094大漁水産戦9シーサー攻略戦U

























六回裏、沖2-2将。


『九番、ライト、降矢君』


じりじりと、打席に向かう。

視線が目指す先はマウンド上の日田。


降矢「よぉ、ガングロ」

日田「二度目の対決、さ…」


視線が交錯し、火花を散らす。

一打席目は降矢がシーサーを見事に捉え、野多摩をホームに還すタイムリーを放っている。

ただ、それは全開のシーサーではない。


日田「調子も上がってきたし、もう打たれんさ!!」

降矢「来いよ、シーサーをよ!」


日田、振りかぶって第一球!

ボールは軽快なスピードで高めに向かってくる!

対する降矢も初球からシーサー狙いで、ボールの下をスイングしに行く!




グアァッ!!



ボールは、空気の流れを変えながら急激に落下する!


降矢(来た、シーサーだ!)


降矢の脳裏にはこの後の球すじがスローモーションで予想されていた、もちろん球すじと降矢のバットスイングの方向は同じ。

このまま振り切れば、スタンドインだ。


降矢(勝った!)


降矢は手首を回転させ、さらにバットスピードを加速させる。

そして、ボールは降矢のバットに吸い込まれて―――。




























行かない。




…グ、グンッ!!


降矢「な、何ぃっ!!」


ブンッ!

ズバァッ!!


「ス、ストライクワンッ!!」


ボールはバットをすり抜けてミットに収まった、何が起こったというのだ。


降矢(…ボ、ボールがもう一段階落ちやがった!)


そう、シーサーが降矢の予想していた変化よりも、もう一段階斜め下に落下したのだ、見事にボールはバットの下を通過した。

降矢はギリ、と歯軋りするとマウンド上の日田を見上げた。


降矢「…この野郎」


明らかに、試合が進むにつれてパワーアップしてやがる。

まさしく『尻上がり』だ、先日砂浜で対戦した時と一打席目のシーサーとではまさに雲泥の差。

見るとミットは降矢の股間の辺りでボールを受けている。

投げた瞬間のコースが肩のラインの高さくらいだから、とんでもない落差である。

これは中々、面倒な相手に出会ったもんだ。


降矢(ちっ)


舌打ちする降矢、こっちはさっさと勝って帰りて−んだよ。



日田「さーーーーっ!!」

降矢「…!」


日田はそのままのテンポで、第二球を投げてきた。

おそらく、球種はシーサー!

そのまま速いスピードで飛んできて…そこから急落下!


グァァッ!!


降矢「…しゅっ!」

降矢も背中を思い切りねじり、サイクロン+のスイングにいく!



キィンッ!!…ガッ!



『ファールボール!!』


日田「っ!」

金城「なっ!」


ボールは先ほどと同じく大きな変化を見せたが、今度は降矢もスイングしてシーサーに当ててきた。

打球は地面に激しく叩きつけられた後、ファールゾーンに切れていく。



日田(わーの本気のシーサーをあんな無茶なスイングで当てるなんて…)

金城(あのスイングで当てるとは…この男、やはりただものではないさ!)


しかし、二人の予想とは違い、降矢は強振しているわけではなかった。

サイクロン+自体、体を大きくねじる打法だから、見ている方にとっては大きなスイングに見えるのだが、降矢にとって今のスイングは決して思い切り振ってはいなかった。

むしろ、当てる為にミートさせただけ、先ほど五回の冬馬のスイングと同じである。

ただ、基本的な筋力が高いのと、サイクロン+の爆発力の問題で、同じ当てるだけのスイングでも冬馬のバットのトップスピードとは大きな隔たりがある。




降矢(やはり”軽い”な)


そして、降矢はシーサーの弱点に気づいていた。

五回の冬馬の打席のヒント、読者の皆さんも、もうお分かりかと思うが、シーサーの球質は恐ろしく”軽い”。

以前、夏の予選で将星高校の前に立ちふさがった霧島の投手尾崎の『アイアンボール』は”球が回転していない”ために、球質が恐ろしい”重い”という特徴を持っていた。

見る限り、このシーサーはカーブの一種のはずだから、この大きな変化を起こすためにはかなり高い回転数が必要となる。

つまり、その回転数の高さが球質を『軽く』させる!



降矢(今、手にきた感覚もたいしたことはねー。変化は上がってるが、その分球も軽くなってきてる)


つまり、当てることが出来ればミート中心のスイングでも降矢のパワーがあれば十分にスタンドインを狙える。





降矢(ただ…問題は芯で捉えられるかどうかだ)


今のスイングも当てに行ったスイングだが、はっきり言って当たったのは偶然だ。

打球が地面に叩きつけられたということは、ボールの上に当てているということ、つまり、一瞬タイミングが遅れていれば、スイングをとられていたはず。

尾崎のアイアンボールと違って、この球がやっかいなのは中々の『スピードボール』であるということだ、高いスピードで飛んできて、急に落下するのだから今のシーサーは『当てることすら困難』である。

アイアンの場合は球速が遅いため芯に当てていけば打てたが、シーサーは高速高変化な為にボールは捉えづらい。

当たらなければ、意味は無いのだ。



降矢(しかし、向こうもその弱点には気づいてるだろ。…勝負は今のファールで向こうがどうでてくるかだ)


別のボールで勝負してくるか、シーサーで勝負してくるか…。


降矢(…ふん)


降矢は、あくまでもシーサー狙いにこだわった。

相手の一番の武器を打ち砕くことが何よりも降矢にとっては重要だ。

敵は、頭から叩き潰す。





金城(くっ、あのシーサーを当ててくるとは…まずいな。この男のスイングからすればジャストミートすれば確実に持っていかれる)


金城は迷っていた、セオリーなら十中八九シーサー以外の勝負だ。

ただここでシーサー以外で降矢を打ちとっても、気持ち的には晴れない。

『試合』には勝ったが、『勝負』には負けている、おそらく降矢はシーサー狙いだろうと金城はズバリ予想していた。

どうする、金城は日田を見た。


日田(…)


金城は目を見開いた、なんと日田はマウンド上でシーサーの握りをしていたのだ。


降矢「…!」




日田「金髪!シーサーで勝負さ!!」

降矢「…いい度胸だ、来な!」


金城の腹は決まった、迷うことは無い。

日田はシーサーで勝負するのだ、投手のプライドにかけて。



日田「さぁぁぁーーっ!!」

降矢「らぁぁあーーっ!!」


両者、お互いに咆哮を上げる。

日田は大きく振りかぶって、マサカリからシーサーを…!


日田「シーサー…ドロップッ!!!」


投げる!!


シャーーッ!!


ボールはホームプレートとピッチャープレートの中間ぐらいまではストレートと同じくらいのハイスピードで飛んでくる。

降矢(…ここだ!)

そして、そこから空気を巻き込んで落下する!!



…ググァゥッ!!


降矢「―――来たかっ!!」



冬馬「す、すごい変化!!」

六条「今までの中で一番曲がってます!」

野多摩「降矢君〜!」




降矢「うぉああああ!!」


降矢もすぐに臨戦態勢に入る!

素早く腰を限界ギリギリまでひねる、筋肉が悲鳴をあげた所で、そのバネを開放するっ!!


―――ビヒュンッ!!!


金城(な、なんてバットスピードだ!!)


すでに当てるだけだのどうのは、降矢の頭から飛んでいっていた。

相手がシーサーの宣言をしたからにはこちらもせこい真似などせずに、サイクロン+のフルスイングで勝負するまでだ!



相川「…当たるかっ!」

御神楽「どうだっ!!」




ボールが落下していく中、バットもボールを捉えようと向かっていく!

そして、バットがボールに触れる!!!



原田「…当たるッス!!!」

県「降矢さん!!」


























――――――チッ、バシィッ!!!



降矢「―――くぁ…!」

日田「―――さぁっ!!」



バットは、一瞬ボールに触れるも、かすっただけでシーサーは見事にミットにおさまっていた。






『ストライクバッターアウトッ!!!!!』







日田「しゃぁーーーーっ!!」


日田がマウンド上で大きくガッツポーズをとる、しかしその額には冷や汗が幾つも浮き上がっていた。

―――当たれば、間違いなくホームランだった。



降矢(ちっ…らしくねー…)


試合より、勝負を選んでしまった。

当てに行くだけのスイングなら、もしくはヒットだったかもしれない。


降矢(…でも、不思議と嫌な気分じゃ、ねぇな)


悔しさと憤りは胸を埋め尽くしているが、不思議と悪い気分ではない、むしろすがすがしいほどだ、なんて自分らしくない。


降矢「次は打つ、ガングロ」

日田「ああ、かかってくるさ!!」



これで一勝一敗一引き分け。

まだ、決着はついていない。

だが、このまま行けばかならず第三打席目が回ってくる。



降矢(…必ず、そのシーサーを打ち砕いてやる…!!!)



降矢の目の炎が、強く光った。











六回裏、沖2-2将、一死走者無し。











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