008チームワークなんて無いに等しいか




















ついに九人揃った将星野球部!さぁ、みんな夏の予選に向けて猛練習開始だ!



…そんなキャッチコピーを入れるのは十年早かった。

例のブツを内ポケットから取り出すのは手馴れたものだ。

ブツ…箱の下を叩くと、白い棒が飛び出す、それをくわえると100円ライターで火をつけた。

耳だけを部室に傾けると、相変わらず罵声とも呼べる声が飛び交う。






以下、部室内の声。


冬馬「俺だ!」

御神楽「この僕だ!!」

冬馬「お前みたいな奴にマウンドを渡したら心の休まる暇が無い!」

御神楽「先輩を…しかもよりによってこの全知全能、帝王と呼ぶにふさわしいこの僕を『お前』呼ばわりするなんて、いい度胸じゃないか!」

冬馬「うるさい!このナルシスト!」


大場「冬馬君、降矢君に似てきたですと」

冬馬「え、ええ!?…そうかな」


御神楽「とにかく、君みたいな身長の低さ、体重の軽さではボールに重量感が出ないんだよ!」

県「御神楽先輩、微妙に物知りですね」


冬馬「俺は打たせてとるタイプだからいいの!」

御神楽「内野ゴロどころかそのまま場外まで持っていかれるのがオチだね」

冬馬「お前だって降矢に学校の外まで持ってかれたじゃないかっ!!」

御神楽「知らないのか!世間一般常識的にはあれを「偶然」または「奇跡」と呼んでいるのだ!」

冬馬「それは「いい訳」もしくは「負け惜しみ」っていうんだよ!!」

御神楽「何だと!」

冬馬「何を!」

二人「う〜〜〜!!」

二人「ぷいっ!」

大場「あ〜…二人とも仲良うしてと〜〜」






駄目だこりゃ。

チームワークなんて無いに等しい。



降矢(大体、どっちがピッチャーやるかでそんなにもめるなよ、ガキかお前ら…。大体一試合交代で投げればすむ問題だろうが)


ちなみに今降矢は部室内にはいない、外でタバコをふかしていた。

あまりにも騒々しすぎて上から埃が落ちてくる…人のケンカのせいで埃まみれになるのはごめんだった。

ぷかり、と白煙が空に浮かんでは消えた。



二人「降矢!お前はどっちなんだ」

県「ふ、降矢さん、呼んでますよ〜!」


パシリがわざわざ部室の外にいる俺まで呼びに来る。


県「わわっ!降矢さんタバコなんて吸っちゃ体に悪いですよ!」


…右手の指は見慣れたマイルドセブンをしっかりと挟んでいた。


降矢「パシリの癖に俺に指図すんじゃねー」

県「あ…す、すいません」

二人「降矢ー!!いるんだろー!」

降矢「はぁ…」


何故降矢呼ぶのか、すい始めたばかりの白い棒を地面に落として二三回踏みにじると、それを排水溝に捨てた。


降矢「キャプテンに言やーいいだろ」


降矢はだるそうに、部室に入ってくると一言言った。


二人「キャプテン!!」


すさまじい勢いで部屋のすみのキャプテンに詰め寄る二人。



吉田「まぁ、待て今考え中だ」

冬馬「?何を考えてるんですか?」

三澤「今後の練習の計画と」

緒方先生「あなたたちのポジションよ」


帽子を後ろ向きにかぶり首をひねるキャプテンの代わりにマネージャーの三澤先輩と顧問の緒方が答えた。


相川「お前らが問題なんだよな…後は大体決まってるんだが」

吉田「ちなみにピッチャー以外はどこ守れるんだ?」

冬馬「え?…そうだなぁ、俺はショートかなぁ」

御神楽「僕はショートだ、華麗な守備も華麗にこなしてこそ帝王と呼ぶにふさわしい」


二人は顔を見合わせた。


二人「また一緒!?」


相川「じゃ、空いたのはショートか、これで決まりだな」

吉田「よし!じゃあみんな一辺集合しようや!」







キャプテンの声とともに部室前に現野球部員九人が全員集合する。


吉田「よし!それじゃ今からポジション別に分けるから、よく聞いてくれ」


吉田「とりあえず…キャッチャーは相川で決定だな」

相川「ああ」


吉田「ファーストは大場、セカンドは原田、サードは俺」

大場「おいどん、冬馬君のためにがんばるとですと!」

原田「はい!」


吉田「外野は降矢、能登、県」

県「はっ、はい!」

能登「…こくり」

降矢「はいはい」



吉田「それで、ピッチャーとショートなんだが…」


目線を右に移すと、ちんちくりんとナルシストが相変わらずにらみ合いを続けている。


冬馬「キャプテンは当然俺を選ぶよね!」

御神楽「馬鹿な…誰の目から見ても、実力差は歴然、天と地の差、月とすっぽん、太陽とあり…」

冬馬「うるさい!」

御神楽「ふん、見苦しい」


見苦しいのはお前らだ。


吉田「うーん…ま、とりあえずお前らは日によって、投手と守備の練習をしてもらうとする」

県「え?ここで決めないんですか?」

吉田「はっはっは、流石にそんな簡単に決めるものじゃない。しっかりと実力を見極めてから決めるつもりだ」

大場「降矢どん。吉田どんは普段はあんなんとですが、こういう時はやっぱキャプテンらしくしっかりしてるとです」

降矢「…かもな」

吉田「ま、その内テキトーに決めるから頑張ってくれ!!はっはっは!!」

大場「…しっかり、してるとですばい?」

降矢「…さぁな」

吉田「じゃ、早速練習頑張っていこう!!!」

一同「おおーーっ!!」


もめながらも、無理矢理まとめてしまうのは、やはりキャプテンとして最適なんだろう。




















放課後のHRが終わっても席を立つ気にはなれなかった。

「五月」というのはある病気の一種ではないだろうか?

いつの世も、この頃になるとヤル気や気合が抜けてしまう…。


降矢「いわゆる五月病だな」

冬馬「降矢はいつでも五月病だろ」


半端なくムカつく事を言い出すちんちくりんのおでこに、全身系を集中させたでこぴんを一撃入れてやる。


バギャッ!!


冬馬「きゃーーっ!!!」


うずくまる冬馬。

みぞおちに入れられなかっただけありがたかったと思え、降矢はふん、と鼻息をならした。


降矢「パシリ、部活行くのか?」

県「あ、はい、っていうか九人しかいないんだから、毎日行かないと駄目ですよ」


優等生らしく真面目な返答をお返しになられる。

そんなことはわかっている、パシリがえらそうに言ってんじゃねー、という気持ちだ。


降矢「だりーなぁ…」

県「そんなこと言って毎日ちゃんと来てるじゃないですか」

降矢「無理矢理行かされてるんだ」


間違いではない。


冬馬「まっ、待てっ、待ってくれよぉ〜」


何だか後から情けない声がすると思えば、ふらふらと危うい足取りで先ほど降矢のでこぴんの直撃を食らったちんちくりんが、何とか立ち上がっていた。


冬馬「ううっ…頭がクラクラする…」

降矢「立つんだジョー」


有名なボクシング漫画のこれまた有名な名台詞を、何の感慨も無さげに棒読みで呟いた。


冬馬「誰のせいだよっ」

降矢「しいて言うならパシリ」

県「ぼ、僕ですかっ!?」


なんだこのショートコントは。


降矢「…くだらんことやってないで、行くならとっとと行くぞ」

県「は、はいっ」

冬馬「ま、待てったら!!」


ふらふら〜ごんっ。


冬馬「あうっ」

あ、こけた。








…。

……。

………。

はてさて、降矢は自分では一週間続けばいいほうだと思ってたのだが、これがどうして何の間違いか一ヶ月も続いてしまった。

一人でもやめたら試合ができないというプレッシャーもあるのだろうが、少しスポーツというものに打ち込むのも悪くない、そう思い始めていた。

周りは、変な奴ばっかりだが…。



大場「おお、降矢どん、県どんと…とっ、冬馬君…」


部室に行くと、ロリコンの怪物に出くわした。


冬馬「うっ…俺のときだけなんで興奮気味の声なんだよっ」

県「あ、あはは…」

降矢「…ん?キャプテンはどうした」

大場「吉田どんなら、先ほど相川どんと緒方先生と一緒にどこかへ行きましたとです」

降矢「…ま、いいけどさ」


どかり、と腰とバッグをベンチにおろし、バッグから雑誌を取り出す。


大場「ん?降矢どん、そりゃあ何ですと?」

降矢「見りゃ、わかんだろうが」


まぁ、真っ裸な女がたくんんのってる…いわゆるエロ本という奴だ。


大場「おおおおおおおおっ!!!」


手を激しくふり、目を血走らせる、わかりやすすぎるそのストレートなりアクション。

ハッスル、ハッスル。


大場「降矢どん、おいどんたちば、親友とですたい?」

降矢「違うな」


天地がひっくり返ってもこのロリコンと親友というのは絶対に否定したい。


大場「つれないこと言わんと、見せて…」


ちょうど開いたページは何気に幼げな美女の姿だった。


大場「おばぁぁぁーーー!!!」

県「ああああ!大場先輩が暴走したーーっ!!」

降矢「…せいっ」


降矢はさっきのでこぴんを越える力を込めて、奴のパワーが眠る股間に備えた男の勲章をけりつぶした。


大場「あぶへるばぁーーーーーーーっ!!!!」


ズズゥン。

2Mの巨躯は地が揺れるほどのすさまじい叫び声を残して奴は地面に倒れる。


県「ああっ!大場先輩の股間がつぶれた…」

冬馬「不潔だよ二人とも!!」

降矢「一緒にするな。県お前もこっちに来い、社会勉強だ」

県「ええっ、い、いや、しかし僕はまだ18歳未満でして…」


ギロリと一瞥をくれる。


降矢「俺に逆らう気か?」

県「はいっ、わかりましたっ!!」


とてとてとて…。

すぐさま、俺に近づいてきて。

さささっ。


県「あわわわわっ」


すぐさま顔を真っ赤にして離れてしまう。


降矢「…」


罵声を浴びせる気にもならなかった、マジでガキかコイツ。


降矢「冬馬」

冬馬「お、俺はいいよっ!!」

降矢「洗礼だ」


むしろ、この部はこの手の話題で盛り上がれる奴がいるかどうか本当に際どいラインなのだ。


冬馬「いいって!いいったら!!」


何をそんなに嫌がる必要があるのか、俺が一歩近づくたびに後へ下がる。

こういう奴に見せるとどういう反応をするのだろうか、なんだかゾクゾクしてきた。


降矢「試練だ」

冬馬「お、俺はそういうの嫌いだからー!」


眼前にページを広げてやった、多分この本の中で一番過激なシーンを。


冬馬「!?!?!?」

降矢「…」


さぁ、どう出るちんちくりんよ。


冬馬「ば…」

降矢「ば?」

冬馬「バカーーーッ!!!降矢の変態っ!鬼畜!人でなし!!」


ポストに勝るとも劣らない赤さで頬を染め上げた冬馬はわめきちらして、俺の雑誌をふんだくった。


冬馬「こんな見てるからそんなひねくれるんだよっ!!」


そのままビリビリっと威勢のいい音を立てて破いてしまう…こんなリアクション始めてみたぞ。


大場「お、おいどんのバイブルがぁぁぁぁ」

降矢「俺のだ、怪物」


冬馬「はぁー、はぁー、はぁー、れ、練習!練習するの!」


そのまま有無を言わさず冬馬に手を引かれていく。


降矢「そこまで嫌がるか普通」

冬馬「うるさいうるさいっ!バカバカバカ!」


ドンッ。


冬馬「わきゃっ!」

吉田「うおっ」


部室をでるところでキャプテンとはちあわせる、身長差のおかげで頭と頭が激突、なんてことにはならなかったみたいだ。


吉田「ん?冬馬?どうしたそんなに赤い顔して」

冬馬「な、なんでもありませんっ!」

吉田「?………まぁいいが、それよりみんなに大変なビッグニュースがあるんだ!!」
















吉田「なんとっ、実は六月の最初の日に!練習試合が決定した!!!」














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