028霧島工業戦2馬鹿とサギ師



































赤城(さてと、主将の吉田君か…)



サギ捕手の赤城はいつものあのポーズ…右手の人差し指を頭に当ててくるくると回し始める一休さんのあれをやり始めた。

彼曰く、そうすると頭がさえるらしい。





赤城「キャプテン、ねぇ」

吉田「んあ?」



キャッチャーのほうを振り向くと、赤城が左手…キャッチャーミットを口に当てて笑っていた。



吉田「何がおかしいか」

赤城「いや〜あんたみたいな人がようキャプテンなんかできるな〜と思いまして」

吉田「は?」

赤城「色々と話は聞いてますで、何でも単細胞とか?」

吉田「な、なんだとこのやろう!」



バシィッ!!



「ストライーク!!」


吉田「…何!投げてたのか?」

赤城(う、噂以上のアホでんなぁ、普通気づくで…)


















ベンチのメンバーは全員こけていた。



相川「…呆れて物も言えん」

三澤「傑ちゃ〜ん…馬鹿ぁ」

御神楽「予想以上の知能指数の低さだ…」

県「それでも本当にサギですね、あんなの!」

降矢(サギ以前に、キャプテンが人間として問題だと思う)











赤城「ホンマに引っかかると思わんかったわ、くくっ」

吉田「ぬ、ムカつく奴だな…」

赤城(ふっふ、もうアンタは半分ワイの掌の上に乗りかけとる)



投手に対してサインを出す赤城。



赤城「吉田君、ほんならなぁ、次はど真ん中にストレート投げたるわ」

吉田「な、何!…うっ、もう騙されんぞ!」



しかし、動揺を隠そうとはしない吉田はもう見ていて情けない。



赤城(くっくっく、せいぜい考えなはれや。どうせアンタみたいな奴が考えても無駄なだけや)



投手はワインドアップモーションから第二球を投げる。



吉田(も、もしかして本当にど真ん中ストレートか!?)



ボールはきっちりど真ん中打ちごろコースに飛んでくる。

吉田の頭の中では一瞬でまさかという単語が十個浮かんだという。



吉田(ま、まさか本当にど真ん中か?)



畜生と、叫びながらど真ん中をフルスイングする!!


…しかしボールは無情にもそこから斜めに曲がり落ちる、カーブだ。



吉田「あああーーー!!」

赤城(ぷぷぷ)



「ストライク、ツー!!」



またもやベンチでは全員がこけていた。



相川「…本物の馬鹿だ」

三澤「す、傑ちゃぁ〜ん」

御神楽「あいつと一緒の年だと思うと泣けてくるな」

緒方先生「わかりやすすぎるのよね、吉田君…」







吉田「ぐぐぐ…」


イライラが募るのも無理は無い、いいようにあしらわれているのだ。


赤城(ホンマ単純やなぁ。ここまでひっかかってくれると何かかわいそうやで)


逆に赤城は笑いが止まらない、まさに思うがままなのだ。



















相川(そうだ…うちのチームは予想以上に、馬鹿が多いんだったな…いろんな意味で)


そうなると、まずい、まずすぎる。


相川(赤城の術中にはまるのは目に見えている…)


相川は考えた、そうなれば相手を打ち崩すのではなく、いかに点を取らせないかがこの試合のポイントになるだろう。

しかし…。


相川「見てて見苦しすぎる」


?マークを出しながらイライラして、汗を面白いくらいかいてバッターボックスに立っている人物が自分のチームの主将だと思うと涙が出てくる。


相川「吉田!難しいことは考えるな、とにかく来たボールを打てばいいんだ!」










赤城(…む)

吉田「ぬ、そういえばそうだったな!スマン相川!よし、じゃあ来たボールを打つ!」



考えをすぐに改める点はいい点なのだが。



赤城「ま、そんなこと言ってもそんな簡単にできれば誰も苦労せぇへん…」

吉田「来たボール、来たボール、来たボール」


吉田はぶつぶつと相川の言葉を繰り返した、すでに集中力のスイッチがONに切り替わっている、瞳はマウンド上の投手を見つめていた。


赤城(…う、コイツ完全にさっきの言葉しか頭に入ってないみたいやな)




そうなると厄介である。

単純である、と言う事がいい方向にでるとコレほど恐ろしいことは無い。

どんなに計算してリードしても来た球を打たれればどうしようもない、ソコの時点で投手と打者の実力のぶつかりあいである。



赤城(そうなると…十中八九、吉田君次第やな)


そう、吉田自身のバッティングは悪くない、生半可な投手と対戦してもそうそう三振しないミート力はある、変化球をカットしてストレートを待つ反射神経とスイングスピードを備えている。

第三球は外角から曲げてくるスライダー。



カキーンッ!!!



相川「おっ!」

原田「いったッスか!?」



しかしボールは特大のファールフライ。




「ファールボール!」



赤城(…ホンマに来た球を打っとるみたいやな、今のスライダーはボール球や。打ってもファールにしかならへん)

吉田「来たボール来たボール来たボール」

赤城(ふむ…まぁ「来たボールを打つ」ってのがそんなに簡単ではないってことを教えたろか!)



四球目、アウトコースのシンカー!!


吉田「くあっ!!」


吉田はスイングするが…!!


グ、ググッ!!

ボールはストライクゾーンから吉田のバットが届かないボールゾーンに曲がり落ちた。


バシィッ!!


「ストライクバッターアウト!!チェンジ!」




相川「ぐっ!!ストライクからボールになる変化球…!」

赤城「残念やったなぁ、まぁ今日も楽勝で勝たせてもらいますわ」

吉田「…ぐっ!!」


一回表、将星高校の攻撃は無得点に終わった。









そして、一回裏の霧島工業の攻撃は一番平井から。



『一番サード平井君』





赤城「さぁ、次は相川君の番やな。自分のリードをみせてもらおうやないか」






キャッチャーマスクをつけて、指定の席に座る。

相川のリードは赤城と比べると正統派である。

それも素晴らしいレベルでまとまっている。




平井「なんですか、赤城さん?」


赤城はバッターボックスに歩いていこうとして平井を止めて呼び寄せた。


赤城「気をつけるんやで平井、アイツのリードは半端やない。多分お前のデータも全部アイツのここにインプット済みやろ」


「ここ」の場所…赤城は自分の頭をこんこんと叩いた。



平井「はい」

赤城「ホンマ、相川君はリードだけやったら、全国レベルや。なんでアイツがあんなところにいるんかわいには未だわからへん…少なくとも将星の一回戦、二回戦を見てる限りはな」

平井「そんなにすごいんですか?」

赤城「まあ、やってみればわかるこっちゃ」





先発は前と同じく御神楽、帽子を深くかぶりなおし、マウンドを二三度蹴る。



相川「サインは前と同じだ、いいな」

御神楽「わかっている、僕を誰だと思ってるんだ?」

二人「帝王だ!」

相川「気合入れていけよ」



「プレイ!」





まずは御神楽の一球目、インコース際どい所をつくストレート。


バシィッ!!


「ストライク!」

『キャーーーー!!』



相川はととっと前のめりした、そういえば将星高校の生徒が応援しに来ているのだ。

対照的に御神楽は横目でちらりとスタンドを見ると、片目にかかった髪をかきあげた。

『やーん、素敵ーーー!!』

御神楽「ふっ、一球ストライクが入ったくらいで騒ぐな」

相川(アイツ…調子に乗ってるな)



第二球、先ほどよりも力強いフォームで投げる御神楽!!


バシィッ!!


御神楽の球はバッターのスイングよりもワンテンポ早くキャッチャーミットに収まる。

「ストライクツー!!」



『キャ〜〜〜!』




平井(くっ、結構速いな…こいつら本当に今年の春に創部したのか?)

相川「よう。赤城から俺のことは色々と調べられてるようだがな、それでも打てないぜ」

平井「?」

相川「ピッチングってのは、ピッチャーがいて初めて始まるんだ。俺のリードだけ見てたら御神楽の球を捕らえるのは無理だ」




バシィッ!!



「ストライクバッターアウト!!」

『きゃ〜〜〜!御神楽様〜〜!!』



ストレートのみで三球三振、今日の御神楽の球は走っているようだ。







平井「す、スイマセン赤城さん…」

赤城「球の速さに驚いて振ってもうたな。今の球、初球の奴以外全部ボールや」

平井「えっ!?」

赤城「しかも打者が一番見づらい外角ギリギリや、してやられたっちゅー訳やな」







赤城がリードでバッターの裏をかくというなら、相川は投手を乗せていき力を引き出させて戦うタイプ。


この試合の行方は両チームの捕手が鍵をにぎっているようだ…!!















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