114運命の抽選会
ごとん、ごとん。
音を立てて列車は行くよ、どこまでも。
…じゃない、ここはローカル線、抽選会が行われる県総合スポーツセンターへ向かう吉田キャプテンとその一向。
緒方先生「はーい、次の駅で乗換えよー」
大きな胸は相変わらず行きかう人の目線を奪う、主に中年の男性を中心に。
叶姉妹もびっくりだ、ぷるぷるの、きゅっで、ぼーん。
相川「先生、ただでさえ注目を浴びてるんだから止めて下さい」
緒方先生「あら?そうなの?」
ええ、あんたにね。
相川は心の中で激しくつっこんだ。
吉田「はっはっは、まーいいじゃないか相川」
三澤「なんだか、遠足みたいだけどね」
相川「あのな、今日は次の大会を占う大切な日だぞ。お前らどう考えてるんだ!」
緒方先生「くじびき?」
三澤「くじびき」
吉田「くじびき?」
相川は顔を抑えた。
相川「三澤、吉田、お前ら中学のときも行っただろうが…」
西条「まーまー、抑えてください相川先輩」
相川「…そして、西条、どうしてお前がいる」
吉田「あー、昨日の夜に『俺も行っていいッスかー』って電話がかかってきてな」
西条「はい、電話かけたんスよー、相川先輩にもよろしく言っといてくださいーて」
相川「俺はそんな話なんか聞いちゃいない」
吉田「おう、今言ったぜ!」
吉田は親指を立てて白い歯を見せたが、相川は再び顔を抑えた。
相川「まー、いい。ついてきたものは仕方が無い」
三澤「でも、どーしてこようと思ったの?」
西条「未来のライバルをこの目で見とこー思いましてな。これでも俺、中学の頃はバリバリ言わせとったんですよ。強い奴なんか見りゃわかりますわ」
吉田「そうか!まー、どこが強いかわかったら俺に言えよ!」
西条「はい!そりゃあもうコソコソと」
緒方先生「面白そうね、私も混ぜてよ」
三澤「私も私もー」
相川「どこまで気楽な奴らだ…」
そんな感じで駅を乗り継ぐこと数回。
流石に目的地に近づくにつれて、同じ野球部であろう生徒も増えていく。
皆不安を手に握り締めて、緊張した面向きでつり革を握っている。
将星高校とは大違いだ。
三澤「皆なんだか怖い顔してるね」
相川「それが普通だろうが」
吉田「うーむ、俺まで緊張してきたぞ」
西条「結構のせられやすいッスね」
緒方先生「吉田君、リラックスリラックス」
三澤「深呼吸、深呼吸」
???「随分と気楽なご様子だな」
気づけば、後ろに人の気配。
振り返れば明らかに周りよりも二周りは大きい男が立っていた。
相川「成川の…」
吉田「森田!」
森田「随分と久しぶりだな、夏以来か」
相川「そんなもんか?」
吉田「お前は相変わらずでけーなぁ」
森田「ふん、まぁ大きさだけではないがな」
そう言って不敵な笑みを浮かべてみせる森田。
吉田「…?」
相川「その後ろにいる奴は?」
森田「ん、そうか、夏の大会には出れなかったがな」
???「始めまして、成川高校、副主将の甲賀と申す者です」
森田の後ろに隠れていた、森田と比べると小柄な青年。
この暑いのに、何故かクビにスカーフを巻いている。
成川の帽子を深くかぶっているが、片目にだけ帽子に切れ込みが入っており、そこからギラっとした目が時折覗く。
森田「うちは夏の時は三年生主体だったからな。新チーム体制になって、チームカラーもがらっと変わったぜ?」
相川「ほお…言うじゃないか」
甲賀「森田殿、あまり力を見せるのは得策ではないと思われます」
森田「ふふ、それもそうだな。同じ地区だそうだが…夏の借りは返すぜ」
吉田「おもしれぇ!待ってるぜ!」
早くも闘志全開でがっちりと握手を交わす森田と吉田。
甲賀「森田殿。次の駅が会場ですぞ」
吉田「おおっ、もう着くのか」
窓の外には、民家の向こうのほうに場違いな大きい建物がある、周りには何台とまれるのか分からないぐらいの駐車場と山。
徐々にその建物が近づいてくるにつれ、吉田の心は高揚していった。
そして、駅から降りて、徒歩五分。
中もなかなか大きい、このスポーツセンター、ヒビだらけの壁が目立った外見の割に中は綺麗だ、ロビーには大きなテレビが一台と大きな扉がたくさん。
入り口は二階にあり、下に大きな体育館が広がっているのを想像してもらえるといい。
荷物を緒方先生に預けて吉田と相川は各生徒が集まる下の階へと降りていった。
西条「うわ、人多っ!!」
三澤「本当だねー、地区大会なのにこんなにいるんだ…」
緒方先生「んー、五十校ぐらいかしら」
あながち緒方先生の言うことは間違いは無い、主将と副主将しかいないはずなのに、ゆうに百人は超えている勢いだ。
西条「これを勝ちあがるんか…なかなかレベルが高いなぁ」
三澤「でも相川君はうちの南地区はそんなに強い所が多くは無いって言ってたけど…」
「…?お、おい!アレ、北摂ファルコンズの西条じゃねーか!?」
「はぁ?北節の西条って…暁の猪狩、桐生院の望月、布袋と一緒に、全中で注目されてたアイツか?」
「いる訳ねーだろ、三年のときも騒がれてたけど、肘を壊して選手生命は絶たれたってもっぱらの噂だったじゃねーか」
「…おかしーなぁ、でも絶対あれ西条だと思うんだけどな…」
次第に会場内がざわつき始める。
こんな西からは遠く離れたところだというのに意外と西条の知名度は高いようだ。
流石元、西のエースといったところであろうか。
猪狩、望月と同レベルであったのに、今まで騒がれなかったのはやはり肘を壊したといううわさが広がっていたからであろうか。
三澤「わ、すごい。西条君騒がれてるよ」
西条「まぁ、昔は俺もバリバリならしたもんですから」
緒方先生「暴走族を卒業した人みたいね…」
それでも西条は動じることなく、辺りを見回している。
すでにいつものふざけた顔ではなく、顔は元エースのそれだ。
西条(ホンマやな、相川先輩の言うとおり、強い奴がいないことは無いけど…テレビで見た桐生院、横濱レベルの奴らは流石にいないな。…それに数も多くない)
ちらり、と目線を下の会場に移す。
西条(気になったんは…陸王学園とか言う所と、さっきの成川高校。…んで、青竜高校、か)
おそらく、この三校が立ちふさがることになるだろう、その他は今の戦力で勝てないことは無い。
…なるほど、相川先輩も見るところはしっかり見ているということだ。
西条「確かに、相川先輩の言うとおり、あんまり強い奴はいなさそうやな…」
???「んだとコラァ!」
ガツンッ!!
西条「ぐわっ!!」
いきなり後ろから西条は背中を蹴られた!
???「さっきから調子に乗ってんじゃねーぞコラァ。ガキがよぉ」
西条「痛ぇなぁ…何すんじゃワレ!」
???「強い奴はいない?…だとすると、俺はザコだってことかコラァ!」
西条(な、何だコイツ!)
完全に言いがかりだ、降矢よりたちが悪い。
???「ああ?きいてんのかテメェよぉ!」
西条「…んだとコラ、自分どこの誰や!!」
赤竹「俺は青竜高校一年、赤竹和哉だ、知らねーとは言わせねーぞ!」
西条「知らへんわお前なんかよぉっ!!」
地面を蹴って反動をつける!
そのまま、とび蹴りっ!!
ドカァッ!!
三澤「きゃあっ!」
赤竹「ぐおあっ」
西条「さっきのお返しじゃボケ!死にさらすぞ!!」
緒方先生「ちょっ!西条君!!」
西条「止めんでくださいよ、先生。売られたケンカは買うのが俺ですわ」
赤竹「んの野郎…いきなり…卑怯…ぶっ殺す!!」
西条「しゃあ来いやオラァっ!!」
ゴムッ!
西条「ぐわ!」
ドゴンッ!!
赤竹「ぬうっ!」
両者の頭に鉄拳が制裁された。
相川「やめんか」
???「見苦しい」
???「ああ…また兄さん、何してるんだよ、もう…」
西条「あ、相川先輩?!」
相川「抽選が終わって、帰ってきてみればこれだ」
吉田「おおっ!西条、結構頭に血が上るの速ぇーんだな」
相川「うちの一年が迷惑かけてすまなかったな」
???「いやいや、こちらこそ。先に仕掛けたのはこの馬鹿のようなのでね」
赤竹「…テメー!この前うちに来てやがった奴じゃねーか!」
相川「俺は将星高校二年の相川、アンタは」
西条の相手の暴挙を止めたの男が口を開いた。
大谷「…青竜高校、二年の大谷」
赤竹弟「僕は一年生の赤竹守です、…すいません兄が迷惑をかけて」
赤竹兄「なにすんだんの野郎!!」
大谷「止めろ、ここで騒ぎを起こすメリットは無い」
赤竹兄「あんだと?!」
相川「大層元気がいい一年じゃないか」
大谷「相当困った奴でね、俺の肘が思わしくないから先発を任せてるんだが、いかんせん性格が歪んでる」
赤竹兄「なにぃ…?」
大谷「変えるぞ守、和哉。もう抽選は終わった」
赤竹兄「…ちっ、相川とか…西条とか言ったな。覚えてろよ」
西条「へっ!望む所や、お前なんかうちと当たる前に負けるんやないか?」
大谷「残念ながら、それは無いな」
西条「…?」
大谷「秋の地区予選、一回戦は青竜と将星だ」
西条「!」
三澤「ええっ!」
大谷「それでは。相川君とやら、試合を楽しみにしてるよ」
相川「ええ、また」
そう言うと青竜高校の三人は、会場を後にした。
相川「…ふん、まさか一回戦で当たるとはな」
西条「なんやあの赤竹って野郎!めっちゃ腹立つわ!!」
吉田「…でも、実力はあるみたいだけどな」
相川&西条「!?」
吉田「あの手のマメみたかよ、普通に練習してるだけじゃあーならないぜ。言えば…スライダーかなんかが得意球じゃないか?冬馬とマメの出来方が一緒だ」
緒方先生「…よく見てるわね吉田君」
三澤「傑ちゃん、すごーい」
相川「もし、そうだとしても、あんな奴がいるチームで統率が取れるわけが無い」
西条「100%負ける気は、無いで」
秋の地区予選、対戦高校決定!