088大漁水産戦3日田を打て!
ズバシィッ!!
西条「…」
相川「…」
威力十分のストレートが、外角いっぱいに入る、バッターはスイングを途中で止めた格好だが、相川は素早くアピールするために一塁塁審に指差した、
。
それと同時に塁審の手が上に上がる。
「ストライクバッターアウトッ!!スリーアウトチェンジ!!」
相川「よし」
西条「いよっしゃあ!!」
西条が本日の初三振を大漁水産から奪った、これで何とか前半三回を0点で抑えきったことになる。
相川「ナイスピッチだ西条」
西条「ウィッス!」
いい感じに汗をかいてのってきたのか、西条は躍動するようなピッチングを行うようになってきた。
ストレートも投げるたびに威力が上がっていっている、もしかすると140kmを越えているのかもしれない、相川は西条の顔を見た。
相川(コイツ…底が知れん)
もしかするとすぐに中学の頃の力を左で取り戻すかもしれない。
最も相川は西条の中学時代の実力を知らないが。
冬馬「西条君!ナイスピッチング!」
西条「おう、ありがとうな!」
降矢「ライバルにそんなこと言ってていいのかね」
冬馬「同じチームメイトだもん」
降矢「あ、そ」
御神楽「しかし、西条が抑えても打てないことには何も始まらないぞ」
六条「そうですね…まだ、こっちはノーヒットですから」
将星打線は立ちはだかるシーサードロップの前に未だ一塁を踏む事すら出来ていない。
とにかく、初球からガンガンストライクゾーンに球を放って来る、コントロールが悪いのか適度に荒れた球でストレートとシーサードロップを投げ分けてくる。
その荒れ球が一層ストレートを打ちにくくしている。
三回裏の将星の攻撃。
『七番、レフト、野多摩君』
野多摩「わわ、ボクだ〜」
急に自分の名前が呼ばれて、あたふたする野多摩。
西条「ボクだ、じゃないで…ネクストバッターズサークルに入っとけや」
冬馬「野多摩君は、初打席だね頑張って!」
野多摩「うん!」
吉田「はっはっは!おう!駄目で元々だかんな!うちにはまったく打たない大場って奴もいるしなっ!」
三澤「傑ちゃんっ」
大場「い、痛いとです…」
野多摩「頑張ってきます〜」
野多摩は最初は慌てていたものの、すぐにいつもの間延びした雰囲気に戻った、マイペースというか何と言うか。
相川「さて、どうだ御神楽。アイツのバッティングを任してみたが」
御神楽「得体はしれんな」
御神楽はベンチで軽く腕を組んだ。
相川「得体が知れない?」
御神楽「全然駄目な時もあるし…と思えば時々目を見張るようなスイングをする時もある。訳がわからん」
相川「…それは俺も感じていたことさ」
御神楽「期待するには若干博打的要素も絡んでくるバッターってことは100%断言できるさ」
相川「ふむ」
御神楽「―――ただ、何をしでかすかわからん。というレベルでは降矢と同等だ」
野多摩はぽてぽて、と歩いて打席に入る、なんとも可愛らしい動作だ。
野多摩「よーしよーし、やるぞ〜」
日田もこの熱い天候の中で、冷静にロージンバッグを拾い、手につける。
二三度白い粉を出させた後、グラウンドに投げ捨てる。
野多摩もグッと力を入れて、バッティングフォームに入る。
日田「さぁ、どんどん行くさ!」
日田振りかぶって、第一球!
ズバンッ!!
「ストライクワンッ!」
またもや初球ストライク、スライダーを真ん中に入れてきた。
スイングしていれば甘いコースだ、だが野多摩は普通に見送った。
ベンチにもたれていた降矢の背中がズルリ、とずりおちた。
日田「あ、危ないさー」
降矢「…超絶好球じゃねーか」
野多摩「??」
野多摩は、呆然としてしまった。
実際に打席に立ってみると、ボールの威力が段違いだ、速すぎる。
時速130km以上の速球が自分に向かってくることに対して、恐怖以外の感情がわいてこなかった。
野多摩(はう〜!は、速いよぉ〜!)
日田は気を取り直して第二球…を投げた後に驚いた。
日田「め、目をつぶってるさ!?」
野多摩はあまりの恐怖に目をばっちりと閉じていた。
相川「あんの馬鹿!」
御神楽「や、やらかしてくれる!」
そのまま野多摩はスイングに行く!
そして、偶然にもバットはボールを捉えた!
日田「!!」
野多摩「わわわ〜」
吉田「今だ振りぬけ野多摩っ!!」
降矢「行け!天然!」
野多摩「え、え〜〜い!!」
野多摩は力の限り、バットを振りぬく!!
カッキィーーーンッ!!!
日田「!」
六条「大きいです!」
軽快な金属音を残してボールは左中間を破る!
ワンバウンド、ツーバウンド…ボールはグラウンドを転がっていく。
野多摩「わっ、わっ!当たった!当たった〜!」
西条「アホ!!早ぉ走らんかい!!」
降矢「何やってんだ馬鹿!早く一塁に行け!」
野多摩は打ったままの姿勢で喜んでいた。
すぐに外野手がカバーに回り、中継して二塁にボールが素早く帰ってきた、なんとも硬い守備だ、野多摩は一塁ストップ。
降矢「…二塁打が、シングルヒットか」
西条「アホぉ…」
冬馬「でも、初ヒットだよ!
三澤「野多摩君すご〜い!」
六条「すごいです〜っ!」
御神楽「な、得体が知れんだろ?」
相川「なんと言うか…とりあえず打ったら走るようには行っておけ」
何とも意外な所で初ランナーを出した将星高校は、続く西条が冷静にバントを決めて、野多摩を得点圏の二塁に送る。
そして、チャンスで迎えるバッターは降矢!
『九番、ライト、降矢君』
のろのろとだるそうに、打席に向かう降矢、すでに風格すら漂ってきている。
左肩で担ぐのは勿論、浅田から託された重量バットだ。
日田「ついに来たさ〜金髪!決着、つけるさ!」
降矢「いいから早く来いよ、俺は暑いから早く帰りてーんだ」
相変わらずの調子で投手を牽制する降矢、ただ顔は真剣そのものだ。
そしてゆっくりとサイクロン+打法の構えに入る。
日田「ずっと気になってたけど…お前みたいな良く打つ奴がなんで九番なのさ?」
降矢「教えてやろうか」
降矢は、じり、と足を地面に食い込ませる。
降矢「じっくりと、お前の弱点を見定めて打ち砕くためだ」
金城(…まさか、こいつ日田の弱点に気づいたのか?!)
日田は降矢の言葉に対し、ニカッと笑うと投球フォームに入る。
そして右手を力の限り振り下ろす!!
日田「さーっ!!!」
ズバンッ!!!
「ストライクワンッ!!」
初球ストレート、またもやストライクだ。
降矢(さっき天然が打てたのは偶然だが…偶然じゃない)
降矢の観察力はすでにマウンド上の日田の弱点をおぼろげながら捉え始めていた。
降矢(さっきからガングロの投げている球は全てストライクコースだ)
もちろんシーサーは変化が大きいので、変化の途中でボールゾーンに落ちることもあるが、ストレートもあわせてほぼストライクゾーンに投げ込んできている。
だからこそさっきの野多摩は目をつぶってスイングしても打てることが出来た、もちろん偶然ではあるが。
降矢(コントロールが悪いから、四球を気にする…そうすると自然にボールはストライクゾーンの甘いコースに入ってくる!)
シーサーの変化にばかり気を取られていたが、コース自体はそう厳しいところをついてくるわけではない、しっかりとボールを見定めて…。
グググッ…グンッ!!
冬馬「シーサー!」
吉田「降矢!打っちまえ!」
降矢(ミートすりゃ、打てない球じゃねーぜ!)
降矢、シーサーの変化にバットを上手く合わせ…ライト方向に流し打つ!
カキィーーンッ!!!
日田「なっ!?」
降矢「どうだっ!」
ボールはライトの前に落ちる、クリーンヒットだ!…しかし、ライト捕球からの動きが早い!
素早くバックホーム!!
降矢「走れ天然!コイツら、予想以上に守備が上手ぇ――!!」
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