083夏の甲子園























日田「こりゃ直撃さー」


早く起きた降矢と相川はすぐに連絡を取りに一階に降りた。

一階ではすでにロビーでは日田が置いてあったテレビをチェックしていた。

ドザー…ガタガタァッ!

外は相変わらずの豪雨と暴風、玄関のドアが揺れている。


相川「大丈夫なのか?」

日田「良くあることさー、それにここは高いから津波の心配も無いさー」


日田は緊急事態にもかかわらず、あっけらかんと答える。

どうやら、こういう事態には慣れているようだ。


降矢「暴風警報、大雨洪水警報…」

日田「でもすぐに通り過ぎるさ〜、多分昼からは普通に練習できると思うさ?」

相川「そうだな、三時には完全に通過するみたいだ」


テレビの天気予報氏もそう言っていた。

縮小された日本列島の上に大きな白い渦のかたまりがのっかっている。

これが今頭上にあるのだ、降矢は日田の隣のいすに腰を下ろした。


降矢「で?どうすんだよ相川先輩」

相川「昼間では室内で軽いトレーニングぐらいしかできないな」

日田「今外に出ると飛ばされるさー」

降矢「見りゃわかる」


死にに行くようなものだ。


相川「降矢、とりあえず部屋に戻ろう。皆に伝えなくちゃならん」

降矢「そーだな…ん?」


その時、ニュースは他の映像を映し出した。





壁にびっしりとへばりついたつる、その上にかかった『阪神甲子園球場』の文字。

『今日から夏の甲子園大会が開催されま、心配されてた台風も遅れ、開会式は今日行える模様ですね』



日田「あーそういえば今日からさ、甲子園!」

降矢「ふーん…これが甲子園か」


映し出されていく選手達の顔や監督達の顔ぶれ、その中に見知った顔があった。

黒髪に鋭く光る目、忘れもしない桐生院のエースだ。


相川「大和…!」

降矢「なんだと!?」


『今日は開会式の後すぐに第一試合ですよね、抱負とかありますか?』

大和「自分は最高のピッチングを心がけるだけです」

『相手は古豪、鹿児島の障南高校ですね』

大和「そうですね…でも自分も頑張るだけです」

『次は笠原監督にインタビューを…』



相川「桐生院は一回戦の第一試合目からか…いきなりだな」

降矢「おい相川先輩、練習撤回だ。桐生院の試合を拝ませてもらおうぜ」

相川「…そうだな、各自の研究にもなるだろう」

日田「あ、そうか桐生院と同じ地区なんだったさ?」


ギリ、と降矢は歯を鳴らした。


降矢「大和…か!」

相川「行くぞ降矢」





















今年の夏の甲子園はかなり人気がある。

その理由は各高校に個性的な選手達が多数あるからだ、近年続いていた高校野球の不人気は今年はないだろうと思われている。

優勝候補も多数あり、どこが頂上をとるか予想のつかない展開となっている―――」


多佳子「だってさ」

日田「うお!?たかネーネー!いつのまにいたさ!?」

多佳子「今起きた所よ、ふわ…朝からうるさいわねぇ」

日田「ん?ネーネーそれなにさ?」


日田は日田姉が持っていた本に目をつけた。


多佳子「これ?今年の甲子園のガイドブックよ、一応この旅館にも回ってきたの」

日田「あ、そうか。那覇は近くだったさ」


那覇というのは、今年の沖縄の代表校である、那覇高校のことだ。


日田「…ふーむ、一番注目されているのはやっぱ桐生院さ…



『群馬県代表、桐生院高校(きりゅういんこうこう)
昨年準優勝校、今年はレギュラー全員三年生。
エース大和をはじめ圧倒的な実力で悲願優勝を狙う…ランクA』

その本…『甲子園特集!』にはそう書かれていた。

他にもちらほらと知った名前がある。


『東東京代表、暁大学付属学院高校(あかつきだいがくふぞくこうこう)
エース一ノ瀬、捕手二宮、大会屈指のバッテリーを要する…ランクA』


『神奈川県代表、横濱高校(よこはまこうこう)
かつて幾度と夏を制し、エース和久井、そして大会屈指の好打者住井、攻守ともに安定し頂上を目指す古豪…ランクB』


『西東京代表、帝王実業(ていおうじつぎょう)
昨年春夏連覇を果たした、今年は去年と比べると若干戦力ダウンも見られるが、期待の一年生山口投手がどこで出てくるか…ランクB』



『南北海道代表、白老北陵高校(しらおいはくりょうこうこう)
投打の要であるエース薬師寺、四番御門の二人の実力は全国屈指。
しかしその他のメンバーの打撃力に若干の不安あり。堅い守りで優勝を目指す…ランクB』


『青森県代表、宗北学院(そうほくがくいん)
主役級の選手はいないが、名門らしい、堅実な守備と巧みな打撃で優勝を狙う。一年生が複数メンバーにいるのが特徴…ランクC』


『茨城県代表 大東寺高校(だいとうじこうこう)
全国屈指の剛腕、桐原と強打者吉良国が率いる優勝候補。選抜大会の雪辱はなるか。名称、大道監督の采配にも注目…ランクA』


『和歌山県代表  地勉和歌山(ちべんわかやま)
これといった注目選手はいないが、総合力の高さで優勝を目指す近畿の優勝候補ナンバーワン…ランクB』

『高知県代表 冥督義塾(めいとくぎじゅく)
かつて連覇も果たした実力のある強豪高校、今年こそは優勝を目指す。四国の強豪いまだ健在…ランクB』


『福岡県代表 誠胴学園(せいどうがくえん)
不作と言われていたが、それでも甲子園に出場するのは立派。レギュラーに一年生がいる、珍しい布陣で臨む…ランクB』




『果たして真紅の旗を手にする高校はどこに!?注目の桐生院高校は一日目の第一試合目、いきなりそのベールを脱ぐ!』



多佳子「面白そうよね、今年は…」

日田「他のチームも中々強いさ、これは今年の夏はわからんさー!」












テレビの時計はそろそろ九時をさそうとしていた。

ロビーじゃなんなので、宴会上にテレビを運んできてもらい、その箱に視線を注ぐ将星ナインと日田。

こちらの状況とは全く違い、画面の中の兵庫県西宮市に位置する甲子園の空は青い、照り付ける太陽の日差しがまぶしく絶好の試合日和となっている。

そんな中、グラウンドの一部に規律良く整列した全国から集ったそれぞれの選手たち。

行進も選手宣誓も終わり、整備の人たちがグラウンドに水をまく。


吉田「く〜〜〜!!!いいなぁ、甲子園!カッコイイー!」

三澤「傑ちゃんの夢だもんねっ」

六条「皆さんなんだか強そうなオーラが漂ってますね…」

御神楽「今年は強豪ぞろいだからな、混戦になるだろうと予想はされている」

原田「そんな中でも桐生院は強豪に入るって言われてるッスからね」

緒方先生「そこと試合したのよね…考えるとすごいことね」

野多摩「え〜?」

県「あ、そうか野多摩君と西条君と六条さんは知らないんですよね」

西条「ま、一応知ってることは知ってるけどな、わいも桐生院とやりたかったわ……アイツも、おるしな」

大場「あれは強すぎるとです!」

相川「ま、その桐生院の戦いを拝ませてもらおうじゃないか」

降矢「なんでお前顔赤いんだよちんちくりん」

冬馬「う、うるさいなっ…もう」

日田「あっ!始まるさー!!」


大会一日目、一回戦。

先攻、障南高校対後攻、桐生院高校。

両者が向かい合って並び整列、帽子をとって礼。

そして、テレビでもわかるそのサイレンの音の大きさ、マウンドに立つ桐生院高校のエース、背番号1大和。






『プレイボール!!』






今年の夏が幕をあげた。









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