087大漁水産戦2将星打線対シーサードロップ






















一回裏、沖0-0将。


『一番、ショート、御神楽君』


相川「さぁ、ようやく日田と対戦だな」


沖縄大漁水産のマウンドに立つのは馴染の日田、小麦色に焼けた歯がまぶし

い。

対するは将星の核弾頭御神楽、安定したバッティングを見せる。


緒方先生「気になるのはあれよね」

六条「シーサードロップ…でしたっけ」

県「はい、降矢さんとの勝負の時に投げてましたよね」


シーサードロップ、正体は今では珍しくなった「ドロップボール」だ。


大場「降矢どん、どんな球なんですと?」

吉田「そうだな、実際にマウンドに立った降矢から見てどうだ?」

降矢「…さぁ」

冬馬「さ、さぁ。って!降矢〜!」

降矢「冗談だよ。まぁ、より縦に鋭く落ちる、カーブってとこだな」

西条「縦に鋭く落ちる、か」

野多摩「他には〜?」

降矢「百聞は一見にしかず、だ。打ちゃわかる」


降矢はそれきり、知った事ではない、とばかりに目を閉じた腰を深く沈めた




冬馬「も〜、肝心な時にこーなんだから」

野多摩「冬馬ちゃん、御神楽先輩を応援しようよ!」

冬馬「あ、うん」




打席に立つのは御神楽、この合宿で少しフォームを変えてきた彼は軽くバッ

トを寝かして構える。


御神楽「さぁ、見せてもらおうか、シーサーとやらを」

日田「あっは、そう簡単には見せられないさー」


左足を大きく上げ、右腕を地面に振り下ろすマサカリ投法から第一球!


ズバーンッ!


「ストライク!!」


内角にズバッとストレートが決まる。

御神楽は見送った後、日田の姿を見た。


御神楽(む…中々速いストレートを持っているではないか)


降矢との対決の時はシーサーにばかり目がいっていたが、こうしてみるとス

トレートも中々の威力を持っている、130km後半の急速は出ているだろう。


日田「じゃあ、次行くさー!」


御神楽は日田の掛け声に呼応するようにグリップに力を込めた。

日田、第二球!


ボールは軽く落ちる、フォークだ。


パシィッ!!


「ストライク!!」


お次はフォーク…だが桐生院の一年投手、望月のアレと比べるとそうたいし

た威力ではない。

これで2ストライクと追い込まれた、いやにあっさり追い込まれたことに御

神楽は今気づいた。


御神楽(簡単にストライクをとんとんととって来るのであるな)


内角ストレート、内角フォーク、一見すると打たれてもおかしくないリード

だ。

そこはあえて裏をつかれたのだろうか。

御神楽は次はヒッティングにいくと、決意を固めた。

球種はおそらく…シーサードロップ。




日田「行くさーーっ!!」



日田、マサカリから第三球!


ククク…クンッ!


ボールはスピードボールだが、手前でカーブより縦方向に大きく落ちる!

シーサードロップだ!!


御神楽「くあっ!」


カキィッ!!


御神楽もスイングに行くが、初対戦ということでボールをゆっくり見ていた

ので振り遅れ、ボールはセカンドゴロとなった。

セカンドから簡単にファーストにボールを送球される。


バシィッ!


「アウト!」


御神楽「ぐっ…」


まずはシーサーで1アウトをとられた、御神楽はとぼとぼとベンチに帰って

いく。


相川「どうだった、最後のアレ、シーサーだろ?」

御神楽「降矢の言葉で大体あってるようだ、カーブよりも鋭く縦に落ちる、

縦割れカーブって所だ」

野多摩「縦割れカーブ〜…?」

冬馬「巨人の岡島選手とかが投げてるカーブだよ」

御神楽「県、気をつけろ。今まで見たことの無い変化だ」

県「は、はい!」





『二番、センター、県君』



二番打者、お馴染俊足パシリ君、県。

その県が打席にむかおうとしたが、降矢がそれを止めた。


降矢「パシリ、ちょっと待て」


降矢は沈めていた腰を上げて気だるそうに目線をあげた。


県「は、はい。何でしょう降矢さん」

降矢「確かに、あのシーサーは速いが…騙されんなよ」

県「へ?」

降矢「俺がガングロと対戦して気づいたのはそれだけだ」

県「は、はい…?」


若干首を捻りながら、県は打席に再び向かった。


野多摩「ねぇねぇ、降矢君〜」

冬馬「騙されるな、ってどういう意味?」

降矢「さぁな、お前らも打席に立ちゃわかる」

冬馬「俺は打席に立てないよっ!」








県が左打席に立ち軽く素振りをする、合宿の効果がでているのか、以前少し

スイングが軽くなっていた。


日田「よーし!どんどんいくさー!」

県「…!」


日田はテンポ良く投げ込んでくる、一球目は外角高めにスライダー。

これもフォークと同じく少し変化してミットに収まった。


バシィッ!


「ストライク!!」


どうやらシーサー以外の変化球はあまり得意ではないようだ、となると余計

シーサーを意識してしまう。


県(よーし)


日田、振りかぶって第二球。

ボールは、手前で大きく縦に変化する、シーサーだ!


ククク…グンッ!



県「えいっ!!」

日田「!!」


県の構えはバント!ボールを良く見て当てていこうという作戦か、素早く左

手バットの真ん中辺りにスライドさせ、落ちていくシーサーを目を開いて見

極める。

県はバントが上手い、二番手の上に、幾度と無く内野安打を決めてきた俊足

をいかすために相川に言われてじっくりとバントの練習を積んできたからだ





カキッ!…ダダダダッ!


県「よし!」


県、上手く三塁線にボールを転がした。

そして、その俊足でグラウンドの土を跳ね上げながら疾走する!


西条「おっしゃ!上手いで県!サードはあのデブや!」

大場「内野安打とです!」


会話どおり、サードの今来留須はどたどたと遅い足でボールの処理にむかう



すでに県は一塁線上の三分の二を駆け抜けていた、どう考えてもセーフだ。



日田「キャッチャー!」

県「!」



しかし、日田が指示を出したのはキャッチャーの金城!

金城はマスクを投げ出すと素早く走って、ボールを捕球、そのまま一塁へ送

球!


シャッ…バシィッ!!


「アウトー!!」

県「な!!」


御神楽「上手い!」

六条「あのキャッチャー速いですね〜」


足が、というよりも動きが、だ。

今来留須の足の遅さをわかっているのか、金城はバントした瞬間にすでにボ

ールの処理に回っていた。

それにしても、県の足を差すほどの肩の強さ…。


相川(そして、足捌きの上手さだ。…これも砂浜の練習の成果か)

緒方先生「ドンマイドンマイ、県君、惜しかったわよ」

冬馬「バントって発想はすごく良かったんだけど、残念だったね」

県「スイマセン…」

原田「気にするなッス!まだ一回ッスよ!」

六条「そうです!皆さん元気出して行きましょう!」

降矢「まだ、ノーヒットだがな」

冬馬「降矢っ」


御神楽「そうだ、まずはあのシーサーを捉えないとな。頼むぞ吉田」

三澤「頑張って傑ちゃん!」

吉田「おうよっ!」


『三番、サード、吉田君』


ここで、バッターは三番、燃える主将吉田。





吉田「いよぉぉしゃあ!!行くぜ剛!」

日田「おおっ!吉田君さ!いい気合さ、わーも力入れて投げるさ!」


沖縄の暑さをも吹き飛ばすほど燃える二人、ピリピリとした心地よい緊張感

が両者を包み込む。


日田「てぇーあっ!!」


日田吉田に対して第一球!!…いきなりシーサーだ!!


吉田「ふんぬっ!!」


ブゥンッ!!


豪快な空振り!やはり、シーサーの落差は半端ではない。


吉田(畜生、縦に落ちるのが厄介だな…下手なフォークより打ちにくいかも

しれん)

日田「どんどん行くさーー!!」


日田は相変わらず間を置かない速いテンポでどんどん投げてくる。


吉田「考えさせないってか…?よっしゃーー!!」


もともと考えることは苦手なこの男は向かってくるボールを捉える事だけ考

える方が得意だ、例え日田がゆっくり投げてきても途中で考えることを投げ

出すだろう。


吉田「ふんがーーっ!!」


グンッ!…ブンッ!!

バシィッ!!


「ストライクツー!!」


再びシーサーが放たれた、ボールは縦にググンと落ち、吉田のバットはまた

もや空を切る。

このシーサードロップを初めての対戦で良く当てやがったな降矢の野郎…、

吉田はベンチで興味無さそうに日田を見つめる降矢を見た。


相川「強震しすぎだ吉田!まずはミートしにいけ!」

吉田「おう!わかったぜ相川!!」


吉田は若干グリップをあまして握る、確かに今までは少し振り回しすぎてた

な、と吉田は反省した。


日田「これで…決めるさ!!」


日田、間髪いれずに第三球目!



ググ…グワッ!!


三度目のシーサー!縦に大きく曲がり落ちる変化で、ミットに向かう!!


吉田(…今までより変化がでかい!!)


ブンッ…ズバーンッ!


吉田三球三振!日田は見事にシーサーだけで将星ナインを完璧に抑えこんだ




日田「どうさー!!わーのシーサードロップは!」

吉田「すげーー!!でも絶対に打って見せるぜ!!」



段々と白熱してきた試合、吉田も日田もすでに練習試合などという観念は頭

から消え去っていた。

そして、唯一シーサーを捉えた降矢との対戦が、この後訪れる…!




二回表、沖0-0将。








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