100未だ見ぬ敵へ






















沖縄合宿も終え、空港へ到着した機内から部員は各自、自由解散という形で家路へと着いていった。

しかし、相川だけは空港のロビーで何やら鞄からノートと筆記用具を取り出して悩んでいた。


相川「…」

原田「何をしてるッスか?相川先輩」


相川は原田に話しかけられていることに気づくと、顔を上げた。


相川「ん?いや何、せっかくこんな空港のあるような遠い所まで来たんだから、各高校の視察をして帰ろうと思ってな」

御神楽「研究熱心であるな、相川は」

原田「っていうかタフッスよねー…」

相川「もう夏休みがあければ秋季大会まですぐだ、そうのんびり構えてもいられないだろう」


相川はノートをたたむと、席を立った。


原田「あ、じゃあ俺も行くッス!」

御神楽「そうだな面白そうだ、ついていってやろう」

相川「まぁ、構わないけど…お前らも疲れてるだろ?」

原田「いやいや、野球とかじゃ降矢さんやキャプテンにかなわないッスけど、俺も少しは役に立ちたいんで!」

御神楽「まぁ、他人の意見も取り入れたほうがいいデータになるんじゃないのか?」

相川「…物好きだな、なら早速行こうか」

原田「オーッス!!」


三人は市営のバスに乗り込んで、一路他校を目指す。












やはり沖縄に比べると本島は涼しいともいえる、暑いことには変わりがないが。

バスに乗ってくる中年夫婦も顔の汗をハンカチで拭いている。

そんな中、御神楽が日差しを遮るカーテンを閉めながら相川に聞いた。


御神楽「ところで…秋季大会とはどういうことだ?」

相川「は?」

御神楽「夏の予選は甲子園を目指すものらしいが、秋はどこを目指すのだ」

相川「甲子園に決まってるだろ」

御神楽「…秋の甲子園など、僕は聞いた事がないが?」


相川はため息をついた。


相川「あのな、春に甲子園があるだろうが」

原田「へ?あれは春の予選があるんじゃないッスか?」

相川「…まぁ、いい。秋はちょっとややこしいからな」



こいつらには全部説明しないと駄目なようだ。

相川はバッグからノートを取り出して、何やら書き始めた。


相川「…いいか、まずは地区での予選がある」

原田「夏のときは確か、県規模でしたよね」

御神楽「む?それでは甲子園に出場する高校が多すぎはしないか?」

相川「まぁ、聞け、それでだ。秋は地区で大体50校以上にしぼられる。県大会で50校以上が上位3位目指すわけだ」


二人は頷きながら相川の次の言葉を待つ。


相川「地方に入る県の代表3校が地方大会…うちで言えば関東大会だ。そこで高野連…まぁお偉いさん方の目に入れば春の選抜…甲子園に出れるんだ。あとは運がよければ21世紀枠で出れるがな。が、俺達の高校とは条件が合わないから、まず選ばれないだろ。」


相川はその大会の仕組みをノートに書いているようだ。

相川「まぁ、とりあえずは地区予選だが…うちの場合は北地区と南地区に分かれて争う」


相川はピラミッド上の絵を書くと、順に地区、県、地方、と書いていき、頂上に甲子園の文字を書いた。

頂上までは中々長い道のりだ。


御神楽「なるほど、それで初めて甲子園に行けるわけか」

原田「ならとりあえず自分達はまず地区大会を頑張ればいいって訳ッスね!」

相川「そういうことになるな…ただ、秋の関東大会で高野連の目に止まった「5校」が春の選抜に出れるわけだから(地方ごと に出れる高校の数が違う)…うちのメンバーだとそれはきついから…」

原田「から?」

相川「とりあえすは最後まで勝ち抜きゃなきゃまずい、ってことさ。簡単に言うと、地区予選でベスト8に入る。県大会で優勝。もしくは二位でも、次の関東大会で優勝すれば可能性は見えてくる」





そうこう話しているうちに目的地に着いたらしい。

相川は、行くぞ、と声をかけると席を立った。

慌てて原田と御神楽も追いかける。





原田「青竜高校前?」


どうやら目的地は『青竜高校』という所らしい。

中では部活にいそしむ生徒たちが熱い中汗を流して練習している。

当然のように将星の頭脳は歩いていくが、御神楽にはある疑問が浮かんだ。


御神楽「桐生院にはいかなくていいのか?」

相川「とりあえずは、な」


相川は金網の隙間からグラウンドをのぞく。

どうやら反対側でやっているのが野球部のようだ、特徴的な深い青色のユニフォームは目に入りやすい。


御神楽「何故だ?とりあえずは強い高校をチェックしておくべきじゃないのか?」

相川「いずれはするさ。でも、今は構わないだろう」

御神楽「?」

相川「えーとな、俺達将星は南地区、桐生院は北地区なんだ」

御神楽「…なるほど」

原田「それでまずは地区予選の偵察ッスね!」

相川「南地区はそれほど強いチームがたくさんはいないから、有利といえば少し有利かもしれんな」

原田「他校はどんな感じで分かれてるッスか?」

相川「そうだな、霧島、桐生院、東創家などは向こうだ」

御神楽「こっちの地区は?」

相川「特に力を持っている高校は…」


相川はまたノートを取り出した、そこに他校のデータがびっしりと書かれている。



『青竜高校…ランクC+、夏の大会ではベスト16に入るも桐生院に敗れる。しかし、中心打者滝本の打撃力は高い。ただ、エースの大谷の怪我の具合は不明、投手力は低いと見える、打撃力が高い攻撃チーム。ただチーム内での仲は微妙らしい』

『陸王学園…ランクC−、夏の大会ではベスト4、東創家に敗れるも実力は高かった。しかし、三年生が引退した今、ガクンとチーム力は落ちた。投手九流々選手を中心にどれだけまとまるかが鍵』



相川「それに、俺達が夏戦った森田率いる成川高校だな」

御神楽「青竜高校に陸王学園、そして成川か…」

原田「あ、あれが滝本選手じゃないッスか?」


ようやく野球部の近くまで来れた三人はバッティング練習をする滝本を確認。

やはり、将星高校に比べると設備はいい。


原田「うちもピッチャーマシン欲しいッスよね…御神楽先輩家が金持ちなんだから何とかならないんッスか?」

御神楽「ふん、親の力を借りるなど僕のプライドに関わる」

相川「諦めろ原田、もし力になってくれてるなら今頃うちは最新設備で練習できてるよ」


とほほ、と肩を落とす原田を横目に相川は冷静にノートに書き込んでいく。

御神楽は「中には入らないのか?」と聞くが、相川は「捕まるだろうが」と一言で切り捨てた。


原田「それにしても…打撃はすごいッスね」


さっきから見ていると、打球はすごい勢いで飛んでいく。

球場でやればスタンドインしてもおかしくない飛距離だ。


御神楽「打撃は確かにそうだが…エースが故障しているのだろう?」

相川「ああ、だからもし当たるとならば打撃戦になると予想はしている」

原田「でも打線は水物って言うじゃないッスか、それに相手の投手もエースじゃないってことは控えの投手が出てくるってことッスよね、そんな投手楽勝に打て…」











―――ガシィッ!!










いきなり原田が後ろから服をつかまれた。


原田「わぁっ!?」

???「随分と好き勝手言ってくれるじゃん?」


そのまま力任せに道に叩きつけられる!

原田は大きな音を立てて肩から地面に激突した。


ドスンッ!!

原田「うあっ!!」

御神楽「原田!…何者だお前!」

目の前に立つ男、相川はそれを足から顔まで見て、ゆっくりと身構えた。

相川「…深い青のアンダーシャツ。お前、青竜高校だな」


原田を投げた男は、ポケットに手を突っ込みつばを道路にはき捨てた、顔もものすごい形相でこちらを睨んでいる。

どうもマナーがいいような選手には見えなかった。


???「つーか、おたくはどちらさん?勝手に人の学校覗いちゃってさ、殺すぞ、オラ」

相川「御神楽、降矢とどっちが口が悪い」

御神楽「さぁ、比べる気にもならん」

???「は?無視しちゃってんじゃねーぞ、お前ら、ムカつく顔しやがってよ。殺すぞ?速く消えろよ、消えろ、フルチンで帰れ」

相川「俺は将星高校の相川、お前は誰だ」

???「はぁ?何その態度、開き直っちゃてる訳?それとも死にたい訳?」

御神楽「殴るなら殴ればいい、ただお前の行動で確実に青竜高校は大会出場停止になるであろう」

???「しらねーよそんなの、じゃあ一発殴っていいって訳?」

御神楽「困ったな相川、どうやらこの男頭が悪いらしい」

相川「そうだな、日本語を理解していないみたいだ」

???「なめてんじゃねぇぞテメェラ!」

原田「け、ケンカはやめてくださいッス!」

???「テメーは黙ってろよ!」


と、視界にいきなり手が入ってきた。


???「止めて下さい兄さん!!」


急に止めに入った同じ野球部の部員、見ると…。



原田「お、同じ顔?!」

相川「双子…?」

???「こんな所で騒ぎを起こしたら今度こそ部活停止になりますよ!」

???「しらね〜よ守、どけよ、俺はむかつくからコイツをぶっ殺すんだよ」

守「止めて下さい!!兄さんの身勝手な行動でチームメイトにどれだけ迷惑がかかってるかわかってるんですか?」

???「俺に意見すんのか守、お前も殺すぞ。つーかチームメイトなんて知らないし、俺がいなきゃ夏の大会もベスト8までいけなかっただろうが」



相川「俺がいなきゃ?…待てよ、お前の顔、見たことがあるぞ。確か一回戦で故障欠番した青竜のエース大谷に変わって出た…赤竹投手」

御神楽「とすると、隣にいるのはそいつの弟ってとこだな」

赤竹兄「気安く名前呼ぶなって!!殺すぞ〜!!」

赤竹弟「兄さん!!」


相川「御神楽、気をつけたほうがいい。こいつは打たれた選手には次の打席必ず死球を当てている、それでビビったチームに勝てたみたいなもんだ。…それでそんなこけおどしがきかない桐生院との対決ではマウンドを降ろされたんだからな」

御神楽「うちの馬鹿でも冷静に考えるから…それ以下だな」

赤竹兄「ふざけんなよテメェラ!…お前ら、将星とか言ったな!」

相川「ああ、将星高校だ」

赤竹兄「俺も知ってるぜ?出来たばっかの野球部でよ、すげー運が良くてたまたま夏ベスト8まで勝ちあがってきたんだろ?」

相川「何が言いたい」

赤竹兄「祈らなきゃ勝てない雑魚高校には怒る価値もないね〜!速く去ね!本当に殺されて〜のか」

赤竹弟「兄さん!」

赤竹兄「特に…捕手は霧島との対決で泣いたらしいじゃん?泣きむしキャッチャーなんて情けない奴がいるところと同じ地区かー!?ってかよ、同じ野球やってるってこと考えただけでうじ虫がわきそ〜〜!」

相川「…」

赤竹兄「なに?泣いちゃう訳?やめてよ〜!家に帰ってからママの膝で泣いてちょ〜だいよぉ〜!」

相川「帰るぞ御神楽、原田。大体データも解った」

原田「え?だ、だって打撃練習しか見てないじゃないッスか」

相川「こんな投手が投げてるチームなんて知れてる。視察の必要もない」

赤竹兄「…あんだとテメェ」




相川はそう言って、すぐにバス停まで歩いていった。

残された赤竹兄弟は。


赤竹弟「兄さん!勝手に練習を抜け出した上にこんな所でケンカですか!?ふざけないでください!皆迷惑してるんですよ!」

赤竹兄「はぁ?ど〜して、俺があんなクソどもに気を使わなきゃ駄目な訳よぉ?大谷とかいうムカつくエースがいない今や俺は青竜のエースだぜぇ〜?ど〜して、その俺が気を使わなくちゃならない訳〜?」

赤竹弟「…練習に出ないと、今のままじゃ打たれますよ?」

赤竹兄「は?打たれる訳ねぇだろ〜?俺が打たれるときは、手を抜いてんの。いわゆるやる気が出ないってやつ?そんなやる気のない俺の球を打って喜んでる奴らは見てて笑っちゃうくね?」

赤竹弟「…ふぅ、俺は練習にいきますからね」

赤竹兄「いってらっしゃ〜い、俺今から聖花校の女子とご・う・コ・ンなんだな〜!…そんな前にあんな将星とか言うクソ高校に会ったって思うと、吐き気がしちゃうぜ〜。と、いかなくちゃな…、じゃあな守。ませいぜいゴキブリ達と練習頑張ってね?まぁ、この俺にはかなわないと思うけどさ〜!」












バスの中で相川は冷静にデータを記入していた。

御神楽「…まだ怒ってるのか相川」

相川「いや、そういう訳じゃない。これで青竜はランクDだな、と思ってさ」

原田「ど、どうしてッスか?あの打撃力ッスよ!」

相川「あんな奴がいる限り、チーム内がまとまるわけがないんだ。下手すると大会出場停止食らうかもしれないな」





新たに現れた、同地区の青竜高校。

そして双子の赤竹兄弟の実力とは…。


もう、次の試合はすぐ側まで迫っている。











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