012桐生院一年戦3だから二流さ
一回の裏、桐1-0将
一点ビハインドで迎えた一回の裏桐生院高校の攻撃。
一番御神楽はアウトになるが、二番の県がセーフティバントで一塁に出た。
ここで打順は三番サード吉田。
『三番、サード、吉田君』
冬馬「キャプテン!頑張ってください!」
相川「吉田、気合入れていけよ」
三澤「傑ちゃん、ファイト!!」
吉田「はっはっは!!!」
バッターボックスで相変わらずの高笑いをかましながら、二三度思い切りバットを振り回した。
マウンド上、桐生院の植田投手、セットポジションから吉田に対して第一球。
ズバン!!
『ストライク!!』
低めカーブ、変化球から入ってきた。
吉田「おう、なかなかキレがいいな」
植田(くそっ!こんな奴らになめられてたまるか!!)
二球目はストレートが高めに浮いてボール、三球目は外角に外れるボール。
相川「ふむ…いいぞ、吉田の奴、球がちゃんと見えてやがる」
今の三球、吉田は手が出なかったというよりは自信を持ってボールを見逃しているという感じだった。
植田(…ちっ、こいつは他の奴と違って中々の経験者のようだな)
吉田「…」
植田(それなら…!!)
ストレートと同じ手の振り、しかしそこから手首を押すようにして投げる、チェンジアップ!!
植田(こいつでどうだ!?)
ボールはそのまま失速…。
カキィィィーーーーン!!!
植田「んなっ!!!」
打球はライトの前に鋭く落ちる、県は二塁ストップ!!
大場「おおおー!!!」
御神楽「…ほう」
相川「さすがは、吉田だ、あの選球眼の良さには脱帽だぜ」
植田「くっ…!!」
「お、おいおい、植田二連打浴びたぞ」
「ピッチャーが一年とはいえ、即席で作ったチームにしてはなかなかやるんじゃないか?」
桐生院ベンチはにわかに騒がしくなってきた。
しかし、桐生院監督、名将笠原監督は冷静に試合を見ていた。
少々白いのが混じり始めた髭を触ると、望月の方を向いた。
笠原「…望月、肩を作っていろ」
望月「はい」
ベンチ横でキャッチボールを始める望月。
植田にはいやでもそれが目に入ってきた。
『四番ファースト大場君』
植田(くそっ!俺は天下の桐生院高校だぞ!こんな無名のところに手間取ってるんだ!)
植田はロージンバッグを思い切り地面に投げ捨てた。
大場「と、ととと冬馬君!もしおいどんがホームラン打ったら…」
冬馬「絶対に嫌だ!」
大場「ま、まだ何もいってないとです!」
冬馬「すんごく嫌な予感が背中を駆け巡るんだ!」
大場「…がっくりとです」
肩を落としながらバッターボックスに立つ四番大場、相手の四番布袋とは悪いが遠く及ばないかもしれない。
植田(こ、こんな奴らに…く、くそっ!!)
ドカーッ!
大場「あうち!!」
植田「!!」
布袋「!」
植田の投じた球は大場の膝に命中した。
『で、デッドボール!!』
吉田「お、大場!大丈夫か!」
県「大場先輩!」
膝を押さえたままうずくまる大場。
大場「う、ううう、痛いとです…」
植田「ば、馬鹿な…」
相川「おい、一年!謝れよ!!」
布袋「植田」
植田「あ…ああ、す、スイマセン」
帽子を取って頭を下げる植田投手。
御神楽「そんなことより、この愚民がいなくなったら僕たち八人で試合することになってしまうぞ」
相川「いけるか大場?」
大場「ううっ」
ジャリ。
吉田「?」
砂を踏みしめる音、太陽を背にして悪魔…いや降矢が立っていた。
降矢「…」
そのまま大場の顔を蹴る。
ドガァッ!!
大場「おばぁっ!?」
吉田「のわあっ!」
県「ひぃっ!」
相川「おい、降矢!お前なんて事を…」
降矢「お前のロッカーにおいてある、大量の雑誌と例のブツは今俺の手にある」
大場「なっ、ななななな、なんですと!?」
その言葉でいきなりガバッと飛び起きた。
三澤「きゃあ!」
冬馬「うわぁ!」
鬼気迫る勢いだったようだ。
大場「今、なんていったですと!!」
降矢「俺の判断一つで焼却炉行きは確実だな」
大場「おばぁぁー!!な、なんでしますと!だから、それだけは、それだけはご勘弁をお願いしますだ!!」
降矢「じゃあ立って一塁いけや怪物」
大場「はっ!イエス、サー!!」
そのまま巨漢をむくりと起こし、地響きが鳴る勢いで歩いていく。
降矢「…」
緒方先生「ねぇ、降矢君、雑誌ってなんの…」
降矢「本人に聞いてくれ」
降矢は巨乳の言葉をさらっと流すと、ヘルメットをかぶりなおした。
降矢「ふん、雑魚は雑魚なりにお膳立てしてくれたってわけだ」
そう、これで1アウト満塁、バッターは降矢を迎える。
『五番、ライト降矢君』
だるそうに、のろのろと、まったく気合がない、そんな歩き方で打席に立つ。
肩に担いでいたバットをそのまま桐生院ベンチにむける。
望月「む」
延長線上にいるのは、ちんちくりん二号もとい望月だった。
降矢「見てろチビ、これが一流と二流の差って奴だ」
植田(ぐ…まさか一回からこんなピンチになるとはな…)
流れる汗をぬぐう、ロージンバックを念入りに付け直した。
降矢「おい見ろや、二流投手」
植田「…な、なんだと!!」
降矢のバットはセンターのはるか上、外野フェンスの向こうを向いていた。
植田「…!」
いわゆる、『ホームラン予告』だ。
植田「こ、この野郎!!なめやがって!!」
降矢「ほら、どうした?投げてみろよ、無名高校に打たれた二流投手さん」
植田「ふざけるなぁーーっ!!」
怒りは頂点だ、植田は感情のままにストレートを投げ込んだ!
ズバァン!!!
「す、ストライク!!」
審判の手が高々と上がる。
冬馬「は…速い!」
三澤「今の130km越えてたんじゃない?」
御神楽「本気を出した…ということか」
植田(ハァハァ…どうだ、これが俺の本気だ!)
降矢「おいおい、がっかりさせんなよ、こんなもんか?」
植田「な、なに!?」
降矢「お前、仮にも桐生院の投手だろ?こんなへたれ球投げんなよ、ヤル気なくなるだろ?」
植田「く、くおおおおーー!!!」
ドバァァーーンッ!!!!
さらに速い球がキャッチャーミットにおさまった。
冬馬「な、何考えてるんだ降矢は?」
三澤「余計速い球が来たよ〜!」
降矢「…」
植田「どうだ!お前みたいな不良あがりに俺の球が打てるわけないだろ!!」
降矢「小学生以下、ベリー遅ぇー。俺なめんのも大概にしろよ!」
植田「なんだと!打てるわけもないのに口だけは達者だな!!」
降矢「はぁ!?実力の差がわかんねーのかお前は!?」
植田「ほざけ!負け犬の遠吠えとはお前のことを言うんだよ!!打つ気もないはったりだけか?」
降矢「じゃあ、お前お得意のその速球をど真ん中に投げ込んでみろよ、二流投手」
植田「おもしろい!打てるもんなら打ってみろ!」
ランナーを無視して振りかぶる植田。
植田「うあああああーーっ!!!」
ビシィッ!!!
もはや甲子園に出場してもおかしくないスピードのストレート。
135kmは軽く越えているだろう、予告どおりど真ん中に来ている!
植田「打ってみろや、この金髪がぁーー!!」
カキィィィーーーン!!!!!!!!
―――打球は、センターの遙か遙か上を越えていった。
降矢「…バーカ、だから二流なんだよ。こんな挑発乗ってんじゃねぇよ、マジだせぇ」
ひひひ、とさげすむような笑いが降矢の口から漏れた。