043霧島工業戦16さぁ、反撃開始だね!



























カキーンッ!!



またもや、軽快な金属音が三遊間を抜く。

打順は一番に戻って、御神楽がレフト前にクリーンヒットを放つ!






その少し前、ベンチに戻ってきた冬馬と降矢は将星のみんなに攻略法を説明した。




相川「なるほど、真芯でとらえるか…!」

冬馬「はい!それなら球質の重さを軽減できます!ね、降矢」

降矢「さぁな」

吉田「よし!じゃあみんな!球をよく見てバットを短く持って芯に当てて行こう!」

全員「おう!!」







かくしてこの指示通りに御神楽はバットを短く持ち、芯に当ててヒットをはなったのだ。

断っておくが、この作戦は『アイアンボール』だから有効なのである、意識して芯に当てることはかなりの技術と反射神経、動体視力を要する。

だが、アイアンボールはその性質ゆえ、ボールが見やすいのだ。





『二番、センター、県君』



原田「県ー!がんばるッス!!」

吉田「っしゃ!どんどんいけー!!」

県「はい!」




バッターボックスに立った県はスイングの姿勢になる。

しかし、尾崎の二球目!!






コンッ!!



赤城「バント!!!」

相川「うまい!投手と三塁の間に転がしやがった!」

尾崎「くっ!!」




尾崎はすぐさま捕球の体制にとるが…。



赤城「あかん!」




冬馬の指摘通り、まだ尾崎は投手としての経験が浅い。

故に、バント処理もあまり上手とは言えないのだ。

尾崎の送球は、一塁手の上を大きく越える大暴投となった!!








大場「おおっ!」

緒方先生「御神楽君!走って走って!!」





御神楽はサードに滑り込む!

無死、一塁三塁、そしてバッターは燃えるキャプテン吉田!




吉田「おっしゃあーー!!きたきたきたぜーー!」



『三番、サード、吉田君』




尾崎「ぐ…!」

赤城(あかんな、アイアンと尾崎の弱点をきっちり狙われとる)



実は冬馬の読みは完全に正解であった。

もともと内野手であった尾崎はファースト送球時の球の異質さを赤城に見こまれて投手になったのだ。

そしてそれをアイアンボールとしてまだ二ヶ月、やはり少し早すぎたか…!








二球続けてボールの後、内角の厳しいコースにアイアンが来る!


吉田「っだらああ!!」


しかし、吉田の思い切りのよさとバッティングセンスでうまく芯に当て、そのまま振り切る!!





カキィィーーーンッ!


尾崎「っ!?」

赤城「あかん!外野!バックや!伸びよるぞ!!」



赤城の言葉どおり、多少つまってはいたが、芯にしっかり当たっていたため打球は伸びライトの頭上を越す!!



御神楽はすでにホームイン!さらに一塁の県も俊足を飛ばして本塁へ生還!

吉田は二塁ベース上で右拳を天に掲げた、二点タイムリーだ!!



『ワァァァーーッ!!』


先ほどまで元気の無かった将星女子生徒応援団も、声のボリュームが上がってきた!


『いいぞ!吉田!いいぞ!吉田!』


吉田コールの大合唱である。





吉田「はっはっは!」


当然、吉田は調子に乗っていた。







そして、将星ベンチも活気付いてきた。



冬馬「やった〜〜!これで二点差だよ!!」

緒方先生「やったわね!みんな!」

三澤「まだまだいけるよ!!」

能登「…追いついてきた」

相川「野球なんて何が起こるか判らんものだな」











そして、赤城!


赤城(…)


目を閉じて、黙っていた。

しかし、打たれて落ち込むと言うよりは、何かを決心するのを黙っていると言っているみたいだ。


赤城「…やらな。黙っとってもしゃーない」






赤城はマウンドへ歩いていった。

尾崎「すいません、赤城さん!」

赤城「ええねん、気にすんなや。それよりもあかんな、このままやとお前打たれてしまうで」


だからと言って霧島には宮元ぐらいしか良い投手はいない、基本は赤城のリードで勝ち残ってきたのだ。





尾崎「そうですか…俺は、俺はどうしたらいいんですか」

赤城「まぁ、慌てんな。そやな、わいが考えてたことなんやが」

尾崎「赤城さんが考えてたこと?」

赤城「そうや、アイアンかて諸刃の剣、短所があることもわいは計算済みや。いつか打たれるときが来るやろと思ってはいた」





そして赤城はいつものあの一休さんポーズをとり始めた。



赤城「まさか、こんな早く打たれるとは思ってへんかったけどな」

尾崎「…すいません」









赤城「お前のせいとちゃう。相手が悪かったんや、それに『アイアンボール』は第一段階にすぎへんねん」










尾崎「―――だ、第一段階?!」


赤城「そや、『アイアンボール』進化の可能性を秘めた魔球や、わいが認めるくらいやからな。ただ、今ここで『第二段階』を試せるかどうかはお前次第や」

尾崎「俺次第ですか?」



赤城「そう、アイアンを最初に教えたとき、わいは『球速は遅くても良いからきっちりコースに投げ込む』ことを教えたやろ?」

尾崎「あ…はい!」




赤城「あれはボールをコントロールしやすくして、投手になってまもない時の一番怖い『四球』を減らすためのものやねんけど、もう一つ意味はある。それは…『あえて遅い球速で投げること』や」

尾崎「…あ、あえて遅い球?!」





赤城「そう、『アイアンボール』の二段階目は『球速が上がる』ことによって発現するんや。ただ、球速を上げることによってもちろんボールはコントロールしにくくなる、だからわいは言わなかったんや」

尾崎「…」




赤城「やけど、アイアンが打たれた以上は、試すしかあらへんな!」


尾崎「はい!!」








『四番、ファースト、大場君』


相川「大場、しっかり当てて行けよ。お前のパワーなら芯に当たれば一発もありえる」


大場はしっかりとうなづいた。


大場「わかったとです」

相川「よし、行け」

大場は右バッターボックスに立った。












赤城(…ほな、やってみようか!)

尾崎(はい!)



「プレイ!!」




尾崎、セットポジションから、第一球!!!


相川「…?!」



大場「のわああっ!!」


ボールは大場に向かう大ボール!


バシィッ!!



しかし、大場は何とかかわしたようだ、地面にへたりこんではいたが。




尾崎「すいません!」

赤城「あ〜、ごめんやっしゃ」

大場「あ、危ないとです!気をつけて欲しいとです!」









早くも相川はアイアンの異変に気づいていた。


相川(…どうも妙だな、さっきまでのアイアンボールと何かが違う)






バシィッ!!

二球目、三球目も連続でボール、しかも大暴投だ。


赤城「あかんあかん、落ち着けや尾崎!まだ二点ある、しっかり腕を振っていきや!」

尾崎「はいっ!!」







相川(…なにやってんだ、急にコントロールが悪くなった。幾分さっきよりも力を入れて投げているようだが…遅くて打たれるアイアンを、コントロール重視からスピード重視に変えたって言うわけか?)









バシィッ!

「ボール、フォアボール!!」





尾崎「ぐっ…」

赤城「しゃーないしゃーない、ストライクゾーンには近づいてきてるか心配したらあかん!それよりもボールの回転が多くなっとるで!あくまでもこれはアイアンやからな!」

尾崎「はいっ!!」



これで無死一塁・二塁。






『五番、キャッチャー、相川君』




相川(確かに、ストライクゾーンには近づいてきてる)


しかし、アイアンボールの本質を考えると、球速があがっても、球がみやすいのにかわりは無い。

降矢、吉田あたりの動体視力なら問題は無いはずだ。



相川(待てよ…、アイアンの重さは球の回転が少ない事から来てるんだよな。うん?この仕組みどこかで聞いたことあるぞ)



カンのいい読者の皆様はもうお気づきになったであろうか?


尾崎、セットポジションから、相川に対して…!



相川「…」

赤城(落ち着いていけや!!)



投げた!!

ビチィッ!!


ボールはストライクコース!



赤城(よし!!これや!!きたで!!)


ストライクコースだが…これはど真ん中だ!


相川「ど真ん中だと!?なめるなよ!」


相川もスイングに行く!!


















―――ガクンッ!!!!


















ボールは、信じられない角度で急落下した!!!











相川「!!」

吉田「!!」

御神楽「なっ!!」

冬馬「何あれ!!」




相川「ぐおおっ!」



当然、相川のバットが球をとらえることはなく、空気を切り裂いて終わる。




バシィッ!!




「ストライク!!!」





相川「お、落ちた…!?―――そうか!!」

赤城「もう気づいたんか、流石やな相川君」

相川「赤城!」









赤城「そう、回転の無い球のスピードが上がれば当然、ボールは落下する!フォークの原理やな…!!まぁ、アイアンの場合は球質的にはナックルに近いけどな」


相川(やはりそうか!!)













赤城「これが『アイアンボール』第二段階!!『アイアンセカンド』や!!」








七回表、将6‐8霧、無死、一塁、二塁。





相川「…アイアン、セカンド…だと?」











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