077旅館イベント





















砂浜での練習は将星ナインにとっては想像以上に辛かった。


相川「セカンド!」


カキィッ!!


相川の打った球が原田の方へと向かって行く。

しかし、打球の勢いが砂で殺される上に、打球が思わぬ方向へ弾むので相当

捕球しにくい。

おまけに砂は足元の移動力を恐ろしいほど奪う。


原田「ずああッス!」


バシィッ!!


何気なく打ったゴロだったが、原田はまるでファインプレーをするかのよう

に打球に飛び込んで捕球した。


相川「…」


予想以上の砂の威力には相川自身が一番驚いていた。


原田「はぁーはぁー…」


ノックは原田で最後になるのだが、他の部員全員がノックダウンしていた。

この暑さと砂は容赦なく体力を奪っている、一度休憩にするのもやむをえな

い。


相川「休憩だ、しばらく休みとする」

原田「ありがとうございましたッス!」

野多摩「ふぇ〜…」

冬馬「にゅ〜…」

大場「のびてる、冬馬君と野多摩君も可愛いとです!」

県「ぜぇー…ぜぇー…」

御神楽「これは予想以上に…」

西条「しんどいで〜…」

六条「み、みなさん飲み物買ったきましたけど…」

三澤「すごいありさまだね…」

吉田「ぐあ〜…流石にこれは疲れるぜ…」

緒方先生「だ、大丈夫吉田君?」


降矢にいたってはしゃべることもできないらしい。

相川はそんな中、日田の沖縄水産の練習を見ていた。


相川「…」


今は連携プレーをやっているらしいが、慣れているのか動きは軽快だ、あっ

という間にセカンドからファーストへ、ファーストからサードへとボールが

行き渡る。

この暑さの中であれだけの動き、流石だ。

先ほど日田がランニングで見せたあのスタミナもこの練習が生んだのだろう

か。

相川は地面の太陽に焦がされ熱くなった砂をすくい上げた。

それはまるであざ笑うかのように指の隙間から落ちて行った。




向こうも練習のキリが良く休憩に入ったのか、選手は散り始め談笑し始めた



そして日田がこちらへと歩いてきた。


日田「みんなバテバテさー、大丈夫?」

相川「剛君はタフだな。やはりこの練習を続けているからか?」

日田「んー多分そうさー。わーも最初は苦労してボロボロになったさー」

相川(これは中々いい練習方法に出会ったかもしれないぞ)

日田「一つだけ言うと・・・」

相川「?」

日田「砂の上ではしっかりと足を上げないと動けないさー、すりあしみたい

に足をスライドさせて楽に移動するから疲れるさー」


そういえばさっきの沖縄水産の練習を見ていると、どの内野手も軽快な足裁

きを見せていた。

あの守備は上手い、沖縄水産という名前はあまり聞いたことがないが、これ

から確実に甲子園の舞台にいつか上がってくるだろう、相川はそう確信した









その後軽くキャッチボールと連携プレーをこなして一日目の練習を終えた、

すでに皆ボロボロである。

海岸から道へ戻る階段を上るだけでも辛そうだ。


金城「吉田君、大丈夫さ?」

吉田「はっはっは!何の何の!」

三澤「傑ちゃん、足ガクガクだよ…」


ようやく部屋にたどり着いたときにはすでにみんな地に伏せていた。

倒れこむように、畳の上に体を預ける面々。


降矢「…」

県「つ、疲れました〜…」

大場「砂、砂が襲ってくるとです!」


すでに悪夢にうなされている者もいた。


御神楽「さ、流石の帝王と言えども今日は辛かったな…」

吉田「はっはっは!…足が痙攣してるぜ!」

西条「あかん、もう目の前が暗い…」




相川「ここで一つ、お前らをガッカリさせる知らせだ」


同じく完全に畳にうつぶせの相川から、ずいぶん低いトーンの声が聞こえた




西条「な、なんやて?」

降矢「何かやらせるつもりか?」

相川「ご名答、この旅館に泊まらせてもらう変わりに…………俺達は働かな

きゃならない」

御神楽「…な、何だと?」

原田「い、今からッスか?」

相川「……無事を祈ってる」

降矢「…殺す気か―――!!」








そんな事を言いつつも、調理場は意外と涼しかったので降矢はまぁ、いいか

と思ってしまった。

降矢「こんなもんでいーか」


ゴムエプロンに身を包んだ間抜けな格好の金髪が、白い円盤をいくつも積み

重ねていた。


西条「おい、降矢。手ぇ抜いたらあかんて」

大場「割らないように注意注意…とです」

原田「皿洗いは楽ッスね〜」


この四人は調理場の奥で皿洗いを担当することになった。

ちなみに緒方先生、三澤、冬馬、野多摩は民族衣装っぽいのを着て接待。

吉田、相川、御神楽、県は客室に料理を運んだりしている。

各担当に当てられた理由は考えてくれ、きっとすぐにわかると思う。



降矢「こんなもんッスかー?」

???「甘い!まだ洗い足りないさー」

大場「あ、日田君とです」

日田「金髪〜、これじゃお客さんが怒るさー」

降矢「なんだよガングロ、なんでお前ここにいるんだよ」

日田「ここは民宿「日田」さ!一応わーもここの息子だから手伝うのは当た

り前さ」

西条「そういえばそうやったなぁ」

原田「日田君は接待とかしないッスか?」

日田「親父にお前はまだまだ調理場の奥で修行だ!って言われてるさー」

降矢「なかなか厳しいじゃねーか」

大場「やっぱり、後取りとですからね」

日田「野球やってるのもあまり良い顔はされないさ、大好きなんだけど…」

西条「ええやんか!自分の好きなことやったらええねん!」

降矢「…無責任だなジョー」

西条「だってそうやんけ、嫌な事やってもつまらんやろ?」

日田「それでもやることはやらないとさー」

原田「日田君かっこいいッスねー」

西条「わいは気に入ったで日田君!」

日田「あい!なら後で親父の『泡盛』をこっそり…」

降矢「…よし、俺も混ぜろ」


ちなみに泡盛とは沖縄のアルコールが強いお酒のことである。


「おーい、剛ー。お前ら先に風呂さ入れー」


しばらく談笑しつつ仕事をこなしていくと、調理場の奥から若い料理人の声

がかかった。


日田「わかったさー!ゆーことで風呂入りに行くさー!」

原田「も、もしかして温泉ッスか?」

日田「当然さ〜!」

降矢「おい、沖縄に温泉なんかわいてんのか?」

西条「わいに聞くなや…」

大場「こここここ、混浴」

日田「残念ながら違うさー」

大場「冬馬君と野多摩君・・・」

西条「時間帯は見事にずらされとるよーやな」


「ゆ」とひらがなて書かれた幕の横に各部員の入浴時間がかかれていた。

この時間帯はどうやら貸しきりのようだ。


大場「がっくり…」

原田「目に見えて落ち込んでるッスね…」

降矢「あほか、入るぞ」


ガラリとドアを開けると中々広い浴場が広がっていた、しかも露天だ。

五人はさっさと服を脱ぎ、肩まで湯に体を沈めた。

若干温度は熱いが、それがまた心地よい。


降矢「…くあー」

西条「疲れた体に染みる…」

日田「二人ともおっさんさー」

降矢「あんだと、テメー」

日田「あはっ!金髪どうやら元気になったみたいさー」

降矢「…まあな、暑さが苦手なだけ、だ」

日田「すぐに慣れるさー」


ぶくぶく、と日田は湯に顔を沈めて泳ぎ始めた。

降矢はガキか、と呟いて体を思い切り伸ばした。


西条「大体降矢はクーラーとかに当たりまくってそうやもんなー」

原田「体が重くなるッスよ?」

降矢「余計なお世話だ」


大場「にしても…日田君はどこを守ってるとです?」

西条「おっ、そうや!野球の話や!」

日田「わーは投手さー!」

降矢「あん?」


日田の体格は普通、と形容するのがいいのか。

日に焼けた体が爽やかだが、それほど体つきが良いわけでもない。


日田「なんさ、その目はー」

降矢「お前みたいなガングロに投手できんのかよ」

大場「色は関係ないと思うとです…」

日田「金髪ー、わーの実力を見たら腰抜かすさー?」

降矢「ほー、言ってくれるじゃねーか」

西条「随分な自信やなー」

日田「金髪、西条君、わーには『必殺技』があるさー」

原田「必殺技?」

降矢「そりゃまたレトロな雰囲気だな」

日田「ふっふーん、その名も『シーサードロップ』さー!」

西条「シーサー」

降矢「ドロップ?」

日田「明日見せてやるさー、びっくりすると思うさ?」

降矢「じゃー俺も見せてやるぜ、進化した『サイクロン+』をな」

西条「なんかお前らいろいろあってうらやましいなー、わいも相川先輩にな

んか頼んでみようか…」

原田「俺もなんか欲しいッスなー」

降矢「相当な努力と根気が必要だぞ」

西条「降矢が言うと説得力あらへんなー」

降矢「あんだとジョー」

西条「お、やるか?負けへんで?」


ざばぁ、っと音を立てて勢い良く湯船から立ち上がる二人。


原田「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いてッス…」




大場「しーーーっ!!!」




その場にいた全員が大場を振り向いた。

湯船の一番端、女子風呂との境目のしきりの所で静止している。


降矢「まさか」

西条「まさか」

大場「そのまさかとです」

日田「な、なにさー」

原田「なにッスか?」


五人の声がおもしろいくらいに小さくなる。

そしてしきりの向こうからは女性の声、お約束である。


???「しっかし、あんたまた胸大きくなってるさー」

???「その台詞、剛にも言われたわ」

???「…大きい」

???「せんぱぁ〜い…」

???「大丈夫よ、あなた達もきっと大きくなるから」

???「大きいからってえらいわけじゃないけどさー」




そして仕切りに耳を引っつけている五人。

息を潜めて、つばを飲み込む。


日田「…由美子ねーねーと、たかねーねーだ」

降矢「牛とお前の姉貴か?」


ちなみに日田の姉多佳子の描写はしていないが、美人だと言っておこう。

部員とは砂浜から帰ってきた時に面識がある。


西条「んで、三澤先輩と六条の声やな」

大場「おおおお」

原田「大場先輩、小さい人にしか反応しないんじゃないんッスか?」

大場「それはそれ!これはこれとです!」



―――向こう側―――

緒方先生「多佳子、あんたも人並みには大きいでしょうが」

多佳子「…アンタのは大体、大きすぎるのよー。これ、何がつまってるのさ



むにゅり。

緒方先生「きゃあっ!多佳子!勝手に触らないでよ!」

多佳子「とか言って、しっかり反応してるさー」

三澤「す、すごい…」

六条「揺れましたよね、今」

緒方先生「あ、あのね…」

三澤「わ、私達にもその〜…」

六条「さわらしてください…」

多佳子「良いわよ〜へるもんじゃないし」

ぐにゃり。

緒方先生「きゃあっ、た、多佳子!なんで勝手に決めてるのよ!」

三澤「それじゃ…」

緒方先生「あんっ」

六条「そろ〜…」

緒方先生「あぅ……ってやめなさいっ!セクハラよ!!」

多佳子「もっと激しくやってもいいさ〜」

緒方先生「ひうっ!?た、多佳子っ!」

多佳子「あれ?由美子、感じちゃってる?」

緒方先生「怒るわよっ!それっ」

多佳子「きゃあっ!どこ触ってるのよ!」

緒方先生「柚子ちゃん、梨沙ちゃん!多佳子捕まえて!」

三澤「え、ええっ!?」

六条「その…」

緒方先生「でないと…えいっ」

三澤「にゃ、にゃあっ!?」

六条「ひゃうっ!どこ触ってるんですか?!」

緒方先生「じゃー行きなさい、れっつごー!」

多佳子「卑怯よ由美子!」

三澤「きゃー!」

六条「きゃー!」

ばしゃばしゃ。





降矢「…」

西条「…」

原田「…」

大場「…」

日田「…」


五人とも鼻血がたれていた。


降矢「おい、覗ける場所を言え」

日田「そ、そそそそんなものないさー」

西条「言わないと、しばく!」

大場「ハァハァ…おおおおおおお!」

原田「ああっ!大場先輩が暴走したッス!」

降矢「ふんがっ!」

西条「でぇいっ!」


ゴキンッ!

すぐに二人のリカバーという名前の急所キックが発動される。

今回はむきだしだったのでダメージは三倍だ。


大場「のぉぉぉぉぉぉ」

降矢「静かにしやがれ」

西条「もう遅いで、降矢。どうやらばれたみたいや」






緒方先生「あ…って今の声…もしかして大場君?」


仕切りの向こうからなんだか色っぽい声が聞こえてきた。



大場「のぉぉぉ」

降矢「…エロいなお前ら」


お互い顔は見えないが、表情はなんとなくわかった。


六条「え、えええええ!?ふ、降矢さんいるんですか!?」

三澤「六条さん!丸出し、丸出し!」

多佳子「別に女しかいないからいいけどさー」


何がだ。


多佳子「剛ー」

日田「は、はいっ!なにさー!」

多佳子「覗いたりなんかしたら…殺すわよ」


日田の顔から血の気が引いて行くのが見てわかった。


日田「さ、さー皆あがるさー」

大場「のぉぉぉ」

原田「あああっ!大場さんのあれが大変なことに!」

降矢「ちっ」

西条「まだチャンスはあるでー」

何と言うか捨て台詞を残しながら五人は退散した。











その日は皆ぐっすりと疲れて眠ってしまっていた。

そして翌日。











砂浜に、相川、冬馬、西条の三人が並んでいた。


相川「ありがたいことに今日はマウンドを借りて投げれるようだから、お前

らの投球練習を始めたい」

冬馬「ふわぁ〜…はぁ〜い…」

西条「ぐがー」

相川「寝るな!」


バコッ、バコッ!


冬馬「にょわっ!?」

西条「な、なんや!?」

相川「朝早くて辛いのはわかるが気持ちを入れ替えろ」

冬馬「は、はいっ!」

西条「わ、わかりました!」


相川の目が怒っていたので二人とも素直にうなずいた。


相川「じゃあ、大場」

大場「はい、なんとです?」

相川「お前は西条の球を受けてやれ」

大場「え、ええ?!」

西条「わいは構わないけど、ええんですか?」

相川「大場、お前はキャッチングの練習だと思ってやれ。もちろんファース

トミットを使って受けるんだぞ」

大場「わ、わかったとです!」

相川「西条はとりあえずストレートを投げ込んで、安定感をつけておけ。し

ばらくすると俺と大場が交代するから」

西条「はい!」




相川「さてと、じゃ冬馬だな」

冬馬「はい!Fスライダーですか?」

相川「いや、スライダーばかりだと…右打者には対応しかねる」

冬馬「は、はい…」

相川「と、言うわけで…新しい変化球を身につけてもらう」

冬馬「ええ!?」







相川「Fシュート…今度は反対側に投げてやろうか、とな」




























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