、そうだが。依存はないな」

九流々「当然ナリ」




九流々はバッグから青いグローブを取り出すと、颯爽とマウンドに立った。

なんとも軽い身のこなしのコロ助である。




御神楽「…ふざけた野郎だ。ここで打ってみせよう」




御神楽もバットをたてて構えた…。














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