022成川高校戦1スカイタワー

























二回戦、将星高校対成川高校。

一塁側ベンチに将星高校ナインが入ってくる、それと同時に入ってきた三塁側の選手を降矢は見ていた。



降矢「…改めて、でかいな」




成川高校の背番号一を背中に背負う選手は、どう見ても周りの選手よりは一回り背の丈が高い。



三澤「うわぁ…すごいね、あのピッチャー。バレーーボールの選手みたいだね」


相川「森田充、二年生。身長195cmの長身から投げ下ろすボールはスカウトも惹きつける」




大場「おお、すごいとです相川どん、物知りですとね」

相川「情報戦は近代野球の常識だ、馬鹿」



呆れた顔してため息をつく相川。



緒方先生「ええと、それで、”スカイタワー”って言うのを投げるらしいわ」

冬馬「スカイタワー?何それ」

降矢「さぁな」

原田「そう言えばこの前、会った桐生院の二人が俺たちが帰った後に、確かそんな感じの名前を言ってたッス」

能登「……気味が悪い」

県「確かに、正体がわからない球って、不気味ですね」

御神楽「ふん、愚民共が。膝が震えているぞ?いつまでも恐れているばかりでは正体すら掴めぬわ」

吉田「ハッハッハ、そうそう、気にしても始まらん」



『将星高校の選手はノックを始めてください』



降矢「実際にやってみれば、嫌でもわかることだ」



そう言って、降矢は自分のグラブを持って外野へ歩いていった。















先攻は将星、後攻が成川。


そして、炎天下の下高々と声が上がる。





「プレイボール!!」




『一番、ピッチャー御神楽君』



降矢「おいナルシスト」

御神楽「…」

降矢「シカトか、こら!」

御神楽「なんだ、愚民。この僕に何か用か」

降矢「人が呼んでるのにシカトか、コラ」

御神楽「とりあえず、この襟を掴んでいる手を離したまえ」


冬馬「ちょ、ちょっと!いきなり二人でケンカしないでよ!」

吉田「ハッハッハ!ケンカ多ければ仲良きかな」

相川「お前はいつでも、気楽だな」






降矢「おい、ナルシスト、とりあえずスカイタワーとやらを探るために粘ってみたらどうだ」

御神楽「貴様に命令される筋合いはない」

降矢「は?テメー誰に向かってそんな口きいてんだオラ!」

御神楽「貴様といつまでも争っている時間は無駄だ、僕は行くぞ」

降矢「ケッ、とっとと三振しちまえ」

県「降矢さ〜ん…もうちょっと穏便…ウギャッ!!」





降矢の裏拳は綺麗に県の顔面に入った。




県「あわわ、鼻血がぁ〜」

降矢「ちっ…」

相川「血の気の多い野郎どもだ…」














御神楽はジャリジャリ、と軽く足場を踏み鳴らす。


捕手「おうおう、新設チームか何か知らないが、随分と仲が悪いな。運良く一回戦を突破したくらいで調子に乗ってるんじゃないのか?」


成川のキャッチャーが囁く、だが御神楽は顔すら向けようとせず、左打席に入った。


御神楽「愚民が、気安く僕に話しかけるな」

捕手「なっ、なに!?」


声を荒げるキャッチャー、確かにこんなことを口走る球児はめったに…いや、まずいまい。


捕手(野郎…森田、いきなりこの野郎に野球に厳しさを教えてやれ!)

森田(了解しました、荒幡さん)


森田はゆっくりしたモーションで振りかぶる、そしてそこから投げ下ろす!

キャッチャー…荒幡が出したサインは!


御神楽「!」




緒方先生「ああっ!」

三澤「危ない!」

吉田「しゃがめ、御神楽!!」



その一言が聞こえたかどうかはわからないが、御神楽はとっさに身をかがめた。

そのままボールはミットに収まり、死球にはならなかった。

「ボール!!」




能登「……危ない」

降矢「ちっ」

冬馬「なんで舌打ちするんだよっ」


原田「ノーコンッスかあのピッチャー?!」

相川「いや、わざとだ。その証拠にあれだけ外れたボールなのにキャッチャーは捕っている」







御神楽「…」

荒幡「ふふ、悪かったな、森田の奴緊張してるみたいでよ」

御神楽「ふん、流石愚民だな、緊張などという下等な意識を持っているわけか」


荒幡(…野郎、口だけは一流だな)






その後、御神楽はスライダー、ストレートと変化球で追い込まれる。


カウントは2-2。



ギンッ!!

「ファールボール!!」





森田がくさい所に投げたボールを御神楽がカットする。



荒幡(…ほう、カットできるとはな。お遊びで一番に座ってるわけじゃないのか)

森田(粘ってくるつもりか?…おもしろい)






相川「…おい、御神楽の奴カットなんてできたか?」

吉田「いや、練習してた限りは見てない」

降矢「…」

県「降矢さん、御神楽先輩ちゃんと話聞いてたじゃないですか」



バキィッ!!



県「いひゃいへす…」

降矢「…」






御神楽は先ほどまでより幾分かバットを短く持っていた。


御神楽(流石にこの帝王である僕がただで帰る訳にも行くまい)


キンッ!!


「ファールボール!!」



森田「…くっ」

荒幡(ちっ、ここまで粘られるとは思わなかったな)


次が九球目、カウントは2-2のまま。

森田が投じた球は…ストレート!!



ビシィッ!!


御神楽「…ふっ」





カキーンッ!!!


森田「なっ!!」


金属音とともに打球は右中間を抜く、御神楽は俊足を飛ばして二塁へ。



吉田「よっしゃあーー!いきなり2ベースだぜ!!」

降矢「…ちっ」

冬馬「だから何で舌打ちするの?!」





続く二番県が、桐生院戦から猛練習を積んだ送りバントで御神楽は三塁へと進む。






そして、三番吉田。


『三番、サード吉田』





荒幡(…まさかこんな奴らにここまでやられるとはな)

森田(…荒幡さん、アレを使いますか?)

荒幡(…仕方ない、ちょっと予定外だが、出すぞ!)

森田(…はい!)



吉田(何か雰囲気が妙だな、何か出してくるのか?…スカイタワーって奴か?)




ピッチャー森田、振りかぶって第一球を…!!









吉田「…何っ!?今までとフォームが違う!!」









今まではスリークォーター気味で斜めから投げていた森田だったが…。

今のフォームはまるで真上から投げ下ろすかのような、完全なオーバースローになっている!






吉田「高い!!!」






その体勢からバレーのスパイクでも見ているような振りで投げ下ろしてくる。




森田「ラッシャーー!」



ドンッ!!!!!!!!!



吉田「うぉぉーーっ!?」




ズバンッ!!!


「ストライクワンッ!!!」



バットは球をかすろうともせずに、すり抜けた。





吉田(…これか!)


相川「これが、スカイタワーか!」




原田「フォームが変わっただけなんじゃないッスか?!」

相川「いや、普通はフォームなんてそうそう変えていいもんじゃない。下手するとバラバラになって球全体の威力が落ちる可能性がある。だがアイツはわざわざ、フォームを変えた」





相川「つまりあれは『スカイタワー』っていう球種なんだ!」



県「…!!」

大場「何か良くわからんとですが、すごいとです!!」

降矢「…」

三澤「あれじゃあピッチャーを見上げちゃうよ!」

相川「…まさかこんな球だとは思わなかったぜ!」





吉田(なんつー角度だ。まるで二階建てのビルから投げ下ろされてるみたいだ…)





荒幡(森田は身長だけでなく手も非常に長い、その長さをあわせると2m50cm、さらにマウンドの高さをあわせると、3m近くになる!こんな芸当森田じゃなきゃ不可能だろう)



ズバーン!!



「ストライクツー!!」



早くも追い込まれる吉田!


吉田(ちっくしょー、駄目だ。単なるストレートなんだが、まるで打てる気がしねぇ!)


バシィッ!!!


「ストライック!!バッターアウッ!!」


吉田「にゃろうっ!!」



ガンッ!!

勢いよくバットを地面に叩きつけ悔しがる吉田。





相川「やばいか、あれは?」


吉田は首を振った、もちろん否定の意味ではない。


吉田「尋常じゃねー角度だ、アレがスカイタワーみたいだな」

降矢「一球も当てられねーなんて情けねーッスね」

相川「降矢!」

吉田「降矢、お前もやってみりゃあわかる」

降矢「…かもね」




その後四番大場も凡退し、一回表の将星の攻撃が終わった。
















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