079日田姉と緒方先生。
海岸へと降りることができる階段を歩く女性が二人。
一人は豊満な胸を持った、というか緒方先生。
もう一人は日田剛の姉、日田多佳子である。
緒方先生「え?じゃあ多佳子も顧問やってるの?」
多佳子「まぁ、あたしは先生じゃないけどね。一応あの悪ガキどもの面倒を暇なときは見てやってるくらいさー」
さらりと髪をかきあげる日田姉、背中の辺りまで伸びた黒いロングの髪。
整った顔立ちは美人と言える、ただ性格はさっぱりと竹を割ったような性格だが。
後ろで手を組んだまま、見上げるように振り返る。
多佳子「私だって初耳さ、由美子が野球の顧問やってるなんてさ」
緒方先生「そうね〜、しばらく音沙汰無かったもんね」
多佳子「どう?彼氏とかできたの?」
緒方先生「…うぅ〜…」
緒方先生はいきなり目を潤わせた。
多佳子「へ?いないの?」
緒方先生「いたら一緒に来てるわよ!」
多佳子「あんたのこの胸で男が釣れないとはねー」
日田姉が両手で緒方先生の胸を寄せてもみしだく。
緒方先生「ひぁうっ!?む、胸は関係ないって言ってるでしょ!」
多佳子「ま、いいんだけどさ。まだまだ若いし」
緒方先生「そういうアンタはどうなのよ?」
多佳子「んー、あたしの酒についてこれる男まだ出会っていないさ…」
緒方先生「アンタはお酒に強すぎるのよ」
ため息を一つつくと、緒方先生は思いついたように日田姉に聞いた。
緒方先生「そういえば…多佳子のとこは監督とかいないの?」
多佳子「いるさ、一応。でも忙しいからたまにしか練習に来れないみたいね。…教える腕はいいみたいだけど」
緒方先生「なんでわかるのよ?」
多佳子「この間まで一回戦敗退のチームが、今年の夏は沖縄ベスト4だからね」
緒方先生「ええっ!?本当なの?」
多佳子「これも我が弟のおかげさー」
はっはっは、とどこかのキャプテンのような高笑いを空に向かってする日田姉。
多佳子「でもあんたんとこは創部して二年目でベスト4でしょ?しかも、あの桐生院に負けたんなら仕方ないじゃない」
緒方先生「あの子達も頑張ってるんだけどね、やっぱり強いわ」
多佳子「ま、あんたはあんたで支えてあげなさいよ。顧問でしょ?」
緒方先生「野球のルールもあんまり知らないけどね…」
多佳子「いざとなったら体で奉仕してあげるさ」
むにゅりっ。
緒方先生「だ、だからアンタは勝手に人の胸を触らないでよ!」
多佳子「まぁまぁ…あら?何だか盛り上がってるみたいね」
砂浜に下りてくると、向こうの方で沖縄大漁水産の面々が何かを真剣に見ている。
緒方先生「相川君、冬馬君、何かあったの?」
冬馬「あ、先生ー…と日田さん、おはようございます」
多佳子「あはは、おはよう。今日も可愛いわね冬馬ちゃんはぁ〜!」
むぎゅりと日田姉に抱きしめられてほお擦りされる冬馬、やめてくださーい、という悲鳴がむなしく響く。。
相川「それが、また降矢が勝負してますよ」
緒方先生「勝負?」
冬馬「うん、日田君と今向こうで一打席の勝負してるんだけど…」
冬馬が指差した方向は先ほど緒方先生と日田姉の目に入ってきた大勢の人の面々だ。
多佳子「あらあら、面白そうなことやってるじゃない!行くわよ由美子!」
緒方先生「ちょ、ちょっと!多佳子!?」
冬馬「あ、行っちゃいましたね」
相川「ほっとけ、俺達は俺達の練習をするぞ。休憩は終わりだ、立て冬馬」
冬馬「ふぇぇ〜…もうですか…?」
西条「当たり前や!わいなんかさっきからずっと投げてんねやで!」
冬馬「…頑張りまーす」
そして話は前回の続きに戻る。
日田「シーサードロップ!!」
日田の右腕が放つ、カーブでもフォークでもない球種。
ボールは打者の手前まで来て、曲がり落ちる!
降矢「くあっ!」
ガキィッ!!…ガシャァッ!!!
打球は真後ろに飛び、バッティングケージにぶつかった。
降矢も負けてはいない、しっかりとバットをボールに当ててくる。
日田(…さっきはカットで逃げただけだったけど…ボールが真後ろに飛ぶってことは、今回はタイミングがドンピシャってことさ…なんてあらん奴さー!)
そう、降矢はミートの瞬間のタイミングを初対戦のわずか二球目で完璧にあわせてきている。
脅威の集中力と順応力だ。
降矢(成る程、今まで見えなかったものが見えてくるぜ)
降矢はあれ以来スイングのスピードをひたすらに上げてきた。
それは打球の飛距離を伸ばす事にもつながるが、スイングが速くなるというのはわずか0コンマ何秒かの差だが、一瞬球を待てるということだ。
つまり余裕ができる、ということだ。
しかしそのわずかの時間を余裕と感じることができる感覚を持っている降矢のセンスはずば抜けている、ということを付け加えておく。
今の降矢のセリフは、つまりそういうことだ。
日田「やるな、金髪!…お前はあらん奴さ」
降矢「あらんのか、あるのかは知らんが、こんなもんで俺を抑えられると思ったら大間違いだぜ」
標的は桐生院だ、こんな所で止まってられない。
三球目、日田が振りかぶった。
日田「手加減しないさ!次も『シーサー』!打てるものなら…」
大きく足を振り上げ、地面につくと同時に右腕をマサカリのように振り下ろす!
日田「打ってみろさ!!!」
ギャァッ!
降矢(速い!!)
先ほどのシーサーよりも速い!
ここまで来るともうストレートなみだ、下手すると冬馬のストレートと同じくらいの速度かもしれない!
降矢「…打ってやろうじゃねーか!!!」
地面にはき捨てた言葉と同時にバットがすごいスピードで出てくる!
そのままスイングに行く―――!!!!!
日田「!」
降矢「!」
バットはわずかボールの上を捉えてはいるものの、芯だ!
そのまま降矢はバットを振り切る!
降矢「だらあぁぁーっ!!」
カキィィ――――――ン!!!!
降矢のバットから鼓膜を振るわせる金属音が弾ける!
打球は勢い良く砂の上をバウンドして、三遊間の間!
降矢「抜けたかっ!?」
吉田「いや!降矢!走れ!!」
ギャラリーの方から吉田の声が飛ぶ、その声に驚いて降矢は一塁へ向かう足の回転を速めた。
バシィッ!
砂で不規則にはねたバウンドだったが、ショートが横っ飛びでファインキャッチ!
六条「!!」
原田「う、上手いッス!」
御神楽「しかし、あの体勢からは投げられんぞ!」
しかし、ショートはすばやく体勢を立て直すと、ノーステップでファーストへ送球!
吉田「すげぇ!」
野多摩「うわ〜」
三澤「肩強ーいっ!」
緒方先生「嘘ぉ!!」
多佳子「あっはっは、どうやるでしょ?」
降矢「馬鹿が!!」
しかし降矢も負けずにファーストを駆け抜ける!
バンッ!
バシィッ!
降矢がベースに足を着いたのとほぼ同時にファーストミットにボールがおさまった音が聞こえた。
『…』
辺りが静まり返る、真剣勝負の判定は…。
「あ、アウトさー!」
吉田「何言ってんだ!セーフだろうが!
日田「一瞬、降矢のほうが遅かったさー!」
降矢「んな訳ねーだろ!!」
野多摩「ん〜どっちだろ?」
三澤「微妙な判定だよぉ」
『あーだこーだ』
両陣営がファーストに集まって、ザワザワと騒ぎ出した。
どうやらこのままでは収集がつきそうにない。
パンパンッ!!!
多佳子「はいはい!静かに静かに!」
日田姉が両手を叩いて、選手達を静かにさせる。
『姉御!』
『姉御じゃないっすか!』
日田「たかねーねー、いつからいたさー!?」
多佳子「ずっと見てたわよ!」
緒方先生「そ、それよりも多佳子、アンタ姉御って呼ばれてるの…?」
日田姉は苦笑しながら、両手を上げた。
多佳子「今の勝負、引き分けさー!」
『ええええーー!?』
日田「な、なにさーそれは!?」
降矢「納得できねーな」
食いかかる二人に対して、日田姉はニヤリと笑みを浮かべた。
多佳子「実は明後日から、野球部がグラウンドを使えるさ。…勝負は試合でつけなさい!」
日田と降矢は顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
降矢「…いーぜ、勝負はお預けだガングロ」
日田「決着は試合でつけるさ、金髪!」
降り注ぐ日差しの中、二人の選手が笑いあった。
相川「…し、試合?」
多佳子「そうなの、どう?了承してくれるかしら?」
相川はまた頭が痛くなった、どうも予定通りに行かない合宿だ。
相川「なんでわざわざ俺に聞くんですか?」
多佳子「そっちの吉田キャプテンが『そういうことは相川に言ってくれ!』って言われたからさ」
相川は額をおさえた。
相川「…まぁ、いいでしょう。ゆくゆくはこちらとしても練習試合を申し込むつもりでしたから」
多佳子「本当?よし、決まりさ!みんなー今からしっかり練習しなさいよ!負けたらただじゃおかないからねーー!!」
『オオオーーッス!!』
多佳子「それにしても…しっかりした子ねぇ。由美子、あんた顧問じゃないの?」
緒方先生「こういうことに関しては相川君のほうが優れてるのよ、どう?いい生徒でしょ」
相川「そう思うんなら、緒方先生もしっかり指示を出せるようにしてください」
緒方先生「わかってるわかってる、任せなさいっ」
胸をはられると、一層その巨乳っぷりをアピールされる事になる。
相川は、少したじろいだ。
西条「相川先輩!試合するんッスか!?」
相川「らしい…って西条、もう休憩終わりか?」
西条「ウィッス!冬馬君だけじゃなくて俺にも色々教えてください!」
相川「いいだろう、じゃあ大場、変わりに冬馬の球を…」
大場「おおおおおおおおおおお!!!!」
冬馬「んにゃあああああーーーーっ!?」
相川「…吉田、冬馬の球を受けてやってくれ」
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