053霧島工業戦26決着!そして…
ボールは、一筋の白い線を残して進んでいく。
大きく、外を曲がりながら、赤城に近づいてくる。
そして…曲がるっ!!
―――ヒュザァッ!!!
赤城「うおおお!!」
赤城のバットは…!
キシッ!!!
ボールを捉える!!
冬馬「!」
相川「!!」
赤城「わいの…勝ちやでっ!!」
カキィーーーンッ!
甲高い金属音を残して、打球はライナー性でファーストの上空!!
弾道は低いが、打球の強さは十分だ!!
相川「――――やられた…っ!」
相川はマスクを脱ぎ捨て、叫んだ。
冬馬は目を閉じた―――!
冬馬「駄目―――――っ!!!」
その時だった!!
大場「ああああああ!!!」
大場が、思いっきりジャンプした!!
赤城「!?」
相川「大場!!」
冬馬「大場先輩!!」
吉田「大場!頼む!とるんだぁ―――っ!!」
ビシィッ!!!
捕っ………いやっ!!捕ってはいない!
ボールはグラブの先をわずかにかすっただけだった!!
相川「…っ!!」
御神楽「畜生っ!」
大場「く、くっそーーーですとぉーーー!!」
大場はそのまま大音をたてて地面に倒れこむ!
ズゥゥンッ!!
ボールは勢いを少しだけ緩めて…ライトの前へ…!
ライト!?
吉田「!!」
冬馬「!!」
赤城「なんやと!?」
県「ふ、降矢さんっ!!!!」
そう、ライトは降矢!!
降矢が、大場のミットをかすったボールを追いかけている!!
かすった分、打球の強さは緩くなっている!!!
相川「よしっ!いける!いけるぞ!」
吉田「捕るんだ!降矢ぁーーー!!」
そして、あの四人も行方を見守る!
森田「いけるかっ!?」
弓生「…微妙だ、と思ったほうがいい」
望月「際どい所だが…!」
布袋「いや!当たりが強すぎた分、距離が出てる!ちょうどはじいて弱くなった分、降矢は捕れるぞ!!」
降矢は全力で走った。
腕を振り、右足が出る前に左足を出そうとした。
この球は捕らなければならない!
今までまったくヤル気をみせなかった降矢が、闘争心むき出しでボールを追いかけた!
降矢の中には確かに、勝つことへの野球の楽しさと、力添えをする仲間への友情がうまれていたのだ!
以前はそうじゃなかった。
自分ひとりが何をしようと誰も何を言わなかった。
責任なんて負うことはまっぴらだった。
…しかし、今は少し違った。
皆、自分を必要としてくれた。
いつも、降矢なら何とかしてくれるかもしれない、と期待を受けた。
時にはそれが重たかった事もあった。
だが、時にはそれが降矢の楽しさにつながった。
重圧は嫌だ、しかし期待されるのは嫌いじゃない。
何とかするのが俺だ、そして何とかなった時の爽快感。
そして吉田や冬馬のように本気で野球を愛している者は見ていて気持ちよかった。
だから降矢も人の見えないところで今まで思いっきりやってきた。
人を傷つけて得る快感よりも、何倍も気持ちいい!
いつだって信念は変わらない、俺は俺のやりたいようにやるだけだ。
今はあの球を捕って勝つことが一番求めてる事だ。
なんと言っても、なんに対しても、「負ける」のは大嫌いだ!!
降矢「捕ってやらぁぁーーー!!!」
赤城「捕れる訳あらへん!!」
降矢「黙れ!!俺が捕ると言ったら絶対に捕るっ!!!!」
ボールは勢いを止め始め、ゆっくりと落下し始める。
降矢はその落下点に勘をつけると、思いっきり両足で地面を蹴って飛び込んだ!
弓生「!!」
布袋「!!」
望月「!!」
森田「駄目だ!」
県「…ボール一個分…たりない!」
―――――ボール一個分、グラブは届きそうに無い!――――
降矢「うおおおおお!!捕れねぇ訳がねーだろーーー!!!」
ズシャァアアーーーーーーーッ!!!
土煙を上げて、降矢は地面にダイブした!
そして、降矢の目には何も見えなくなった。
相川「…」
能登「…」
大場「…ど、どうなったですと?」
まだ土煙はあがったままだ。
県「降矢さん…」
三澤「降矢君…」
緒方先生「大丈夫…きっと…!!」
少しづつ、視界が開けていた。
原田「…きっとッス…」
御神楽「む、見えてきたぞ!」
尾崎「どうなった!?」
降矢は倒れたまま動かない。
吉田「…あ」
赤城「なっ…!!!!」
降矢はグラブの左手を上げた。
冬馬「―――降矢ぁっ!!!」
―――その中には、確かにボールが収まっていた!
「スリーアウト!!ゲームセット!!」
『ワァァァァァ!!!!』
能登「…ゲームセット?」
相川「勝った…のか?」
原田「勝ったんッスよ相川先輩!!」
皆が飛び跳ねて喜んだ。
大場「勝った…勝ったですと!!!!」
県「やったぁーーー!!!」
吉田「いよぉぉぉぉっしゃああああ!!!」
御神楽「…うむ、いい勝負であった!」
降矢「…」
体が動かねー。
こんな激しい動きをしたのは初めてだった。
いわゆる限界を超えたのだ、降矢の両足は痙攣していた。
気持ちが体を越えたのだ…!
冬馬「降矢!降矢ぁ…」
そして、急に視界が暗くなった。
冬馬が仰向けになった降矢の顔を覗き込んでいた。
降矢「よぉ、また泣いてんのかオメーは」
水滴がいくつも降矢の顔に落ちてきた。
冬馬「…うぐっ、だって、らってぇ…」
降矢「うぜーなー、負けても勝っても泣くんか」
口は悪かったが、降矢の口の両端は上がっていた。
冬馬「ふりゅやが…ふりゅやが…みんらのために、とっれ…とっれくれたから…今まで、いままれ、あんらけやる気無かったのに…」
ぽたぽた…とこのままでは降矢の顔に水溜りができてしまいそうだ。
降矢「うるせー、俺だって…俺だってそりゃぁ、負けるのは嫌だからよー」
少し照れくさくなって、顔を横に向けてしまった。
冬馬「ありっ…ひっく、ありっが、とう…ありがとう…」
降矢「冷静になれよ、まだ三試合目勝っただけだってのに…なんなんだ一体」
降矢の言う事は少しだけ違っていた。
やはり、一度叩きのめしてから、それから息を吹き返し、勝利した事。
そして皆が本当をさらけ出して、体ごとぶつかっていって戦った試合。
そうだったからこそ、初めて将星高校は真の意味で初めて『本当の勝利』を手にしたのかもしれない。
降矢「…やれやれ」
試合開始から、三時間四十五分。
もう半分以上傾いている太陽が将星ナインを照らす。
そこには今まで汚れる事を嫌がった御神楽も降矢もあわせて全員が泥だらけになり、全ての力を使い果たした九人が整列していた。
「将星高校対霧島工業高校の試合は、9-8で将星高校の勝ち!!」
「それでは、両者、礼!!!」
『ありがとうございましたっ!!!』
…。
赤城「相川君」
相川「赤城…?」
赤城「次は負けへん、それだけや」
そういうと、赤城はベンチに帰っていった。
尾崎「冬馬!」
冬馬「う、うわあっ、お、俺?」
尾崎「俺のアイアン…次は絶対に勝つ!」
冬馬「は…はい」
尾崎も赤城の後を追ってベンチへ去っていった。
布袋「霧島工業、か」
弓生「いいチームだった、と思ったほうがいい」
森田「…ああ、だがそれを破った将星もな」
望月「…」
望月は目をつぶって、頷き、立ち上がった。
望月「次は、俺の番だ」
布袋「も、望月?」
望月「―――猪狩との約束を果たさなくちゃな」
布袋「…へへっ、そうだな」
弓生「俺も一緒に頼みにいく、と思ったほうがいい」
望月「…ああ、行くぜ!降矢には負けてらんねーー!!!」
二人『おうっ!!!』
夏予選、三回戦、将星高校−霧島工業。
9-8で将星高校の勝利!!!