111その後の出来事



















試合の後は、さっきまでの地鳴りが嘘のように甲子園は静まり返っていた。


周防「結局、桐生院が勝ったな」

浅田「そうッスね…、でもなんか良かった気がします」


すでにアルプス席は移動を開始し始めていたが、二人は今日の試合を全て見るつもりだったので、そのままベンチを動こうとはしなかった。



周防「どうしてだ?」

浅田「なんとなく…桐生院には負けて欲しくなかったッス」

周防「…そうか」



前のグラウンドはすでに選手達の姿は消え、ついていた足跡もならされて消えてしまっていた。

浅田にはそれが何故かとてもむなしく見えた、こうして息つまる試合も、終わってしまえば残されるのはスコアだけだ。

…いや、もう一つ。

今日の、今の試合は確実に見ている人の記憶には深く刻まれたはずだ。

横濱も桐生院も、涙を流した女生徒も、我を忘れて喜ぶ部員にも、今日の試合は心に刻まれたはずだ。

そして、浅田と、周防にも。



周防「さて…次の試合は、どこかな」






















???「…」


そして、廊下の壁で行き来する客に流されずに、一人壁にもたれている少女。

その少女に話しかける長髪長身の男。


???「四路様、遂行いたしました」

四路「…そう。ありがと、鋼」

鋼「…残念でしたね、横濱」

四路「そうね…和久井君には期待していたんだけどね」


四路は、少し寂しそうな顔をして、ため息をついた。


四路「…でも諦めないわ。…絶対に、プロペラ団を変えてみせる」

鋼「…」

四路「もう、和久井君みたいな人を、私は出したくないの。…ダイジョーブ博士も説得してる所だし」

鋼「あのマッドサイエンティストがやめますかね」

四路「方向性を変えればいいのよ。人体改造なんかじゃなくて…もっと、衝撃を吸収しやすくグローブとか」

鋼「…ものは考えようですね」


『ワァァァーーーーッ!!』

入り口の外では次の試合が始まったらしい、試合開始のサイレンがけたたましく鳴り響いていた。

四路も鋼も一瞥はしたものの、視線を元に戻した、どうやら試合に興味はないらしい。




鋼「あなたは、何故プロペラ団に入ったのですか?」

四路「私…?私は」

鋼「俺は和久井と一緒ですよ。要するに、力が欲しかった」

四路「…」

鋼「そんな輩は五万といますよ。人間は魂を悪魔に売り渡しても強くなりたい生物です」

四路「駄目よ、そんなの。…それは、まがいものよ」

鋼「まがい物でも何でもいいんです。何のとりえもない奴だって、脚光を浴びれますよ」

四路「…」

鋼「楽して強くなれれば最高じゃないですか、そうは思いませんか?」


鋼のあまりにもの迫力に、四路は黙ってしまった。

…だが、再び鋼の目を見て、言った。


四路「…違うわ。才能の違いはあるけど。それでも、人の道を踏み外すなんて間違ってるもの。…スポーツは人と人の力を競うもの。そんなことはあっては駄目よ!!」


芯が通っている。

その瞳は、降矢は西条とは色は違うものの、確かに同じように火を灯していた。




鋼「ふ…」


鋼は目をつぶって、笑った。


鋼「…流石四路様。…まぁ、そうでもなければ俺が組織を裏切ってませんけどね」

四路「組織内部はどう?」

鋼「まだ協力者は2%ってとこですね。みな、発覚した時の”罰”を恐れているようです」

四路「…そう、先は長いわね…」

鋼「諦めないでくださいよ。…さっきの信念がある限り、四路様は悪を倒せるはずです。それが許せないと思ってるならあなたは折れてはなりません」

四路「…ありがと。……あなたは、あなたはどうして私についていく気になったの?」

鋼「俺?……簡単ですよ。あなたがいずれ大きくなる人物だからです」

四路「私?」


鋼の返答に四路は目を丸くした。


鋼「別に俺は悪だの正義だのに興味はありません…が、あなたはいずれプロペラ団のトップに立つ人です。いずれは、利益が帰ってくる。そのために…その人についていくのは、俺の勝手でしょう」

四路「…ふふ、まぁ、複雑だけどありがと」

鋼「そんなことより、ここでのんびりしてていいんですか?極亜久はもうそろそろ、次の大会に向けての練習が始まる頃ですよ」

四路「…いけない!鋼!急いで車回して頂戴!」

鋼「…顔をたくさん持つ人は、大変ですね」

四路「多忙大歓迎、よ」


鋼は苦笑混じりに、ポケットから車の鍵を取り出した。




















大会は、その後驚くべき展開を見せる。

桐生院は、大和が二回戦で力を使い果たしてしまったおかげであっさりと三回戦で東北に破れ、敗退。

惜しくも涙をのんだ。

そして、その東北も、暁も、他、強豪も次々と破られていく波乱の展開となった。

そして、優勝したのは…。









『試合終了ーーー!!!全国の頂点に立ったのは強い強い!春夏連覇だ!!!帝王実業高校だーー!!!」


真紅の優勝旗を見事手にしたのは、西東京代表帝王実業高校だった。

初戦で 福嶋商(福島)を下してからは波にのり、三回戦で暁大付属(東東京)、準々決勝で草華(兵庫)と強豪校をなぎ倒して決勝に進んだ。

そして、決勝。

茨木県代表の大東寺と11-6の乱打戦を制し、ついに優勝旗を手にする結果となった。

帝王実業は圧倒的力で全国4146校の頂点に立った、流石名門校、他を圧倒した実力であった…!





そして、閉会式と同時に今年の球児の夏が全て幕を下ろした。























他校は新チームとして練習を再開し、すでに秋の大会を目指す。

成川も、霧島も、東創家も、桐生院も。






















―――そして、将星も!
















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