006女っ気がねぇな、おい。
冬馬「後三人だね、降矢」
降矢「はぁ、まだ三人も集めなきゃならねーのか…だりーな」
県「降矢さん、そんなこと言わず頑張りましょう」
降矢「県」
県「はい、なんでしょう!」
降矢「ジュース買って来い」
県「わかりました!」
すばらしいスピードで廊下を駆けていく県。
冬馬「…また県君に買いに行かせて」
降矢「俺なりにアイツの足を鍛えてやってんだよ、後々にアイツは俺に感謝する事になるだろう」
冬馬「…はぁ、最低」
言ってろ、今に思い知るぞ、降矢は冬馬を睨んだ。
降矢「…それにしても」
降矢は部屋を見渡した。
印刷室で部員募集のチラシを印刷しまくる手伝いを巨乳にやらされてるのだが…。
降矢「あの巨乳がいなけりゃ、野球部は女っ気がねぇな、おい」
冬馬「な、何てこと言うんだよ!」
突然冬馬が叫びだす。
降矢「何でお前が怒るんだ、事実だろ」
冬馬「あ、いや、その、何ていうか、そうスポーツを極めるものにとってよそ見は必要ないんだ!」
そう爽やかに言い捨てる、別に俺は極めようとしてるわけじゃない。
降矢「…ま、何ていうか元女子高だから女なんざ腐るほどいるのに。なんでマネージャーがいないんだ?ってことさ」
こう、何ていうんだ、練習後に「お疲れさま」ってスポーツドリンクを渡してくれる、そんな癒しがないんだよ。
降矢「…癒されん」
冬馬「はぁ?」
降矢「練習後の癒しがねぇんだよ、マネージャーとの甘いひと時がねぇんだよ。笑顔でスポーツドリンク渡されたいんだよ俺は」
冬馬「じゃあ俺が変わりに渡してやろうか?」
まるで、作り物のように笑顔を浮かべる中性顔の冬馬。
降矢「俺はいくら女顔だろうと、股間に例のブツがついている奴に渡されて喜ぶ趣味は無い」
冬馬「人がせっかく親切に言ってあげてるのに…」
大場「おいどんなら、いつでもOKですと!」
降矢「うお!」
急に怪物が印刷室に入ってきた、いきなりあの図体が目の前にあったら誰でも驚くだろう。
大場「おいどんはぁ、おいどんはぁ、冬馬君にスポーツドリンク渡されて…ぬぐふふふ」
降矢「せいっ!」
ドゴム、とみぞおちに拳をめり込ませる。
大場「ふごぉっ!!!」
冬馬「うわあっ!」
降矢「目、覚めたか」
大場「おお、降矢どんすまんとです、おいどんまた頭に血がのぼってたとです」
しかし、けろりとしている大場。
降矢の右ストレートをくらって平然としてるとは…やはり、コイツは怪物か。
冬馬「大体、緒方先生がいるだろ?魅力的な人じゃないか」
降矢「エロい」
大場「ちっこくないと、駄目とです」
冬馬「は、はぁ?!」
降矢「アイツはボディがエロ過ぎる、駄目だ。爽やかさが無い」
大場「ちっこくて、ころころしてないと許せなかとです」
緒方先生「…すごい言われようね」
印刷室の入り口にジャージ姿のセンコーがいた。
大場「おお、これは緒方先生」
冬馬「…緒方先生見ても、なんともないんだ」
大場「おいどんの最低ラインは小さいかつ、ボディラインがよりまっすぐに近くないと駄目とです」
こいつは駄目だ、真正面から駄目な人間だ、三人はそう思った。
冬馬「…」
緒方先生「…なんだか複雑な気分ね」
降矢「そんなことはどーでもいい、何しに来たんだ?」
緒方先生「あ、そうそう、プリントすり終わったら今日は解散して良いわよ、明日の朝からちゃんと配ってもらうからね。それじゃ明日の朝6:00に学校、忘れないでね」
それだけを言うと、忙しそうに緒方先生はぱたぱたと職員室を出て行った。
大場「緒方先生、忙しそうとです」
冬馬「…やっぱり大変なんだろうな、顧問って」
降矢「…いや、化粧してたしこれからデートだろ」
その後、校門で男と待ち合わせしたのを見て二人が呆れたのは言うまでも無い。
冬馬「それじゃ終わったから俺も帰るよ、せいぜい頑張ってマネージャでも探してたら!」
大場「と、冬馬君!」
訳のわからない怒り方をしてバタン、と大きな音を立てて部屋を出て行った。
降矢「なんだありゃ?」
いまだに冬馬はよくわからんところがある。
降矢「…だりー、俺も帰るぞ」
大場「降矢どん、降矢どん」
降矢「んだよ変態」
大場「お、おいどんはマネージャーはちっこいのがいいとですが………あ、いや〜そんな笑顔で見られたらお兄ちゃん困っちゃうとです!」
降矢「…帰ろう」
妄想を始めた怪物を置き去りに、降矢は逃げるように部屋を出て行った。
県「降矢さん!買ってきました!…あれ?」
翌日、校門前。
降矢「…眠い、眠い、うざい」
じゃあ何で俺はこんな所にいるんだろう。
冬馬「先生の言いつけはちゃんと守らないと駄目だよ」
そうだ、この優等生が降矢の携帯にモーニングコールを鳴らしまくったからだ。
冬馬に携帯の番号を教えたのは失敗だった、降矢は心から後悔した。
機種変更するのが吉か…。
県「あれ、早いですね。二人とも」
少し遅れて県がつく。
降矢「てめぇーパシリの癖に俺より遅く来てんじゃねぇ」
完全なる八つ当たりだったが、有無を言わせない気迫があった。
県「す、すいません!」
冬馬「謝らなくてもいいから…」
大場「これで、全員と?」
相川「いや、あの熱血馬鹿が来てない」
緒方先生「そう言えば吉田君がいないわね」
降矢「…キャプテンが遅刻してどーすんすか」
相川「アイツひどい低血圧でな、毎日三澤に起こしてもらわないと学校来るのも際どいんだよ」
冬馬「三澤?」
相川「…あの馬鹿の保護者と言うか幼馴染と言うか何と言うか…」
大場「よ、吉田どんは幼馴染に起こされてるんですと!?」
相変わらずコイツはこういうキーワードを聞くと異常に反応するな。
相川「ま、アイツにとったら世話焼きの妹みたいなもんだろうが…来たようだな」
女の子「まったく!傑ちゃんはなんでこんなに朝弱いの!」
吉田「何故だろう、考えてみる………ぐぐー」
女の子「ああっ、また寝てる!…あ、皆おはよ〜」
相川「わかってると思うがあの緑色のリボンをつけてる女が三澤柚子(みさわゆず)だ」
県「…キャプテン目つぶりながら走ってますね…流石だ、尊敬です!」
冬馬「へぇ、あのキャプテンにあんな可愛い彼女がいたんだ〜」
反応は三者三様だった、俺はというと別にどうでもいい。
吉田「…はっ!ここはどこだ?!柚子?!あれ?」
女の子「…傑ちゃん、もう学校。昨日「明日は早く起こしてくれんか?はっはっは」って私に起こしに来てって頼んでたじゃない」
ご丁寧にキャプテンのモノマネをしてまで様子を伝える。
吉田「はっはっは!そうかそうだったか?それは悪かった!」
女の子「…もう、甲斐性ないんだから」
大きく、ため息をついた。
吉田「おお!皆もう来てたのか!」
相川「わかってると思うが、お前が一番最後だからな」
吉田「はっはっは!わかっているぞ!」
相川&女の子「…甲斐性なし」
いいから、早く始めてくれ、降矢は疲れきって校門の壁に腰をおろした。
緒方先生「それじゃ、登校生徒にみんなちゃんと一枚一枚配っていってね!」
全員『おーー!!』
降矢「…………はぁ」
…と言われても元女子高だけあって比率は女子のほうが圧倒的に多い。
男子にだけしか渡さなくてすむから楽だ、これなら降矢がいる必要も無い。
しかし…どいつもこいつもなんだかアレだ、顔の良し悪しはともかく、化粧がけばいギャルとか携帯にものすごいアクセサリーつけてる奴とか、あんまりいない、いや、いるにはいるが…。
この学校はあまり校則はキツくないのだ、降矢の格好がそれを物語っている…が、それでこの有様ということは。
降矢「おい、ちんちくりん」
冬馬「なんだよ、ちゃんと配れよ降矢ー」
降矢「なんでマジメそうな子ばっかなんだよ」
冬馬「そんなことないよ、染めてる女の子もいるし…」
降矢「いや、そりゃそうだが、なんじゃこりゃ、みたいな奴いないぞ」
冬馬「そりゃ、だって、女子で将星に来ようと思うと割と偏差値いるもん」
降矢「は?マジで?!」
冬馬「うん、男子はできたばっかりだから、誰でも入れるぐらいゆるかったらしいんだけど、将星女子はすごいレベル高いよ」
それで中学の時、先生はここを進めたのだろうか。
それにしても勉強の反動で跳ね返る人々も多いはずなのだが、スカートが長い娘が多いことに降矢はため息をついた。
大場「おいどんと一緒に青春をエンジョイですとー!」
…怪物はみんなにひかれてるし。
県「お、お願いし…ああっ、また渡せなかった」
…パシリは特殊能力「引っ込み思案」を最大限に発揮し、すれ違う人全てに無視されてるし。
冬馬「うわわわ!」
女子生徒「何この子!可愛いー!」
女子生徒「きゃー!」
…ちんちくりんは女子の波におぼれた、か。
降矢「……成仏しろよ」
相川「お願いします」
吉田「はっはっは!よろしく頼むぞ!」
三澤「お願いしまーす!」
さすが先輩方はしっかりと配っていた…。
怪物も一応二年だが、まぁおいておこう。
…っていうかあれ!?
相川「悪いな三澤、手伝ってもらって」
吉田「はっはっは!案ずるな案ずるな!」
三澤「なんで傑ちゃんが返事するのよ」
なんであの女の人も配ってるのだろうか…っていうか、まさか…。
降矢「あの、相川先輩」
相川「なんだ、降矢さぼってんじゃないぞ」
降矢「あの女先輩は…」
相川「ああ、三澤がマネージャーやってくれるんだと」
…いや、マネージャー…できたけど。
三澤「傑ちゃん、今年は朝一人で起きれるようになってね…」
吉田「はっはっは!無理だ無理ー!」
もう、彼氏持ちじゃねぇかっ!!!