047霧島工業戦20ファントムの弱点?!





















八回表、降矢のソロホームランで、ついに六点差を追いついた将星高校!

限界投球数を超えていた御神楽に変わって、ファントムの冬馬がマウンドに立つ!








八回裏、将8‐8霧!



『八回裏、霧島工業の攻撃は、五番、ファースト野口君』









他校の選手達も、マウンド上の冬馬に視線を送っていた。



森田「さぁ、出てきたな。Fスライダーの冬馬」

望月「左クロスファイヤーからの、見えない魔球」

森田「そう、実際に体験して見るとわかるが…」









森田「消える所の話じゃない、視界にいきなり現れるんだアレは」
















相川(さぁ、ここで打たれたら何にもならない。出し惜しみせず行くぞ!)

冬馬(はいっ!)


ロージンバックをニ三度、手に擦り付け、帽子を触る。

立ち位置はもちろん自分から見て、ピッチャープレートの一番左端。




冬馬「いくよっ!」

大きく、振りかぶり、腕を伸ばしきった状態で一番遠い状態から球を投げる!


ビシィッ!!


野口「なっ!!」

まったくバッターの死角からボールが来るために、ボールが見えない!!


野口「くそおっ!!」


そして、視界に現れたと思えば、その瞬間にボールは恐ろしい切れで加速するように左打者の外角に滑り落ちて行く!


Fスライダーだ!!!

爽快感あふれるミットがボールを受ける音が響く!




バシィッ!!



「ストライクワンッ!!」


『わぁぁぁぁ――っ!!』





布袋「…改めて、すげえな、アレは…!!」

望月「ああ、スライダーといってもスライダーの変化はするものの、軌道は全く別物の球だ」

森田「そうだな、あれは大回りしてくるからな」

弓生「どういうことだ?と思った方がいい」


森田は学生服のポケットから、握力強化用のゴムボールを取り出した。


森田「つまり、普通のスライダーは、速いスピードでまっすぐ行き、打者に近づくにつれ、回転と空気抵抗を受けて、滑り落ちるんだ」


森田は、さっと、ゴムボールでその軌道を描いてみせた。

ボールと持った森田は布袋の方に進み、まっすぐ進み斜め下に移動する。


布袋「ふむふむ…」


森田「だが…アイツのFスライダーはこうなる」


森田はまず、ボールを思いっきり外側から、上にあげた、そしてそのまま綺麗な放物線を描きながら、斜めに進んでくる。

そして、布袋の手前で、まるで何かに押されたようにさらに滑り落ちる!







布袋「…なるほど!」

弓生「この軌道でストライクか…とんでもない球だな…と思った方がいい」

望月「判りやすく言うと、最初はスローカーブの軌道、打者の手前でスライダーの軌道って感じだな。聞いたことがない球だ、まったくファントムとしか形容しようがないぜ」




ヒュザァッ!!

ファントムが空気を切り裂いて、相川のミットにおさまる!!



ズバンッ!!





野口「ぐっ!!」


「ストライクバッターアウッ!!」


冬馬「どうだ!!」



Fスライダーでの三球三振!打者は手も足も出ない!


相川(…よし、良い球来てるじゃないか)



Fスライダーのキレは以前よりさらに増していた…何かコツをつかんだのだろう。

冬馬の目が、自信に満ち溢れていた!










望月「手も足も出ない、か…」

布袋「二球目のファントムを打者は見送ったが、ストライク判定だ。…つまり見逃してもストライク、なんてコントロールだ…」

弓生「これは霧島にとってはチャンスを作ることすら難しいな、と思った方がいい」



次の六番打者もすでにツーストライクを取られていた。



森田「いや、どうかな…」













森田「…俺は赤城があのまま終わるとは思わないぜ」











ズバシィッ!!

打者のバットがまたもや空を切った!



「ストライク!バッターアウト!!」


冬馬「いよぉーし!!」



『きゃああーーー!!冬馬君〜〜〜!!』

『可愛い〜〜〜!!』

『こっち向いて〜〜〜!』




相変わらず人気は高い冬馬、そして応援団も同点に追いついたことで声量が上がってきた。

確実に風は、勢いは、将星に吹いている!

相川はプロテクターの下で、笑みを浮かべた。








だが、森田の言う通り、このままで終わる赤城ではなかった。

前に相川と御神楽が言った台詞を覚えているだろうか。







相川(冬馬の弱点は、球が軽いことだ。ボールの回転に関わらず、体重そのものが軽いからボールに重さが出ない)

御神楽(うむ、それは僕も予感はあった。赤城はきっとそこをついてくるに違いない)










その通りであった、ベンチでいつもの一休さんポーズをとる赤城の脳裏にはしっかりとその弱点が浮かんでいた。





赤城「ようやく『右』やな…よし土居!」


七番バッターの土居は『右打者』である。

そして冬馬がファントムを修得してから、始めて戦う”右打者”である!




赤城はこれにかけていた。

左打者は『まったく見えない』が、右打者ならなんとか見ることは出来る。





赤城(ただ…デッドボールがストライクなんていう恐ろしい事態もあるやもしれへんけどな…)

土居「おう、赤城!俺はどうすればいい」

赤城「そうやな、とりあえずバットに当てることを心がけや!」

土居「おっしゃ!」

赤城「…ただ、ボールはお前に当たっても多分、ストライク判定やで」

土居「…何だと?」






『七番、セカンド、土居君』









相川(いいぞ。この変化量ならバットに当てられるわけがない。それはつまり、冬馬の弱点である球の軽さを補えることになる)




当たらなければ、ボールは前に飛ぶことはないのだ。

そしてバッターボックスに土居が立つ。


相川(全部Fスライダーだ、かすらせん!)



冬馬は勢い良くうなづいた!

プレートの端っこをめいいっぱい使い、小さな体からとんでもないボールが放たれる。

しかし。



土居(む…見えるぞ?)



やはり、右打者ならファントムの軌道をとらえることはできるのだ。

だが、その後がファントムの恐ろしさである。

…打者に向かうにつれて、徐々に加速していく感覚に陥る!!


ヒュザッ!!


それは曲がる角度が、打者の真正面に来るからだ!!



土居「うおあっ!!」


ガバアッ!!


土居は体に当たると思ってとっさに飛びのいた!

しかし相川はこれをなんなくキャッチする、土居の方を見てニヤリと笑った。


バシィッ!!

「ストライクッ!!」






土居「な!」


尾崎「なに!!」

日ノ本「嘘だろ!?」

山中「死球コースじゃないか!!」

赤城(やはりな…)




土居はあまりのことに言葉を失ってしまった。



相川(自信持って投げていいぜ、冬馬。こいつはしっかりとストライクゾーンを通ってる、こんな角度で打者に向かってくる球を投げれる奴は、今の高校界探してもお前しかいないぜ)


赤城(流石やな、相川君…ようこんな球思いついたもんやで。ホンマにたいした球やな、これは…)





少々、目論見が外れた。

相川と御神楽、そして赤城のである。

三人とも、まさかここまでファントムがすごいとは思っていなかったのだ。

相川は訂正しなければならない、と思った。




相川(冬馬をみくびってたぜ。これだけのキレがあるなら不安なんてない!どんどんいくぜ!!)

赤城(この前の成川戦よりも確実に威力があがっとる…これは、ちとヤバイで)









ドボォッ!!

土居「ぐぅっ…」



「ストライクツー!!」



スイングしにいった土居だったが、変化の大きさにバットはかすりすらしない。

逆にボールは、体に当たっていた。



土居「うぅっ…」


冬馬「…っ!」

赤城(…?)



赤城の頭に何かが浮かんだ、それは当てた方の冬馬のなんとも苦虫を噛み潰したような顔である。



赤城(…もしかしたら…)




ビヒュッ…バキィッ!!


土居「ぐああっ!」




ボールは土居の右腕に当たるが、判定はもちろんストライク!

「ストライク!バッターアウト!チェンジ!!」



冬馬「…」


しかし、冬馬の顔に笑みはなかった。

あったのは、辛そうな表情だけである。





赤城「…なんや、わからんで…」

尾崎「どうしたんですか、赤城さん?」



赤城「もしかしたら…意外なところでファントムの弱点が見つかるかも知れへん…」




尾崎「ええっ!?」

赤城「幸い、うちは裏の攻撃や…なんとか九回を耐えたら…」














赤城「―――勝機が、みえてくるかもしれへんで―――!!!」















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