046霧島工業戦19お願い!打って降矢!





























八回表、将7‐8霧。








一点差、か。

降矢は声に出さず、唇でそう言った。



降矢(後、二回)



誰に言われるでもなく判っていた、ここで追いつくしかない。

降矢は自分を信じた。



吉田「降矢」

降矢「キャプテン…」



バッターボックスに向かうところを吉田に止められる。



吉田「…ここまで来たら負けられないよな」

降矢「当たり前だろ」

吉田「何か攻略法はあるのか?」

降矢「さぁな、見当もつかない」



吉田は笑った。



吉田「はっはっは!お前らしい!おう、全力で振り回して来い」

降矢「了解」








『九番、ライト、降矢君』







赤城(さぁ、ホンマの正念場やで!)



赤城は、ポイントは吉田とこの降矢だと思っていた。

それ以外は何とか弱点をついていけば抑えられる。

だが、この二人は違う…!



赤城(弱点らしい弱点のない吉田君、一体何が実力で何が偶然なんかさっぱりわからん降矢君)




特に降矢は何をしてくるかわからない不確定要素十分のヒッターである。

先ほども絶対に不可能と思われたアイアンをスタンドに叩き込むという芸当を行っている。

しかも無茶苦茶なバッティングフォームで。

それは、完成形のサイクロン打法であったが。







赤城(とにかく、まともに勝負したらあかん)







赤城が出したサインは、アイアンセカンド!

尾崎はモーションに入るが…!!






尾崎「!?」

赤城「!」



ここで降矢が取ったのは、バントの構え!!





相川「何!」

御神楽「あいつバントなんてできたのか!?」

冬馬「そんな訳ないよ!降矢だよ?!」

県「さりげなくひどいこと言ってますね…」







アイアンセカンドは落ちるが、見当違いのコントロールで、捕手の後ろにそれていった。

もちろん、降矢はバットを引いていた。



「ボール!」



赤城(くっ!…やっぱこの降矢君は何をしてくるかさっぱりわからんで!?)


もちろん奇策や偶然などではない、降矢はしっかりと尾崎のコントロールが乱れることをわかっていた。






降矢(あの変化じゃ、アイアンセカンドを打つことは到底無理だ。あの落差は桐生院のちんちくりん二号のフォークと良い勝負だからな)



もちろん望月である。



降矢(ただ、アイアンセカンドを『打つこと』はできなくても『投げさせないこと』はできる。投手として素人のコイツは、さっきまでのバントヒットも見てる以上、バントをされると相当頭の中はパニックになるはずだ)





だからこそ、降矢はそれを狙った。

尾崎はバント処理を焦るあまり、投球モーション最後の腕の振りが多少速くなる。

そうするとコントロールは自然に乱れてくるのだ、まだ制球力が満たないアイアンセカンドなら尚更である。


これはもう無意識の問題なので、尾崎はフォアボールを出すしかない。

ならば、アイアンで勝負するか、四球で逃げるか。

どちらにしても、アイアンセカンドは封じられたのだ!





赤城(ぐっ!こんな所で尾崎の弱点を突いてくるとは…やっぱ降矢君はただものやないで!)




そして、ここで降矢を塁に出すなどと言う事をすれば、吉田に回る可能性が出てくる。

それに…尾崎の心臓が持つかどうか。



尾崎「…ハァハァ」



ただでさえ、不慣れなマウンド裁きに、ギリギリの緊張感が先ほどから尾崎の感情を揺さぶっていた。

相当な精神力を消耗している、集中力が切れるのも時間の問題だ。

だからランナーを出すわけにはいかない!

…赤城はあの一休さんポーズを再び始めた。





赤城(…答えは決まってんねんやけどな…。何とかしてアイアンのみで抑えなあかん、ただそれはさっき見事にスタンドにぶち込まれとる)




万事休す、である。

目の前の降矢がとてつもなく高い壁に見える。

そして、味方の目には降矢は頼もしく映っている。





相川(降矢…!)

吉田(頼むぜ…!)

大場(降矢どん、何とかしてくれとです!)

緒方先生(降矢君!)



尾崎、二球目を投じる!!












冬馬「お願い!!打って降矢!!!」











ボールは『アイアンボール』!!


降矢は腰を大きくひねり、背中の背番号を相手に見せる!

さらに左足を大きく上げ、一本足の打法になる!





降矢「なめんじゃ、ねー」









カキィィ―――――ン!!






















場内が静寂に包まれた。

…とんでもない打球だった、打った球はレフトスタンドの遥か上…。


降矢はバットを上空に放り投げた。



















三澤「場外…」

御神楽「ホームラン!?」














『うわああああああああーーー!!!!』


そして次の瞬間グラウンド内は、悲鳴と声援に包まれた!





降矢、土壇場八回での同点本塁打!!
















四人も、呆然としていた。

布袋「あ、あのアイアンをあそこまで運ぶだと?!…」

弓生「なんて打球だ…と思った方がいい」

森田「高校生の打球じゃないぞ、あれは」

望月「いや…あれが降矢の実力だろ。俺が初めて奴に会ったとき、奴はグラウンドの端っこから学校を飛び出すほどの打球を放っている」

布袋「な、なんだと!?」

望月「…まったく信じられない話しだろうが、事実だ。あいつはいつだって常識を越えてくるんだよ」

森田「…俺のスカイタワーが打たれたのも、合点が行きそうな気がしてきたぜ…」












そしてベンチを飛び出す、将星ナイン!



吉田「降矢ぁぁ――――ん!!」

降矢は寒気がした、前も似たようなことがあったような…。

県「降矢さーーーん!!超かっこいいですよーー!!」



ホームベース上で待ち受ける、将星ナイン。

降矢は、うげぇ、と言う顔をしながらも大人しくそこへ突っ込んでいた。



…そして、手荒い祝福。




バキィッ!!

吉田「良くやったな!この野郎!!」


ドガァッ!

相川「本当訳わかんねー奴だぜ!」


グォガァンッ!

大場「おいどんは、おいどんは感動したですと!!」


ぽかっ。

冬馬「降矢ぁ〜〜〜!!!」









ぷちっ。

降矢は鬼と化した。


降矢「調子にのってんじゃねー…!」





バキィィーーーッ!!

ホームベース上にいた、八人はことごとく吹っ飛ばされた。


県「ぼ、僕は何もしてないのに〜〜」



















赤城「…」

尾崎「スイマセン、赤城さん…」



実はあの投球、コース的には外角真ん中だった。


赤城「しゃーないって、お前も限界やったしな」


本当は赤城は四球で逃げるつもりだったのだ、それが尾崎のコントロールミスで甘いコースに入り、一発を食らった。


赤城「それに、まだ同点や」



赤城が振り返った先には、将星がようやく追いついた八点目の数字が映し出されていた。



赤城「ただ…お前はもう無理やな。下がりや」

尾崎「…はい」

赤城「…お前のせいやない。……相手が、悪すぎたんや」









その後、再びマウンドに戻った霧島の背番号一、宮元はなんとか将星打線を抑え、勝ち越しは許さなかった!




そしてその裏…。







八回裏、将8‐8霧。






御神楽「…いけるな、冬馬」

冬馬「はい!任せてください!」

相川「なんとしてもこの試合、勝つぞ!」

二人「おーっ!!」










『八回裏、選手の交代をお知らせします。ショートの冬馬君に代わりまして、ショート御神楽君。そして、ピッチャー御神楽君に代わりまして…』
















『投手、冬馬君!!!!』










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