057仲いいのが一番だよっ

























昼休み、屋上。


相川「よぉ、待ってたぜ」


朝と同じポーズで給水塔の側に寝ていた相川が、飛び降りてきた。



三澤「うん」

御神楽「…」

相川「まぁ、そう深刻になるな。聞けば聞くほど馬鹿らしい話だから」

三澤「馬鹿らしい?」

御神楽「一体どういうことだ」

相川「…まー単刀直入に言うと、お前ら二人の可愛らしい勘違いってことさ」

三澤「え?勘違い?」


相川「そう。霧島のキャッチャーに、三澤が他の男といるって事を言われたの」




三澤「あ……」

不意に三澤の表情が曇った。

















相川「…え?」

三澤「…」


そして目をそらされる、ま、まさか。


相川「…お、おい。嘘だろ?」







三澤「…見られたんだ…」







御神楽「み、三澤さん!?それはどういうことですか!?」

三澤「…」

相川「…な、なんだよ。お前、お、俺は…」

三澤「違うの!信じて!もう私はあの人たちとは関係ないの!!」

御神楽「人たち?」


相川「…どういうことだ。俺は男といた、としか言っていないぞ…。吉田にアレだけ近づいてて…他の男が複数だってのか?三澤!それなら、俺は許さないぞ」


三澤「違…」バンッ!!!

屋上の金属扉がいきおいよくあけられる。








大場「相川どん!いるとですか!?」

冬馬「あっ!三澤先輩!それに御神楽先輩も!」


三澤「…」


三澤は無言で入れ違いざまに逃げるように屋上から出て行こうとした。


御神楽「三澤さんっ!!」

三澤「…今日のミーティングで話すよ…」



ぽつり、と独り言のように呟くとそのまま階段を下りていった。



県「…何があったんですか?」

冬馬「相川先輩!キャプテンと三澤先輩の事なんですけど…」

相川「知ってるよ」

冬馬「それが、三澤先輩が他の男の人といたって嘘…」

相川「それが、嘘じゃないかもな」

冬馬「えっ!?」



相川も、三澤の後を追うように屋上を去った。




御神楽「…三澤さんに問い詰めると、三澤さんは「見られたんだ…」と言ったのだ」


冬馬「――――――え?」

大場「そ、そんな!」

県「…」


御神楽「決めつけないほうがいい。まだはっきりとはわかっていないのだ。…ただミーティングの時を話す、と言っていた」


冬馬「…」

大場「そうとですか…」

県「とりあえず、ミーティングまで待ちましょう。そうすれば何もかもわかるんですから」

御神楽「…まさか、ここまで大事になるとは、思ってもみなかったであるな…」











放課後を告げるチャイムが鳴り、吉田を除く将星ナインは全員サブグラウンドにある古ぼけた部室に集合した。



相川「…」

三澤「…」

大場「…」

県「…」

御神楽「黙ってても、始まりませんよ。三澤さん」

三澤「…うん。今日は皆に聞いて欲しいことがあるの」



全員が三澤のほうを向く。



三澤「皆は知ってるわけないと思うけど…信じられない話だけど…野球界の裏には「プロペラ団」っていう裏の組織があるの」

相川「三澤…お前、そんな嘘でごまかせると…!」

三澤「お願い!聞いて…」

冬馬「相川先輩!話だけでも聞きましょうよ!嘘を言ってる顔じゃありませんよ」



相川は納得いかない、と言った表情だったが口を閉じた。



三澤「東京ドームや大阪ドームは一年に一回、完全機密で人が立ち入り禁止になるときがあるんだけど…。表向きはメンテナンスってことになってるけど、本当は…「野球賭博」が行われてるの」



能登「…!」

原田「や、野球賭博!?なんッスかそりゃ!?」

降矢「…続けろよ」

三澤「予選である冥球島での試合をを勝ち抜いてきたチームの決勝の裏野球の試合。優勝者にも、配当者にも勝ち負けで億単位の金が動く。日本中の大物が楽しみにしてるイベントなの…それを主催してるのが、そのプロペラ団」




相川「…」




三澤「プロ野球をクビになった人や、甲子園で優勝したのにプロに選ばれなかった人たちはどうしてると思う?…表向きは普通に生活してても、裏ではその大会に出てるの、ただ、負けてもおとがめはないけど…。よりハイレベルな試合を求めるために選手達はドーピングするの」



冬馬「ど、ドーピング!?」



三澤「…そう、そして全国の野球プレイヤーの中から優秀な選手を探すためにプロペラ団は日本中に潜伏している、私の父もその一人だったんだけど…。父はそんなプロペラ団に嫌気が差して、脱退しようとしたの。でも、事故に見せかけて殺されてしまった…。もちろん警察が相手してくれるはずも無く、私はお母さんと共にここに逃げてきたの」



相川「…その『男』ってのはそのプロペラ団って奴らってことか」



三澤は首を縦に振った。



三澤「どこをどうしたのかは知らないけど、あの人たちは私の居場所をつきとめたらしいの。でも父が残したデータなんて私は知らない。お父さんは自分で集めた資料を全て燃やしてしまったから。もう、私はあの人たちとは関係ない!…本当なの、信じて…」










相川「…別にそのプロペラ団とかがどーとかは知らないけど、お前はうちのマネージャーだろ、それでいいんじゃないのか?」

冬馬「そうですよ、そんなの気にしなくていいですから!」

三澤「…え…?本当?」



皆も笑顔で頷いた。



三澤「……ありがとう、皆…!!……でも相川君、その事を怒ってたんじゃないの…?」

相川「怒ってたわけじゃないが…俺が言ってたのは、お前が吉田とあんだけ一緒にいるのに別の男とつきあってるんじゃないのか?ってことだ」

三澤「ええっ!?そ、そんなことありえないよっ!…もしかして、傑ちゃんもそう思ったのかな…」


断言するあたり、取り越し苦労だったのか…。

と相川はため息をついた。


御神楽「プロペラ団とやらは知らないですけど、吉田は勘違いしてると思いますよ、三澤さん」

三澤「…それなら、それなら私謝らなくちゃ!!」






降矢「どーでもいいけどよ。おれはミーティングがないなら帰るぞ。キャプテンいねーなら意味ないしな」


降矢はそう言うとバッグをかかえて部室を出て行った。


冬馬「…本当にムードの読めない奴なんだから!」

大場「本当に良い雰囲気が苦手みたいとです…」

県「…そういえば、さっき降矢さん、冬馬君に何か渡してなかった?」

冬馬「あ、うん」


冬馬はポケットに入れていた、ノートの切れ端を広げた。

そこには殴り書きで文字が書かれていた。









『折れたバットを新しく買ってやったらいい。三澤先輩が』








相川「…なんだかんだ言って、無茶苦茶悪い奴じゃないのかもな」

冬馬「…降矢」


三澤「そうだよね!この前の試合でバット、折れちゃったもんね…。あのバットはプレゼントだったけど…今度は私が傑ちゃんに、本当にプレゼントしなくちゃ!」














そして病院では、吉田が医者と面談していた。



吉田「…いいんですか!?」

医者「ああ、痛み止めの麻酔は出そう。試合にも出なさい、悔いを残すのは絶対にいけない。ただ、あまり激しいプレイは控えて欲しい…といっても無理だろうね」


医者は苦笑した。


医者「無理をして悪くなったりでもしたら、私が医者生命をかけてでも君の足を直そう。好きにしたまえ」

吉田「…恩にきます!」

医者「ただ、試合までは練習は控えて欲しい。軽いキャッチボールくらいにして欲しいね」

吉田「はい!ありがとうございます…!」


吉田は心の底から、医者に頭を下げた。









病院のロビーに出ると、入り口には三澤が立っていた。


吉田「…」


吉田は下を向いたまま、すぐ側をすれ違った。


三澤「傑ちゃん」

吉田「…幸せになれよ」



両手で、引き止めて、抱きついた。



吉田「ゆっ…柚子!?」

三澤「ごめんね…なんだか、変な誤解があったみたいで」

吉田「へ?誤解…?」

三澤「あの、お、男の人とは何でもないの!…だから、その。…そっ、それに、私は傑ちゃんが…」

吉田「…えっ、あっ?…えーと、その、とりあえず離れろよ」

三澤「…はぅぅっ」



慌てて離れる、どうやら自分のしたことに気づいていなかったようだ。

二人とも、赤面したままうつむいた。

ただ…そこには、ビミョーに想いの差があったことを明記しておく。


三澤「だ、だから!その…私、傑ちゃんといないと、すごく不安だから…その…」

吉田「柚子…」


三澤「…こ、これっ!」


手渡されたのバットケースに入っていたのは、新品の木製バット。


吉田「ば、バット?…柚子、これ…」

三澤「今回は本当に私からのプレゼントだから!…だから」

吉田「…はは、はっはっは!!おう!!ありがとよ、柚子」


吉田はにかっと、白い歯を見せて笑い、三澤の頭をぐしゃぐしゃとなでた。


三澤「傑ちゃん…」

吉田「俺の誤解だったんか、悪い…俺馬鹿だからさ」

三澤「ううん、私も悪かったから…えへへ」


『わぁーーーっ!!』



突然周りから拍手が巻き起こった。


吉田「なっ、なななな何だ!?」

三澤「はぅっ!?なになに!?」


見ると、ロビーの人たちや受付の看護婦さんまでもが拍手していた。



「よっ!あついねー!ご両人!」

「この幸せものー!」

「よかったね〜!」



吉田「…と、とりあえず、恥ずかしいから逃げるぞ柚子っ!」

三澤「うんっ!」





そのまま二人は逃げるように病院を出て行ってしまった。





そして、影に隠れて見ていた人たち。

冬馬「よかったですね〜」

相川「あそこまでいって、告白がねーんだから不思議なんだよなぁ…」

冬馬「そのほうがキャプテンらしいですよ」


しっかり後をつけていたのだ。




大場「ううっ…よかったとです…!!」

県「これで、もう問題は無くなりましたね」

冬馬「やっぱり、仲いいのは一番だよっ!!」

御神楽「…さらば、初恋…」

相川「御神楽、良いことを教えてやろうか」

御神楽「む?」

相川「多分…だが、吉田はまだ三澤のことを女としてみてない、かもな」

御神楽「は?」
















そして土曜日、最後の練習の前にミーティングを開いた。

ザワザワ…。


緒方先生「はーい、はい!皆静かに〜!」


緒方先生が手を二回鳴らすと、部室内は静かになった。



吉田「えー…その、今回は俺のことで随分迷惑をかけた、悪い!」

三澤「そうだよ、傑ちゃんが馬鹿なのが悪い」



何故か三澤は機嫌が悪かった。


吉田「そりゃお前、幼馴染が結婚するならどんな服着ていけばいいか、とかちょっと寂しいか、とかあるだろうが」

三澤「…ふーん、それだけなんだ」

吉田「ほ、他に何かあるのか」


本当に、ビミョーにそこには違いがあるのだ。


御神楽「…チャンス、ある?」

相川「さぁな」

吉田「ええいっ!いいから話を進めるぞ!!」







奥に置かれたホワイトボードにでかでかと、『対桐生院高校』と書かれた。


降矢「ついに桐生院か…!」

相川「ああ…、ただ、この前の一年生の時とは違う。相手は全国レベルだ。相当厳しい…いや、ほぼ勝つのが無理な相手に立ち向かわなくちゃならない」

御神楽「今までの成川や霧島とも訳が違うというわけか…」



相川「はっきり言うと…対策法は無い。むしろ、俺から言わせると俺がお前らの心に聞きたい気分だ」





能登「…」

原田「…」

吉田「うむ」

三澤「うんうん」

大場「高い壁、ですと」

冬馬「…」


御神楽「勝ち目は無い、か…」

相川「ま、はっきり言うとな…」

県「それでも…勝ちたいですよね」









降矢「当然だろ。負けるための試合なんて絶対にやらねー!!!」






『おおおーーーーーーーーーっ!!!!』














そして、決戦の日は、来る!!!









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