044霧島工業戦17アイアンセカンド?うそぉ〜〜!
ガクンッ!!
また打者の手前、急角度でボールが消えるように落下する!!
―――『アイアンセカンド』だ!
バシィッ!!
「ストライクバッターアウト!!!!」
能登「…く」
アイアンボールを破った途端に、突如として目の前に立ちふさがった、その進化系アイアンセカンド!!
相川はあえなく三振に倒れ、六番原田は四球で出塁し一死満塁としたものの、七番能登も三振に終わった。
七回、将6‐8霧、二死満塁。
相川「くそっ!あんな奥の手があったなんて!」
冬馬「あんな変化とてもじゃないけど打てないよ…」
能登「揺れて、落ちる。とても…」
変化量は半端ではない、打者の手前で消えるように揺れて落ちる、ナックル変化だ!
その落ち具合は、はともすればワンバウンドしそうな勢いである。
御神楽「…救いはまだコントロールが定まらない、ということであるか」
そう大暴投もあるが、なんとか赤城が懸命に抑えていた。
ワイルドピッチングでもあればすぐに一点も入りそうな勢いであるが…赤城のキャッチング技術がそれを許さなかった。
『アイアンセカンド』がくるのは確率的には三回に一回ぐらいか。
しかしそればかりに気を取られていると、確実にコントロールできる『アイアンボール』がくる。
そうすれば、その重さにヒットなどとても打てたものではない!!
相川「…」
しかし、いくらそんなにコントロールが悪くても、この終盤では厳しすぎた。
後三回で攻略せねばならないのだ、まだ将星は相手をリードしているわけではない。
『八番、ショート、冬馬君』
冬馬「相川先輩…」
三澤「相川君、何とかならない?」
不安そうな目つきで、それでも何とか希望を探し出そうとする二人の目が相川の答えを待った。
相川「…とにかくアイアンセカンドは捨てろ、冬馬。的をしぼるのはアイアンだ、満塁って事忘れるなよ。四球でも一点だ」
冬馬「はい!!」
冬馬は元気良く打席に向かったが、相川の顔は優れなかった。
三澤「…どう?」
相川「厳しいな、リードはあの赤城だ。これしかないって配球をしてくるだろうな。そうなると…アイアンセカンドの威力が二倍にも三倍にもなる」
そう言ったきり相川は口を閉ざしてしまった。
三澤「…冬馬君、頑張って!」
冬馬(…ドキドキドキ)
ツーアウト、だが満塁、二点差、つまり…ワンヒットで同点のチャンス。
それにきっとつなげば降矢が何とかしてくれる。
冬馬(だ、だけど…もしアウトになったら)
ここを逃したら残りの攻撃回数はあと二回、あのアイアンセカンドから連打するのは厳しいだろう。
だとしたら、追いつくチャンスはここしかない!
冬馬(ど…どうしよう、震えてきたよぉ…)
やけに喉がカラカラだ、唇も乾ききっている気がする。
汗は止まらないし、悪いイメージのみが頭をよぎる。
冬馬は押しつぶされそうな重圧で緊張していた。
冬馬(ど、どうしよぉ〜〜〜!足が動かないよぉ〜〜!)
というか体が動かなかった。
ガチガチ、という表現がふさわしいだろう、冬馬は固まっていた。
冬馬「あわわわ…」
相川「…駄目だ、完全にあがってる」
三澤「冬馬君〜〜!」
ガタリ。
突然ベンチの端のほうが音を立てた。
相川「…ん?降矢が行ったぞ?」
三澤「え?」
いつのまにか降矢は席を立っていた。
冬馬「あわわ」
降矢「…」
冬馬「ふ、ふりゅや〜〜…」
降矢はこれでもか、とため息をついた。
降矢「歯ぁ、くいしばりな」
冬馬「へ?」
バッキーンッ!
冬馬「きゃあっ!!」
…お得意のパンチが冬馬の顔面に決まった。
『キャアアーーーー!!』
『何てことするのよあんた〜〜!!』
『冬馬君の顔に傷がぁーーー!!』
黄色い罵声の山が降矢に飛ぶが、そんな事を気にする奴ではなかった。
冬馬「…ひっく…痛いよぉ…」
冬馬は半泣きだった、どうやら相当痛かったらしい。
降矢「痛いなら、緊張とか吹っ飛ぶだろ。痛いから」
冬馬「やりすぎだよっ!!」
降矢「…頑張れよ」
冬馬「…え?」
降矢はそう一言言うと、不機嫌そうにベンチに戻って行った。
冬馬「…降矢」
アイツが人の背中を押すようなこと言ったのは初めてじゃないか、と冬馬は思った。
相川「どうした、降矢。えらく良い奴みたいじゃないか」
三澤「良い所あるじゃない、降矢君っ」
何だか妙にニコニコしながら、降矢に話しかける二人。
降矢「借りを返しただけだよ」
相川「借り?」
降矢「サイクロンで一発打ったときにな。それだけだ」
それでも降矢の拳のおかげで、冬馬の心から緊張は消えていた。
冬馬(よーし!!行くぞ!!)
そして冬馬はバッターボックスに立つ!!
「プレイ!!!」
二点差、そして満塁で冬馬!!
赤城(さぁ、何とか抑えるで尾崎!ここを抑えれば勝てる!!)
尾崎(はい!!)
尾崎の第一球、右腕が回転する。
ビチィッ!!
冬馬「う、うわあーーっ!!」
しかし、アイアンセカンドのすっぽぬけ!大暴投だ!
内角に迫るボールに、冬馬はバットを放り投げてしゃがむ。
バシィッ!!
だが、赤城がボールを後ろに逸らすことはない!
本当に舌を巻くキャッチングセンスのうまさだ。
冬馬「ううっ…」
赤城「すんまへんなぁ…コントロールまだついてないもんで」
冬馬「わざとだろっ」
赤城「ホンマですって!…ただ、後ろには絶対そらしませんで!」
冬馬「むむっ!!」
将星ベンチ内。
降矢「相川先輩、どう読む」
相川「そうだな…とにかく粘ることかな」
降矢「流石だな、俺もそう思う」
相川「満塁でボールスリーになれば、押し出し四球が怖いから絶対にアイアンボールが来るはずだ。特に慎重で確実なリードをする赤城なら尚更だ」
降矢「後は、アイアンセカンドが頭に焼き付いてる冬馬がアイアンを打てるかどうかだな…アイアンのコントロールからして、死球は難しい」
三澤「…む、難しくてよくわかんないよぉ〜」
相川「ようするにボール三つになれば、打てるかもしれないってこと」
三澤「…なるほど」
妙に納得させられてしまった。
ガクンッ…!!
冬馬(アイアンセカンド!!…なんて変化だよ、ほんとっ)
バシィッ!!
「ストライク!!」
さきほどのボール二つと今のストライク、これでカウントは1‐2。
今のところ、球種はすべてアイアンセカンドだった。
冬馬(うう〜…なんであんなに落ちてるのにストライクなんだよ〜)
アイアンセカンドは真ん中に来ると、あの落差にもかかわらずストライクゾーンを通ってミットにおさまるのでストライク判定なのだ。
まったく、反則的な球である。
バシィッ!!
「…ボール!!」
しかし尾崎は二球ストライクが入ったものの…。
五球目、アイアンセカンドが外れて、ついにフルカウントとなった!
赤城(ちっ!…あかんな…四球はまずい。ここで押し出しで一点取られると尾崎がガタガタっと崩れてまう)
やはり相川と降矢が予想したように、フルカウントから赤城が出したサインは、アイアンボールだった!
そして尾崎はセットポジションに構える。
ここで尾崎の心境に変化が起こっていた。
四方を囲まれたマウンドと言うのは相当な重圧である。
満塁のランナーが全員自分を見ている、得体の知れない空気が重たく背中にのしかかってくる。
しかも尾崎は投手としては素人、まだ圧倒的に経験が不足していたので受ける重圧も二倍のように感じる。
すでに尾崎は錯乱状態にあった、だから赤城の出したサインをもしっかりとは、確認していなかったのだ!
尾崎の右腕が放ったのは、『アイアンセカンド』!!
赤城「なっ!!」
しかし幸運にも、偶然かボールはストライクゾーンを通っている!!
カウントは二死満塁フルカウント!!冬馬はもう見逃すことも出来ない!!
今度は逆に、冬馬が追い込まれた!!
冬馬「…う、うわああああ!!!」
一瞬でさまざまな考えが頭の名かをよぎった中、冬馬には一つのアイデアがかすかに浮かぶ。
すぐさま左手をバットの真ん中あたりに添えた!
赤城「―――バント!?」
相川「うまい!!」
降矢「やりやがる!転がせば守備が下手な尾崎が処理をミスる可能性は高い!!」
冬馬(あ、当ててやる!!)
ボールは冬馬にむかってくる…そして手前で急激に落下!!
ガクンッ!!
冬馬「うわああああ!!」
ガキンッ!!
打球は…転がらずに浮いてしまう!!
冬馬「ううっ…!」
相川「くっ!!駄目か!!」
降矢「いや!アレはいい所に落ちるぞ!!」
ちょうど、一塁手、投手、捕手の中間地点に…!!
すでに三塁ランナーの吉田はホームイン!
落ちれば、同点の可能性もでてくるが…!!
――――ぽとり。
全員「「「「「「落ちたーーーー!!!」」」」」」
吉田が入って将星七点目!!
大場もホームへ向かう!!
相川「なっ!!!大場、急げ!赤城の処理が早い!!」
大場「!?」
赤城(ファーストは…あかん、誰もカバーにおらん!)
赤城はすぐにボールに追いついていた、が、ここに来てセカンドまでがバントに対してつっこんでいたため、ファーストのカバーがいない。
痛恨のエラーだ、一点は確実に入る、だが赤城は慌てていなかった。。
赤城(ぐ…ホームには尾崎…頼んだで!)
そのまま右手で拾いホームへ送球!!
バシィッ!!
「―――――スリーアウト!!!チェンジ!!」
相川「ぐぅっ…!」
歓声がため息に変わる、冬馬が一塁を踏んだため吉田ホームインで一点が入ったものの、ホームで大場がアウトになり三者残塁…。
同点に追いつくことはできなかった…!
冬馬「スイマセン…皆…」
大場「す…スマンとです」
吉田「いや!!あきらめんな冬馬、大場!!一点差だ!!追いつけない点差じゃねぇ!!」
降矢「そうだ!ここまで負けてたまるかよ!!」
吉田「まだまだいけるぞぉっ!!!」
全員「「「「「「おおおーーーっ!!!!」」」」」」
七回裏、将7‐8霧。
その差、わずか一点…!!!