089大漁水産戦4そう簡単に点はとらせない
























降矢「走れ天然!コイツら、予想以上に上手いぞーーっ!」









右中間を破るヒットを放った降矢は、一塁ベースを駆け抜けながら力の限り叫んだ。

声が向かう先は、三塁ベースを回った野多摩!

相当慌てているのか足がもつれている、その間にライトは素早くボールをホームへ返球する。




野多摩「うわっ、うわわわ〜!」

降矢「馬鹿がっ!」




右足が左足に絡まる、野多摩は前につんのめった。




金城(しめたっ!…刺せるさ!)




バシィッ!!



ライトからのレーザービームが捕手金城のミットにおさまる!金城はすぐさま三塁側を向き、野多摩の本塁突入に備える…!


金城「!?」


しかし、振り向いた先に野多摩の姿は無い!


金城「なっ、ど、どこ行ったさぁっ!?」

日田「キャプテン!下だ!」

金城「はっ!」



そう、野多摩は転倒…もといヘッドスライディングでそのまま頭からホームへ突っ込んでいた!


金城「させるかっ!」

野多摩「わ、わ〜〜〜!!」


野多摩は目の前の金城の足の間の先にあるホームに手を伸ばす、金城は眼下にいる野多摩にタッチしに行く。

一瞬の勝負!



バシィッ!






















審判の手は、横に開いた!

「セーフ!!」


吉田「っしゃああ!!」

西条「よぉーっしゃああ!!」

六条「一点先制です!!降矢さん!」

原田「タイムリーッス!!!」

県「流石降矢さん!」

御神楽「ひ、ひやひやさせおって…」

相川「…とんだラッキーボーイだな」





打った降矢も、肩をなでおろした。


降矢「…やれやれ、だぜ」









金城「くそ、油断したさ…。スマン剛」

日田「気にするなさー、まだ一点取られただけさ」


対する大漁水産バッテリー、一転は取られたものの日田の顔は曇ってはいない、むしろ笑顔を浮かべていた。


日田「…あは、あっはっは!」

金城「な、何笑ってるんだ剛?」

日田「おかしいさ、まだわーをこんなにワクワクさせる奴がいるとはさ!」


日田は二塁上で胡坐を組む降矢を見た。


日田「世の中広い、島の外にはいろんな奴がいるさ!」

金城「そうだな、俺達も島の中だけでとどまっている場合じゃないさ」

日田「そのためには、まず次のバッターをおさえるさ!」



『一番、ショート、御神楽君』


吉田「よっしゃ!御神楽!どんどん行け!」

冬馬「ここで決めましょう!」

御神楽「うむ、わかっている」


打順はちょうど一回りして一番の身神楽、これで二順目となる。


相川「今の降矢の通りに行け」

県「降矢さんは『騙されるな』って言ってました、きっと変化にばかり気を取られて、絶対にボールにはシーサーを投げてこないってことだとと思います」

三澤「頑張ってね!」



御神楽、第二打席目、一打席目は平凡なセカンドゴロに終わっている。


金城(もうストライクゾーンだけじゃ通用しないぞ、剛!)

日田(でも、わーはあまりコントロールに自信が無いさ、フォアボールを出すかもしれないさ)

金城(ピッチャーの能力はキャッチャーが一番知ってるさ、俺のミットだけ見て投げてればいいさ!)


日田は金城の出したサインに、ゆっくりと頷いた。

マサカリ投法から、御神楽に対し第一球!!



…ビシュッ!



御神楽「…!」


球は、低めストレート!


御神楽「くおっ!!」



カキィッ!!!


手にさほど反動が帰ってこない。


御神楽(いい感触だ、抜ける!)

御神楽は鋭く三遊間を飛ぶボールを見て判断した…だが。


西藤「ぬああっ!!」


バシィッ!!!


「アウトッ!!」


なんと大漁水産のショート西藤がノーバウンドでダイビングキャッチ!

完全に抜けていた当たりだが、恐ろしい跳躍力でボールをそのグラブに収めた!



降矢「!」

御神楽「何っ!?」

日田「西藤先輩!」



冬馬「降矢!ライナーアウトだよっ!二塁へ戻って!!」

降矢「くそぁっ!」


慣性で前に進もうとする体を、右足で懸命にせき止める。

戻れるか…!?降矢は必死に体を反転させて、滑り込む。

しかし、ショート西藤はそのままセカンドへノーステップ送球!


降矢「う!」

冬馬「上手いっ!」


バシィッ!!


「スリーアウトチェンジ!!!」


県「…ああっ!」

緒方先生「い、一瞬でチェンジ…」




降矢「…ちっ!」



降矢は日田を睨みつけた。



日田「ただじゃ、終わらないさー!」

降矢「面白ぇ…ならとことんぶっつぶしてやるのみだ!」







四回表、沖0-1将。








西藤「ドンマイ、日田、まだ一点だ」

日田「は、はい西藤先輩!ありがとうございました!」

西藤「おう!しかし、練習を見る限りではたいしたことのない学校かと思ってたが…なかなかどうして骨があるじゃないか」

金城「負けてられないな、西藤」

西藤「ああ、一点差、取り返すぞ!!」





西条「っしゃ!抑えますか!」

相川「そろそろ相手も西条の球に目が慣れてくる、気をつけろよ」

西条「ウィッス!!」





そして、西条が四度目のマウンドに立つ。

ここまで西条はヒットや四死球でランナーは出すものの、要所要所をなんとか抑えて失点を防いでいた。

しかし!







カキーーンッ!!




西条「っ!?」



二順目、三番巨漢、今来留須。沖縄大漁水産のキャプテン金城に連打を浴びてあっというまに無死一塁二塁のピンチを迎える、



西条(くっ…せっかく降矢が一点取ったっていうのに…)

相川(まずいな、流石に変化球がスクリューだけじゃこの『海人打線』には通用しないか)


海人打線とは、沖縄大漁水産打線の名称である。

相川はミットを下げてプレイを止めた、この流れはまずい。


相川(まずいな降矢のタイムリーでこっちに来た流れがあのショートのファインプレーで一気に向こうに傾いた)


野球というスポーツ、いや団体競技の勝敗をしばしば左右する『流れ』それを呼び寄せることが勝利につながることはご存知の通りだ。

今はその流れが向こうに向いている、なんとかしてその流れをこちらに戻さなければならない。


『五番、ショート、西藤君』


おあつらえ向きに次のバッターは先ほどファインプレーの西藤だ。

ここでこのバッターを抑えれば、流れは再びこっちに戻ってくるはずだ。

ただ、打たれれば…。



相川(しかし、今のままじゃ確実に打たれてしまう)



相川は意を決して西条のいるマウンドにむかった。


西条「?」

相川「どう思う西条」

西条「へ?ど、どう思う言われましても…」

相川「もうスクリューは慣れられてきている、今のままじゃ打たれるぞ」

西条「…!」


西条は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに唇を吊り上げた。



西条「…あれを使うんですね」

相川「ふふ、頼むぜ西条」



相川は親指を立てると再びホームベースの後ろに戻って腰を下ろした。

あれ、とはもちろん西条が沖縄で身に着けたもう一つのスクリューボール。













西条「行くでっ!ストリームボール!!」

















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