020夏に向けて…





























快晴の下、グラウンドの端にあるサブグラウンドに、大声が飛んでいた。



大場「サードとです!!」

吉田「よっしゃあ!原田!」

原田「うっす!!」



ファーストの大場からサードの吉田に、そしてセカンドに送球される。


内野の連携守備、これをしっかりやっておかないと、いざという時にミスが出てしまう、チームの性質上ショートは抜かしているが…。

あの桐生院との試合で自信をつけたのか、部員達の練習にも見てわかるぐらい熱気がこもり始めていた。







六月も終わりに向かい、選手は夏に向けて必死なのだ。












しかし…外野陣はというと…。



降矢「…」

県「ふ、降矢さん座っちゃ駄目ですよ!」

能登「…降矢、立つべき」

降矢「あのな、何が悲しくてキャッチボールばっかやらなくちゃいけないんだ」



先ほどから三人でひたすらキャッチボールを続けている。




県「仕方ないですよ、捕殺は相川さんがピッチャーの方にまわってるからできませんし、ノックも緒方先生が今三澤先輩に必死になって野球のことを教えてもらってますから…」

能登「…肩を養うために、キャッチボール」

降矢「あー、わかったよ。ったく、なんだそりゃ」

能登「…ふむ、降矢」

降矢「あー?なんだよ根暗野郎」

能登「…ここまで、届くか?」




そういうと能登はサブグラウンドの端まで走っていく。



降矢「お、おいおい、どこまで行くんだあの根暗は」

県「壁までいってしまいましたね…」



そして遠くの方でぶつぶつとつぶやく、能登。



降矢「あいつの声じゃ聞こえるわけねー。おいパシリ、ちょっと聞いて来い」

県「へ?あ、はい!」



そのまますさまじいスピードでグラウンドの端まで駆けていく県。



降矢「…さすがパシリ、相変わらずスピードだけは並じゃねぇな…」




その速さはこの前の桐生院戦でも証明されていた。

これも毎日降矢にこきつかわれていたおかげかもしれない。




降矢(…ってことはこのままパシリ続けりゃ、それだけアイツが速くなるって事だよな)




ならば俺のおかげだな、と不敵な笑いを浮かべていると県が帰ってきた。




県「ハァハァ…あの、この距離でキャッチボール、だそうです」

降矢「…はぁ?届くわけねー………うおぅっ!!?」



いきなり、頭上から白いものが落ちてきた。



降矢「…ぼ、ボール?まさか、アイツここまで届かしたのか?」

県「…すごい肩ですね…」


降矢「…根暗野郎のくせに…俺に勝負を挑むとはいい度胸だ、行くぜこのクソ野郎!」

県「ああっ!降矢さん!急に投げると肩壊しますよ!!」

降矢「うるせ、どけパシリ!!ぬあああーーー!」




ビューー…ぽて。




能登「…半分も、届いてない」















一方、その頃、顧問とマネージャーはというと…。



緒方先生「…頭、痛い…」

三澤「先生、まだルール半分も説明してないですよ…」


部室で三澤のルール講座を受けていた。

顧問は驚くほど野球に対して無知だった、よくそれで顧問になろうと思ったな。




緒方先生「犠牲フライ…はタッチアップと一緒、野手がボールを取ってから走者はスタート?」

三澤「はい、正解です♪先生には、練習がてら後でコーチャーボックスにも入ってもらいますから。頑張ってくださいね」


緒方先生「うう〜〜……」


ちなみに緒方先生は世界史の先生である。














そして、バッテリーといえば。

バシィーンッ!!



相川「…ふぅ、50球終わり」

冬馬「ありがとうございました!!」


二人づつ交代してのピッチング練習はかなり効率が悪い、しかしチーム事情のため仕方ないのだ。

今は冬馬が相川のミットに球を投げ込んでいた。



相川「うーん…」


軽く首をひねる相川。


冬馬「どうかしたんですか?」




やはり、冬馬は球が軽いのだ、はっきり言うと威力がない。

コントロールがあるとはいえ、スタミナが切れればこの前の桐生院の時の二の舞である。

そうなると、左投手とコントロールがいいという利点を生かして何か一つ武器が欲しい。

かといって冬馬はシンカーが投げれるわけでもスライダーの切れがいいわけでもない。





冬馬「…やっぱり、駄目ですか」

相川「とりあえず、そうやって上目遣いで見るのは止めろ」



少しだけ大場の気持ちがわかった気がする、どう見てもこいつは…色々とマズイ、倫理的に。


冬馬「そんなこと言ったって、仕方ないじゃないですか…俺背が低いんですから…」


少しだけ降矢の気持ちがわかった気がする、確かにこいつはちんちくりんだ。



相川「ふーむ……」

御神楽「終わったか愚民ども?」

冬馬「あ、御神楽さん待ってください。今相川先輩が死ぬほど悩んでおります」




冬馬は桐生院戦九回の御神楽を見て、少しだけ御神楽に対しての嫌悪感は少なくなっていた。





相川「死ぬほどじゃないがな」

御神楽「今更、貴様の球の威力の無さでも悟ったか?」

冬馬「むっ…どうせ俺は御神楽さんほど、球も速くありませんよー」

御神楽「ふむ、わかってるではないか。貴様が優れているのは下から来る球のコントロールだからな、食い込むような…」



相川「それだ!!!」



冬馬「わきゃっ!?」

御神楽「どうした、畜生のような悲鳴を上げて」


相川「それだ、食い込む球だ!」


冬馬「わわわっ、なんですかいきなり」


相川「よく聞け冬馬!左サイドハンドだ!!」

冬馬「はぃ!?」

相川「お前のコントロールをいかして、サイドハンドからの対角線投法…並みの左バッターなら普通は苦しむぜ!いわゆるクロスファイヤーって奴だ!」


御神楽「…言ってる事がわからぬわ」

相川「いいか、だから、ピッチャープレートのはしっこからサイドハンドで投げれば、左バッターにはまるで背中から来てるみたいに感じるんだよ!」


いつものクール振りを忘れさせるほどの、興奮。

この男、はまれば熱く語ってしまうタイプらしい。


冬馬「で、でも」

相川「いいからやれ!お前が生き残るにはそれしかない!」

御神楽「愚民よ、僕の番ではないのか?」

相川「お前のピッチングは上々だ、流石帝王だな。いいからショートに入って内野連携でもしてろ」


御神楽「む…ふん、仕方ない、ではそうさせてもらおうか」


冬馬「…案外、のせられやすいですよね」

相川「いーから、早く投げ込んでみろ!!」

冬馬「はぁーーい…」











そして、練習も終わり…。


冬馬「ううー…くたくただよ…」

降矢「情けねぇ…飯食ってんのか?」


降矢と冬馬の家は近いので二人は大体一緒に帰っている。

というよりも、降矢はついてくる冬馬にうんざり。

冬馬は、降矢が問題を起こさないように監視しているといった感じでは有るが。







冬馬「うぅー…ちょっと、これ持ってて、俺アクエリ買ってくるよ…」

そう言って自販機に走り出す冬馬。

降矢「…なんだこりゃ…ビデオ?」



降矢が冬馬に渡されたのは相川が研究用に渡したビデオ。

内容は元阪神タイガース、左キラー遠山選手の全盛期の時のピッチングである、だが降矢はそんなことを思うはずもなく。



冬馬「ごめんごめん、ありがとう」

降矢「…なぁ、お前中々度胸あるよな…」

冬馬「え、どうして?」

降矢「AVをカバーもつけずに持ち歩く…」


パコッ!!!

いきなりバッグでどつかれた。



降矢「痛ってー!?何すんだこの野郎!!」

冬馬「そ、そんなもの見るわけ無いだろ!降矢の変態!!」

降矢「は、はぁ?何でだよ、男なら普通だろうが」

冬馬「それでも公共の場でこういう会話すること事態常識が無いの!!」

降矢「…公共の場って…周りには誰もいないぞ」

冬馬「………あ。……本当だ」

降矢「はぁ…俺はだるいからさっさと帰る」

冬馬「あ、待ってよ降矢!!」

降矢「変態呼ばわりするくらいなら、ついて来んなっての…」









ため息を一つ、暗くなりかけている空に吐いた。





















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