025成川高校戦4Fスライダー































九回裏、将2-0成







森田は驚愕した。

マンガの中でしかありえないはずの消える球。

それを実際に目にしたのだ。





森田「…馬鹿な!球が見えないだと!?そんなはずがあるか!!」


しかし後ろを振り返ると確かにミットにボールは収まっていた。


森田「……」







冬馬の第二球。

手は体の一番外側を通り、ボールはバッターの内角ギリギリ胸元をついてくるストレート。


森田(まただっ!ボールの見所が見えない!)


ボールは完全に森田の死角をついていた。








観戦中の望月と布袋、望月は目を見開き前のめりにになってピッチングを見ていた。




望月「…どうやら恐れてた事が現実になっちまったようだぞ」

布袋「いったいどういうことなんだ?打ちごろのストレートが来ているようにしか見えないが…」



望月は首に横に振った。



望月「考えてみろよ、布袋。左サイドの投手の球ってのは左打者からすりゃ背中から球がきてるように見えるんだぜ。しかも見ろよ」

布袋「………はっ!プレートの端に立っている!!」

確かに冬馬はサイドスローという利点をめいいっぱいいかすためにプレートの一番利き腕側に立っている。

望月「対角線投法って奴だ…しかも冬馬のあのコントロールのよさ…左バッターにとってこんなに打ちにくい奴はいないぞ!!」







つまり、ボールは消えているのではない!

バッターの見にくい場所から投げられているため、急にボールがあらわれるような錯覚に陥るのだ!







ズバンッ!!





「ストライクツー!!」

森田「ぐっ!!」


森田は手が出ず、ツーストライクを取られる。


相川(…いける、こりゃあいけるぜ冬馬。サイドハンドなんて慣れないうちはコントロールつきにくいんだが…影で相当練習をつんだな、アイツ)





冬馬(あの桐生院戦、俺の頭からその試合が離れたことは無かった…!スタミナ不足、球威のなさ…)


目をつぶれば冬馬はいつもあの試合を思い出していた。


冬馬(俺のこの貧相な体じゃ、とても高校野球じゃ通用しそうにない球しか放れない。…しかしそれであきらめてちゃそこで終わりだ!俺にはこの「コントロール」がある!相川先輩が教えてくれたこのボールなら…)


冬馬は今までのストレートと違う方法でボールを握る。




荒幡「何やってんだ森田!!たしかに打ちにくいが、スピードはない!軽くあわせて打つんだ!」

森田(…!そうだ、球の角度にばかり気をとられていたが、ボール自体は中学生でも打てる棒球じゃないか!!)






森田「よく見ればただのストレートじゃないかっ!」

冬馬「十分に通用するんだっ!!!」











ビシィッ!!


プレートの端ギリギリからのボールが凄い角度で、まるで打者の背中からくるようにキャッチャーミットに向かう!


森田(…確かに良く見ていきゃ打てない球じゃない、しかもこのボール…ど真ん中じゃないか!!)



ボールはど真ん中に向かっている!!



布袋「失投か!!」

望月「まさか!冬馬だぞ!ありえん!」



森田「もらったーーー!!!」













――――――フッ!!









降矢「!」

吉田「!」

県「!!」



森田の直前まで来ていきなりボールが幻のように消える!



森田「消えた―――?」


荒幡「馬鹿なっ!!」






ボールが消えた!?…いや、すべるようにしてバッターから離れていく!!






布袋「あ…」

望月「あれは…スライダーだ!!」






そう、スライダー変化のボールは森田のスイングをすりぬけるようにミットに収まった!




バシィッ!!

「ストライク!!バッターアウト!!」












森田「な…消えた、今度は本当に消えた!」

荒幡(いや…消えたんじゃない。あのスライダー相当のキレだ!ホームベースの手前でいきなり曲がりやがった!…しかも左サイドの対角線から投げられた今の球…ベースの端ギリギリを通ってやがる!!)







そう消えたのではない、ボールは先ほどのストレートと同じスピードでバッターの手前で急激に変化したのだ!


相川(つまり、見送ってもストライク、スイングしてもバットが届かない!)



そうこれは冬馬のコントロールのよさを最大に生かすためのもの!


相川(そうこのスライダー、まるでバッターから見れば消えるようなスライダー…)


相川はボールが収まったミットを掲げた!














相川「これが冬馬のF(ファントム)スライダーだ!!」



















森田「ファ…」

荒幡「ファントムスライダーだと!?」







望月「なるほど、Fスライダーね。いいネーミングセンスしてるぜ」

布袋「しかし、あのスライダー…なんて威力だ」

望月「Hでも、SでもVでもない、オリジナルのこのスライダー…確かにFスライダー!ファントムだぜ!!」






ズバーンッ!!


「ストライクバッターアウト!!」


またもや冬馬のFスライダーが決まる、これで二者連続三振だ。

相川(しかし…あの短期間でここまで成長するとは…冬馬め!!)



冬馬「よーしっ!!」





スパーンッ!


最後もFスライダーでバッターは三振!

冬馬は見事九回を完全に抑えきった!



「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!!」



相川「っしゃ!!よくやった冬馬!」

冬馬「はい!ありがとうございます!!」




ガンッ!!

いきなり冬馬の頭部に衝撃が走った。


冬馬「痛ーっ!?」






振り向くと降矢が拳骨を振り下ろしていた。


冬馬「な、何するんだよっ!」






降矢「………………………ナイスピッチング」

冬馬「…へ?」

降矢「次は桐生院に借りを返すんだな」

冬馬「ふ、降矢、今もしかして俺のことほめたの?」

相川「何!?」

吉田「降矢が人をほめたーーー!?」

能登「…珍しい」

県「あ、明日は大雨ですか!?」


ガインッ!!!


県「…ば、バットで叩くは反則です、ぷしゅー」

降矢「黙れパシリが」












荒幡「…甘く見てたぜ、将星高校…創部してわずかだってのに中々やるじゃないか」

森田「俺たちの完敗ですね」

荒幡「あー、だがお前はまだ一年あるじゃないか、頑張れよ森田」

森田「はい!」








「それでは両者、礼!!」


布袋「冬馬のFスライダーか…」

望月「また一つ将星高校が手強くなったな…ド素人集団のくせによ」










「「「ありがとうございましたーー!!!」」」






夏予選、二回戦、将星高校−成川高校。

2-0で将星高校勝利!








冬馬優(とうまゆう)一年、ピッチャー。左下/左横(クロスファイヤー)

ミート パワー
F F E D D
球速 スタミナ コントロール 変化球
130km E C Fスライダー4
カーブ2







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