090大漁水産戦5見せつけろストリーム!
西条の左手がボールに回転を与えていく、ストレートと同じ振りでスクリューの握り、高速スクリュー改め、『ストリームボール』。
西条「しゃああっ!」
西藤(ストリームボール!?)
バッターの西藤は聞きなれない単語に耳を疑うが、その暇もなく球は向かってくる、目を見開いて球を見る。
西藤(馬鹿の一つ覚えみたいにスクリューとストレートの繰り返し…なめるなっ!)
西藤はスピードにあわせるようにバットを出していく。
ギュンッ!!
西藤「!?」
しかし!ボールは高速で向かってきたまま急に失速し、シュート回転しながら落ちる、変化自体はスクリューだが…!
西藤(な、なんだ!?高速シンカーか!?)
いや、高速シンカーよりも球速は遙かに速い、ストレートのスピードのまま急に失速したという感じだ!
西藤はなんとかバットに当てに行くが、ボールの上を叩いてしまう!
ガキィッ!!!
西藤「!」
西条「よっしゃあ!サード!」
打球はバウンドしながらキャプテン吉田へ向かう。
グラブを二三回叩くと西条に大声で返答した。
吉田「任せろっ!!」
吉田は向かってくるボールを素早く捕球すると、サードキャンバスを踏みセカンドへ送球!
バシィッ!!
「アウトォっ!!」
一塁には投げられなかったが、三塁と二塁でフォースアウト!
西条もまた一瞬で二死を奪ったダブルプレーだ、向こうに傾きかけていた流れを、再びこちらに戻した!
西条「どうだっ!」
西藤「す、ストリームボール?」
西藤は一塁上でヘルメットを直しながら、この暑さだというのに冷たい汗が背中を伝っていくのを感じた。
見たことのない球種、未知の変化に出会った衝撃は大きい。
大漁水産ベンチでも日田と金城が首を捻っていた、半ば興奮しながら金城が口を開く。
金城「す、ストリームボール?聞いた事無いさ?」
日田「変化はスクリューのまんまだけど、スピードはストレートのままさ…こんな球見たことが無いさ!」
今来留須「か、カットボールとか言う奴じゃないんだな?」
金城「なるほど!カットボールはスライダー変化だから少し違うが、ムービングボールとか言う奴か?」
日田「ムービングボール?」
金城「ストレートの握りを帰ることによって、ボールが微妙に変化するって奴さ」
しかし、金城の読みは外れていた。
ストリームはムービングよりもはっきりとスクリュー変化を見せている。
相川(しかし、あいつストリームなんて名前いつ考えたんだ)
よほど名前が欲しかったらしい、ちなみに西条はこれを出すために昨日の夜ベッドの中でえんえんとうなっていた。
マウンド上で彼は、我ながらいいネーミングセンスやと、少しひたっていた。
相川(ストリームか、間違っちゃいないがな)
ストリームは日本語で言うと、流れ、だ。
ストレートのフォームの流れのままスクリューを投げ込む、誰も感じたことのない、見たことのない、変化。
相川はマスクの下で笑みを浮かべた、予想通りだ。
西条「くああっ!!!」
西条の左腕がしなる。
シャーッ…グンッ!!
ズバンッ!!!
またストリームがバットをすり抜けて、相川のミットに収まった。
「ストライクバッターアウトッ!!!」
原田「西条君ナイスピッチングッス!」
西条「おうよっ!!」
四回裏、連打で許したピンチだったが、西条はまたも何とか抑えきり、堂々とマウンドを降りていく。
ここまではまだ何とか合格点だ、相川はそう評価していた。
相川「よし、冬馬そろそろ準備しておけ」
冬馬「は、はいっ!」
冬馬は帽子をかぶると、ストレッチをし始めた。
降矢「なんだよちんちくりん、はりきっちゃってよー」
気合入りまくりの冬馬に対して、いつもの如く降矢が茶々を入れる。
冬馬もすぐそれに反応してしまう、放って置けばいいものを。
冬馬「な、なんだよ〜。俺だって頑張るもん!」
降矢「ま、せいぜい頑張ってくれや」
冬馬「うううう〜〜っ」
降矢「あんだよ?」
六条「…仲、いいんですねお二人とも」
二人「どこがっ!?」
その後、四回裏の将星打線攻撃、ボールゾーンを有効に使い出した日田を打ちあぐね、この回先頭打者の県は、ツーツーからつり球のストレートに手を出してレフトフライに終わる。
そして、迎える三番キャプテン吉田の二度目の打席。
『三番、サード、吉田君』
吉田「よーしっ、次は打つぜ剛!!」
日田「ふふんっ、そう簡単には打たせないさっ」
この二人、対戦すると何故か毎回毎回とても楽しそうな表情になる、野球が大好きだから、であろう。
日田、気合の雄たけびとともに、吉田に対してボールを投げる!
日田「さーーっ!!」
吉田「っ!」
吉田もグリップを握り締める、ボールは自分の胸元から内角低めのコースへ縦に鋭く切れ込んでくる!
シーサードロップだ!
吉田「くっ!!」
あまりに内角に投げられたので、吉田は反射的にのけぞってしまった、しかし振り向いた先の審判の判定は。
「ストライクワンッ!!」
吉田「げっ!?マジで?!」
「マジだ」
審判に突っ込みを喰らってしまった、吉田は再び目線をキャッチャーミットに戻した、確かに自分の膝の少し上で収まっていた。
金城「あの金髪は剛に対して相性がいいみたいだが…他の奴はまだシーサーを打てないようさ」
吉田「むむっ」
確かに、降矢以外で言うと、ここまで放ったヒットは野多摩の偶然の当たり一本だけだ、後は全員シーサーにやられている。
今の吉田に対した球を見てもわかるように、シーサーは半端な変化ではない、ストレート、フォークでカウントを稼がれて、ここぞという所でシーサーを使ってくる。
捕手の金城のリードも中々上手い、ヒットらしい当たりすらも未だに産まれてはいない。
吉田「んにゃろー」
吉田は口をへの字に曲げた、しかしいつも将星のムードを引っ張ってきたのは降矢とこの男だ、降矢にばかりやらせてはいられない。
くるり、とバットを回転させた後、吉田は再び構えに入った。
吉田(シーサーが打てないなら…打たなきゃいい)
二球目、再びシーサーが縦に鋭く落ちる、外角高目から落としてきた、判定はストライク!
吉田、これであっというまに追い込まれた。
吉田「むむ」
日田「あっは、見てるだけじゃ打てないさ!」
日田、速いテンポで振りかぶる、左足を大きく上げ、そこから地面を踏みしめる。
マサカリを、地面に振り下ろす!
日田「つあっ!!」
三球目はストレートが、来た。
吉田「いよっしゃああ!!」
待ってました!とばかりに吉田はスイングに行く!
バットは見事にボールを捉え、運ぶ!
吉田「行けぇっ!!」
日田「なっ!!」
打てないシーサーをあきらめてストレート狙いにした吉田、直球勝負ならこの男のミート力のほうが上だ!
カキィーーンッ!!
思い切り振りぬいたボールは、ライトの頭上。
金城(ぐ、やられたかっ!)
日田(…!)
日田が振り向いた先はスタンド、ボールはすでに外野席の一角に突き刺さっていた。
吉田のソロホームランだ!!!!
大場「や、やったホームランとです!!!」
原田「流石ッスキャプテン!!!」
三澤「傑ちゃ〜〜〜ん!!!」
ベンチを飛び出す将星ナイン、そのままベースを一周して手荒い祝福を受ける吉田、特に相川、降矢辺りにはかなりの打撃を喰らっている。
吉田「痛、痛、痛ぇ!!相川!この野郎!」
日田「ほ、ホームランさ!?」
金城(あそこまで持っていくとは…)
これには流石の日田も呆然とするしかなかった、しかし実は金城のミットは外角に外すように構えていた、日田のコントロールミスだ。
痛いところで、日田のコントロールが悪い、という弱点がでた。
日田「キャ、キャプテン…スマンさ」
金城「いや、気にするな。…剛、ここからは全部シーサー勝負だ!」
日田「は、はい!!」
日田はその後投げる球全てシーサーという芸当をやってのける。
時にはすっぽ抜け危ない球を投げるも、将星打線はやはりその変化についていくことが出来ず見事に抑えられた。
「スリーアウト、チェンジ!!」
そして先ほどストリームのベールを脱いだ西条に、沖縄大漁水産打線が襲いかかる。
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