027霧島工業戦1そいつに注意





























夏予選大会、三回戦。

将星高校対霧島工業。

予選会場である市民球場は、今日も真夏の日差しがふりつづいている。





冬馬「今日もいい天気だね〜……ってどうしたの降矢!?顔青いよ!」



ベンチに到着するや否や、降矢はいきなり隅の一番太陽の光が当たらない場所でうずくまっていた。



降矢「……もう嫌だ、太陽うぜぇ、死ねぇ…」

冬馬「段々声が小さくなってるよ!?降矢〜しっかりしなよ〜そんな病人みたいなこと言ってないで」

吉田「そうだぞ降矢!俺たちゃ真夏の太陽の下暴れまわる、野球の申し子たちだろうが!」


吉田は降矢のユニフォームのすそを掴んで炎天下の元、焼けた砂漠のようなグラウンドに飛び出していく。


降矢「いぎゃあああ、溶ける」

冬馬「吸血鬼じゃないんだから…」











???「なんや、次の相手はえらい愉快なチームですなぁ」


と、いやみったらしい関西弁が聞こえてきた。

向こうのベンチからいやに眉毛がさがった男が笑いながら歩いてくる。


吉田「む?なんだ?」

???「あんさんは吉田傑、キャプテンでっしゃろ?」


吉田「はっはっは!俺のことを知ってるのか?俺も有名になったもんだなぁ!」

冬馬「わ、関西弁の人だ〜」


???「で、そこで力尽きてる金髪が降矢毅。そこの嬢ちゃんみたいな子が冬馬優やろ」

冬馬「じょ、嬢ちゃんじゃない、俺は男だもん!!」

???「おおっ、それは失礼してもうたな」






そこに立っていた、関西弁の男のユニフォームにはKIRISHIMAの頭文字、Kの英字が書かれていた。

降矢と相川は関西弁の男を、じっと睨んだ。



降矢「…霧島工業ね。お前がのっぽ(森田)の言ってた…」

相川「赤城雄志…だな」

吉田「おお、相川!こんなところに俺のファンがいたぞ」

相川「違う馬鹿。…こっちのことは調べつくしているみたいだな」

赤城「それはそっちも同じ事ちゃうんか?将星の頭脳相川大志君?」

相川「…ほう?」




赤城はそう言うと、両手の人差し指を頭の横で回す…いわゆる一休さんが考えるときのポーズを取り出した。



冬馬「ひとやすみひとやすみ〜」

吉田「違ーぞ、回す前につばをつけてねーだろ?」

赤城「ちゃうわっ!これはわいのオリジナルや!!」

相川「…で?」




赤城「…ごほん、相川君、あんたが今まで相手に飛ばさせた打球、ライト、ファースト、セカンド、レフトには比較的打球を飛ばさせてへん」

相川「ほう」

赤城「逆に言うとサード、ショート、センターには打球が良く飛んでるっちゅーデータがる」

相川「…」

赤城「これが意味するもんがあんたら将星の弱点や、ちゃうか?相川君」

相川「さぁな」

赤城「ふふ、まぁ試合が始まったらわかることや。ほな」


赤城は自軍へ戻っていった。














相川「…赤城雄志。ただの相手じゃなさそうだな」

冬馬「すごかったー、俺大阪の人始めてみたけど、あんまり怖くないね〜」

吉田「なんだ、そりゃあ?」

冬馬「うーん、なんだかそんな第一印象?」


降矢「……」


吉田「ん?どうした降矢。ぐったりして?」

冬馬「うわあっ!降矢の顔が青色を越えて土気色に!?」

相川「お前ら、ちょっとは真面目にやれんのか!!」















『プレイボール!!!』


先攻は将星高校、一番の御神楽がバッターボックスに立つ。




吉田「御神楽!!きばれやー!」

県「頑張ってください!!」

原田「気合入れていくッスー!!」


御神楽がバットを振り回して答える。


御神楽「愚民共が!僕を誰だと思っているのだ?」





『帝王御神楽様〜〜〜!!!』




と、突然ジャニーズの応援並みの黄色い声援が聞こえてきた。


御神楽「うむ!よく分かってるではないか!!」


…皆が疑問に思った、今の黄色い声はどこから来たのか?

吉田「おおっ!?」

吉田がベンチを出て上を見上げると、一塁側アルプススタンドに女子の大軍が押し寄せていた。


相川「さっきの黄色い声はこれか」

緒方先生「皆、応援に来てくれたわよ〜〜!結構野球部頑張ってるからって!」



『わあああああ』



緒方先生の掛け声に合わせて盛り上がる将星高校女子応援団。



大場「お、おおおおおお!」

降矢「せいっ!!」



ごきん!(←降矢の蹴りが大場の股間に命中した音)



大場「bさjんじゃtbぽ!?!?」



また声にならない声を上げて倒れこむ大場、ずずん、とグラウンドに砂塵が舞った。



相川「よくやった、降矢。これで事故は未然に防がれた」

降矢「…無駄な体力の浪費は控えさせてくれ…」

三澤「あ、あはは。今までよく何も問題を起こさなかったね」

冬馬「…同感」













そして、いつもと同じく一塁ベンチ上、桐生院の一年生。

今日はあのバンダナ…弓生も一緒にいた。




望月「な、なんだ今の声援は?」

弓生「…女達の大群が応援しに来ている、と思ったほうがいい」

布袋「…そういえば今の今まで忘れていたが、将星は元々女子高だったよな」

望月「…うちはスポーツ一筋の男子校だからなぁ」

弓生「そんなことはどうでもいい、と思ったほうがいい」

布袋「そうだ、試合のほうはどうなった?」













打席の御神楽に対してピッチャー第一球!


御神楽(…はっ!僕の得意コース外角高め!)


カキッ!!


芯で捕らえた打球は鋭く二遊間を抜けて……………いかない!

セカンドがあらかじめベースよりに守っていて、そのまま捕球し一塁に送り…アウト!!



御神楽「くっ…」


吉田「ドンマイドンマイ!!」

御神楽(…何か違和感を感じたな…)



軽く首をひねりながら御神楽はベンチに戻っていく。














『二番、センター県』


県「はいっ!!」

クソ真面目にウグイス嬢に対して返事をしてバッターボックスに向かう県。

赤城「ほー、真面目やなぁ。県君、別に返事なんてしなくていいねんで?」

県は声の主を探してきょろきょろと辺りを見回し、背後の『キャッチャー』赤城雄志がしゃべっている事に気づいた。




県「あ、いえ。なんとなく呼ばれたら返事してしまって…」

赤城「自分は正直者なんやなぁ。よし、ほんなら次に来るボール教えたるわ」

県「え、ええっ!!?」

赤城「しーっ…内緒やで。自分はええ子やからな、サービスや」

県「本当ですか!?ありがとうございます!」










降矢「なんであのパシリは頭下げてるんだ?」

相川「始まったか」

緒方先生「へ?」

相川「奴のあだ名知ってるか…?」


















相川「―――『サギ師、赤城雄志』だ」














投手はキャッチャーの出したサインに頷くと、そのまま県の得意コースである真ん中低めに投げてきた。


県(ほ、本当に投げてきた?)


カキンッ!!

県が当てたボールは三遊間を…やはり抜けない!

サードとショートが打球を打った瞬間に三遊間を狭くするようにダッシュしたのだ!


県(え?)


「アウト!!」





















降矢の眉間にはこれでもか、としわがよった。

怒りを表している、イライラという音が聞こえてきそうなほどに。


降矢「…はぁ?!コースを教えてくれた?」

県「はい…とても親切な方だったのに、僕が打ち損じてしまいました、スイマセン!!」


ドコッ!!(←降矢の蹴りが県の顔面を捉える音)


県「ふげっ!?」


奇妙な声をあげて県はうずくまった。


降矢「…は…真面目もここまでくると殺したくなってくるな」

県「ふ、ひゅみはへん」

相川「いや、県は謝らなくていいぞ。県、本当にその球は予告どおりに来たのか?」

県「ふ、ふぁい…あ、待ってください。そう言えば、ベースの手前でちょこっと変化した気が…」

御神楽「む、そうだ。僕のときもそういう球が来たな」

相川「やはりな。流石サギ捕手の赤城」

三澤「ど、どういうことなの?」



相川「県も御神楽も、『打たされたんだよ』得意コースをわずかに外されてな。御神楽の場合は初球から来たから何の疑いも無く手を出してしまった、県の場合は県の性格を利用されたな」


吉田「むぅ…なんか厄介な奴だな、そりゃあ。…しかし難しいことを考えるのはお前の役目だ相川。なんとかしろ!」








相川「…そうだな、じゃあ吉田。『何も考えずに打て』!」

吉田「おう!任せろ!!」


ネクストバッターズサークルの吉田は開口一番、大きく返事をすると元気よく打席に向かっていった。



冬馬「…行っちゃったけど、大丈夫なのかな…」

原田「相川先輩、そうは言うけどそれってメチャ難しいんじゃないッスか?」

御神楽「…大丈夫だろアイツなら。普段から何も考えてなさそうだしな」

三澤「…確かに傑ちゃんって、おつむ弱いから…いつもテスト赤点だし」

御神楽&三澤「ふぅ…」








赤城(ふふ、早速わいの作戦を打ち破る気やな、相川君。でも残念ながら今日はとっておきのネタをめっちゃ作ってきたんや…!そう簡単には打たれへんで!)


















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