005なんだこの怪物は…。


























県「い、一年の県三四郎(あがたさんしろう)です!よろしくお願いします!!」


相川「俺は二年の相川」

吉田「俺はキャプテンの吉田傑だ!よろしく頼むぞ!はははは!!」


お約束のごとく燃えるような男、吉田キャプテンの熱い握手が交わされる。


県「あ、あああ」

吉田「いやー!俺は嬉しいぞ!みんなも嬉しいぞ!はっはっはっは!」

県「…あ、あはは」


県が引いていることに、吉田は気づきそうも無い。


冬馬「これからよろしくな、県」

県「は、はい!よろしくお願いします!」


新戦力の県三四郎を迎えた野球部はいつものように放課後、部室の前で集まっていた。


降矢「これで、あと四人か」

冬馬「そうだね、とりあえず夏の予選までに最低九人はそろえなきゃ」

吉田「実は俺たちも一人候補がいるんだ」

降矢「…候補?」

相川「ああ…しかし問題があってな」

吉田「ちょっとな、条件があるんだよ」


それはまた変な話だな、野球部に入るのに条件だと。


相川「あのなぁ…なんていうか」


頭が痛いといった表情で額を抑える相川先輩。


吉田「うむ、ぶっちゃけて言うと『変な奴』なんだ」


そりゃまたぶっちゃけましたな。


県「それで、どんな条件なんですか?」

相川「…んん…あのな、とりあえず冬馬と降矢は俺についてきてくれないか?」

冬馬「俺ですか?」

相川「ああ、お前だ。つーかお前が条件だ」


場の空気が凍りついた。


冬馬「…え?」

県「野球するってことは、男、ですよね」

降矢「いや、このちんちくりんは男でもいけんことはないだろう」

冬馬「どういう意味だよ降矢!!」

降矢「見たまんま」

相川「…とりあえず、ついてきてくれ」






相川先輩に先導されて俺たちは二年生の教室に着いた。


吉田「よし、皆とりあえず戦闘準備だ」

県「へ?どういうことですか?」

相川「降矢、お前には期待してる。頑張って止めてくれ」

降矢「…えらく物騒な話だな」

冬馬「な、なんだか俺怖くなってきたよ」

相川「行くぞ、みんな」


ごくりと五人がつばをのんだ。

がらり、とゆっくりと音を立てて教室の扉が開かれる。

この向こうにはどんな怪物が存在してるのだろうか…。

歴戦を潜り抜けてきた俺でさえ、相川先輩とキャプテンの表情を見る限り、背中に嫌な汗を感じるのは気のせいではない。



???「…」

相川「来たぞ、大場」

冬馬「…うわ」

降矢「…」


教室の椅子に鎮座していたのは、体躯2Mはあろうかというプロレスラー張りの巨漢だった。


県「お、大きい…」

吉田「ほーら、冬馬君を連れてきたぞ〜」

冬馬「お、俺ぇ?!」


キャプテンが目の前にちんちくりんを出した瞬間、怪物の目が変わった。


大場「お…」

相川「皆!気合入れろ!止めるぞオラァ!」










大場「小さい事はよかことばーーー!!!!!」











冬馬「いぃぃやぁぁぁーーーーっ!!!!」



いきなり立ち上がった怪物は冬馬をロックオンして突進してきた。



県「ひぃぃーっ!!」

吉田「みんな!下半身に力を入れろーっ!!」

相川「よっしゃあああ!!」


二人の先輩が気合を入れてトラックを押すように怪物を止める!


大場「か、可愛い…やはりこげん可愛い子初めて見たとよぉぉーーー!!」



なんだか変な方言が混じりまくって誤解を受けそうな怪物は冬馬から目を離さない。

こいつは…ヤバイ、多分ヤバイ、降矢の中の本能がそう告げている。



二人「うげ!」


そして、弾き飛ばされる先輩方。


相川「うおぁ!やはり駄目か!!」

吉田「逃げろ、冬馬ーー!!」

冬馬「あああああ…」


蛇ににらまれた蛙のように微動だにできない、冬馬。

まずいな、足がすくんでやがる。


大場「おばぁぁあーーーっ!!」

冬馬「いやあーーー!!降矢助けてーーー!!!」


女のように甲高い声を上げて助けを請う、そんなことしてたらこういう奴には余計危険だっての。


降矢「大体こういう奴は足元がお留守なんだよ。考えが無いから」


降矢が右足を怪物の足元に差し出すと、つまづき、突進の勢いそのままにすごいスピードで吹っ飛んでいく。


降矢「冬馬、しゃがめ」

冬馬「ええ!?うわぁ!」


間一髪でしゃがんだ冬馬の上を怪物が飛んでいく、そしてそのまま廊下の壁に激突した。


ドグシャァン!!




県「…」

冬馬「…」

降矢「…なんすか、コイツは?」

相川「いや、いつもは普通の奴なんだ」

吉田「ただ、その、なんだ」

降矢「……………言わなくて、いい」

大場「んあ?おいどんは、どうしただ?」




嵐が通過したような教室に、怪物の間の抜けた声が響いた。















大場「さっきは迷惑かけて申し訳なかとです、おいどんぁ大場力(おおばりき)というもんです」


大馬力…いや、大場力だったな、何て名前だ、名は体を現すというか…。

見上げた怪物の頭はやはり180はある降矢の目線の大分上にあった。


大場「すまんとです、吉田どん。つい頭に血が上ったとです…」

吉田「はっはっは、気にするな!お前が小さくて可愛いなら男だろうが女だろうが見境なくすのはみんな承知の事実だ、はっはっは!」


爽やかな顔してすごいことをおっしゃる吉田。

っていうかそれが事実ならこの怪物、かなり危険人物ということになる。

さっきから冬馬は降矢の後ろに隠れてちらちらと様子を伺ってる。

だからそんな小動物のような動作が危険だと言っとろうに。


大場「はぁはぁ…ちっこい、ちっこいですとばい」


相変わらずよくわからん方言だし混ざってるし、って言うか方言なのかこれ。


県「それで、条件って言うのは結局何だったんですか?」

大場「いやぁ、おいどんは入学式で一度冬馬君を見かけてたとき、一度でいいから話をして見たいと思ってたんですと」

冬馬「そ、そんなこと言っても俺は男ですよぉ…」

大場「愛に性別は関係はなかとですたい!」

冬馬「ひぃっ」

大場「す、すまんとです」


これは本気でヤバイ、よくもまぁこんな奴を野球部にいれようと思ったものだ。


大場「いやぁおいどん、冬馬君と仲良くしたいとです、そうすれば野球なんぞ死ぬほど頑張ってみせるとです!」


怪物は力強く腕を曲げて筋肉を作ってみせる、ボディビルダーもびっくりだ。


吉田「こいつがいればうちにパワーも加わる、どうだ冬馬、いっちょ仲良くやってくれんか?」

冬馬「嫌です!」

県「早っ!」

大場「がおーん…」


奇妙な擬音を発しながらうなだれる怪物。


冬馬「い、一緒にいたら俺その内すごいコトされそうですよ!」

降矢「どんなコトだ」

大場「そ、そんな冬馬君。おいどんそんなことば絶対にしなかとです!のう、みんな?」

相川「…」

降矢「…笑わせるな」

県「あ、あはは」

吉田「はっはっは!はっきり言おう!お前は危険だ」

大場「ががおーんっ!!」


またもや奇妙な擬音を発しながらショックを受ける怪物、ご丁寧にバックには雷も落ちている。



大場「お、おおお…」

相川「しかし、この人数じゃ文句も言ってられないだろう、冬馬、ただでさえこの学校は男子が少ないんだ」

冬馬「で、でも…」

県「そうですよ、まぁ言っても抱きしめられるくらいじゃないですか?」

冬馬「あんなんに抱きしめられたら死ぬよ俺!」


確かにあのごっつい腕にホールドされたら、こんなちんちくりん冬馬じゃひとたまりも無いだろう。


降矢「怪物」

大場「ん?おいどんのことですと?」

降矢「他に誰がいる、とりあえず冬馬の1M以内に近づくな」

県「あ、そうですね。それくらい離れてたら大丈夫だと思います」

吉田「はっはっは!キレたら関係ないがな」

相川「その時は俺たちが全力を持って止めるしかないだろ…」

冬馬「俺は2Mでも3Mでも離れて欲しい…」

相川「構わないな冬馬」

冬馬「うう…これも野球部のため…体を張りましょう」


だらだらと涙を流しながら頷く冬馬、どうやらひと段落ついたようだ。





大場「がはははは、これからよろしくとです!」





これで6人、レギュラーが揃うまで後三人だ。



















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