024成川高校戦3スカイタワー3



























七回表、将2-0成





とん、とホームベースに右足を置く。

七回の表、将星高校が成川の森田から二点を奪った、しかも…ホームランでだ。



降矢「やれやれ、あんな棒球にここまでてこずるとはな…。

県「降矢さん、ナイスバッティングです!」

降矢「おーよ」



ベンチに戻るといつものように左端の隅にどかりと、腰を落とした。


御神楽「しかし…どうして球を捕らえられたんだ?」

降矢「簡単なことだ、『上から来る球には下から打てばいい』だろ」

三澤「え?どういうこと?」

冬馬「下から…?下から…」

原田「下から打つ…あっ!」











相川「――そうか、アッパースイングか!!」








吉田がぽん、と右手で左手の拳を上から叩いた。


吉田「成る程な!それなら上から来る球をバットに対して真正面からぶつける事ができる!」

御神楽「今まではどうやってあのボールが来る前に打つか考えてたから、見落としてたのか…」

相川「おまけにウチは初心者が多いから……バッティングの基本である『上から叩くバッティング』を徹底していた。だから、余計に見逃してたんだ」

緒方先生「でも、よくそんなことを思いついたわねぇ…」




降矢は緒方先生の方をちらり、と見て鼻で笑った。


降矢「簡単なことだ、さっき怪物がくしゃみでホームラン打ったろ。あの時、偶然スイングのバランスが崩れた…。それがアッパー気味のスイングになったんだ」

冬馬「あ、そういえば…」

降矢「それを見て気づいたわけさ、今回ばかりは大場のくしゃみに感謝だな」

大場「お、おいどんのおかげですと?」

冬馬「大場先輩っ、すごいよ〜!」

県「流石、ウチの四番ですね!!」

大場「う…うぅ…」

降矢「うわ、コイツいきなり泣き出しやがった」


大場は急にぼろぼろと泣き始めた。


大場「す、すみませんですと。おいどん涙もろくて…」

降矢「キモイから、止めな」

大場「ひ、ひどいですとっ!!」











将星高校が二点をとったまま、そのまま試合は進行し、回はついに最後の九回裏に突入した。



吉田(よし)

原田(この回俺たちが抑えれば…)

冬馬(二回戦を)

大場(突破できるとです!)

相川「っしゃーーっ!しまっていくぞ!!」

全員「おう!!」







荒幡「野郎…そう簡単に負けてたまるか!」

森田「あんな馬鹿みたいな点を取られて負けたんじゃ…」

荒幡「野球部の恥だ!」





『九回裏、成川高校の攻撃は三番、キャッチャー荒幡君』




三番の荒幡がバッターボックスにつく、今日は御神楽の前にまだ無安打だ。


荒幡(くそーっ、こんなところで、負けてたまるかっ!!)


マウンド上の御神楽、ワインドアップから第一球を投げる!!





キンッ!!!



御神楽の初球。

ストレートをかろうじてバットに当てた荒幡だったが…ボールはセカンド後方にフラフラと落ちた。

成川高校、無死でランナー一塁!





御神楽(くっ…運のいい愚民だ)

相川(確かに運も有るが…)



カキィッ!!



またもや、金属音!

成川の四番、朝田が三遊間を抜くクリーンヒット!

これでランナーは無死一塁・二塁。



御神楽「えぇいっ!しぶといハエどもだ!!」

相川(今のではっきりわかったな、御神楽の球威が落ちてきてるんだ)




流石の御神楽も九回まで投球を続けるとなると疲れるのも無理はない、御神楽は膝に手を置いて肩で息をしていた。



御神楽(…ハァハァ…くっ、この僕としたことが…くっ、肩も足も重くて仕方がない)



仕方の無い事だ。

半分初心者である御神楽が、何のスポーツでもこなせる英才教育を受けているとはいえ、投球がストライクゾーンに入るだけでも見事としか言いようがない。



御神楽「…」



御神楽が天を仰ぎ、一呼吸を置き目の前を見ると、相川がそこにいた。


御神楽「む?」

相川「腕も足も重くて仕方が無い、か?」

御神楽「まさか、この僕がそんな訳が無いだろう」

相川「交代だな、さっき向こうの四番に投げた球は下手すりゃスタンドに持ってかれそうな棒球だ」

御神楽「…!」

相川「いいことを教えてやろうか」


相川は御神楽の顔面にキャッチャーミットをつきつけた。


相川「お前も人間だ」

御神楽「くっ、そんなことは…」

相川「御神楽、この前の桐生院との練習試合で冬馬が意地張って打ち込まれたのを忘れたのか?」

御神楽「…っ!」


御神楽の脳裏に冬馬の崩れ落ちた姿がフラッシュバックした。



相川「野球ってのはそういうものなんだ。一人のプレイがゲームを変える。良くも悪くも」

御神楽「……僕が打たれると?」

相川「今のままじゃな、今のお前の投球数140球。それを越えてパーフェクトに抑えるほうが稀だ、プロ選手じゃあるまいし」



御神楽は少し考え込んだまま、うつむいた。

そして少しの間をおいた後、ボールを相川に差し出した。



御神楽「自分の力を信じてはいる、しかし過信で敗北というのは帝王にはふさわしくない」

相川「御神楽…」

御神楽「今回は退かしていただく」

相川「そういうことだ」


相川はショートについている冬馬に向かって、手を振った。


相川「冬馬、いくぞ!!」

冬馬「は、はい!!」













『将星高校、選手の交代をお知らせいたします。投手、御神楽君に代わりまして冬馬君』



『きゃーーー!!!』

『冬馬君がんばってーーーー!!』



と、スタンドから黄色い声。


望月「うわ、なんだあのアイドルのおっかけみたいな軍団は」

布袋「…ファンクラブ?」

望月「ええ?マジかよ!」

布袋「まぁ、あの投手…は顔が悪いわけではないからな」

望月「…いやいやいやいや、あいつらの中に男も混じってるぞ?!」

布袋「男が男のファンクラブ…。望月、見なかったことにしよう」

望月「ああ、そうだな…。ん?おい、見ろよ布袋。なんだか冬馬のフォーム前と違わないか?」

布袋「む?言われてみればそうだな、前はアンダーハンドだったが、今はサイドハンドになっている」



望月「おいおい、俺たちと試合してから間もないのにフォーム改造?まさか…」

布袋「…ま、見ていようじゃないか」













冬馬らしく、帽子を取ってキャッチャーの相川に一礼する。


冬馬「お願いします!」

相川(…いい心がけだ、どっかの不良とは大違いだな)


もちろん、降矢のことである。


降矢「ハックショーイ!…だりー」







相川「いいか、冬馬今までの練習を思い出すんだ!」


相川はキャッチャーミットを二三度叩いて、景気良く声をかけた。


冬馬「はい!」





力強く頷くと、冬馬はマウンドのプレートの一番利き腕の方向の端…この場合冬馬は左投げなので打者から見て一番右の端に立った。



冬馬(まずはプレートの一番端に立って…)


そのままセットポジションから投球動作に入る。

冬馬(一番手を外側からまわるように…)

左手は体から一番遠い所を通ってしなり、球が放られる。


スパーンッ!!

相川「よし、ナイスボールだ!!」











布袋「なんだ、たいした球じゃないな。これなら前のほうがまだ速かったんじゃないか?」

望月「…」

布袋「ん、どうした望月、青い顔して」

望月「…布袋、お前にはわからないのか?!」

布袋「どういうことだ?今のだって普通の球じゃないか、しかもボール…」

望月「あれ、ストライクだぜ?」

布袋「なんだと?」

望月「見てろ…今にわかる!」


















『五番ピッチャー森田君』


無死一塁二塁で右投げ左打ちからの森田。


相川(左打ちか…ちょうどいい。試すにはいい機会だ!)

森田(流石に二流のピッチャーしか残っていないようだな…どうも九人ちょうどしか選手もいないようだし…なめるなよ!!)




荒幡「森田ーー!!気を付けていけよ!!」

森田「はい、こんな120kmも出てないような投手に抑えられませんよ!」



相川はくくく、と笑った。


相川「ふふ、気楽だな」

森田「何?」

相川「野球はスピードだけじゃないんだよ。…見てな」



冬馬、セットポジションから第一球を…!



森田(ふん、さっきの投球練習でもそんなに目を見張る球も投げて無かったし、驚くほどの変化球もない!)


サイドハンドから投げた!



森田(こんな棒球で俺を抑えれると…)










次の瞬間、森田は自分の目を疑った。






森田「―――!!!!」




荒幡「なっ!!」

森田「な、なんだとっ!!!」



ボールは動揺して膠着した森田の脇をすり抜け、あざ笑うかのようにミットに滑り込んだ。


スパーン!

「ストライクワンッ!」





















森田「ボールが、見えない…」

























スーッと飛んできたボールをキャッチングした相川はにやりと笑いを浮かべた。


森田「…ボ、ボールが…見えないだとっ!!!そんな馬鹿な!!!」















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