081接待強行軍





















練習から疲れて帰ってきても、その後は旅館での仕事が待っている。

将星ナインはひきずる足を持ち上げて仕事に従事しなければならない。

今日は吉田の方を覗いてみよう。


「おーい兄ちゃんなんかやってくれや〜!」

「そうだそうだ!」


宴会の広間で酒に酔っ払った大人たちから大きな声が飛ぶ、今日は観光客ではなく仕事の都合で来たサラリーマン達をもてなさなければならない。

という訳で料理や酒を運んできた相川や吉田、御神楽と県はそんな酔いどれ親父達に絡まれてしまっている。

旅館の女性従業員も苦笑いだ、しかしお得意さんらしく無理矢理止めるわけにも行かない。


吉田「んなこと言っても俺達バイトだしなー」

相川「すいませんが、そのような事は…」


その時ガラガラ、と奥のふすまが開いた。


県「あれ?日田君のお姉さん」


沖縄の民族衣装に着替えた日田のお姉さんが酔っ払っている人たちにしなだれていく、流石緒方先生の友人だ、何とも色気が漂う。


多佳子「ごめんねぇ〜、ちょぉっと待っててさ?」

「おうおう!待っちゃうよ多佳子ちゃ〜ん!!」

相川「…ここはキャバクラか」

多佳子「失礼ね!…それより、なんかやって頂戴よアンタ達、由美子には私から言っとくからさ」

御神楽「何かといわれてもな」

県「う〜ん…」

多佳子「上手く言ったら、バイト代払うから〜」

吉田「やろう!!やったろうぜ皆!!」


声高に吉田が叫んだ、三人は体をビクッと震わせる。


相川「お前は相変わらず考えなしだな」

県「で、でも何かできるんですか…?」

吉田「馬鹿野郎!俺たち野球部だろ!」

「おおっ!?兄ちゃん、野球やってんのか?」

「剛君とこの大漁水産とどっちが強いんだ?!」

相川「明後日その大漁水産と試合するんですよ、良ければ見に来てください」

多佳子「ただし、入場料取るからね」

「そりゃねーよ多佳子ちゃ〜ん!」

御神楽「で、吉田よ、どうするんだ?」


吉田「俺達野球部なんだから…よし待ってろおっちゃん達!!」


吉田はドタドターと廊下に消えていった。

…と思えばすぐに帰ってきた、バットを抱えて戻ってきた。


多佳子「バット?…何するつもりさ?」

吉田「まー見てなって」



そういうと吉田はくるくるとバットを回し始めた。


吉田「吉田君のバットショー!!!!」

県「み、皆さん拍手〜!」

『わーー!!パチパチパチパチ!!』


県の声にあわせて二十は越える客人たちから拍手が飛ぶ、すると吉田は部屋の奥にある舞台の上に乗った。


吉田「ではでは、皆さんとくとご覧あれ!」


何故か胸元から取り出した野球のボール、バット上でそれを軽く叩く、するとボールは上に上がる、それがまた下に落ちてくる、それをまた軽く当てて上にあげる。


吉田「よーいしょーい!」


なんと吉田はバット一本でそのボールをトスアップし始めた。

コン、コン、コン…。

三回、四回、五回、バランスが崩れても吉田は一向にボールを落としそうに無い。


『おおおおおお!!!!』

「すげー兄ちゃん!!」

「やるじゃねーか!!」


吉田「はっはっは!!ほいよ、相川!」


吉田はちょうど十回バットに当てたところで、相川に向けて打ち返した。


「に、兄ちゃん!危ねー!!」


相川「…ほい」

パシィ。

しかし、相川はいつのまにかキャッチャーミットを持っていて、後ろを向いたままキャッチした、神技だ。



『す、すげーーーー!!!』

「兄ちゃん達すげーな!芸人か!?」

御神楽「いや、野球部だと言っておるだろうが」

「もっかいやってくれよ、もっかい!」

吉田「はっはっは!おっしゃー」


コンコンコン…。

吉田はアンコールに答えてもう一度トスアップし始めた。

これははっきり言ってすごいことである。

丸みのあるバットの、しかもその頂点でボールを捉え続けなければすぐに見当違いの場所にバウンドしてしまう。

吉田の類稀なるミート力を垣間見る行動といえる、体のバランスさえ崩れなければイチロー並みのバットコントロールといえる。




多佳子「ふぅ…こっちは大丈夫ね、後頼んだわよ相川君」

相川「…任されても困るんですが」

多佳子「そう言わないで引き受けなさい、いい?」

相川「…ふぅ、了解」


渋々と言った感じだったが、相川は頷いた。



多佳子「そんじゃ、私は柚子ちゃんと由美子の所見てくるからさー」

相川「はい、とりあえずは何とかします。また様子見に来てください」

多佳子「はいはい、んじゃさー」


そういうと着物のすそを持ち上げて、とたとた廊下を走って次の部屋に移動する日田姉。

せっかくの民族衣装だが、何とも不恰好な格好だ。

そして襖の前に来ると、そろそろ〜とドアを開けた。


野多摩「あ、多佳子さん〜」

冬馬「うう…なんで俺がこんなことを…」

緒方先生「あら?二人とも似合ってたわよ」

三澤「先生も似合ってますよ」

六条「みんな綺麗…はぁ…」


こちら五人も沖縄の民族衣装を着て接待、たった今終えたようだが。


冬馬「うう〜…俺も降矢達と一緒に皿洗いでよかったのに…」

野多摩「ま〜ま〜」


部屋の隅でいじける冬馬となぜかはしゃぐ野多摩、その顔には口紅と化粧、完璧に女装させられていた。

ただ一番怖いのはこの二人は女装しても別に違和感が無い、という事だ。

もともと女顔の冬馬と、あどけない子供のような野多摩。

もちろん三澤、六条、緒方先生もしっかりとおしろいをしているが…。


多佳子「えーと、とりあえず後はうちの人がやってくれるから、今日はもう終わりね。ご苦労様〜。料理の方部屋に運んでおくから、食べてからお風呂にしてくれない?」

緒方先生「わかったわ。服は昨日の通りに女将さんに預けて置けばいいのね」

多佳子「あー、うん。でもママいなかったら適当に服たとんで置いておいてさ」

五人『はーい!』





その後、豪勢な沖縄料理が出て、五人はそれぞれ部屋に戻った。


冬馬「う〜疲れた〜…くたくただよぉ」

野多摩「だよね〜冬馬ちゃん。練習の後仕事ってハード〜」

緒方先生「ほらほら、しっかりして二人とも。お風呂入ってきなさい」


こうしていると緒方先生はしっかり保護者している、相川が特別しっかりしているだけなのだ。


冬馬「え!?…お、俺は風呂は後ででいいよ!」

野多摩「え〜?また?昨日もそうだったよ、今日は一緒に行こうよ〜男同士の友情を確かめようよ〜ちゃんと汗流さないと匂いがつくよ〜」

冬馬「な、流してるよっ!」

緒方先生「そう…それじゃ私は先に入ってくるわね」


ガラガラ、ピシャリ。


緒方先生は鼻歌を口ずさみながら部屋を出て行った、相当温泉が嬉しいのだろうか。


野多摩「う〜ん、じゃあボクは西条君の所へ行って来るよ〜」

冬馬「あ、俺ちょっと用事あるから部屋に残るね」

野多摩「わかった〜それじゃ〜」


ガラガラ、ピシャリ。


そして部屋に一人残された冬馬。











冬馬「一緒に入れるわけ無いよ…」




冬馬は一つため息をついた。




冬馬「…着替えなきゃ」


そしてシャツに手をかけて、上を脱ぎ始めた。
























ガラァッ!

突然、部屋の扉が開いた。


野多摩「あ、そうだ。冬馬ちゃんはお風呂いつ入る…」



冬馬「――――――っ!?」






野多摩「の…………」










シャツの下、何故か冬馬の胸は膨らんでいて、さらしが巻かれていた。







冬馬「…あ!!!」



野多摩「ふ、冬馬ちゃんって…お、女の子――――!?」



















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