021台頭、将星高校。































その日の気温は三十度を越える猛暑。

地方球場にも例外なく日差しは降り注いでいた。


カキーンッ!!



そして静寂を打ち破る、気持ちいいほどの金属音。




「オオオーッ!!」



この日三度目の、将星ベンチからの歓声。


降矢「…」


スイングの後、まるで降矢は大阪近鉄の中村選手のように肩膝を地面について固まっていた。

打球はレフトスタンドへ一直線、外野手はもう下がるのを諦めて上空を見上げていた。





降矢「…入った」


そのセリフと同時にポーンと打球は地面についてはねた。


「ホームラン!!」



審判がグルグルと手を回すと降矢は颯爽とベースを一周して、ホームベースに帰ってきた。



吉田「よっしゃーーー!!よくやった降矢!!」

冬馬「降矢!ナイスバッティング!」

相川「いいフォームだ、それを維持しろよ」

御神楽「ふん、愚民にしてはなかなかの打球だったな」

県「降矢さん、すごかっ…あ痛っ!!」


五人目にやってきた県のみぞおちを降矢は思い切り蹴り上げた、相変わらず容赦のない男である。



降矢「ええい、うっとおしい!男どもが揃いも揃って…俺に寄るな!」

大場「そんなこと言ってもすごいとです、降矢どん今日は3ホーマーとです!」



一打席目から左本塁打、右本塁打、そして中本塁打と打ち分けて、全打席ホームラン、只者ではない。



降矢「アホか、俺を誰だと思ってるんだ」







六月下旬、夏の予選大会、将星高校の一回戦の相手は穂能見ヶ丘学園。


そうして積み上げたその点数、わずか四回で八得点、その後先発の御神楽が穂能見ヶ丘学園をゼロに抑え、なんと五回コールドで将星高校は一回戦を突破したのである。

ちなみに、穂能見ヶ丘学園は弱小高校である…といっても将星も創部二年目なので弱小なのだが。

それでも、やはり降矢、吉田、御神楽のバッティングはずば抜けていた、とても初心者とは思えないほどだ。

ピッチングも相川のリードが冴え渡ったおかげで、無失点だ。


緒方先生「すごいわみんなーー!!」

吉田「よーっしゃああああ!!公式戦初勝利!!」

三澤「おめでとう、みんなっ」

大場「お、おいどん、本当に勝てるとは思わなかったですと!」

相川「…まさか即席でここまでになるとは思いもしなかったがな…」

能登「…偶然」

原田「俺らでもやればできるッスね!」

御神楽「ふん、愚民どもにこの僕が打たれるわけが無いのだ」

降矢「ふーっ…」




試合後のロッカールームで降矢は大きなため息をついた。



降矢「あのなぁ…今日の相手はうちの地区でも一・二を争う弱小高校なんだろうが、それに勝って浮かれててどうするよ」



降矢はみんなのようにユニフォームで球場に着たのではなく制服で来ていたので、試合後すぐに着替えていた降矢は席を立った。





原田「あれ?降矢君どこに行くッスか?」

降矢「どうせすぐに帰んねーだろ、俺は次の対戦相手の試合を見てくる」

原田「マジッスか?俺も行くッス!」

降矢「好きにしろ」

冬馬「あ、俺も俺も」

吉田「降矢がはぐれんようにしっかり見張ってるんだぞー」

冬馬「わかってまーす」

降矢「…あのな。…まぁいい、俺は先に行く」

冬馬「あ、ま、待ってよ!」

原田「待ってくださいッス〜!」













市民球場、と呼ばれるその場所で大会は行われている。

一般的に地方球場と呼べるものだが、その大きさはプロチームが使う球場と大差はない、ナイター用の照明灯もあるし、観客席も立派なものだった。

応援団もそこそこ来ているようで、いわゆるアルプススタンドと呼ばれる一塁側と三塁側の真上に広がる観客席には野球部員達が弾幕をたらしている。

外野席には暇なのか、家族連れやカップル、ちゃらい兄ちゃんや、子供達、はたまた老人がまばらに座っている。

降矢たちは、キャッチャーの真後ろバックネット側に陣取った。





冬馬「わぁ〜、なんだか俺こんな所に来るとわくわくするよっ」

降矢「ガキか」

原田「しかし降矢君は流石ッスね、勝利に気を緩めない、”勝って兜の緒を締めよ”さらっと言うのは流石ッス」

降矢「別にそんなつもりで言ったんじゃねー」



降矢は別段表情を変えずに、目の前の試合に目を細めた。




今日の三試合目、成川高校対橋立高校。


この試合に勝利した方のチームが降矢たち将星高校の次の相手となる。

試合は三回、いまだ0対0である。




降矢「あいつだな、成川とかいう高校のあのでかい奴」

冬馬「え?どれどれ」

原田「うわっ、マジッス!すげーでかいッスねー!」




成川のマウンドに立つのは”190は越えていそうな大柄な投手”、そして彼はマウンド上で仁王立ちしていた。



ワインドアップから振り下ろされるストレートに対して橋立高校のバッターたちはまるでタイミングが合わずことごとく振り遅れる。





原田「まるで二階から投げ下ろされてるみたいッスねー」

冬馬「わ、また振り遅れてる。落差もすごいよね、望月君が投げてたフォークボールかな?」

???「いや、アレはスライダーだな」

冬馬「へ?」



後からは聞き覚えのある声。


降矢「…てめぇ、こんなとこで何してんだ。ちんちくりん二号」





望月「あの成川の投手、名前は『森田充(もりたみつる)』、だ。お前と違っていろいろと注目されてるんだ、だから俺は視察しに来たって訳」

降矢「ほう、この前のふがいないピッチングでついに信頼を失ったか」

望月「まさか。エースのこの俺が監督命令でわざわざ見に来てるんだ」



布袋「正確には投手の技術を盗んで来い、と言われたんだがな。あの投手は大きいだけじゃない」



降矢「む、てめぇは…」


降矢の後ろに立っていた、長身の男、身長も降矢と同じぐらいだろうか。

黒い髪をかなり横で分けている、目は力強かった。


布袋「布袋京だ、先日はお世話になったな金髪君」

原田「なんだか火花散ってるッスね…」

冬馬「それより…えーと布袋さん、大きいだけじゃないって?」



布袋「…おい、望月。女の子がユニフォームを着ているぞ?」

望月「いやコイツは………………………多分男だ」



冬馬「何なんだよ今の間はっ!俺は男!」

布袋「……なんだか違和感を感じるが、まぁいい。望月お前はわかってるのか?」

望月「当たり前だろ、あのピッチャー。身長はでかいが、小回りもきく」

原田「小回り?」

布袋「まぁ、見てればわかる…おっとフォアボールを出したようだな」



見ると、一塁には橋立のランナーが出塁していた。

成川の森田はセットモーションから、第一球…低めに決まってストライク。



望月「まず、アイツはセットからのモーションでもフォームが崩れないからコントロールが乱れない」



そして森田の二球目に、橋立のランナーが盗塁!

…しかし、森田はクイックモーションでストレートを外す、そのままキャッチャーがストライク送球で二塁で刺した。




原田「うわーキャッチャーの肩もいいッスねー。ミサイルみたいッス」

望月「まぁ、見りゃわかるが森田はクイックもうまい、ちなみ情報だと牽制もサインプレイもこなすらしい。正に小回りがきくってわけ」

布袋「望月はこの前の試合でもそれがはっきりでたが、ランナーを出すとコントロールが乱れるタイプだ、それを勉強して来いと監督直々の命令だ」



降矢「…ふーん、まぁどうでもいいが、そんなに簡単に味方の弱点を教えていいのか?」

望月「馬鹿か金髪、教えるってことはもう弱点じゃないって事なんだよ」

降矢「ほぉ、この短期間で何が変えれるのか」

望月「何なら試してみるか?」

降矢「いや、勝つってわかりきってる試合は嫌いだからな」



交錯する視線の間で二・三度火花が散った気がした。



原田「わわ、ケンカは止めるッス」

降矢「こんな奴とケンカなんかして何が楽しい」

望月「こんなところでこの金髪の選手生命を潰したくないからな」



また火花が散った、今度は見てわかるほどだ。


布袋「二人とも口だけは一流だな」






結局、試合は森田の打ったタイムリーを最後まで自分で守って、1対0で成川が勝利した。

森田の成績は死球が六個と気になるものの、ヒット三本、七奪三振と好成績を残した。

これで次の試合の相手は決まったわけである。





望月「あらら、残念だったな降矢。お前の命もここまでのようだね」


ぷくく、と含み笑いを浮かべる望月。


望月「あの森田はお前にはちょっと荷が重いぞー?」

冬馬「むっ、そんなことないよね降矢!」

降矢「…まぁ、試合すればわかることだ。ちんちくりん二号もせいぜい俺と当たるまでに腕を磨いておけ」

原田「のわっ、待ってッス降矢君!!」

冬馬「それじゃ、次やる時は負けないよ!」




そのまま三人は席を立ち、球場を後にした。



望月「…素人の癖にあの自信は一体どこから来るのやら」

布袋「あの金髪君もそろそろ野球の厳しさを知るだろう、お前の言うとおり将星に森田は少々荷が重いだろうな」




望月「果たしてあいつらに”スカイタワー”が打てるかどうか…」





布袋「さぁな、とりあえず人のことよりも自分の事だ、帰るぞ望月」

望月「ああ」


”スカイタワー”

その名前が意味するものは…。






















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