084比較観戦























全員『…』


全員が押し黙る。

試合のほうは一回の表の障南の攻撃を大和が三球三振にきってとる上々のスタート、対する障南だが、三回に四安打を浴び三失点。

六回で桐生院が四点リードという明暗を分ける結果になった。

圧巻なのはやはりエース大和、ここまで四死球ゼロ、障南打線をノーヒットに抑えるピッチング、ここまでの18人に対し完全に抑えている。

そしてメディアを通して見ることによって、初めてわかること。


『さぁ、大和19人目の打者に…投げました!ストレート!』


高めのストレートは障南の三番打者のバットスイングの遙か上!

画面の向こう、本日大入り45000人の客が甲子園に集まった、


『ああーーっと!これで8個目の三振、大和本日最速の147kmだ!!』


吉田「ひゃ、147km!?」

西条「は、速ぇー!」


甲子園に出場するピッチャーでも平均135km、140を越えればプロも注目するくらいだ、そう考えると大和の球速がずば抜けていることがわかってもらえると思う。

さらに切れ味抜群のスライダー、チェンジアップを使いこなす大和に障南のバッターはキリキリ舞、ドラフト指名も間違いない投手と将星は戦っていたのだ。


『三振ー!大和、素晴らしいピッチングですね』

『そうですね、大和選手は春は怪我で出場できなかったからですね、いやこれだけの投手はそういませんよ』


興奮する実況の隣の解説もべた褒めだ、大和は七回も簡単に抑えると帽子をとってマウンドを降りていく。

降矢はそんな大和の勇姿を睨みつけていた。


降矢「…」


こうして見ても、素晴らしい実力なのがわかる。

さらにいうと大和の球は球速以上に速い、だからこそあの時降矢は大和のストレートが見えなかったのだ。

どうもそれは甲子園に出場するほどの選手でも同じらしい、あのストレートと急速差が30km以上開いているチェンジアップを使い分けられると障南のバッターも手も足もでない。


降矢「…ちっ」


そして、夏の甲子園予選大会、その大和率いる桐生院を後一歩のところまで追い詰めた東創家商業を思い出して欲しい。

降矢の友である浅田はそんな化け物からタイムリーをはなったのだ。


降矢「浅田ぁ」


誰に向けた訳でもなく呟いた、頭の奥がちりちりする。

悔しさ、嫉妬、そして対抗心に体がうずく、段々バットを振りたくなってくる、そして何故か口元が笑みを浮かべていた。












桐生院はその後さらに点を追加し、総得点を5とする。

マウンド上は未だ大和がその足を地に下ろしている、球数わずか72球、まったく疲れの色を見せていない。


『…さぁ!ついに迎えた最終回、ここまで桐5-0障と五点差を追いかける障南高校、二番レフト宮前君からの攻撃です』

『大和君はここまで完全試合ですからね』


全員『おお〜〜』

冬馬「流石大和選手…」

相川「奴はやはり全国でもトップクラスの実力だったようだな」

六条「素人の私から見てもすごいって、わかります!」


『そうですね〜、まさか大会一日目から大記録が生まれるんでしょうか!?』


大和は簡単に先頭打者、次の打者を打ち取り、二死を奪った。

すでに場内も静まり返っている、誰もがその瞬間を見届けようと必死だ。


『大和、2-2と追い込んで…投げました!』


大和の右腕が放ったのはスライダー!


『カキィッ!!』


相手の選手が芯で捉えるものの、ボールはライトの上に飛んでいく。

そしてゆっくりとボールが落ちてきて、グローブに収まった。


『アウトー!!』

『ワァァァァーーッ!!』

『やった、やりました!桐生院大和完全試合達成!アルプススタンドは総立ち!大会一試合目でいきなり大記録達成です!!』



大会一日目、第一回戦じゃ桐生院が5-0と前評判どおりの実力で障南高校をねじ伏せた。

キャッチャーと抱き合う大和、そして顔を伏せうずくまる障南の選手達、その後両選手が再び整列して、桐生院高校の校歌が流れた。

将星ナインと日田も、無言でその光景を見守っていた。







日田「い、いきなり何て投手が出てきたさー!」

大場「大和君、やっぱりすごいとです」

県「ぼ、僕たち147kmなんて投げられてたんですね…そんな球を身近に体験できたなんて…」

原田「な、なんか燃えてきたッス!!自分も早く練習したいッス!」

吉田「おうよ!桐生院なんかに負けてらんないぜ!なぁ相川!」

相川「…そうだな、その通りだ」


外は相変わらずの悪天候だったが、部屋の中は熱気で充満していた。

何が彼らの心をここまで震わせるのだろうか。





テレビの中ではすでに、第二回戦が行われようとしていた。


『全国甲子園大会、一日目第二試合目の放送席を紹介します。実況はNHKアナウンサーの山田、解説は元帝王実業監督の柴田敦さんです。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『一回戦は桐生院高校が5-0で鹿児島の障南高校を下しました。ハイライトをご覧ください…』



六条「あ、第二試合目はドコとドコなんですか?」

三澤「えーと…神奈川県の横濱高校と、岩手県代表の専大喜多上(せんだいきたうえ)」

県「横濱というと…あのライオンズの松坂選手の母校ですよね」

御神楽「そうであるな、春夏連覇の経験もある強豪校だ」



『次の試合はこれまた面白いカードですね、柴田さん』

『そうですね、横濱は特にエースの和久井君が注目されてますから、松高以来の不動のエースと呼ばれていますしね』

『対する専大喜多上はどうでしょう?』

『どちらかというと守備のチームですからね、この試合どう和久井君を打つかがポイントとなりそうですね』

『ありがとうございます。さぁ、両軍の先発メンバーを紹介しましょう…まずは先攻の横濱高校、バッテリーは投手和久井、捕手北方の三年生コンビ。他は二年生が大目で組まれていますが、注目なのはセカンドですね』

『あー、一年生ですか?』

『はい、唯一の一年生レギュラー、県大会でも.678の高打率を残している六番セカンド波野君ですね』


野多摩「な…」

冬馬「ナギちゃん!?」

西条「波野!?」


同時に三人が声を上げる、そして顔を見合わせた。


相川「なんだ?お前ら知り合いか?」

冬馬「は、はい。一応…」

西条「波野はちょい前、シニアの世界大会で一緒に戦った元チームメイトですわ…名門横濱に行ってるとは全然知らんかったで」

野多摩(妙な所での接点、世の中狭いなぁ〜)


画面に映し出されるノック練習を行う波野、冬馬の野球のきっかけとなった人物であり、西条の元チームメイト、そして横濱のただ一人の一年生レギュラー。


冬馬「ナギちゃん…こんな所にいたんだ」

西条「波野…横濱にいたんか」

御神楽「それにしても名門横濱で一年生レギュラーとはすごいな、それなりの実力があるということか」




台風の影響か甲子園の上空は少しづつ曇り始めてはいたが、第二試合目は定刻どおり11:00にプレイボールの号令がかかり、試合が開始された。

試合前半は横濱和久井と、専大喜多上の塚田の投げあいとなる、両者ともにヒットは許すものの、二塁を踏ませないまずまずの立ち上がり。

そんな中、六番波野の甲子園初打席が回ってきた。


『六番、セカンド波野君』

『さぁ、初打席ですね波野、前情報によると難しいコースを打つのが上手いらしいですね』

『そうですね、予選の試合を見る限りは、特に外角系統の球は変化球でも直球でも上手く打ちますね、そこを買われたんでしょうか?』

『注目の波野選手、専大の先発塚田、第一球を…投げた!』

『…カキーンッ!!!』


吉田「!」

降矢「上手い!」


投げられたボールはおそらく外角へ曲がり落ちるカーブ、だが波野は上手くそれを左中間に運ぶ、流石レギュラーに選ばれるだけのバッティングだ。


冬馬「ナギちゃん…」


画面の中の波野はファーストコーチャーと軽く拳をあわせ、バッティンググローブを外している、その姿は西条、冬馬にとって何とも眩しく映った。

続く七番、八番が倒れ、横濱は無得点に終わるが、その後も波野は三打数二安打という好成績を残す。

試合の方は、横濱が波野のヒットから虎の子の一点が入り、その一点をエース和久井が守り通し、横濱高校が試合を精する事となった。



『…これで二回戦はいきなり大会優勝候補の桐生院と横濱が当たる事になります、注目の和久井は今日は専大喜多上を6安打に抑え上々のピッチングでした。それでは横濱高校、杭瀬監督の談話をお届けいたします』


西条「…負けてられへんな」

冬馬「うん…ナギちゃん!待っててね!」

野多摩「わ、わ、待ってよ二人とも〜!」


西条と冬馬の二人は頷くと駆け出した、窓の外、沖縄の雨はすでに上がり始めている。


吉田「よっしゃ!!皆行くぞ!練習再開だ!!」

三澤「うん!」

六条「了解ですぅ!」

県「はい!!」

大場「行くとです!」

御神楽「やるか…!」

原田「やる気MAXッス!!」

緒方先生「う〜ん、いいわね!青春よ!青春してるわよ皆〜!」

日田「わーも負けてられないさー!!」


目を輝かせ、部屋を飛び出していく将星ナイン。

彼らを熱くさせるのは、野球が野球だからだ他に理由はいらない。

いずれは自分達もあの栄光の場所に立って、土を踏みたいのだ。








降矢「…大和、望月、桐生院」


降矢は最後に部屋を出る前に呟いた。
















降矢「待ってやがれ―――――」
















back top next

inserted by FC2 system