096大漁水産戦11三度目のサイクロン+対シーサー























九回裏、沖2-2将。


『六番、セカンド、原田君』


降矢「原田!」


降矢はネクストバッターズサークルにいる原田をベンチに呼んだ。


原田「な、なんッスか?!」

降矢「野多摩も来い!」

野多摩「う、うん」

降矢「見ての通りだ」


降矢は、ベンチでゆでだこになった冬馬を顔で差した。


降矢「ジョーも日射病、ちんちくりんもあれだ。ナルシストは投手練習を辞めてしばらく経つ、もうこっちに投手がいねー」

原田「…!」

降矢「この回で決めねーと、ヤバい」


ここで勝負を逃すと、明らかにこっちが不利になる。

降矢の顔は普段の十倍増し真剣だった、練習試合とは言え、負ける気なんてさらさら無い。


降矢「次こそは俺がガングロのシーサーをしとめる。…だが、最低でも一人ではランナーに出ないと俺には回んねー」

野多摩「うん」

降矢「さらに、八番はあんの瀕死のちんちくりんだ。とても打てる状態じゃねー、つまり、お前らのどちらかがランナーに出なきゃいけねー」

原田「で、でもあのシーサー、とてもじゃないけど俺達には打てないッス…」

降矢「…」


だからと言ってとてもじゃないが責められない。

降矢でさえ、あれは捉えるのが困難だと感じているからだ。


降矢「打たなくてもいーんだ」

野多摩「へ?」

降矢「あんのクソ変化球は落差が半端ねー。それを逆に利用してやろうぜ」

原田「利用ッスか?」

降矢「あー、お前らは小さい方だからな」


確かに、降矢や大場に比べれば原田は野多摩の身長は低い。

高校生の平均身長と比べれば、そう大差はないのだが。


野多摩「それが、何の関係があるの〜?」

降矢「打席に立って打てねーと思ったら、ガングロのコントロールの悪さを狙って、四球を狙え」

原田「あ、成る程。小さいからボールゾーンも広がるッスよね」

降矢「ただ問題なのは…冷静にストレートでカウントを稼いでくることだ。シーサー以外の球はたいしたことねー。カウントが悪くなりゃ、必ずストライクを取ってくるだろ」

野多摩「その球を、狙うんだね」

降矢「ああ、けど言うのは簡単だが、やるのはムズいぜ」


二人は息を呑んだ。


原田「…」

野多摩「でも頑張るよ、ボク。…冬馬君が、あれだけ頑張ってるもん」

降矢「…あ、そ」








まずは六番原田が打席に立つ。


原田(うう、ああは言ったものの…)


グ、グググァッ!!

バシィッ!!


『ストライク、ワンッ!』


初球、いきなりシーサーでストライクをとられる。

バットを出す事も出来ずに、見送ってしまった。

気を取り直して、もう一度構える。



日田「さぁあーーーっ!!」



日田、第二球!


原田(…ボールッス!)

バシィッ!

『ボール!!』


高目の快速つり球、しかし原田はバットを出すのを我慢した。

これで何とかカウント1-1、普通なら球を狙っていく所だが、原田にとってはボール球が来るのを願うだけだ。

日田、マサカリ投法から第三球!!



グ、グググンッ!!



大きく曲がり落ち、ミットに収まる!

『ストライク、ツー!!』


原田「ぐぅ…ッス」



野多摩「ああっ、あっというまに追い込まれちゃったよぉ〜!」

降矢「…」

県「頑張ってください原田君!」




日田、追い込んでから第四球!!

シーサーが…来るだろう!!


原田(!)


原田はとっさにシーサーがストライクゾーンを通過するのがわかった。

ボールは顔の高さのライン、ここから落下して腰に来る!


グ、グググンッ!!


原田(うわーーっ!!)


ボールは急に変化を起こして、高速で落下してくる!

どうする、どうする、どうする!?



原田(降矢さんに、つなぐんだっ!!)





バットを思い切って出す!!ボールにあわせて、バットを動かしていく!

バントのような形にはなるが、何とか原田はついていく!



コキィンッ!!




日田「!!」

金城「バ、バントかっ!!」


しかも、ボールは打球の処理が得意ではないサード今来留須方向に偶然にも転がった!!

金城は、一瞬の原田の行動に虚をつかれたのか動きが遅れる。

打球はちょうど、投手と捕手の真ん中あたりに転がった。


金城「ちぃっ!」

日田「わーが行くさっ!」


日田が前に猛ダッシュしてボールを素手でとり、そのまま振り向いて送球!



バシィッ!!


『セーフ!!』

しかし、原田の足がベースに触れる方が一瞬速く、審判の手は両手に開いた。



吉田「よ、よっしゃあああ!!」

御神楽「先頭打者が出たであるぞ!」

野多摩「やった〜!!」

大場「これで…」

六条「降矢さんに回ります!!」


相川「野多摩、絶対にバントで原田を送るんだ!」

野多摩「は〜い!」













野多摩は苦しみながらも、1-3からのストレートを何とかファースト側に転がし、無事に原田を得点圏であるセカンドに送る。

冬馬はもちろん、下手に手を出さず打席に立ったまま三振。

これで、打順は三度目の降矢だ。





冬馬と入れ替わりに打席に向かう。

冬馬の赤く火照った顔はもう熱量が軽く許容をオーバーしていることを知らせていた、やはり、ここで決めなければ。


冬馬「降矢…」

降矢「任せな、俺が打ってやる」


降矢は表情を変えることも、振り返ることもせずにそれだけ言うと打席に向かった。





きゅん。





何故か、冬馬の胸でそんな音がなった。


冬馬(…?な、なんだろ今の)


降矢の真剣な顔を見ていると、何故か急に胸が苦しくなった。

しかし冬馬はきっとこの暑さのせいで参ってしまっているのだろう、と解釈した。

それでも、何故か降矢からは目を離すことは出来なかった。


六条「う、うわ!冬馬君、顔真っ赤ですよ!大丈夫ですか?」

冬馬「へ?あ…うん、大丈夫。だいじょぶ……たぶん」

























日田「決着の時が来たさ」

降矢「あー、白黒きっちりつけようぜ」



日田「わーのシーサーが上か」

降矢「俺のサイクロン+が上か」



二人『―――勝負だ!!』







九回裏、沖2-2将、二死走者二塁。




『九番、ライト、降矢君』







まず、ギリリと腰を捻りサイクロン+の体勢に入る。

先ほど降矢は「しとめる」と言っていたが、彼は根拠もなしにシーサーを打てると思う男ではない。

勝算は…ある。



降矢(低めのシーサーは重力にのっかって変化が大きいから捨てなきゃいけねー)

日田「あああああーーーっ!!」


降矢との対戦の為に余力を残していたのか、日田が渾身の声を上げる!

グ、グググンッ!!

投げ出されたボールは、ど真ん中から足元のワンバウンド寸前のところまで落下!


『ボール!』


降矢(…これに手を出すと内野ゴロだ。これは捨てる)


しかし、降矢はシーサーを捨てて他の球を狙う訳でもない。

あくまでも降矢はシーサーを叩き潰して、勝利するのが目的だ。

では、降矢がシーサーを打てる根拠はなんなのか。



バシィッ!!

『ストライクワンッ!!』


内角のストレート、降矢はピクリとも動かずにそれを見送る。


降矢(狙いはただ一つ、高目から落ちてくるシーサーだ!)


そう、高目のシーサーなら最終的なボールの位置はちょうど打ち頃の高さになる。

低目を救い上げるよりは、よほどそっちの方が打てる可能性は高い。

後は大体の位置を予想して、振り切るのみ。





ググンッ…バシィッ!!

『ストライク、ツー』



今度は、真ん中から低目に落としたシーサーでストライク。

これで追い込まれた、しかし降矢は手を出さない。

あくまでも、高目のシーサー待ちなのだ、来なければ負けだ。



六条「降矢さん…打ってくれますよね」

冬馬「…大丈夫、降矢だもん」

六条「え?」

冬馬「降矢は、やる時はやるから、大丈夫!」

六条「…うん!」







日田、振りかぶって第四球!!


日田「さぁぁーーーっ!!!」

降矢(来た!!!!)


高目、スピードボール!

ストレートなら潔く三振だ!


降矢はシーサー狙いでボールの随分と下をスイングに行く。




相川(落ちろ!)

吉田(落ちてくれっ!!)

県(ボールさんっ…)

大場(変化するとです!)




















グンッ。















落ちた。

降矢「おらぁああああ―――っ!!!!!!!!」




バットはボールを捉える!!

後は、振り切るだけだ!


降矢は全身の力を腕に込めた―――!!





















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