086大漁水産戦1激突!沖縄大漁水産


















日田姉が提案した練習試合の当日。

日曜日からなのか、高校の周りには意外と多くのギャラリーが集まっていた。



県「わ、人結構来てますね」

御神楽「娯楽の少ない街みたいだったからな」

吉田「よっしゃ!お前ら、お客さんたちに力をぶつけるつもりで行くぜ!」

全員『おおーーっ!!』


緒方先生「それじゃ、先発レギュラーを言うわよ!

一番ショート御神楽君。
二番センター県君
三番サード吉田君
四番ファースト大場君
五番キャッチャー相川君。
六番レフト野多摩君。
七番セカンド原田君。
八番ピッチャー西条君。
九番ライト降矢君。

みんな頑張ってね!」

相川「とりあえずは力を見るために先発は西条で行く」

冬馬「はいっ」

降矢「ふん、ベンチか?情けねーなちんちくりん

冬馬「な、なんだよ!!」

相川「降矢、これはあくまでも練習試合だ。勘違いするなよ」

降矢「ふん、練習試合だろうが本番だろうが関係ねー。勝負は全力でやるのみだ」

冬馬「そ、それはそうだけど…一言多いんだからもうっ!」

野多摩「まぁまぁ冬馬ちゃん〜」

相川「いずれにせよ、冬馬の出番はある。気は抜くな」

冬馬「はい!!」












『よろしくお願いします!!!』


沖縄四日目、光輝く太陽の下、両軍18人の正選手達が一同に礼をする。

県立沖縄大漁水産高校グラウンド内で、沖縄大漁水産対将星高校の練習試合が始まった。


『プレイボール!!!』



『一番、ライト、上原君』


マウンドに立つのはニューフェイス西条、そして相川もサイン確認のためマウンドに登った。

砂浜と違って、しっかりした足場だ、嘘みたいに足が軽い。


相川「緊張はしてないみたいだな」

西条「修羅場は何回もくぐってきてますから」


そうだ、西条は中学の時はシニアでエースだったのだ、培った経験と強心臓なら将星高校内の中でも誰にも負けない。

これは相川にとっては嬉しい点だ、冬馬とは対照的である。


相川「サインは覚えたな」

西条「はい、少ないのがちと悲しいスけど」

相川「まぁ、いい。どこまで行けるかやってみよう」

西条「はい」

相川「それと…油断するなよ、奴らは地元の奴には『海人(うみんちゅ)打線』と呼ばれている、打撃力がウリのチームだ。一度つかまったら、点を大漁…もとい大量に取られるぞ」

西条「…」


怖気づくどころか、西条の目には炎が灯り始めた。

相手がやるならこっちもやるまでだ、西条の対抗心は強い、ボールを握る左腕に力がこもる。

相川が地面に腰を下ろした。


…サインは、スクリュー。



西条「行くで!!」


振りかぶり、右足を上げる!

そのまま左腕を思い切り振り下ろして、ボールを放つ!









グ、グンッ!!




ボールは打者の少し手前で変化し始めて、シュート回転して落ちる!

ストレートを読んでいたと思われる相手打者は体勢を崩した。


西条(どうや!)













相川「!!」


しかし、打者は完全にバランスを崩してはいない!

下半身で上手く上体をコントロールさせ、変化に合わせてミートさせてくる!















カキィーーンッ!!






西条「!?」

相川「なっ!」



相手打者の初球攻撃!!

スクリューの落ち際を上手くすくわれた、打球は鋭くセカンドの横を抜けていく!

西条はいきなり先頭打者にヒットを許してしまった。



西条(なっ、なんやて!今のは結構上手く投げられたんやけど…!)

相川(…海人打線の名前は伊達じゃないってことか)


相川は今の打者の『足』に注目していた。

降矢のサイクロン+を思い出して欲しい、あれは砂浜で素振りをすることによって下半身を強化したのだ、それが今の打者にも通じている、

ただの変化球なら、少々バランスを崩しても見事にミートされ、外野に運ばれてしまう。


相川(…予想以上に、厄介な相手かも知れんぞ)


あの砂浜での練習を続けた結果がこれか。

野球の基本は足だ、力もいるが下半身の粘りが守備も打撃も、ものを言う。



『二番、セカンド、比嘉君』


無死一塁、ここで、常識なら送りバントだが…。

相手バッターはしっかりと、バットを構えている。


相川(二番でヒッティングか…このチームよほどバッティングに自信があると見える)


相川は若干動揺しつつもすぐに、それを抑え込み冷静に西条にサインを出す。

マウンド上の西条も、もちろん動揺などしていない、かつては強豪チームに幾度も大量失点を許し降板させられた、それに比べれば初回の先頭打者にヒットを許したくらいはどうってことはない。

一度絶望を味わった西条のハートは、おそらく選手達の中で一番タフだ。



西条(…よし、行くぜ!)


西条は気を取り直して、冷静にストレートを外角に投げ込む。



バシィッ!!!


「ボール!」


際どい所だが、ボールの判定。

相手はどうやら選球眼もいいらしい、今の球に手を出してこないとなると…。


相川(これはスクリューだけの西条じゃ辛いか…いや、そんなことはない!)


投手を信じるのが捕手の役目だ。

相川は低めストライクコースにスクリューを要求した。

西条はゆっくりと投球動作に入る。


西条「しゃおらっ!!!」






ビチィッ!!


上手く指先にボールがひっかかった音が西条の耳に聞こえた。

ボールは低め目掛けて飛んでいき、打者の手前で曲がり落ちる!!

バッターもスイングに来る!!



ガキィッ!!!




西条「ショート!!」

御神楽「任されよ!!」


つまった金属音とともに打球は鈍い当たりでショートの真正面へ、すぐにセカンドがベースに入り、御神楽から球を受ける。


バシィッ!

「アウト!!」


原田「ファーストッス!」


そしてセカンド原田も素早くファーストへ送球!


バシィッ!!


「アウト!!」


西条「っしゃあっ!!ツーアウトツーアウト!!」


グラブをバシィ!と叩き、闘志を前面に押し出す西条。

スクリューでゴロに打ち取り、6-4-3の教科書どおりのゲッツーが完成した。


相川(…やっぱり、信じてみるもんだ)


野球に100%はない、それは霧島戦を大逆転した将星の選手達が誰よりも知っている。




上原「おい、比嘉、どうしたさー。あのスクリュー打てない球じゃないだろ?」

比嘉「俺もそう思った。だけど…今のスクリューはお前のときよりも変化が大きかった」

上原「…なに?」

比嘉「ただの投手じゃ無さそうだ」



西条もまた、進化し続けている。

スクリューの落ち幅はすでに入部した頃とは段違いに上がっていた。


西条「…へ!?」


そんな西条も次の打者には目を丸くした。




『三番、サード、今来留須(いまくるす)君』




六条「お、大きいです〜〜〜!!」

冬馬「大場先輩より…横に広い、かも」

三澤「うわうわ、お腹が出てる…」

緒方先生「体重たっぷり、って感じね」





大場は大きいが、それは筋肉質でがっちりした感じだ。

しかし、この今来留須というバッターは横に大きい、膨らんだ顔と体には何とも脂肪がたっぷりとつまっていそうだ、巨漢と評するのが妥当だろう。



相川(なんだ、この太いのは)

今来留須「んあー、あ、暑いんだな…早く投げてくるんだなー」

西条「うわ、汗たっぷり…」


というか汗だくだ、そして首が無い、そのまま肩に直結している。


西条(いわゆる、パワー馬鹿って奴なんか?)

相川(一応念のために、ボールから入る)



しかし西条は首を振った。


西条(わいは挑戦し続けてなんぼです、止まったら負けです)

相川(…)


まぁいいだろう、もともと西条の実力を見るためのものだ。

降矢には悪いが相川は勝ち負けはそんなに意識していなかった。

それよりもチーム内の実力があの夏の戦い以来どうなっているのかを知りたかった。


西条「行くで!デブ男ーー!!」



西条はいつもより大げさに振りかぶって、力の限りミット目掛けてストレートを投げ込んだ!



今来留須「で、デブじゃないんだなぁーーーっ!!」

相川「!」



巨漢の割りに、その太い腕は何ともスムーズに前に出てきた。

そのまま、バットはストレートを捉える。



今来留須「ふんがーーーっ!!!」




ドバキィッ!!



何とも常識を無視したような打球音がショートの頭上を突き抜ける、ボールはそのまま左中間へ!


西条「あかん!ツーベースか!」


西条は素早くセカンドベースの後ろにカバーに回るが…。



ドス、ドス、ドス…。



今来留須「あ、暑いんだなー…」

日田「何やってるさ!今来留須先輩ーー!!」

今来留須「あ、暑いものは仕方ないんだな…足も動かないんだな」


センターの県からボールが帰ってきた頃、ようやく今来留須は一塁ベースを駆け抜けていた、恐ろしく鈍足である。


西条「…見た目通りや」







しかし、西条はその後、四番金城をなんとかセンターフライに打ち取る。

ヒット二本を許したものの、何とか西条は一回表を無失点に抑えた。





一回裏、沖0-0将。










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