050霧島工業戦23絶対に抑えてみせるよっ!




























長かった試合も、ついにここまできた。

将星ナインの面々は、ベンチの前で円陣を組む!




いつもなら嫌がる降矢も御神楽も、もう関係なかった。

ここまで限界の試合をして、いまさらプライドも意地もあるかと、吉田に諭された。

降矢は何故か赤い顔をしていた、こんなに仲良しこよしな事は実に久しぶりだ。





吉田「はっはっは!ついに、ついにだ、ここまで来た!!ここを抑えれば勝てるぞ!!」

全員『おう!!』

相川「今日の試合は本当に接戦だ!でもここまで来たからには絶対に負けない!」

全員『おう!!』

緒方先生「みんな、気合入れるのよー!」

全員『おう!!』

吉田「これはただの一試合だけどよ、この前の桐生院との練習試合も、予選一回戦も二回戦もこの試合も、全部俺にとっては甲子園の決勝と同じ価値がある!!だから、だから…うまく言えないけどよ!お前ら全部の力ふりしぼって守るぞ!!」

全員『おおーーっ!!』

吉田「将星ーーーーーーーーーーー!!!!」

全員『ファイッ、オーーシ!!!!!』
















ついに、試合は最終局面を迎えた。

九回裏、将9-8霧。















『八番、ショート、小泉君』





マウンド上は八回に引き続き、冬馬が立っている。


プレート端、その小さい体を大きく使って投げるクロスファイアのサイドスローから放たれる。

左打者には見えない、そして右打者には体に向かってくるスライダー、『Fスライダー』!










ヒュザァッ!!!




小泉「うわあ!」


右打者である小泉に対して、自分の体にぶつかる球のいきおい!

それにのけぞるが球はストライクゾーンを通っているので、判定はストライク!



バシィッ!!!



「ストライク、ワンッ!!」



小泉「く、くそっ!!」


冬馬はいまだに霧島打線に反撃の糸口を与えない!

だが…ここであきらめる赤城ではなかった。



赤城「…ふむ」



すでに膝を硬く握り締めてベンチに座っている霧島メンバーと違って、一人冷静に一休さんポーズをとっている赤城。



赤城「…冬馬君、か」





冬馬の弱点は三つ、スタミナ、球の軽さ、メンタル面の弱さだ。

すでに一つ目は無いといったほうがいい、だとすれば残るは二つ。

しかしFスライダーはその二つをカバーするほどの、超威力だ。

当てられなければ、球の軽さも関係ない。

打たれなければ、メンタル面の弱さも出ることは無い。



しかし、赤城には八回に抑えられたときに、一つのアイデアが浮かんでいた。



赤城「メンタル面の弱さ、か」




御神楽とくらべると、その感情の起伏の差は激しい。

劣等感と嫉妬心と意地の塊、そのくせに時に弱気になり、涙する。

まるで…。








赤城「…」



それは置いておいて、冬馬の攻略法はこれしかないと赤城は思った。

それはファントムの攻略よりも冬馬のメンタル面をつく方法。

ファントムの攻略法もある、ただそれは赤城にしかイメージできない特殊な方法、伝えるのは難しい。

しかし冬馬のメンタルをつく方法は簡単だ。






赤城「…みんな、ええか。ちょっと聞いてくれ」




赤城は霧島の選手達を集めて、話し出した。




山中「何だ、赤城。もしかして…何か思いついたのか!?」

赤城「まぁ、そんなところや…ただ…」

宮元「ただ?」

赤城「…この作戦は実行するのはたやすいねんけど、みんなが決心するのは難しい」

土居「どういうことだよ、赤城」

赤城「お前らは、この試合勝つ気があるんか?」

平井「当然ですよ、赤城さん!!」

赤城「…みんなもそうなんか?」



皆が一同に首を縦に振った。



赤城「そうか…なら、言うわ。ええか覚悟決めや!」


全員「おう!」


赤城「まずはみんな右打者に立つんや」

宮元「…なるほど、見えない左よりも右で勝負か」

山中「しかし、確かに球は見えるが…あの角度で来るんじゃ打っても凡打にしかならないぞ」

赤城「目的はファントムを打つんやない、冬馬君を攻略するんや」

宮元「?」

赤城「さっき、土居が体に球喰ろうて、痛がっとったな」

土居「あ、ああ…」

赤城「ふんで、一瞬やけど冬馬君の顔にかげりが見えたのをわいは見逃さんかった」

山中「つまり…どういうことだよ」



赤城「冬馬君はメンタル面が弱いのはわいの調査済みや。んでもし、投球を人に当てるのを嫌がってるとする」


宮元「?どういうことだよ、確かに死球は怖いけど…勝つためにはしょうがないだろ」


赤城「そこなんや、ポイントは。冬馬君のメンタルは弱い、だからこのFスライダーは左打者には素晴らしく冬馬君の性格にもあっとるんやけど…右打者に対しては選手を痛めつける凶器になるんや」


宮元「そえに耐えるメンタルを持つ冬馬ではない、と?」

平井「もしかして、右打者に立てばファントムの威力が弱まる可能性がある、ということですね」


赤城「そうや…ただ、それには球に当たるほどの覚悟が居る。いくら遅い言うたかて、石ころが当たるんや…どや、やめるか」



皆一同に首を横に振る。



赤城「ほな、いくで!!」

全員「おう!!」


















ドボォッ!!


小泉「ぐぅっ…」


「ストライクバッターアウト!!」






小泉は打ちにいくが、バットがファントムを捉えることはなく、そのまま小泉の体に辺り、ストライク判定を取られる。


相川(…ある意味恐ろしいな、この球は。右打者にとっては正反対の属性だ、むこうが「ファントム(幽霊)なら」ならこっちは「デストロイ(破壊)」ってとこだ)




見えないまま現れ、触れることなくミットに収まるファントムと。

打者に向かい、そのままぶつかり、破壊するデストロイ。

威力的には恐ろしいが、その両極端性に相川の脳裏には不安がよぎる。









相川(…冬馬の気持ちがどうか心配だな。果たしてボールを人にぶつけてまで勝つことに冬馬が耐えれるだろうか)






赤城、相川の読みは当たっていた。

冬馬はマウンド上で、心が痛いのを感じていた。

冬馬は降矢と違い、人を痛めつける事を嫌った、それは冬馬が誰よりも優しかったからだ。




相川(しかし、勝負ってのは甘くない。それが乗り越えなければならない敵。それが投手ってもんだ)




御神楽並みの精神力を持て、とは言わない。

ただ、せめてどれだけ点を取られようとも、マウンド上で胸をはるくらいの気持ちを持って欲しい。




『九番、ピッチャー、宮元君』



相川(また、右打者か…)


一死で迎えた宮元は右打者に立つ、しかもかぶさるように。


相川(…まさか、赤城の野郎!冬馬自身をついてこようってのか!!)

冬馬第一球!!


バキィッ!!


「…ス、ストライク…」

審判の声も、段々震えてきている。


二球目も、ファントム!


ズボオッ!!


「…ス、ストライクツー!!」


ここまでは、性格にストライクを突いてきているが…。

相川はマウンドの冬馬の様子を凝視していた。


相川(…やはり、か)



冬馬はすでに汗をかいていた、そして顔色も悪い。

それはそうだ人を傷つけるピッチングをして、あの良くできた冬馬が良く思うはずが無い。


冬馬(…)




そして、第三球目!!


冬馬「うわあっ!!」


ビシィッ!!!


ファントム!…しかし、ボールは…!!







相川(コースが甘い!!)



グンッ!!!



ボールは曲がるものの、さっきよりも幾分真ん中よりに入ってきた!

まずい!相川はとっさに思った!

そして、バットがボールを捉える!!



ガキィッン!!


しかし音は鈍い!!



相川(しめた!つまらせやがったぜ!!)


ボールは、三塁横のゴロ!


全員『!!』


次の瞬間、誰もが凍りついた!






相川「吉田!?」







サードの吉田が膝をついていたのだ!






吉田「ぐぅっ!!…足が、足が動かないっ!?」







吉田は…さっきの激突の時に『足』を痛めていた。

しかしチームの士気を下げまいと今まで必死に耐えてきたが…。

瞬間的な反応に、足が悲鳴を上げた。










ボールは、速いスピードで三塁のすぐ横を転がっている。









吉田「動けよ畜生ぉーーーーっ!!」












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