052霧島工業戦25ファントムは打たせないっ!
九回裏、将9‐8霧、二死満塁。
『四番、キャッチャー、赤城君!!』
『わあああああ!!』
両サイドからそれぞれへの声援が飛ぶ。
宮元「赤城!!何とかしてくれ…!」
緒方先生「冬馬君!みんな頑張って!」
尾崎「赤城さん!打ってください!!」
三澤「あと一人…あと一人だよ!!」
山中「赤城!打つんだ!」
御神楽「やってやれ!」
赤城「…」
相川「…」
端から見れば、マウンド冬馬と、対峙するバッター赤城の図になっているだろう。
しかし赤城の本当の勝負は、背後にのいる相川と行われているのだ。
そして、相川のサインに冬馬がうなずいて、一球目!!
サイドから放たれる…!
ビシィッ!!
赤城(…ストレート!)
パシィッ!!
「ボール!!」
布袋「初球、ストレートか」
森田「今まではファントムの連投が一転して初球ストレート…」
望月「やっぱりな。これは冬馬と赤城の勝負じゃない」
弓生「相川との読みあいになる…と思った方がいい」
弓生の言うとおりだ。
ようは相川と赤城の頭脳戦、しかし相川は後手に回っている。
相川(本当は赤城とはやりたくなかったんだがな…)
御神楽が粘った理由を思い出して欲しい。
きっと『赤城はファントムを破る何かを持っている』はずである。
いやここはあえて持っている、としよう。
何故なら本当に赤城にはファントム破りの方法があるからだ。
赤城(こればっかりは感覚やから掴めるかどうかわからへんからな)
それは正確には方法ではなく感覚なのだ、偶然の一致とでもいおうか。
相川(不気味だぜ)
怖いくらいに落ち着いている赤城、相川には、はっきりそれが自信の裏づけとして考えられた。
相川(野郎…絶対に何かある)
そこで、ある決断がせまられる。
簡単だ、ファントムを投げるか投げないか―――。
相川(その方法さえわかれば対策は立てれる、しかし見ないことには何とも言えない。さらに言うときっと赤城はファントムがくるまで粘るだろう)
いつもよりグリップをあまし、バットを短く持っていることがそれを物語っている。
相川(…やってみるしかない、か)
相川が出したサインは…『Fスライダー』!!
冬馬「行くぞっ!!」
ビシィッ!!
左手からファントムが打ち出される!
外側を少し巻くように曲がってくる!
赤城(来たっ!!)
―――ヒュザァッ!!!
急激に曲がるファントムに対して、赤城は鋭く腰をひねる!
相川(!!これは…シュート攻略法!!)
そう、内角に激しく食い込んでくるシュートを打つためには腰を鋭くひねり、なるべくボールを体の前で捕らえる必要がある!それを実践しているのだ!
向かってくるスライダーはいわば食い込んでくるシュート!
カッ!!
そしてボールは芯をとらえる!!
冬馬「!!」
相川「!!」
キィィーーーン!!
ボールは…ファーストの真上!!
相川「大場!捕れぇーーー!!!」
大場「うおおおおおとですーー!!」
大場のその長身を限界まで伸ばしてジャンプするが、球は無情にもそのグラブの上を越えて行く!
同点ランナー…サヨナラのランナーもすでにホームに向かっている!
大場「っ!!」
尾崎「勝った!!」
山中「よっしゃあ!赤城ぃ!!」
相川「切れろぉっ!!」
ボールは…ファールラインを…!
ビシッ!!
ボールが落ちた!
「―――ファール!!」
冬馬「ふぇぇ…」
大場「はあぁ…」
二人は力なく地面にへたり込んだ。
ギリギリではあるが、ボールは白線の外を回っていったのだ!
山中「惜しいっ!!」
尾崎「もう少し…!」
宮元「しかし…打てる、打てるぜ!赤城さん!!」
相川(…なるほどな、ファントム攻略法ってのは…こういうことか)
『赤城だけがFを打てる』というのにこだわった理由は『赤城のシュート打ち』のうまさにある。
これは偶然の一致だが、赤城は内角の球を打つのが得意である。
それが赤城が言っていた『自分だけの感覚でしか打てない』ということである、そしてもう一つ…!
赤城(ファントムは異常に球質が軽い!)
アイアンの球質の重さの理由を覚えているだろうか。
あれは回転の少なさが原因である。
ファントムは、その逆…!
赤城(つまりファントムのあの異常な変化量は球の回転数が多いからや!)
落ちる形の変化球はボールの回転が少ないほど、ボールが空気抵抗を受け、遅くなったボールは重力により下に落ちるが…。
曲がる系の球は基本的に回転している球が空気抵抗を受け曲がるのだ。
しかし、アイアンはボールが重くなったが…回転が恐ろしいほどに強いファントムは…。
赤城(逆にボールが馬鹿みたいに軽くなる!!)
一つ前の打者の山中を思い出して欲しい。
実は思いきりバットにつまったのだが、打球は悠々と三塁の頭上を越したのだ。
これも球が軽いからである、当てるだけで軽く飛ぶのだ。
つまり…赤城の少ないパワーでも外野オーバーは狙える!!
赤城(これがファントムの諸刃の剣…欠点や、相川君。わいでも当てさえすれば内野の頭をこせるで!!)
相川(…ちっ、当てにきた…か、当たりだ。それが、冬馬の球質とあわせて『軽さ』がFの弱点だ)
いよいよ、追い詰められた、逃げることも出来ない。
相川には手がなくなった。
相川(くそっ…)
相川は、ファントムは間違いなく打たれる、と予測して他の球を投げさせる!
カキィッ!!
「ファール!!」
しかし、軽くファールにされてしまう。
確実にファントムが来るまで待っているのだ。
赤城「どうしたんや相川君、冬馬君!ファントムを、ファントムを投げんのか!?」
冬馬「くっ…」
相川「…」
カキーンッ!!
「ファール!!」
相川(…これで四球連続ファール…。くっ…ファントムを投げるしかないのか!)
冬馬「相川先輩!!」
突然、冬馬がマウンド上で大きな声を上げる。
相川「…?」
冬馬「―――俺は、俺はファントムを投げます!!」
相川「な、なんだと!?」
予告投球である!!!
赤城「…ほう、ええ度胸や!」
相川(…そうだな、どうせ勝負しなきゃなんねーんだ)
冬馬「俺の今一番の球を投げます!!」
相川(…マウンドの上で叫ぶのはどうかと思うがな)
相川は力強くうなずき、ファントムのサインを出す!
冬馬も首を縦に振った。
冬馬「行きますっ!!」
相川「いくぞっ!!」
赤城「ええで!!いつでも来い!!」
相川「死ぬ気で守れ皆!!なんとしてもアウトにするんだ!!」
全員『おおおーーーーっ!!』
冬馬「てああ!!」
ザッ!!
足を大きく前に差し出し、体がついてくる!
そして…ファントムが放たれる!!
冬馬「ファントムは打たせないっ!」