056このままじゃいけないよっ






















月曜日の朝、降矢は自室でベッドの中でサボリをきめこんでいた。

体全体が馬鹿みたいに痛い、きっと日曜日の霧島戦であんな無茶したからだ。

とてもじゃないが今の状態で学校へ行く気などしない、ということで俺は休む、と心に近く思っていた。

ちなみに降矢は一人暮らしである、学校から歩いて20分の距離にある安いアパートで気ままに生きている。

一人暮らしの理由は、彼にも色々と事情があるのだが…それはまた別の話。


とにかく降矢はベッドから起きる気はしなかった…あの音がなるまでは。


コンコン。

降矢「…にゃろー、またきやがったな」

???「おーい!降矢ー!起きてるだろー!学校行くぞー!」


ドアの外からは無駄に高い声、きっとちんちくりんがちんちくりんっぽくドアをノックしているのだろう。

降矢(シカトシカト…)

ふとんを顔までかぶって、耳をふさいだ。

ガンガン。

冬馬「降矢ー!!学校行かないと駄目だろー!」

降矢(…)

ガンガンガン。

冬馬「おーい」

降矢「…」

ガンガンガンガンガンガン!!!

冬馬「ふーるーやー!起ーきーろー!!」


バタンッ!!

降矢「うるせぇ馬鹿!黙れ!近所迷惑だ!!」


あまりの恥ずかしさに耐えかねて、降矢は玄関のドアを開けた。

予想通り目の前にはすでに学生服を来たちんちくりん…冬馬がいた。


冬馬「おはよう降矢…ってどーしたの?すごく疲れてるみたいだけど」

降矢「ていっ」


バチンッ!

力の限りをこめてちんちくりんの額にでこピンをかました。


冬馬「痛っ!!ひっ、ひどいよ!いきなり何すんだ!」

降矢「何すんだじゃねー馬鹿!!朝から人の名前を連呼しやがって、恥ずかしくてしゃーねーだろ!!」

おまけに冬馬の声じゃ女とも誤解されるやもしれん、そうなれば浪人生やぷーたろーの隣人から冷たい目で見られるのも時間の問題だ。


降矢「あのな、俺は体中がしこたま痛ぇーんだ。だから学校は休む」

冬馬「えっ!?も、もしかして昨日の…」

降矢「あーそーだよ。慣れないことしたもんだから、足が筋肉痛パーティーだ」

冬馬「…あ…、ご、ごめんね…」


突然、申し訳なさそうにしおらしく謝られた。

今まではどうされようと突き放していた降矢だったが、コイツは泣き虫だから止めておこうと、冬馬をとりあえずなだめだ。


降矢「いいから、気にすんな。お前はさっさと学校へ行け、それじゃ」

冬馬「うわあっ!待ってよ!今日はミーティングがあるんだよ!」

降矢「ミーティング?」

冬馬「そう、昨日の試合の反省と、次の桐生院戦に向けて」



降矢「桐生院…?」


降矢の表情が変わった、少し真剣に思案した後、突然部屋に向かって走り出した。

冬馬「ふ、降矢?」

降矢「待ってろ、今着替えるから」

冬馬「本当!?…ってドア閉めて着替えろバカー!!!」


バコッ!!

降矢「ぐあっ!?」


学生鞄を顔面に命中させられた、な、なんでやねん。













将星高校があるのは小さな町のど真ん中だ、だけに広いグラウンドが余計目立つ。

駅も二つしかないし自然も多い、北は山、南は海、中心へ行けば繁華街になるがちょっと郊外に出ると農村が広がるのどかな街である。

もちろん都会とはかけはなれたこの町は人口が多いわけも無く、将星高校に通っている生徒の半数以上が地元の外から来てるか、もしくは寮生活を送っている。

基本的に女子寮しかないので、男子生徒の多くは下宿など近い場所に住んでいる。

市街地の道をのろのろと猫背で歩く男とそれを見て苦笑している少年。


降矢「ふぁ〜…」

冬馬「すごく眠そうだな〜…毎朝毎朝飽きもせずにそのあくび。いったい何時まで起きてるんだ?」

降矢「さぁな、時計なんてあんまり見ねーし。知らん。テメーはどうなんだよ」

冬馬「俺?俺は十時には寝てるよ?…って何だよ、その顔は」

降矢「ガキかお前は」

冬馬「うっ、うるさいな!健康的だろ!」

降矢「さーな。…まったくお前も物好きだな」

冬馬「へ?」

降矢「俺みたいな奴と話してもおもしろくねーだろ。それなのになんで馬鹿みてーに毎朝俺を起こしに来てるんだ」


冬馬はまるで日課のように毎朝降矢を起こしに家にやってくる。

だが、降矢は冬馬の家を知らない、近くにあるとは聞いたが見たことはない。

大体、興味もない。


冬馬「えっ!?い、いや、それはあれだよ!緒方先生からのお達しで…」



緒方先制(ほっといたら降矢君きっと毎日遅刻するから、冬馬君が起こしてあげてね)

ぼよよーん。

大きな胸を揺らしながら微笑むうちの担任の顔が頭に浮かんだ。



降矢「…あの巨乳め」

冬馬「でも、実際そうなんじゃないの?大体うちの学校は一ヶ月で五回以上遅刻したら進級も危ういんだから」

降矢「マジ?」

冬馬「だって、うちは基本的に進学校だもん。ある意味降矢がいるってことが奇跡に近いよ」

降矢「黙れ、俺はやればできるの」

冬馬「降矢が!?中間テスト赤点五つの降矢が!?」

降矢「テメー、人のこと言えんのかよ。赤点四つだろ、一つしか変わんねーだろ」


二人とも部活に打ち込みすぎたのか中間は散々だった。



冬馬「うっ…」

降矢「やれやれ」



そんなくだらない話をしているといつもすぐに学校に着く、一年生の教室は門をくぐってから一番近い場所にある。

門からはバスや、いかにもお嬢様お嬢様な格好の女子生徒が入ってくるかと思えば、意外と最近の女の子も来る、数は少ないが。


バサバサッ。

冬馬が下駄箱を開けると、大量の紙の束が。

冬馬「わわわっ」

降矢「お前もてるな」


冬馬はこの予選大会の試合で表に出てから、その可愛らしい容姿と声でこの学校の女子の人気を着々とあげていた。

いまではファンクラブも出ているくらいだ。

…もちろん、中には男からのもある。

この容姿では仕方が無いのかもしれないが、繰り返すが冬馬の容姿は一見すると女子にも見間違えないほど小柄で繊細なのだ。


対する降矢は…この真面目な方たちが半数を占めるこの校で誰が気安く、このガラの悪すぎる男に話しかけられるだろうか。

どう考えても夜のコンビニの前がよく似合う。


降矢「ちっ」

冬馬「何、やきもち?」

降矢「…はぁ?なんで俺が」

冬馬「羨ましい?」

降矢「一生言ってろ」

降矢はそそくさと靴を履き替えると、先に教室に向かっていった。

冬馬「ふ、降矢!?…まっ、待ってよ〜〜〜!!」




ガラリ、と教室を空けるといつものように幾人かの生徒がおびえた目つきで見る。

…のだが…今日は一味違った、何と言うか何か降矢に言いたそうで言えない、と言った感じである。

冬馬「ふ、降矢〜〜!ごめんって、謝るから許してよ〜!」


と冬馬が少し送れて入ってきてから、女子生徒が大量にそっちに向かう。


「きゃーー!おはよう冬馬君!」

「昨日の試合見にいったよ!!すごくかっこよかったー♪」

冬馬「え、ええ?!」

相手の勢いに飲まれて、おどおどする冬馬、なんだかかわいそうだ。

「きゃー!冬馬君可愛い〜〜♪」

「次の試合も応援しに行くからね!」

冬馬「は、はい、ありがとうございます!」


降矢は朝からテンションの高い女子に対し、うんざりといった表情で自分の席に座った。

???「あ、あの…」

降矢「あ?」

???「びくっ!!…い、いえ、その」


急に近づいてきた女子に話しかけられた。

黒髪みつあみ、眼鏡…これでもかというぐらいこの学校にはぴったりの文学少女だ。

???「き、昨日の試合…見ました」

降矢「ああ?そーいうことは冬馬に言え、女子が群がってるだろうが」

???「い、いえ。その、ふ、降矢君、かっこよかったです!!それじゃ!!」


最後の辺りを一息で言うと、そのまま教室を出て行ってしまった。

どうも見たことの無い顔だと思ったら、このクラスの奴じゃなかったのか。


降矢「何だありゃ、最後、何言ってるかわかんなかったし。ケンカ売られたのか?」

県「降矢さん!おはようございます!!」

降矢「よぉ、県」

県「すごいですよ、野球部!この前の試合に勝ったから僕たちあっというまにこの学校の有名人ですよ!校内新聞でもとりあげられてますし!」

降矢「あーそうかい。俺は眠いんだ、後にしてくれ」


それだけ言うと降矢は早くも眠りについてしまった。


県「ああっ…降矢さん、寝るの早すぎますよー…」

「あーっ!県君だ!」

「本当だ!おはよー!昨日の試合見たよ見たよ!」

県「え?あ、はい!ありがとうございます!」


本当言うと降矢はちょっとすねていた、案外可愛い所もあるもんだ。


降矢「…けっ」















ところ変わって、ここは二年の教室…。

三澤「あ!御神楽君、おはよ〜!」

御神楽「おおっ!これはこれは三澤さん、おはようございます!朝からなんと麗しい…」

三澤「あのさ、相川君知らないかな?教室にいなかったから…」

御神楽「……さぁ。この騒ぎですからね…」


「あー御神楽様!!おはようございます!」

「朝から御神楽様に会えるなんて、ラッキー♪」


三澤「…あはは」

御神楽「相川はこういうのは人一倍嫌う男です、どうせ屋上にでも避難してるのではないでしょうか?」

三澤「本当!?ありがとう!行ってみるね!」

御神楽「…三澤さん」


屋上へむかおうとする三澤を御神楽が引き止めた。


三澤「何?」

御神楽「吉田のことですか?」


三澤は少し寂しそうな顔をした後、ゆっくり頷いた。


御神楽「ふぅ…僕も行きますよ。これ以上貴方のつらい顔を見ていられませんからね」

三澤「え…うん!ありがとう!」

御神楽(…吉田の手助け、か。僕は何をしてるんだろうな。本来なら今がチャンスだろうに)








開かれたパンの袋と、缶ジュースが屋上の給水塔のそばの段差に置かれていた。

降り注ぐ日差し、青い空に浮かぶ白い雲のかたまり。

一つあくびをすると、寝返りをうつ。

…すると、扉が開く音がした。


三澤「相川く〜ん!いる〜?」

御神楽「相川、いるなら返事をしたまえ!」




相川「騒がしいな…なんの用だ」

突然、後ろから声がする。

ちょうどドアの上が給水塔になっていて、そこから髪を逆立てた男子生徒が、寝ころんだ状態で、顔を逆さまにのぞかせていた。


相川「…って、三澤に御神楽か、どうした?」

三澤「あっ!相川君!」

御神楽「予想通りということか。人の多いところは嫌いそうなお前らしい」

相川「当たり前だ。何だあの黄色い声は。俺はあの声を聞くと脳みそがくさりそうになるんだ」

三澤「きゃーきゃー」

御神楽「…」

相川「…」

三澤「脳みそ、とろけた?」

御神楽「とろけますよぉ〜」

相川「用がないなら、帰れ」

三澤「わわっ!嘘、嘘だよっ!」

御神楽「軽い余興だ」

相川「あのな。…待ってろ、今そっちに行くから」


相川はひらりと体を回転させると、今の場所からジャンプして二人の目の前に飛び降りた。


三澤「あ、危ないよ相川君」

相川「これぐらいで怪我してたら、ブロックなんてやってられないだろ。…で、どうした?…ってのもないか。どうせ吉田だろ」

御神楽「さすがうちの頭脳だな、読むのは得意技か」

相川「それ以前だろ、大体それ以外でわざわざ俺を探す意味がわからん。で、三澤、そうなんだろ?」



三澤「うん…あの試合の途中から、急に傑ちゃんが冷たくなって…今日も一人で起きて行ってたし、学校で私が話しかけても何だかきまずそうで…」

三澤の目が少し潤んでいた。

三澤「私…傑ちゃんに、何かしたのかなぁ…」



相川ははっきり言って、うんざりだった。

まだ、昨日の試合から一日しかたってないだろうが。

冷静に考えるとある意味これはのろけなのである、しかし三澤からすればきっと吉田の今の態度は初めてなのかもしれない。


相川(あーあー、コイツは本当に吉田に惚れてんだろうな。なんで付き合ってないのかね。俺からすりゃそれがある意味不思議なんだけどな)


相川はため息を一つついた。


相川「あのな、三澤。吉田だって人間だ、機嫌の悪い日だってあるだろそりゃ」

三澤「…ううん、違うの。今までもこんなことはあったけど、今回は違うの!…何だか、何だか、すごく悲しそうで。…もしかして、私、傑ちゃんに何かしたのかと思って…」

御神楽「…うぬぬ、三澤さんを泣かせるとは!吉田め、許すまじ!」


相川(…赤城…。こいつら想像以上に純粋だぜ、次会ったら忠告しておくか…。しかしまぁ、あんなちょっとのことをここまで引っ張るとは…)


それもこれも、降矢が黙っておいた方がおもしろい、と言ったからなのだが。


相川(確かに、おもしろいけどな)

三澤「相川君!傑ちゃん、何か言ってなかった?!」


三澤や吉田には悪いが、客観的に見ているとかなり愉快だ。

だが、いい加減泣かせるまでいくとこちらも忍びない。


相川「…わかったわかった。わかったから泣き止め、本当の事を言ってやるよ」

二人「本当の事?」

相川「あー…話せば長くなるが『キーンコーンカーンコーン』

三澤「ああっ!授業っ!」

御神楽「ぬぅっ!一時限目は確かくちうるさい加畑の歴史ではないかっ」

相川「そっか、お前らは同じクラスか…まぁ、いい。昼休み、ここ集合な」

三澤「うんっ!」

御神楽「貴様も急げっ」

相川「俺は一時間目は移動教室の音楽だ、舟木先生は優しいからちょっとくらいの遅刻は許される」

三澤「も〜〜っ、なんでそんなに冷静なのっ!?」

相川「キャッチャーは常にクールじゃなきゃいけない、からな」


御神楽と三澤は廊下に立たされたそうな。













緒方先生「はーい、今日の授業はここまでよ。家でしっかりと復習すること、いいわね」

「きりーつ、礼」

バインバイン胸を揺らしながら、うちの担任は授業を終えて教室を出て行く、あれ絶対ノーブラだ。

…ま、そんなことはおいておいて、今は楽しい昼休みだ。


降矢「おい、パシリ」

県「はいっ!なんでしょうか!?」

降矢が一声かけると県はすぐに駆け寄ってくる。

冬馬「…県君、早いよ」

冬馬はなかばあきれながら、首を横に振った。


降矢「やきそばパン二つとコーヒー、五分以内だ」

県「はい!わかりました!!」

冬馬「あっ!県君、こんな奴の言う事なんて聞く必要無…ってもう行っちゃった、速ーい」

降矢「ふふ、あいつの足は俺によって日増しに鍛えられていくのだ」

冬馬「偉そうなこと言っちゃって、自分の足があるでしょ〜」


じろー、と横目で睨まれる。


降矢「誰のせいだ」

冬馬「…あ。あ、あはは〜」


笑ってごまかされる、なんといっても降矢は冬馬が打たれたヒット性の当たりをアウトにしたのだ、その事実は誰にも変えられない。


大場「降矢どん!冬馬君はいるとですか!?」


突然怪物が…いや大場がドアを開けて一年生の教室に乱入してきた。

近くにいた一年生が、びくびくっと体を震わせて遠のいた。


大場「…」

降矢「お前、案外いい奴だな」

降矢は大場の手をがっちりと握った。

大場「ふ、降矢どんもですか!?朝から相川どんと御神楽どんは女子に囲まれてるのに、おいどんには、おいどんには…」


冬馬「元気出してくださいよ、大場先輩」

ぽんぽん、と冬馬が大場の肩を叩く。


大場「むっはぁ!!冬馬くぅぅぅぅぅぅ」

冬馬「にゃ、にゃあああ!?」

バキャッ!!!

大場「はぐぉ!!」


覚醒寸前に降矢の蹴りが大場の股間にヒットした。


降矢「軽く触るなって、こいつは怪物なんだから」

大場「ぬぅああああ」

冬馬「はややっ、大丈夫ですか、大場先輩…」


県「ただいま帰りました降矢さん!四分十二秒です!!…ってどうしたんですか?」

降矢「俺が聞きたい」







降矢の席は教室の一番窓側の後ろ、いわゆる隅っこなのだが。

そこに図体のでかい二人と、小さい二人と計四人が集まって昼食をとる。

もともと個性の強い将星野球部の面々だが、こうして日常生活に戻るとそれがさらに顕著に現れる。


冬馬「…そっか、吉田先輩、しばらくは練習できないんだ」

大場「今は松葉杖で歩いてる状態とです、学校には来てるとですがあんまり移動もしちゃいけないみたいとですんで…」

県「そうですか…、でも今日のミーティングには参加するんですよね」

大場「それは当たり前とです、降矢どんは次の試合も絶対に勝つって気合入りまくりとです!」


降矢は黙ってパックコーヒーのストローをすすっていた。


大場「…とですが、実は吉田どん、あの試合が終わってから少し元気がないみたいとです」

降矢「だろうな、試合終わって病院に搬送される時、あんだけ試合のとき燃えてたのが嘘みたいに沈んでたからな。…俺はケガのせいだと思ってたけど、どーもそれだけじゃないだろ」

大場「降矢どん、何か知ってるとですか?」

降矢「知ってるも何も、まさかここまでおもしろい事態になるとは思ってなかったからな、くくく」

冬馬「不気味な笑い方だなぁ、もう。本当に悪者だね」

降矢「黙れ」

県「で、何があったんですか?」

降矢「実はな…」


降矢は、赤城が吉田を打ち取るためについた嘘。

三澤マネージャーが他の男と楽しそうに歩いていたらしいことを言われていたこと。

それを本気にして吉田が三澤を避けていること、三澤がそれを見て悲しんでることを言った。


降矢「愉快すぎて、たまらん。まさかここまで馬鹿とは」



冬馬「馬鹿はどっちだよっ!!」


突然、冬馬が大声をあげた。


降矢「…なんだよ」

冬馬「それじゃ、それじゃ吉田先輩も三澤先輩もかわいそうすぎるよっ!早く本当の事を言わなくちゃ…」

降矢「待てよ」

冬馬「はなせよっ!降矢!俺は見損なったよ!!」




降矢「もし、赤城の言っていたことが本当だったらどうするんだ」

冬馬「…え」

降矢「もし本当で三澤先輩が、キャプテンを裏切ってたらどうするんだよ。事実をあえて口にするのはキャプテンがかわいそうだろ」

冬馬「そんな、三澤先輩はそんなことをする人じゃないよっ」

降矢「理由は」

冬馬「…三澤先輩は、きっと本当にキャプテンのことが…!本当だよ!前に言ってたもん」





冬馬(三澤先輩って吉田先輩の事好きなんですか?)

三澤(え、ええっ…!?ど、どうして?)

冬馬(見てればわかりますよ、えへへ。三澤先輩すごく嬉しそうだもん)

三澤(そ、そうかな…)

冬馬(で、どうなんですか〜?)

三澤(え、えと…その…う、うん…。傑ちゃん、優しいから…)




降矢「…あっそ」

冬馬「だから、このままじゃ、このままじゃ…」


ガラリ。

吉田「おい、冬馬、いるか?…おお、大場、こんなところにいたのか」

噂をすればなんとやら、教室のドアを開けたのは吉田だった。

大場「降矢どん!」

県「キャプテン!」

吉田「相川も御神楽もどっかに行ってていないんだよ。俺ちょっと、病院言ってくるからミーティングはちょっと出れそうに無いんだ、他の部員にも伝えておいてくれ。それじゃ」


冬馬「待ってください吉田先輩!!三澤先輩のことで…」

吉田「……柚子には、柚子の考えがあるだろ」

冬馬「キャプテン!!!」


吉田はそれきり黙ったまま、松葉杖をついて廊下の先へ消えた。


冬馬「…三澤先輩に、言わなくちゃ!!」

県「そうですね!本当の事を伝えないと!」

大場「さっき廊下ですれ違った時に屋上に行くとか言ってたとですが…」

冬馬「屋上…早く行こう!!降矢、何してるんだよ!」


降矢は何かをノートの切れ端に書いていた。


降矢「俺はだるいから行かない」

冬馬「降矢!!」


ただ、冬馬の手にその切れ端を渡した。


降矢「後で三澤先輩渡しときな。俺は良い雰囲気ってのが苦手だから行くのはごめんだ」

冬馬「………降矢。…わかった、行こう!」

大場&県「うんっ!!」


三人は屋上へと疾走して行った。





降矢「野球はどーしたんだか、野球は…」












back top next

inserted by FC2 system