それはつい今日のことだ。
…随分と昔に感じられる。
「誰かさんと違って桜庭は優しいなー」
「…っ!」
「やっぱ結婚するなら桜庭みたいな可愛い人がタイプかな」
「えっ…」
「…こ、このっ!馬鹿ぁっ!!」
バキィンッ。
ヘラヘラと相変わらず軽い笑顔で笑う少年を思い切り殴り飛ばす。
感触は確かにあり、相手はすごい勢いで吹っ飛んでいった。
そのまま彼女は走り出す。
走りながら、心の中で叫んだ。
(アタシの馬鹿!馬鹿!馬鹿!あんなことしたら、余計に嫌われちゃうよっ)
なにか目の奥から熱いものがこみ上げてくるのがわかる。
自分は嫌な女の子だった。
正直に気持ちを伝える事も出来ない。
それなのに、意地をはって、遠まわしに彼に近づいて。
自分は彼にとってなんでもないはずなのに、こうしてずっと側にいる。
それだけ、彼のことが好きだった。
そりゃあ、最初はへらへらした変な奴だと思った、話したらもっと変な奴だと思った。
えっちだし、変態だし、スケベだし、人が真剣だっていうのにとぼけたりする。
それなのに、こっちが凹んでいる時だけは本当に優しい顔を見せる。
そんな風に慰められると、その気も無いのに好きになってしまう。
あの日も、慕われていた下級生に「付き合う意志は無い」と伝えた。
ひどく悲しそうだった、声をかけたかったが、ここで自分が声をかけてなんになるのだろう。
結局目の前の相手が走り去っていくのをぼうっと見つめるしかなかった。
悲しい。
寂しい。
人の期待に答えれば笑ってくれる。
でも、今の自分は彼のことが好きだから、どうしてもできない。
人を傷つけても意志を曲げないくらい、どうしようもないくらい。
好きだった。
初恋、だった。
一緒にいたい。
『―――ふぁいとじゃ〜』
帰り際、自分のカバンをとりに教室へ言った時。
書きなぐったようなメモが一枚残されていた。
「………バカ」
何か胸の扉が無理矢理こじあけられたみたいで。
思わずメモをにぎりしめて泣いてしまった。
誰もいない教室で良かった、と近松は思った。
その時に気づいてしまったのだ。
『アタシはどうしようもないくらい…アイツが好きなんだ』
彼のためなら何でも放り出せそうな気がした。
貢ぐタイプだなぁ、と思わず涙ながらに苦笑してしまった。
それから彼女は彼と『ごっこ』ではあるが、恋人関係になった。
我ながら強引だったと思うけど、彼も否定はしなかったから、そういうことにした。
人を傷つけたくない言葉に嘘は無いけど、本音はもうちょっと別の所にある。
こうやって一緒にいれば、いつか…本当のこいびとになれるかな、なんて。
…だけど、アタシじゃなくて、彼が人に好きになられた。
ある日彼は言った。
「―――俺、昨日桜庭にキスされたんだ」
瞬間的に、頭が真っ白になった。
その日、家に帰ってから、アタシはおかしくなった。
どうしても悪いイメージが頭から離れない、ともすればすぐに暗い方向へ考えがいく。
桜庭ちゃんは、背も高くてスタイルもよくて…女の子らしくて、アタシなんか全然叶わないくらいいい娘。
「どれだけ背伸びしたって…アタシじゃ駄目なんだ」
でも首を振って、考えを消す。
どれだけ桜庭ちゃんが魅力的で、アイツがどう思ってるか知らなくても、アタシはアイツの事が好きだ。
まるで、魔法にかかったみたいに、毎日毎日どんどん想いは強くなる。
それだけは変わらない。
あの日、デートした帰り勢いでキスした時に、呟いた言葉。
もうちょっとわかりやすく言えば良かった。
「でも、アイツはきっと本当にただの『ごっこ』だと思ってる」
それじゃ、嫌なの。
もっとずっといたい。
誰にも渡したくない。
独占欲強い女なんて、嫌われるかもしれないけど、それは譲れない。
「…はぁ…」
気づけばずっと彼のことを考えてる。
アタシも落ちたもんだ、末期だね。
それでも、彼は振り向いてくれない。
ずっと桜庭ちゃんと仲良さそうに笑ってる。
どうして?どうしてなの?
頭痛がする。
これが恋わずらいだとしたら変な気分だ、頭が痛くなるだなんて。
今日だってそう、ずっと桜庭ちゃんと話してる。
…そりゃ、アタシはぶん殴ったり優しくないし…でも、気持ちだけは…。
駄目、思ってるだけじゃ伝わらない。
なんだか泣きそうになった。
ドンッ!!
「きゃっ!」
「…っ!?」
前を見て走っていなかったから、誰かにぶつかってしまった。
「あ、痛たた…?って、お姉様!?」
「…え?あ、ほ、堀田さん…」
「ど、どうしたのですか!?…目が赤い…ま、まさか彼がやったんですか!」
「え?い、いや、違くて…そ、その…」
半分当たってるだけに、反論しにくかった。
アタシが言葉に詰まったのを、変に勘違いしたのか彼女は猛烈に怒り出した。
「な、な、な…!お姉様と一緒にいるだけでなく、あまつさえお姉様を泣かせるだなんて…ゆ、許すまじ!」
「わ、わぁ!ち、違うの!待って、待ってってば!」
「…お姉様!あんな変な奴とつきあうのはもう辞めてください!どうせアイツはお姉様の美しさのことになんて気づきません!馬鹿だから、お姉様のことなんて見ていないはずです!ああ…もったいない」
「見て…ない?」
―――ズキンッ。
頭痛がひどくなる。
耐えられない痛さに思わず手を床についた。
「お、お姉様!?」
「見てない…アタシなんて…」
結局、全部アタシが勝手に舞い上がってただけ?
…アイツは、アタシなんか目もくれてなかったってこと?
わかってる、そんな気はしたけど…それじゃアタシ…惨め過ぎるじゃない。
「痛い!痛い痛い!」
「お、お姉様!?どうしたんですか!?」
「いやあああ!!」
『…お前、感染してるな』
耳が感じ取った、というよりは脳に響くような声でそう聞こえた。
痛む頭を抑えながら振り向くと、黒いコートの男がたっていた。
「…あ、アナタ」
『そっちは感染、してない』
「な、なんですの!この学校は不法進入禁止…」
ドンッ。
男はいきなり堀田さんに当たった。
そして、耳で何かを呟く。
『お嬢さん、君はこの娘に嫌われてるんだよ。君なんかいない方がいいって、そう思ってる――』
ゆっくりと、離れると堀田さんは力なく地面に倒れた。
男の手には何か刃物のような光る金属物が握られていた。
『キャアアアアアアアアアアアア!!!!!』
異常に気づいたのか、側を通りかかった女子生徒が大声を上げる。
だが、男は躊躇する様子も見せずに、ずるずると足を引きずるようにして近寄ってくる。
「い、いやぁ……………」
『この娘はどうして倒れたのか?』
「…や、やめて」
『…君に嫌われたから倒れたんだよ』
「…え?」
『この娘は君のことが好きなんだ。わかるんだ、感染した瞬間に意識の電流が流れ込んできたから』
何を言ってるのかわからない。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。
『でも君は別の方ばかり見てる、だから彼女は絶望して目を閉じた。意識は人の『心が傷ついた時に』ショックを和らげる為に消える…『その人は何にも誰にも傷つけられない世界で生きる為に死ぬ』
「…ぁ」
『君も感染してる、わかる。…君は人を傷つけたくない、優しい娘だ。…だけど、『君のせいでこの娘は死んだ―――んだ、すごいね。君は…人殺しだ』
「嫌アアアアアああああああああ!!!!!!!!!!」
―――気がつくと男は消えていた。
残されたのはアタシと、倒れてる堀田さん。
段々人が多くなってきたけれど、そんなことは目に入らなかった。
アタシのせいで。
アタシのせいで。
死んだ―――?
目の前の堀田さんはぴくりとも動かない。
「あ…ああ…ああああ」
助けて、助けてよ助けてよ。
助けてよ…アンタ…困ってるときはいつだってアタシを助けてくれたじゃない!
「ち、近松さん…大丈夫?」
「いやぁ!何これ!?おかしいよ!?どうなってるの!?やだ、やだああ!」
「落ち着いて近松さん!大丈夫、大丈夫だから」
「あ、アタシの…アタシのせいで…そんな、そんなことって…」
おかしい、おかしい…よ皆おかしい、アタシ、死なせちゃったのよ。
そんなで目でアタシを見ないでよ、見ないで。
「あああああああああああああああああああ」
そこからは覚えていない。
ひどく嫌な汗をかいたまま保健室に寝ていた。
目をゆっくりと開けると、保健の先生がこちらを見ていた。
「…大丈夫?うなされてたけど…」
「…?アイツは?」
「アイツ?…近松さん?」
「アイツはどこ?」
駄目、駄目だやっぱりアタシ。
アイツが側にいないと、壊れそう。
頭が痛い、助けて、助けてよ。
「ちょっ!近松さん!?どこ行くの!?」
先生の制止をふりきって、走り出す。
会いたい。
会わなきゃ。
話しかけてくれなきゃ、何か大きなものに押しつぶされそうだった。
どこ?どこ?…アイツは、どこ?
「そうだ…」
電車で帰る。
アイツは電車でアタシと一緒に帰る、駅前にいれば会えるかも。
それから、十分、二十分、待っても彼は来なかった。
当たり前だ、普通ならもうとっくに家に帰ってる、どうしてそんなことも気づかなかったんだろう。
…一人で、勝手に期待して、勝手に待ってて…馬鹿みたい。
「よぉ…」
―――――――――――え?
「…っ!?」
なんでか、どうしてか。
さっぱり理由はわからないけど。
彼は、何故かアタシの前にいた。
「何してんの、こんなところで」
「…ぁ」
話したいことはいっぱいあったはずなのに。
どれもこれも、わからなくなってしまった。
顔を見ただけでこんなになるだなんて、本当どうかしてる。
落ち着かない、けど落ち着く、少なくともさっきよりは。
「何だよ、俺は帰るかんな、今日はいろんなイベントがあってもうヘトヘトなんだ」
…え?
や、嫌だよ、何言ってるの!?も、もうちょっと一緒にいてよ!
アタシまだアンタに何も言ってないよぉっ!
「…ちょ…待って、…お願い」
ぎゅっ。
カッターシャツのすそをつかんだ。
…どうしよう、どうすればいいんだろう。
言わなきゃいけないことも、懺悔することも、あるはずなのに、行動にできない。
ただどきどきして、顔が熱くなって、胸が苦しい。
でも側を離れたくない。
「あんさー、何よ、俺疲れてるから早く帰りたいんだけど」
「…ぁ……」
見上げた彼は少しイラついたような表情。
…やっぱり、アタシより桜庭ちゃんなんだね…。
「…」
「…お前もさ、疲れてるんだったら早く帰って寝ろ」
「…うん…」
…駄目だよ、もう、どうしたらいいかわかんない。
「そんな泣きそうな顔すんなよ、どーしたってんだもう」
…そうやって、今絶望したばっかりなのに。
どうして、そんな優しいことを言うの。
…だからアタシ。
「…ぅえ、うぇええ…」
「お、おい…」
今まで抑えていた涙があふれ出る。
ドサッ。
そして、胸に飛び込む。
肩をゆっくりと抱かれる。
「…う、ぐすっ…」
「…どうしたんだ」
「うえ、うえええあああああっ!」
嗚咽が、少しづつ悲鳴に近いものに変わっていく。
「うわあああああっ!」
「ごめんなさいっ!ごめんなさい!アタシの!アタシのせいでーーー!!」
たまっていたものが、全て吐きだされる気分だった。
「まぁ落ち着けって、何があったかさっぱりわからん」
ぽつり。
「ん?」
気づけば、上空から水滴が一粒、また一粒。
ドザーーーッ!!!
そして、大雨が降り出す。
スコール、天をひっくり返したような大雨が辺りを襲う。
それでもアタシは止まらなかった、一度吐き出してしまえばもう止まらない。
それは穴のあいた、水の入ったグラスのように…。
「アタシなの!アタシ!全部アタシのせいなの!堀田さんが倒れたのは…!アタシのぉっ!」
「落ち着けっ!とにかく落ち着け!」
「うぐっ、ぐすっ…うえ、うぇ…」
「…近松、何があったんだ」
ドザーーッ。
「堀田さんが倒れたのは、アタシがアタシが堀田さんを裏切ったからだって…アタシが傷つけたから…って…アタシ、アタシ!どうしたらいいの!?」
「お、お前が…?どういうことだよ、全く話が見えない」
「あの人。意識は人の『心が傷ついた時に』ショックを和らげる為に消える…ってその人は何にも誰にも傷つけられない世界で生きる為に死ぬって…わかんない!アタシわかんないよぉっ!」
「…」
彼は答えない、変わりにアタシのいる向こうの方を見ている。
少女がいた。
急に彼の顔が変わった。
それが…怖くて、あたしは動けなくなった。
「とぼけんじゃねぇ!俺の知り合い二人もやっておきながらその上近松を渡せだと!?ふざけんなオラ!」
「え、えーと、ああ…それはどう説明したら…」
「…ど、どうしたの…?」
あまりの豹変ぶりに完全に動きを止められる。
…こんなに怖い顔、するんだ…。
彼はいきなり女の子を押し倒すと、顔を殴りかかった。
驚いたアタシは慌てて彼の行動を止めにかかった。
…その後、アタシは話があるからって彼の家にいくことになった。
電車に揺られて数分。
彼はずっと怖い顔したままだった。
…どうしたんだろ、アタシ何かしたかな?
やっぱり、迷惑だったのかな。
「…どうしたの?」
「え?」
「さっきから、ずっと怖い顔してるから…」
「俺?」
表情を変えず、声だけを返す。
「うん…そんなの、アンタじゃないよ…いつもみたいに、ふざけててよ」
だけど彼は相変わらず真剣な表情を崩さない。
「…どうしちゃったの…皆、皆、おかしいよ…」
「アンタまで…嫌だよ…嫌…ぁっ…!」
いや…嫌ぁ、アタシ、アンタを好きになっただけなのに!
そんな目で、見ないで。
見ないでよぉ…。
「近松…」
「ブラ、透けてる」
「………」
「……」
あまりのことに、思考回路が全て停止した。
思わず彼に抱きつく。
…結局、彼は彼のまんま変わってはいない。
嬉しさがこみあげて、涙に変わる
「ふぐっ、うえ、うええっ、よ、よかったよぉ〜〜!」
「トンカツさんは、女の子泣かせですね」
「黙ってろい!」
「ぐすっ…良かった…アンタは何も変わって無い…。よかったぁ…」
「あんさー、チカチカ?お前の方がおかしーんだぜ?俺からすればさ、最近はツッコミも弱くなったし」
「そ、それは…その…」
「その?」
「…や、やっぱり…桜庭さんみたいな女の子らしい方が…アンタも好きかなって思って」
「は?お前そんなネガティブな奴じゃねーだろ?」
「だ、だって…アンタ、アタシと恋人ごっこしてからずっと桜庭さんの話ばっかりして…やっぱり、アタシってすぐ殴ったり、アンタのこと馬鹿にしてばっかりで…その、あの…ごめんなさい」
「なんで謝るんだお前は…」
「トンカツさんは女心がわかってないんですねー」
「黙ってろい!大体お前、俺も大変だったんだぞ…」
アタシは電車が駅に到着するまでずっと彼に抱きついていた。
今思うと、すごい恥ずかしいことをしてたな、って思った。
結局彼は彼のままなのだ。
いきなり飛び上がったり叫んだり、意味不明なことを言ったり。
…し、下着をはくな、って言ったり…。
は…恥ずかしかったけど、アタシは我慢するしかなかった。
ここで彼に嫌われたら、アタシはもう生きていけない。
こんなに自分が人に依存する人間だとは思ってなかった。
でも、アタシは彼のことが好きで、好きで、好きだから。
…それでもいいな、なんて思ったりした。
―――彼が駅前で会った女の子と難しい話をしてる間、ずっとそんなことを考えていた。
時計を見ると、八時半。
親に心配かける訳にはいかない。
アタシは電話を借りる為に、一階に下りた。
そして―――。
―――バチィンッ、っという電気が漏電したような音で目覚めた。
「あれ…?どうしたんだっけ…アタシ」
目をこする、やけに冷たい地面に気がついて驚いた。
窓の外がいやに明るい…気がつけば、月明かりが窓からさしてきていた。
「電話しようとして、それで…急に頭が痛くなって…」
痛みが軽く残る頭をふって、目を覚ます。
すると、目の前に彼が倒れていた。
「……え?」
声が震えた。
一番嫌な状況を想像してしまった、それを必死で振り払う。
「…ど、どうしたの〜?そんなところで、寝ちゃって」
…。
声だけが、むなしく廊下に響く。
外も怖いくらい静かだった。
まるで自分一人しかこの世界で生きていないみたいで。
「…ね、ねぇ、起きてよ」
…。
彼の体をゆする。
だが、反応は無かった。
「た、タチの悪い冗談ねぇ…そ、それぐらいに、して…よ…」
……。
返ってこない。
いつもの悪口も、ふざけた言葉も、へらへらした顔も、人の神経を逆なでするセリフも。
ただ沈黙だけがそこに存在していた。
うつむいた彼の表情は見えない。
ただ、唇がきれて血が出ているのは月明かりでわかった、ただそれも…もう砂のように乾いてしまっていた。
「……う、うそ」
嘘。
嘘だ。
彼の大好きな言葉。
散々見得をはっておいて、最後に情けなく「嘘です」と謝る。
今回もその嘘に違いない。
すぐに起き上がる。
堀田さんみたいに、死んだなんてこと、無い。
…無い。
「…あ、あは…」
乾いた笑いも暗闇と静寂にすいこまれる。
―――。
――――――。
―――――――――。
口だけを動かして。
喉の奥から少し声を出して。
自分が生きてる事に気づいて。
目の前の彼が。
もう動かないことに、気づいた。
「何、それ」
「冗談、キツイよ」
「…どうしたの?」
「起きてよ」
「起きてよ」
「ねぇ、起きてよ」
「置いてかないでよ」
「アタシを一人にしないでよ」
「一人にしないでよ!」
「嫌だよ!」
「嫌だヤダヤダヤダヤダヤダ!」
「何してるの!早く起きてよ!」
「お願いだから目を覚ましてよ!!」
「アンタの好きなことなんでもやってあげるから」
「アンタが望む事なんでもやってあげるから!」
「人間やめてもいいから!」
「もう殴らないから、毎日好きなようにしていいから、なんでもするから!言う事も聞くから!!!だから…」
「だから…」
「お願ぃ…」
「―――目を…」
「目を覚ましてよぉ…」
「目を…」
「…」
「…うぁ」
涙が出た。
…洪水のように。
声にならない言葉が世界を白黒に変える。
「―――――――――――――――ああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」