041霧島工業戦14鉄球を打ち返そうよ!






















試合は、そのまま停滞した。




御神楽「うむ!!」

相川「っしゃ!ナイスピッチングだぜ!御神楽!」


完全に立ち直った、相川―御神楽バッテリーが絶妙な配球で抑えていくと。


尾崎「たあっ!」

赤城「いいで!良いコースきてるで!!」

尾崎―赤城バッテリーも『アイアンボール』で将星ナインに反撃のチャンスを与えない!

そして、両者の息詰まる攻防は七回表に入る!











七回表、将2‐8霧。


















望月「どうにか中盤は越したな…」


ふぅ、と望月は額を拭った。


布袋「しかし、それでも六点差だ。ある意味これは絶望的だぞ」

弓生「敗北は濃厚…と思ったほうがいい」

望月「まぁ、ここまでの奴等だったって事よ」





森田「―――いや、俺はそうは思わないぜ」





望月「なんだと?」

弓生「どういうことだ、と思ったほうがいい」

森田「望月、お前もピッチャーの端くれならわかるだろ?」

布袋「どういうことだ、望月?」





望月「それは、あの尾崎の『アイアンボール』に対してか?」





森田「―――ああ、あの球は、致命的な欠陥を抱えている」


布袋「致命的な欠陥?」

弓生「それは、一体なんだ?と思ったほうがいい」


望月「…スピードと、ノビだな?」

森田「ご名答」

布袋「え?い、いや望月。それが、あの球の強みじゃないのか?球質の重い球だろ」

望月「そう。つまり、長所は最大の短所ってことさ」

弓生「…?と思ったほうがいい」

望月「布袋、じゃあ逆にお前ならあの球、どう打ち返す?」



布袋「俺?…そうだな、とりあえずわかってることは、あの球は極端に伸びないから、球が見やすいことは確かだ、コースも判別しやすい」

弓生「そして、将星が試してるようにボールは当てることだけは出来る、と思ったほうがいい」

布袋「だが、それだと前に飛ばない。たとえ、あの大場の力でも…」


森田「ヒントは当てることだけは出来るってことだな」


布袋「当てることだけはできる…。………まてよ、球質の重い球を打ち返すには…」
















ここで話はグラウンドに移る、四人の話はまた後ほど公開しよう。



『キャアアアアーー!!』

『冬馬君!がんばってぇーー!!』



負けていることで元気が無かった応援団も、冬馬が打席に立つととたんに活気を取り戻した。


『八番、ショート、冬馬君』



降矢「おい、冬馬」

冬馬「え?…どうしたの降矢?降矢が俺に話しかけてくるなんて珍しいね」

降矢「アイアンの打ち方、掴めたか?」

冬馬「…うーん、正直まだ…。それに打ったところで俺のパワーじゃ…」

降矢「俺は、見つけた」

冬馬「やっぱり駄目だよね…って!ええ!?本当!!」

降矢「嘘ついてどーすんだ。…こんなこと言うのは癪にさわるんだがな、この際どうこう言ってられんだろうが」

冬馬「へ?」

降矢「本当は、俺が自分で試そうかと思ったんだが…何とかして一点でも返していくためには、なんとしてもアイツを攻略せねばならん」

冬馬「う、うん…」




降矢は、冬馬の耳を自分の口に近づけた。



冬馬「…ん…ぁん……」

降矢「変な声だすんじゃねー!」

冬馬「だ、だだだ、だっていきなり耳に息吹きかけないでよ!」

降矢「ええい、黙ってろ。話が進まん」


降矢は再び冬馬に耳打ちした。

ごにょごにょごにょ…。


冬馬「ええ?!無理だよ〜!」

降矢「頼むぜ、なんとしても俺に回しな」

冬馬「う、うん…何とかがんばってみるよ!!」







七回表、無死ランナー無し、バッターは冬馬!


「プレイ!!」





内心、冬馬は不安で仕方なかった。

胸の鼓動がまだおさまらない。




冬馬(ほ、本当にそんなことできるのかな…)




だが、この点差じゃ疑っている暇など無い。

そう、やるしかないのだ。



尾崎の投じた一球目…もちろんアイアンボール!!

緩いが落ちない、遅いストレートがミットに柔らかい音でおさまる!


「ボール!」


まず、降矢に言われたこと…それはボールをよく見ることだった。






降矢(要するにあれはただの力を抜いたストレートだから、コントロールするのはたやすい。そうなると自然とあの関西弁もリードが楽になる)


もちろん、狙ったところに投げてくれるからだ。


降矢(そして、絶対に勝負どころではデータをよく知ってるあの関西弁なら、テメーの苦手な内角で勝負してくるはずだ)


降矢の言ったことのポイントの中心はそこにあった。









冬馬(よく見ていけば、コースもわかる。追い込まれるまでは手を出しちゃ駄目なんだよね…)


パシィッ!!

「ボール、ツー!」


カウントは1‐2、赤城は冬馬の雰囲気の違いに少し戸惑っていた。







赤城(ありえへんな…普通格上のチームに六点も差ぁつけられたら、どこかてあきらめんで普通。それやのにこの冬馬君の落ち着きようはなんや?)



いつのまにか冬馬の不安は飛んでいった、それは降矢の言っていた内容が当たってきていたからだ。



冬馬(降矢は言ってた、あの投手はコースをつける時…無意識のうちに投げるコースよりに体が寄ってる。…本当だ、それに今までは全部外角、絶対に追い込まれるまで内角は投げてこない。…すごーい!降矢の言う事全部当たってるよ〜!)



信頼できれば自然と体も落ち着いてくる、冬馬の集中力が高まっていった。



そして、四球目もアイアンボールでストライク、コースは外角。

カウントは2‐2…追い込まれた!




冬馬(来る!次は内角だ!!!)




尾崎が投げた勝負の一球は…内角高め!!!!





冬馬「ええええーーーっい!!!」




















布袋「球質の重い球を打ち返すのは…なるべくバットの真芯に当てることだ!」

望月「正解だ!見ろ、多分冬馬の狙いもそうだ!!」


弓生「バットを極端なくらい短く持っている!と思ったほうがいい!!」

森田「そう、ノビが無いボールならしっかり見ていけばボールにあてることはたやすい!さらにあれだけバットを短く持って、真芯に当てることだけを意識して…」









降矢(振りぬければ、活路は見える)








ガキシィッ!!



布袋「!」

望月「!!」

弓生「!と思ったほうがいい!」

森田「!!」



降矢「どうだっ!!」



多少、つまってはいるが、確実にバットの芯ではとらえていた!

そして限り無く真芯に近いところで打った球は手に伝わる反動は少ない!

だから芯で打っていることは手の痺れがさきほどよりも少なかった冬馬が誰よりも一番わかっていた!!

そして、振り切った分ボールは内野の頭を…!!




吉田「いけーーー!!」

相川「ショートの頭を…」

三澤「超えたよ!!」



打球はショートの後ろにぽとりと、落ちた!!

これが、『アイアンボール』からの初ヒットである!!


御神楽「おお!ついに打ちよったか!」

原田「や、やったッスーー!!」

県「冬馬君すごいですよー!!」

大場「やったとです!!さぁ反撃とですよ!」





降矢(野郎…あいつのあのパワーでよくあそこまで持っていったな…)


ボールを後押ししたのは、あいつとかキャプテンが大好きな、気合とか根性とかだろうか。

降矢(しかし、これで俺の予想も捨てたもんじゃねーって事だ)


いや、捨てたものどころか、それは恐ろしいものだ。

ここまで尾崎の投球数わずか44球、それだけでここまで判断した降矢の観察、洞察力は並の高校生のものではなかった。


降矢「次は、俺だぜ。鉄球君」








布袋「おおっ!あの冬馬が打ったぞ!!」

弓生「長所が短所と言う事はこれか、と思ったほうがいい」


望月「ああ、球質を重くすると自然と球のノビも悪くなる、そうなるとバッターには球を見られやすくなる」

森田「そうなると、コースもよまれるし。真芯なら、球質の重さも何も関係無い。いわば、諸刃の剣さ」

望月「そして、次はあの金髪だ。あの野郎絶対何かしやがるぜ」

森田「俺のスカイタワーを破った実力、見せてもらおう!」





『九番、ライト、降矢君』



降矢「打ち崩してやるぜ、霧島の奴等よぉ!」








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